汝は人間なりや?

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◇ ――想いには力を与える能がある ◇ ザ・ヒーローは走っていた。 その内心の大きな割合を占めるのは、ヒーローに相応しくない逃避の念。 何かに追い立てられるような必死さで、すぐさまここを離れねば。 そんな人間臭い、自己保存の本能に忠実な逃走。 それほどまでにパパスの抱擁は、彼にとって致命的だった。 その温かさは、その感触は、その優しさは。 彼の理想。 彼自身の主観の中にしか存在しない、悪魔のいない世界。かつての世界で完結した、父を思わせるそれ。 叶うまで、理想はそこにあってはならぬ。 叶うまで、満ち足りることは許されない。 貪欲に、ただひたすらに貪欲に。 夢追い人は止まれない。 たとえ一度だけであったとしても。 立ち止まってしまっては二度と同じ夢を見ることはできないのだから。 その温かさが、その恐怖が、パパスの命を救ったことに気付かないまま、彼は走り続けた。 そして、見つけた。 一目でわかる。あれは敵だ。 だから斬りかかった。 ◇ 魔神竜之介は改造亡霊である。 悪しき主催に肉の身体を与えられた彼は。 輝かしきニンジャソウルをその身に宿し、人類の未来のため闘うのだ! ◇ 死者が死者に祈るとはなんと面妖なことか。 流れる放送、連なる名前。 多くの失われた生命を想い、竜之介は嘯く。 彼の主観に合わせれば、彼は一度足りとも死してはいない。 彼に信仰はない。 ただただ剣に応えるための生を歩んできた。 肉体の死は一度経験した。 だがそれでも失われぬ強固な自我は、減衰することなく継続し続けている。 剣理とはすなわち人生そのものである。 あらゆる道を極めた先が同じ一点に集中するように、一見関係ない物事であっても全ての経験は剣理に繋がる。 故に彼は失わない。 善行も悪行も区別なく、全ての経験が自己を育みし剣理に繋がる故に。 死とは喪失である。 死とは停滞である。 死とは到達点である。 なれば彼は未だに死せぬもの。 生き永らえ、道を歩みし探求者。 強者を求めるは剣士の本能に近い。 ムラマサを守る目的が強者と死合う手段を求めてこそであったように。 おぼろの意に触れ枝葉は変われど、最強を求める芯に変わりは無く、 だから後背より迫る斬撃は、踏み出した一歩に空を斬る。 ここは不自然なほどに命の息吹絶えた冥界。 故に接近を示す信号を遮る”生”の気配は無く、奇襲の成り立つ理もない。 「問う……なぜ、お前は戦う?」 振り向きながらに放たれた音無しの剣は金属音と共に弾かれた。 重い、と斬りかかったこちらが感じるほどに揺るぎない剣圧。 返答はない。そのことをどこか、喜ばしく感じる自分を意識する。 イカレタ宗教屋でも、取るに足らぬ童子でもない。 死合いとは、こういう者とこそできるものだ。 戦意を向ける敵こそをおぼろへの言い訳に、今度の戦に意を傾ける。 ◇ 命題 Q.亡者は人間なりや? ◇ 枝葉で眩ませればそれごと刈られ、幹を盾にすればそれごと断たれる。 森そのものを斬り伏せながらザ・ヒーローは往く。 それも一つの豪の暴剣。 対する竜之介は柔の理剣。 盤面を見降ろしチェスの駒を進めるように、理尽くめに完成された境地の一つ。 木々を盾に、枝葉を陰に、世界を味方に彼は往く。 その手にムラマサはない。カネサダもまた良き刀ではあるが、かの名刀と比するにはいささか格が落ちる。 故に打ち合う事は論外で、三又に別たれた剣身は流し受けることを不可とする、防御手は限定される。 無数に広がる選択肢、その中で敵がつかみ取るであろうそれを、 体捌き、目線、気迫、地形条件、あらゆる要素と合わせて予測し、最善手を模索する。 異常と言えるほどに鋭く重い剣閃は、体勢を崩そうが足場が崩れようが、何時でも変わらぬ威の込められた渾身の必殺。 