心閉ザセシ鉄棺


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人も物も、この世に在ることとなったからには、全てのものに『物語』が付随する。
その生まれ、在り方、生き様、来歴。
起伏の大小、語り継がれるか否かなどの違いはあれど、必ずそこには謂れがある。

これは悲しい王子の物語。
これは恐ろしい王子の物語。
これは翻弄された王子の物語。
これは狂った王子の物語。
これは――


◆◆◆


『……カイムよ、聞こえておるか……?』

周囲の静寂を打ち破り、ひとつの“声”がカイムのもとに届いた。
“声”の主はレッドドラゴン――カイムの契約相手であった。

目にかかるほどに伸びた焦げ茶の髪を揺らしながら、カイムは首を巡らせる。
聞こえてくるのが声ではなく“声”であるということや、自分以外の生き物の気配が微塵も感じ取れないことから予想はついたが、
闇に目を凝らしても辺りにあるのは密集して茂る木立ばかりであり、竜の巨体が収まりそうな隙間自体、存在しなかった。
人の顔で埋め尽くされたあの空間にいた時から、レッドドラゴンの姿は見えていない。

『どうやらおぬしとは引き離されたようだな。
 ……加えて忌々しいことに、我は今身動きが取れぬ』

苦りきったドラゴンの“声”が、再びカイムの身の内にのみ反響する。
カイムが舌打ちを抑えながら、どこにいるんだと“声”で問うと、
返ってきたのはわからぬとたった一言、棘のある素っ気のない返事のみ。
誇り高い竜は、むざむざ捕らえられ助けを待つなどという、屈辱的な状態について言葉にするのを厭うたのか、
はたまた説明するだけの外界の認知すらできない状態にあるのか、この件に関してそれ以上口を開くことはなかった。

『……まったく人間というものは何を考え出すのか、ついぞ理解できん』

ドラゴンはよほど腹に据えかねているようで、不快感をそのままに吐き捨てる。
直接あの空間で耳にしていたわけではなかったが、何のために自分たちがこのような場所に連れてこられたのかについては、
カイムのざわついた心中を通してレッドドラゴンにも伝わっていた。
――「今から、貴方達に殺し合いをしてもらいます」

『他の契約者の“声”も、気配も感じぬな。おぬしひとり、厄介事に巻き込まれたか……?』

先程から言う“声”というのは、モンスターと互いの心臓を交換し契約者となった者達が扱うことのできる
思念による通信のことである。
空気の振動の波である「音」とは異なり、距離も遮蔽物も関係なしに言葉を伝え合うことを可能とする。
こんな状況下なら、例えば神官長のヴェルドレ辺りなどはうるさいほどに“声”を飛ばしてきそうものだが、
この地に飛ばされて以来カイムのもとに届く“声”は、レッドドラゴンによるものだけであった。
“声”だけでなく、カイムの心とは裏腹に深閑とした森も、葉音一つ立てていない。


『――して、おぬしはこれからいったい、どうするつもりなのだ?』


試すようなドラゴンの問いかけが、周囲の静寂も相まって嫌に響く。
その問いに対しカイムは、デイパックから取り出してあった大剣――刀身部だけで身の丈ほどもあり、
常人では持ち上げることさえ難しそうなもの――を両手で構え、目の前の立木に向かって、真横に思い切り振り抜いた。

ミシミシという悲鳴にも似た音を立てて、樹木が倒れる。
苛立ちをそのままに薙いだ構えはおろそかで、武者震いの伝わった手元はわずかに狂い、
剣を支え損なったがために“斬る”というよりも“叩きつける”といった有様になってしまっていた。
鋭さではなく衝撃の重みによって無理やり二つに分かたれることとなった木の株は、ささくれ立った断面を晒している。
だが多少切れ味が鈍るようなくらいの方が、カイムにとっては都合がよかった。

手に持つ大剣。刃こぼれは散見されたが、名うての鍛冶屋が打ったものであろうことは、
さまざまな武器を見て扱ってきた経験から容易に想像がついた。
業物はそのあまりの切れ味に、空を切るかのごとく使用者になんの手応えも残さずに、両断してしまう。

