星を知る者


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「グリフィス……!!」

自身の薄汚く黒い部分をも信頼し預けた男が、息を切らして登りつめてきた。
声に、振り返る。
刈り込んだ黒い髪に汗を滴らせて、濁りのない黒い瞳に意地やら何やら、様々な感情を内含させて。
お前は今、膝を屈しているオレのことを見下ろしている。

……そう
何千の仲間
何万の敵の中で――




朗々と謳いあげる女の声。

――今までのあなたはグリフィスという夢
  そしてその夢が終わる時あなたは目を覚ます
  決して覚めない夢の中で
  決して明けない夜の中で――――


◆◆◆


……目は覚めたが、“グリフィス”の夢はまだ続いていた。

手を握っては開くことを繰り返し、感触を確かめる。
一年にわたる拷問において削がれた皮も、剥かれた爪も、切られた腱も、抜かれた舌も、
そんなことなど夢の中の出来事であったかのように、全て元通りになっていた。
しかし伝わる感覚は霞に包まれているようで、まるで現実感が伴わない。

ウエーブのかかった闇夜に映える白銀の長髪を、風がさらに波立たせる。
幾多の人間で構成されたでこぼことした地面ではなく、踏み固められた道の上。
そこに一人、グリフィスは自らの足で立っていた。

貴公子然とした風貌に、確かな気品と風格を纏っているものの、彼は生まれついての貴族というわけではない。
何の後ろ盾のない状態から、自ら結成した傭兵集団『鷹の団』を率い武勲を挙げることで、
ミッドランド国軍における最高位である“白の称号”を叙爵され得るまでにのし上がりはしたが、
元々は一介の平民出の青年にすぎない。

そんな彼の原風景は、日の光の差しこまない娼館と酒場の立ち並ぶ路地裏にある。
仲間たちと繰り広げた小さな戦あそび。勝ち取った小さな名誉、小さな戦利品(がらくた)。
暮れが訪れ友人たちが家族の元へと帰ろうとする中で、石畳の道から空を振り仰ぐと、
丘の上にそびえたつ“それ”が、建物の壁に切り取られて天空に浮かんで見える。

――国を手中にした者が住まう、白亜の王城。

見上げた“それ”は、夕日に照らし出されてキラキラと輝いていて。
次に手に入れるがらくたは、あんなのにしようと。
幼い瞳に焼き付けて、少年の日のグリフィスは家路へとついた。


◆◆


21世紀の初頭、全世界を襲った地殻変動により廃都と化した地を見下ろすガラン城。
満月に照らし出されるその城より飛び立ち、新東京番外地にて不倶戴天の怨敵の来たるを待っていたライは今、
一本の木の天辺に立ちマントを風にはためかせながら、周囲一帯を見つめていた。
島は中心部に向かって緩やかな丘陵をなし、すぐ右手の位置にはさらなる岩山がぼこりとひとつ飛び出ている。
見渡す大地はビル群の瓦礫ではなく、緑あふれる木々をたたえていた。

「大地なくして自分もありえぬのに、その母なる大地を完膚なきまでに汚し尽くす! まことおぞましや人類!」

角刈りの髪に眼光鋭く、ライは言い放つ。
――神を持ち出して自らの醜悪なる所業を正当化し、清らに残る緑をも破壊せんとするおぞましきが人間、許すまじ!
この殺し合いの始まりの地で言われたことを思い出し、精悍な顔にさらに怒りを滲ませて、
主より賜り身に埋めた鉄球の一つへと、服の上より手を伸ばした。

ライの主君――葉隠散。
自身の持つ物と同じ銀球の輝きは、御身にあっては真冬の宇宙(そら)の清浄の星々にも似て。
物言わぬ大地や虫の痛みさえ感じとる雄大なる慈悲、瀕死の星の無言の声さえ聞きとるお美心に対して、
ライは永遠の忠誠を誓っていた。