伺い知れぬ程の鍛錬と経験によってのみ生まれるであろう太刀筋と不釣り合いに、その組み合わせは乱雑で直線的だった。 一流の太刀筋と、不釣り合いに未熟な戦の組み立て。 竜之介には奇妙としか映らず、推測不可能な領域の事ではあったが、それは両者の出所となる”世界”があまりにも異なるがために生まれた事態であった。 ザ・ヒーローの世界には古来より”人ならざるモノ”たちが存在した。 一般に知られていたかは別の問題として、それ故にその”武”は一撃の重さを前提とし追求する道となる。 ”悪魔”に対抗する手段としての性質が”武”の歴史に組み込まれていた。 対する竜之介の世界。そこでの”武”は人と人が争うための手段である。 ”人ならざるモノ”はイレギュラーでしかなく、”武”を歪める程の存在感を持たない。 人は死ぬ。ほんの数センチの切れ込みが入るだけであっさりと。 故に彼の世界では”見切り””当てる”。対人に特化した剣術が生まれた。 そうして生まれた剣質の違いが、僅かばかりではあるがこの死合いを竜之介優位に進めることへと繋がった。 轟と、空気を裂く剣の音。 剣の横腹を叩き逸らし、余裕を持ってそれを避け懐に入る。 拳の間合いで反撃の一撃を叩きこみ擦れ違う。 竜之介の攻撃は当たり、ザ・ヒーローの動きを少しずつ鈍くしていく。 ザ・ヒーローの攻撃は当たらず、豪剣はただ空を斬る。 決定打となるほどの深い当たりこそ無けれども、確実に場は動く。 ◇ A. 村正の妖刀伝説の由来は曖昧であり、その真贋は怪しいという声も大きい。 彼の世界のそれがそうであったか、どうであったかはわからないが、人の口に戸は建てられず、情報は広まるごとに歪んでいく。 実際がどうであったかなどは関係なく、真実を必要とせずに伝承は歪み、新たに力を育んでいく。 偶然ではない、面白味も無い。どこにでもある、ただの必然の話。 死者は動かない。死者は語らない。 死者に意思はない。死者に意志はない。遺志は都合よく捻じ曲げられる。 死者はただ思い出の中にのみ宿り、記録の中に残り、他者の心の中でのみ育ち変容する。 死者に自我は存在せず、ただただ生者の望むようにしか存在できない。 死者に力を与えるは生前の行いではなく、他者の認識だ。 それはモノとどう違う? 故に、亡者は人間足りえない。 そういうものを人は”悪魔”と呼ぶのだから。 ◇ 竜之介優位、と先に触れていたが、その優位は決して容易に訪れたものではない。 何時崩れても不思議ではない、薄氷の上に成り立つ優位。 轟と、空気を裂く剣の音が聞こえる。 苦もなく避けるも、反撃に回るほどの余裕はない。 踏み込みは浅く、疲労に速さを鈍らせた剣は、その分立ち直り早く次手へと向かう。 再度、剣閃。避ける。 竜之介とザ・ヒーロー。 その身体能力には大きな開きがある。 その開き故に、竜之介は攻めきれず、ザ・ヒーローは無為に剣を振る、そんな構図が生まれた。 だからこそ竜之介は短期決着の一撃必殺ではなく、積み重ね身体能力に鈍りを与える、そういう長期戦に挑んだ。 状況を見るにその判断は正しい。その判断は正しかった 。 この場に至るまでの疲労もあったのだろう。 目に見えてその動きは鈍ってきている。 ただ一つ、誤算であったのは、鈍りを補い余りあるほどの勢いで、ザ・ヒーローは成長し続けていたことだ。 初見で見受けられた未熟さは、一太刀毎に払拭される。 未来予想図は常に変化し、更新を重ねられ、現実に追いつけない。 それが何よりも嬉しい。 剣閃。避ける。 一太刀毎に余計な認識が剥がされていく。 剣閃。音が消えた。 剣閃。色が消えた。 剣閃。鼓動が消えた。 剣閃。景色が消えた。 余分は全て消える。戦闘のみを求める処理思考は、それ以外の余分を全て捨て去る。 温かみのない、白黒でコマ送りな景色。 間合いが開き、動き続けた景色が止まる。 身体能力にはまだ開きがある。