――しかしそうであっては、人を「殺す」感覚を味わえない。

腕を切り落とし、足を吹き飛ばし、腹を引き破り、頭を刈り取り、目を抉り出す。
肉を断つずぶりとした感触。骨を砕くごきりという感触。
一思いに死ぬことができずに痛みに悶える帝国兵が、無様にのた打ち回り、醜くあげる断末魔の叫び。
それらが、それらこそが、カイムの空虚な心をも満たすことができるのだから。


戦いの予感に昂揚し生じた汗が、柄に巻かれた布地に滲み込んで芯の金属と交じり、微かに匂い立つ。
それに触発されたかのように、返り血のこびりついた軽鎧からも同質の匂いが立ちのぼり、鼻を衝く。
すっかり嗅ぎ慣れ半ば麻痺した、鉄の匂い。
その香りは日常的になりすぎて、まるでカイム自身が鉄の塊となって発していると思えるくらいになっていた。

……それはあながち、間違いではないのかもしれない。
6年前、齢18の時に父王と母が帝国軍に殺されて祖国が滅んで以来、カイムの心は鉄のように冷え切っていた。
その後たったひとりの肉親となってしまった妹のフリアエまでもが、世界を安定化させる役割を担う“女神”に選ばれてしまい、
カイムの親友であり妹の婚約者であったイウヴァルトも含めた三者の関係は、軋んだ。

それからのカイムは、復讐の鬼となった。
己を鉄の刃とし突き立てている間は、現実を忘れることができた。
憎悪の炎に身を焼いている間だけは、冷めた心身にも熱が通った。
カイムは、復讐という名の鉄剣となっていた。

「両親の仇への義憤」「妹の運命への憐れみ」。
周囲も――カイム自身も、それが復讐の理由だと思っていたし、確かに最初の頃はそれだけのはずだった。
だが知らず知らずの内に、カイムは人を斬ること自体に快楽を覚えるようになる。
誰かのための復讐を、あくまで自分の欲望のために行なうようになり、
しかし形骸化した理由を掲げ続けて殺戮に悦びを見出す己の心を偽りながら、奪われた者は奪う側にまわった。

『相変わらず激しい男よ……おぬしにとっては厄介というばかりでなく、飢えた獣の前に吊るされた肉塊でもあったか』

ドラゴンがカイムの欺瞞を暴いても、復讐の念で頭を満たされた男は意に介さない。
棺を思わせるほどに巨大で身幅の広い剣を、デイパックに一緒に入っていた固定具で背にくくりつけて、
カイムは森の中を歩き出す。

憎き帝国の者を切り刻み、流させた血で己が刃を磨ぎ、脂は炎にくべ燃料とする。
その行為の果てにあるのは、バラバラとした錆の粉にまで分解され、焼き融けるような末路でしかないとしても。
内なる欲求に抗うことはできなかった。

『憎しみだけでは生き残れまいて……』

“声”による竜の忠告も、空気を震わせることなく、誰の耳にも入らずに消えた。


◆◆◆


これは、本人にとって最も大切なものを代償に差し出す契約において声を――他者とつながるための術を、失った男の物語。
これは、両親を帝国のブラックドラゴンに惨殺されながらも、仇敵と同種族の赤い竜と契約を交わしてでも
生き残り復讐を行なうことに執着し、力を手に入れた男の物語。

他者の目や口を介した――ましてや本人も真実から目を背けているような――物語が、
いかほどの真実を含んでいるかはいざ知らず。
されど物語は紡がれていく。


そしてここに始まるのは、彼の物語だけでなく男の背負う「剣」に加えられゆく物語でもある。

その剣は、「ドラゴンを撃ち殺せるような剣を」との国王の布令により造られることとなった。
過度な装飾を省き、純粋な破壊力を追求されたその剣は、誰にも扱うことができずに小屋の奥で眠り続けていた。
――復讐に燃えた、一人の狂戦士の手に渡るその時まで。

それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それは正に鉄塊だった。




【エリアD-3/森林地帯/1日目/深夜】

【カイム@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り復讐する
1:レッドドラゴンを探す
[備考]
会場内のどこかに、カイムと契約したレッドドラゴンが身動きの取れない状態でいます。
契約相手同士以外の“声”の伝達に制限がかかっています。


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初登場 カイム 036:Himmlisch Atem
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