――これより為すは、あの醜き人間の命に従うことに非ず。

元より人類抹殺は散さまの悲願の成就のために為さねばならぬこと。
それに果し合いの刻限にこれ以上遅れるとあっては戦士の名折れ。
決闘を申し込んだおぞましき人類の守護者、葉隠覚悟を誅しに向かうためにも、このようなことに無駄な時をかけてかかずらう必要はなし、と。
仇を待つ際には確かにあった満ちた月の影が、雲ない空に見えぬことを疑問に思ういとまもなく、
ライは木より降り立って、山中の道を下り始める。

そしてしばらく歩みを進め――道を左に折れたところで、おぞましき二本足をひとつ発見した。


◆◆


「我が名はライ! 散さまのこれ以上ないほどに美しい夢を果たすため、その命もらいうける!」

出会うや否や、ダイヤも砕くライの拳がグリフィスに迫った。
それを上体を傾け身体を半回転させながら避けるグリフィス。男の巨体と重い一撃が、唸りを上げてすぐ横を通り過ぎる。
武器を携えていない中での接近戦は不利と見て、グリフィスは距離をとろうと後ろに跳ぶ。
が、そこに向かう振り返り様のライの第二撃。
なんとか宙空にて身をひねることで直撃は免れ、砂塵を舞い上げながら再び足が地に戻る。
今の拳、かすった程度であったはずが、左の歯を数本持っていかれた。

「人の身でありながらよくぞかわした!
 ならば散さまに賜りし! この21個の不退転を以ってお相手いたそう!」

男は叫ぶとともに、全身の筋肉を盛り上げる。その怒張に耐えきれず、服はビリビリとはち切れ四散する。
露わになったライの肉体、そこに埋まった鉄球が沈みこまんとする――――その瞬間!


閃光に次いで爆音!
D-6が揺れた!


◆◆


「…………」

晴天の中突如として起きた落雷によって、両者の間には膠着状態が訪れていた。
しかしそれは大した時を経ずに、ある一言によって破られる。

「……葉隠散。燃えるような赤髪の女性で、それと同じような鉄球が身に埋まっている」
「!?」

銀髪の男は、いつの間にか手にしていた望遠鏡を目から降ろしてライの身体を指しながら、
先の霹靂に勝るとも劣らない衝撃的なことを口にした。
目の前の男が主君の美御名、お美姿を知っているということ。それの意味するところに、ライの心が煮え立つ。

――散さまがこのようなおぞましき場所におわすと申すのか!

厳密には葉隠散は性別を超越せしお方であり、女と言い切ることはできぬ存在であったが、
極上の絹の如きお美身、ふくよかなるお美胸は、知らぬ者が見たら女人と見まごうのも無理はない。

「ここに来る道すがらに会った。若干気分がすぐれないそうで……南へ下り、休めるところを探すと言っていた」

男はすっと手をライの後方――先ほどの戦闘により位置関係が逆転し、ライが来たのとは反対の方向にあたる――へとずらし、
淡々とした声で続ける。

「……この話を嘘だと思うなら、別にこのまま戦いを続けても構わない。
 路傍の石にかまけて道を見失ってもいいのなら、好きにすればいい」

坂の上より見下ろす男の表情は、露ほどにも動かない。
しばしの静寂。その間響くは、遠くに鳴る木々の葉のこすれる音。
そしてライは拳を握り――――胸の前に当てた。

「情報の提供、感謝仕る。さすれば散さまのご無事を確認いたすまで、この勝負預けておこう」

出立の前に拝顔した際の、生命維持装置の中にあったお美姿がライの脳裏をよぎる。
かような状態にて散さまがこの地にあらせられるというのならば、何をおいてもかけつけるが御側役たる者の務め。
失礼!とそう言い捨てて、ライは道を駆け下りていった。



【エリアE-6/北部路上/1日目/深夜】

【ライ@覚悟のススメ】
[状態]:健康、全裸形態
[装備]:なし
[道具]: 基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:散さまの夢の成就、および覚悟との決闘に早く向かうために人類抹殺!
1:葉隠散の無事を確かめる
[参戦時期]:新東京番外地で覚悟を待っていた時点