戦闘技術にもまだまだ開きがある。 それでも天秤は釣り合い、戦闘力は拮抗した。 この素晴らしき時の終わりを最高の形で終わらさんと願う。 次の 一太刀こそが頂点であると言葉なく、互いに理解し構えを変える。 生涯最大最高の一撃こそを望み、場は硬直する。 凍てついた空気が場に広がって行った。 ◇ 目視叶わぬ虚空を睨む。虚空を測る。虚空は全てに繋がっている。虚空に手を伸ばす。 自己も他者も曖昧な世界に溶け広がって行く。 阿迦奢を認識し、世界と繋がる認識を持ち、先に見ゆるは万物一体の仁。その高みからあえて目を逸らす。 力はただ力であってはならぬ。意思はただ漫然とした意思のままではいかぬ。 ただ広まるに任せてはいられない。それは神の所業。何かを為す望み持つ人には無用の境地。 御せよ。広がるに任せるではなく、己の身の丈に合わせた小ささに、目的に合わせた形に加工して、全てを収めよ。 アカシャ・アーツ。 そこに真の武はない。ただただ破壊に向かい矮小化され、凝縮された一つの境地。 ◇ 接触時とは対照的に、先手を打ったのは竜之介であった。 「半月流、外式――――」 本来、掛け声は不要であり、徒に呼吸を見出す害悪と言っても過言ではない。 しかし、この技だけは。 刃を合わせた彼の者を想い、言葉を紡ぐ。 速さでは無い、独特の緩急織り交ぜた歩法により旋回し、気当てを混じらせ距離を狂わせ、クルクルと肉薄していく。 「矢車草ッ!!」 交差して、終わる。 背後では倒れ付す音。 遅れてキンと鍔鳴りの音が一つ。 飛んだ首は思い出したように、ぽとりと音をたて落ち、存在を主張して。 そして、静寂。 ◇ 老君に導かれ訪れたカテドラル頂上。 そこで僕は見、知った。 全てが集約する世界の中心、そこに立つことで初めて、全てが繋がっている事を。 そこはほんの少しだけ特別な場所。 知っている人ならどこであろうと変わりなく見ることが出来るものが、ほんの少し知らない者にも見えやすくなっている場所。 物質界と精神界の境界がもっとも曖昧な場所。 フツオは人間だ。 ワルオやヨシオのような異能はなく、周囲の誰よりも人間の範疇にいたと言える。 そんな彼だったから、誰かに寄りかかる事はしなかった。 特別じゃない彼は恐ろしくて仕方ない。 特別じゃない彼は兎のように臆病に周囲を見渡していた。 法も混沌も、どちらの理も利も理解出来たから、集団に寄り掛かることなく個として生き続けた。 特別じゃない彼は特別な周囲に負けぬよう、彼らに勝てる部分で勝負していった。 力比べで彼に勝る者は多い。 知恵比べで彼に勝るものは多い。 速さ比べで彼に勝るものは多い。 魔力の持ち合わせは彼に無かったし、 体力も無限と持ち合わせた訳ではない。 運であっても彼に勝てる者は数多くいただろう。 それでも彼は負けなかった。 彼は一度足りとも死なずに生き残り続けた。 彼は無敵では無い。幾度となく傷を負い、幾度となく立ち上がった。 彼は不敗では無い。勝てぬと見ればすぐさま逃げ出し、機会を測った。 故に彼は生き続け、最強となる。 ◇ 結局のところ、勝敗を分けたのは簡単なことだ。 竜之介は剣士であり、ザ・ヒーローは剣を持った戦士であった。 ただそれだけの話。 竜之介が駆け出したその時、ザ・ヒーローは天空の剣を”使った”。 その場に流れた”いてつくはどう”は彼の身体から鈍りを拭い去り、天秤を傾ける。 来たる必殺の一撃。それは最も速く、重く、鋭い一撃。 防ぐことも避けることも敵わぬ絶殺の一撃。 それは逆に言えば、最も刀身に負荷を掛ける、遊びの無い一撃でもある。 ほんの一瞬のドーピング、まるで世界そのものと一体となったような広い感覚の中、針のように細い刹那を引き寄せる。 矢車草、その剣の威力が最も乗った、最上位の瞬間に合わせて。 ザ・ヒーローはカネサダを半ばから断ち折った。 ”いてつくはどう”に取り戻された圧倒的な膂力を持って、勢い殺さず軌道が変わる。 折られた刀に驚愕する間もなく、竜之介の首が飛んだ。 斬られ飛ぶ頭部は空にて驚愕の表情を浮かべ、主を失った身体は最後の命令に忠実に動き続ける。 駆け抜け鍔鳴り、ようやく身体は死を認識し、地に落ちた頭部はようやく敗北を理解した。 驚愕に固まった表情が緩む。 声に成らずも「見事」と口を動かして、動きは止まった。 生きて、斬って。生きて、斬られて。 死して、斬って。死して、斬られて。 竜之介という魔が成す刃は、ザ・ヒーローという魔を断つ剣に砕かれた。 ただそれだけの話。 【魔神竜之介@LIVE A LIVE 死亡】 ◇ 難題 Q.ザ・ヒーローは人間なりや? ◇ 最も手慣れたアナライズ。 自己を見直し一息をつき、その場に倒れ伏す。 まだ英雄ではない。まだ魔人でもない。確かな人間としての自己を確認出来た。 視界の端に映る悪魔の死体は、マグネタイトに霧散せずそのままの姿を維持している。 ここは人間界よりも、魔界に近い環境なのかもしれない。 ぼんやりと、そんなことを考えた。 自身が削れている実感がたしかにある。 世界と自己を隔てる境界は、実のところ曖昧なものだ。 人が魔に転じる例は数多く、人のままで居続けることは難しい。 彼は、派手にやりすぎた。 ロウを滅ぼし、カオスを滅ぼし、歩みゆく姿はあまりにも多くの者に眩しく映り過ぎた。 畏怖とともに向けられたのは、かくあれという信仰にも似た想いたち。 それらが、フツオに向けられた”ザ・ヒーロー”という偶像。 復讐に猛り鎧に狂う狂戦士を救おうとした魔女の術のように、境界は曖昧で。 想い人の黄泉帰りを願った男が縋る卵の逸話のように、それを踏み越える手段は容易で。 親友を斬り想い人を失い、空洞になった心に憎しみを宿した男のように、想いは何よりも強い。 魔と人を隔てる境界は脆く、想いは容易くそれを砕き、侵す。 放送は聞いている。 ヨシオやミカエル、アスラ王を倒す程の実力者が殺し合いに乗っていて、なおかつあの死者の数。 既に亡い、放送以前に遠間より聞こえた、ベンとやらの仕事も混じっているのかもしれないが、好都合な程にハイペースだ。 ならば必要以上に焦り過ぎることはないだろう。 人で在れるうちに戦いを終わらせる。 カテドラルで世界を覗き込み、世界に覗かれたその時から抱き続けた焦り。 その焦りからここまで忙しなく動き続けたが、一度休む必要がある。 支給品に手だけを突っ込み、感触だけで荷物を漁る。 寝転がりながらに取り出したのは、にくまん。 懐かしく温かな文明の味は、かつての東京への郷愁の念を掬い出す。 もう、父の顔は思い出せなかった。 【D-5/森林地帯/1日目/朝】 【ザ・ヒーロー@真・女神転生Ⅰ】 [状態]:疲労(極大) 怪我(小) [装備]:天空の剣@DQ5 [道具]:基本支給品4式(松明1つ消費)、キメラの翼4枚@DQ5、不明支給品1~5 [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、神と契約する 1: 少し、休む [参戦時期]:ニュートラルルートエンディング後 [備考] 大きな力について、意識すればいくらか感知することが可能です。 ”ザ・ヒーロー”と関わり薄い記憶から少しづつ失われています。 零式超吸着掌打を習得しました。 対人戦術を覚えました。 ※竜之介の支給品は死体の傍に放置されています。 |056:[[なんとも醜い復讐劇の序章]]|投下順|058:[[再始動]]| |056:[[なんとも醜い復讐劇の序章]]|時系列順|058:[[再始動]]| |054:[[愛を取り戻せ]]|ザ・ヒーロー|:[[]]| |041:[[楽園の素敵な妖精と通りすがりのお侍の話]]|魔神竜之介|&color(red){GAME OVER}|