◆◆


全裸の巨漢が立ち去るとともに熱気が拡散し、冷えた夜気が戻ってくる中でグリフィスは息をつく。
牢獄に繋がれてまったく動くこともなく、光のない絶望の闇の中を過ごした一年。
剣を掴むことも、自ら立ちあがることも叶わずに、砂を噛むように過ごした日々。
おくびにも出しはしなかったが、急に五体満足になっても感覚の戻りきっていない現状では、
これ以上戦闘を続ける余裕は実のところなかった。

先の戦いにおいて、落雷により生じた隙に取り出し使用した望遠鏡――ていさつスコープをデイパックの中にしまう。
あの時グリフィスが覗いていたのは、景色ではなく対峙していた男に関する情報だ。
わずかな時間に垣間見えたのは、葉隠散なる人物の容姿と名前、およびその者に対するライという男の厚い忠誠心であった。
そこが男のアキレス健なのだろうと当りをつけ、揺さぶりをかけた。
道の途中で会ったというのは、完全なブラフである。

失ったカンも、直に取り戻すことはできるだろう。
そうすればこのような逃げの一手を打つ必要もなくなる。

先程の男。彼の主が本当にこの地にいるのか、それはわからない。
忠義を尽くすために身近な者を“捧げた”か――あるいは主君に“捧げられた”のか。
もしこの狂宴が“贄”も含めた会合であるのなら…………「あいつ」がいる可能性もあるのか、と。
身についた砂礫を足元の道へと落としながら、グリフィスは思考する。


遠い日、あの路地裏の石畳から始まった終わらない遊び。
自分の国を手に入れるために、己の血肉を引き換えとし、人をやめることも覚悟して、
鷹の翼の一羽根としてついてきてくれた仲間も、渇望した黒の男も、自らに残されたものは全て捧げた。

しかし口中にひろがる“人間らしい”血の味と肉の痛みが、この夢が確かであると告げると同時に、
まだ夢の途上にすぎないのだと、そう思い知らせる。
今のグリフィスは、天に届く翼を持たない、地に堕ちた無力な鷹のままだ。
白い鷹の羽は飛び散り血に染まり、路地裏の道は一度途切れた。
道を繋ぎ、漆黒の翼を手に入れるには、屍を敷かねばならない。

グリフィスは鋭い鷹の目を細めて、空を自由に翔る風に誘われるように、天の方を向く。

天空の城をめざし、足元の屍を踏みしだいて、頂に更なる屍を積み上げ続けること。
その道を歩むことについて、後悔はしていない――――しないと、決めた。
詫びてしまえば、悔やんでしまえば、すべて終わってしまうから。

――何もかもを捧げる、“夢”という名の神の殉教者としての一生を……オレは選んだのだから。


見上げた空。朔に近い、ほとんど月の見えぬ夜。
数千数万の星が、音もなく静かに瞬いている。
その星々を霞ませ呑み込んだ闇夜の雷の、鮮烈な白い光が、ギラギラと残像となって残っていた。

――勇者のもたらした、希望の雷。

天空の白は、目に焼き付いていて。
星間の黒も、それを忘れきらせはしない。



【エリアD-6/南部路上/1日目/深夜】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:左の歯数本欠損、身体感覚が戻りきっていない
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ていさつスコープ@MM2R(一日目朝まで使用不可)、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:夢のために屍を積み上げる
1:感覚を取り戻すまで直接的な戦闘は避けたいが、ある程度したら積極的に動く。
[参戦時期]:フェムトへの転生途中
[備考]
容姿・能力は人間時のグリフィスのものです。拷問痕はなくなっています。
この殺し合いは転生のためのもの、参加者はベヘリットに関連した者だろうと考えています。
ていさつスコープの効果により、ライを介して葉隠散の容姿と名前の情報を得ました(散が参加者であることは認識していません)。


015:子供達のためのおとぎ話 投下順 017:"TALK"
015:子供達のためのおとぎ話 時系列順 017:"TALK"
初登場 グリフィス 044:夢の続きの既視感
初登場 ライ 049:やってしまいましたなあ
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