◇ ――想いには力を与える能がある ◇ ザ・ヒーローは走っていた。 その内心の大きな割合を占めるのは、ヒーローに相応しくない逃避の念。 何かに追い立てられるような必死さで、すぐさまここを離れねば。 そんな人間臭い、自己保存の本能に忠実な逃走。 それほどまでにパパスの抱擁は、彼にとって致命的だった。 その温かさは、その感触は、その優しさは。 彼の理想。 彼自身の主観の中にしか存在しない、悪魔のいない世界。かつての世界で完結した、父を思わせるそれ。 叶うまで、理想はそこにあってはならぬ。 叶うまで、満ち足りることは許されない。 貪欲に、ただひたすらに貪欲に。 夢追い人は止まれない。 たとえ一度だけであったとしても。 立ち止まってしまっては二度と同じ夢を見ることはできないのだから。 その温かさが、その恐怖が、パパスの命を救ったことに気付かないまま、彼は走り続けた。 そして、見つけた。 一目でわかる。あれは敵だ。 だから斬りかかった。 ◇ 魔神竜之介は改造亡霊である。 悪しき主催に肉の身体を与えられた彼は。 輝かしきニンジャソウルをその身に宿し、人類の未来のため闘うのだ! ◇ 死者が死者に祈るとはなんと面妖なことか。 流れる放送、連なる名前。 多くの失われた生命を想い、竜之介は嘯く。 彼の主観に合わせれば、彼は一度足りとも死してはいない。 彼に信仰はない。 ただただ剣に応えるための生を歩んできた。 肉体の死は一度経験した。 だがそれでも失われぬ強固な自我は、減衰することなく継続し続けている。 剣理とはすなわち人生そのものである。 あらゆる道を極めた先が同じ一点に集中するように、一見関係ない物事であっても全ての経験は剣理に繋がる。 故に彼は失わない。 善行も悪行も区別なく、全ての経験が自己を育みし剣理に繋がる故に。 死とは喪失である。 死とは停滞である。 死とは到達点である。 なれば彼は未だに死せぬもの。 生き永らえ、道を歩みし探求者。 強者を求めるは剣士の本能に近い。 ムラマサを守る目的が強者と死合う手段を求めてこそであったように。 おぼろの意に触れ枝葉は変われど、最強を求める芯に変わりは無く、 だから後背より迫る斬撃は、踏み出した一歩に空を斬る。 ここは不自然なほどに命の息吹絶えた冥界。 故に接近を示す信号を遮る”生”の気配は無く、奇襲の成り立つ理もない。 「問う……なぜ、お前は戦う?」 振り向きながらに放たれた音無しの剣は金属音と共に弾かれた。 重い、と斬りかかったこちらが感じるほどに揺るぎない剣圧。 返答はない。そのことをどこか、喜ばしく感じる自分を意識する。 イカレタ宗教屋でも、取るに足らぬ童子でもない。 死合いとは、こういう者とこそできるものだ。 戦意を向ける敵こそをおぼろへの言い訳に、今度の戦に意を傾ける。 ◇ 命題 Q.亡者は人間なりや? ◇ 枝葉で眩ませればそれごと刈られ、幹を盾にすればそれごと断たれる。 森そのものを斬り伏せながらザ・ヒーローは往く。 それも一つの豪の暴剣。 対する竜之介は柔の理剣。 盤面を見降ろしチェスの駒を進めるように、理尽くめに完成された境地の一つ。 木々を盾に、枝葉を陰に、世界を味方に彼は往く。 その手にムラマサはない。カネサダもまた良き刀ではあるが、かの名刀と比するにはいささか格が落ちる。 故に打ち合う事は論外で、三又に別たれた剣身は流し受けることを不可とする、防御手は限定される。 無数に広がる選択肢、その中で敵がつかみ取るであろうそれを、 体捌き、目線、気迫、地形条件、あらゆる要素と合わせて予測し、最善手を模索する。 異常と言えるほどに鋭く重い剣閃は、体勢を崩そうが足場が崩れようが、何時でも変わらぬ威の込められた渾身の必殺。 伺い知れぬ程の鍛錬と経験によってのみ生まれるであろう太刀筋と不釣り合いに、その組み合わせは乱雑で直線的だった。 一流の太刀筋と、不釣り合いに未熟な戦の組み立て。 竜之介には奇妙としか映らず、推測不可能な領域の事ではあったが、それは両者の出所となる”世界”があまりにも異なるがために生まれた事態であった。 ザ・ヒーローの世界には古来より”人ならざるモノ”たちが存在した。 一般に知られていたかは別の問題として、それ故にその”武”は一撃の重さを前提とし追求する道となる。 ”悪魔”に対抗する手段としての性質が”武”の歴史に組み込まれていた。 対する竜之介の世界。そこでの”武”は人と人が争うための手段である。 ”人ならざるモノ”はイレギュラーでしかなく、”武”を歪める程の存在感を持たない。 人は死ぬ。ほんの数センチの切れ込みが入るだけであっさりと。 故に彼の世界では”見切り””当てる”。対人に特化した剣術が生まれた。 そうして生まれた剣質の違いが、僅かばかりではあるがこの死合いを竜之介優位に進めることへと繋がった。 轟と、空気を裂く剣の音。 剣の横腹を叩き逸らし、余裕を持ってそれを避け懐に入る。 拳の間合いで反撃の一撃を叩きこみ擦れ違う。 竜之介の攻撃は当たり、ザ・ヒーローの動きを少しずつ鈍くしていく。 ザ・ヒーローの攻撃は当たらず、豪剣はただ空を斬る。 決定打となるほどの深い当たりこそ無けれども、確実に場は動く。 ◇ A. 村正の妖刀伝説の由来は曖昧であり、その真贋は怪しいという声も大きい。 彼の世界のそれがそうであったか、どうであったかはわからないが、人の口に戸は建てられず、情報は広まるごとに歪んでいく。 実際がどうであったかなどは関係なく、真実を必要とせずに伝承は歪み、新たに力を育んでいく。 偶然ではない、面白味も無い。どこにでもある、ただの必然の話。 死者は動かない。死者は語らない。 死者に意思はない。死者に意志はない。遺志は都合よく捻じ曲げられる。 死者はただ思い出の中にのみ宿り、記録の中に残り、他者の心の中でのみ育ち変容する。 死者に自我は存在せず、ただただ生者の望むようにしか存在できない。 死者に力を与えるは生前の行いではなく、他者の認識だ。 それはモノとどう違う? 故に、亡者は人間足りえない。 そういうものを人は”悪魔”と呼ぶのだから。 ◇ 竜之介優位、と先に触れていたが、その優位は決して容易に訪れたものではない。 何時崩れても不思議ではない、薄氷の上に成り立つ優位。 轟と、空気を裂く剣の音が聞こえる。 苦もなく避けるも、反撃に回るほどの余裕はない。 踏み込みは浅く、疲労に速さを鈍らせた剣は、その分立ち直り早く次手へと向かう。 再度、剣閃。避ける。 竜之介とザ・ヒーロー。 その身体能力には大きな開きがある。 その開き故に、竜之介は攻めきれず、ザ・ヒーローは無為に剣を振る、そんな構図が生まれた。 だからこそ竜之介は短期決着の一撃必殺ではなく、積み重ね身体能力に鈍りを与える、そういう長期戦に挑んだ。 状況を見るにその判断は正しい。その判断は正しかった 。 この場に至るまでの疲労もあったのだろう。 目に見えてその動きは鈍ってきている。 ただ一つ、誤算であったのは、鈍りを補い余りあるほどの勢いで、ザ・ヒーローは成長し続けていたことだ。 初見で見受けられた未熟さは、一太刀毎に払拭される。 未来予想図は常に変化し、更新を重ねられ、現実に追いつけない。 それが何よりも嬉しい。 剣閃。避ける。 一太刀毎に余計な認識が剥がされていく。 剣閃。音が消えた。 剣閃。色が消えた。 剣閃。鼓動が消えた。 剣閃。景色が消えた。 余分は全て消える。戦闘のみを求める処理思考は、それ以外の余分を全て捨て去る。 温かみのない、白黒でコマ送りな景色。 間合いが開き、動き続けた景色が止まる。 身体能力にはまだ開きがある。戦闘技術にもまだまだ開きがある。 それでも天秤は釣り合い、戦闘力は拮抗した。 この素晴らしき時の終わりを最高の形で終わらさんと願う。 次の 一太刀こそが頂点であると言葉なく、互いに理解し構えを変える。 生涯最大最高の一撃こそを望み、場は硬直する。 凍てついた空気が場に広がって行った。 ◇ 目視叶わぬ虚空を睨む。虚空を測る。虚空は全てに繋がっている。虚空に手を伸ばす。 自己も他者も曖昧な世界に溶け広がって行く。 阿迦奢を認識し、世界と繋がる認識を持ち、先に見ゆるは万物一体の仁。その高みからあえて目を逸らす。 力はただ力であってはならぬ。意思はただ漫然とした意思のままではいかぬ。 ただ広まるに任せてはいられない。それは神の所業。何かを為す望み持つ人には無用の境地。 御せよ。広がるに任せるではなく、己の身の丈に合わせた小ささに、目的に合わせた形に加工して、全てを収めよ。 アカシャ・アーツ。 そこに真の武はない。ただただ破壊に向かい矮小化され、凝縮された一つの境地。 ◇ 接触時とは対照的に、先手を打ったのは竜之介であった。 「半月流、外式――――」 本来、掛け声は不要であり、徒に呼吸を見出す害悪と言っても過言ではない。 しかし、この技だけは。 刃を合わせた彼の者を想い、言葉を紡ぐ。 速さでは無い、独特の緩急織り交ぜた歩法により旋回し、気当てを混じらせ距離を狂わせ、クルクルと肉薄していく。 「矢車草ッ!!」 交差して、終わる。 背後では倒れ付す音。 遅れてキンと鍔鳴りの音が一つ。 飛んだ首は思い出したように、ぽとりと音をたて落ち、存在を主張して。 そして、静寂。 ◇ 老君に導かれ訪れたカテドラル頂上。 そこで僕は見、知った。 全てが集約する世界の中心、そこに立つことで初めて、全てが繋がっている事を。 そこはほんの少しだけ特別な場所。 知っている人ならどこであろうと変わりなく見ることが出来るものが、ほんの少し知らない者にも見えやすくなっている場所。 物質界と精神界の境界がもっとも曖昧な場所。 フツオは人間だ。 ワルオやヨシオのような異能はなく、周囲の誰よりも人間の範疇にいたと言える。 そんな彼だったから、誰かに寄りかかる事はしなかった。 特別じゃない彼は恐ろしくて仕方ない。 特別じゃない彼は兎のように臆病に周囲を見渡していた。 法も混沌も、どちらの理も利も理解出来たから、集団に寄り掛かることなく個として生き続けた。 特別じゃない彼は特別な周囲に負けぬよう、彼らに勝てる部分で勝負していった。 力比べで彼に勝る者は多い。 知恵比べで彼に勝るものは多い。 速さ比べで彼に勝るものは多い。 魔力の持ち合わせは彼に無かったし、 体力も無限と持ち合わせた訳ではない。 運であっても彼に勝てる者は数多くいただろう。 それでも彼は負けなかった。 彼は一度足りとも死なずに生き残り続けた。 彼は無敵では無い。幾度となく傷を負い、幾度となく立ち上がった。 彼は不敗では無い。勝てぬと見ればすぐさま逃げ出し、機会を測った。 故に彼は生き続け、最強となる。 ◇ 結局のところ、勝敗を分けたのは簡単なことだ。 竜之介は剣士であり、ザ・ヒーローは剣を持った戦士であった。 ただそれだけの話。 竜之介が駆け出したその時、ザ・ヒーローは天空の剣を”使った”。 その場に流れた”いてつくはどう”は彼の身体から鈍りを拭い去り、天秤を傾ける。 来たる必殺の一撃。それは最も速く、重く、鋭い一撃。 防ぐことも避けることも敵わぬ絶殺の一撃。 それは逆に言えば、最も刀身に負荷を掛ける、遊びの無い一撃でもある。 ほんの一瞬のドーピング、まるで世界そのものと一体となったような広い感覚の中、針のように細い刹那を引き寄せる。 矢車草、その剣の威力が最も乗った、最上位の瞬間に合わせて。 ザ・ヒーローはカネサダを半ばから断ち折った。 ”いてつくはどう”に取り戻された圧倒的な膂力を持って、勢い殺さず軌道が変わる。 折られた刀に驚愕する間もなく、竜之介の首が飛んだ。 斬られ飛ぶ頭部は空にて驚愕の表情を浮かべ、主を失った身体は最後の命令に忠実に動き続ける。 駆け抜け鍔鳴り、ようやく身体は死を認識し、地に落ちた頭部はようやく敗北を理解した。 驚愕に固まった表情が緩む。 声に成らずも「見事」と口を動かして、動きは止まった。 生きて、斬って。生きて、斬られて。 死して、斬って。死して、斬られて。 竜之介という魔が成す刃は、ザ・ヒーローという魔を断つ剣に砕かれた。 ただそれだけの話。 【魔神竜之介@LIVE A LIVE 死亡】 ◇ 難題 Q.ザ・ヒーローは人間なりや? ◇ 最も手慣れたアナライズ。 自己を見直し一息をつき、その場に倒れ伏す。 まだ英雄ではない。まだ魔人でもない。確かな人間としての自己を確認出来た。 視界の端に映る悪魔の死体は、マグネタイトに霧散せずそのままの姿を維持している。 ここは人間界よりも、魔界に近い環境なのかもしれない。 ぼんやりと、そんなことを考えた。 自身が削れている実感がたしかにある。 世界と自己を隔てる境界は、実のところ曖昧なものだ。 人が魔に転じる例は数多く、人のままで居続けることは難しい。 彼は、派手にやりすぎた。 ロウを滅ぼし、カオスを滅ぼし、歩みゆく姿はあまりにも多くの者に眩しく映り過ぎた。 畏怖とともに向けられたのは、かくあれという信仰にも似た想いたち。 それらが、フツオに向けられた”ザ・ヒーロー”という偶像。 復讐に猛り鎧に狂う狂戦士を救おうとした魔女の術のように、境界は曖昧で。 想い人の黄泉帰りを願った男が縋る卵の逸話のように、それを踏み越える手段は容易で。 親友を斬り想い人を失い、空洞になった心に憎しみを宿した男のように、想いは何よりも強い。 魔と人を隔てる境界は脆く、想いは容易くそれを砕き、侵す。 放送は聞いている。 ヨシオやミカエル、アスラ王を倒す程の実力者が殺し合いに乗っていて、なおかつあの死者の数。 既に亡い、放送以前に遠間より聞こえた、ベンとやらの仕事も混じっているのかもしれないが、好都合な程にハイペースだ。 ならば必要以上に焦り過ぎることはないだろう。 人で在れるうちに戦いを終わらせる。 カテドラルで世界を覗き込み、世界に覗かれたその時から抱き続けた焦り。 その焦りからここまで忙しなく動き続けたが、一度休む必要がある。 支給品に手だけを突っ込み、感触だけで荷物を漁る。 寝転がりながらに取り出したのは、にくまん。 懐かしく温かな文明の味は、かつての東京への郷愁の念を掬い出す。 もう、父の顔は思い出せなかった。 【D-5/森林地帯/1日目/朝】 【ザ・ヒーロー@真・女神転生Ⅰ】 [状態]:疲労(極大) 怪我(小) [装備]:天空の剣@DQ5 [道具]:基本支給品4式(松明1つ消費)、キメラの翼4枚@DQ5、不明支給品1~5 [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、神と契約する 1: 少し、休む [参戦時期]:ニュートラルルートエンディング後 [備考] 大きな力について、意識すればいくらか感知することが可能です。 ”ザ・ヒーロー”と関わり薄い記憶から少しづつ失われています。 零式超吸着掌打を習得しました。 対人戦術を覚えました。 ※竜之介の支給品は死体の傍に放置されています。 |056:[[なんとも醜い復讐劇の序章]]|投下順|058:[[再始動]]| |056:[[なんとも醜い復讐劇の序章]]|時系列順|058:[[再始動]]| |054:[[愛を取り戻せ]]|ザ・ヒーロー|065:[[ザ・ヒーローの孤独なグルメ、改め強くてニューゲーム]]| |041:[[楽園の素敵な妖精と通りすがりのお侍の話]]|魔神竜之介|&color(red){GAME OVER}|

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