・・・の祈 上空

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一瞬のことだった。 魔王山へと逸る足を向けていたところ、小さな子供が必死の形相でこちらの方へと駆けてくるのが目に入った。 ただちょうどその瞬間、魔王山とは反対の北西の方角からとても人間によるものとは思えないほどの大声が響いてきて、 思わずそちらを振り返る。 そして再び前を向いた時には、 「――ごめんね」 その子供の腹から、剣が一本生えていた。 ◇ ストレイボウは何が起きたのかを理解すると、すぐさま攻撃呪文の詠唱に入った。 キメラの翼によってD-7からC-5へと移動していたザ・ヒーローは、セエレの体を押して腹部に突き刺した天空の剣を抜き、 一気にストレイボウへと距離を詰める。 そして剣を持つ腕を勢いよく後方へと振り抜いて、そのまま肩を軸に前へと一回転させる。 重量のあるハンマーを思い切り打ち下ろすかのような、一撃。 引き抜いた際に、剣先の錨のような返しが抉り取った内臓片を遠心力で弾き落としながら、 ストレイボウの脳天目掛けて振り下ろす。 「ッ! シルバーウインド!」 見て推察できる剣の重さからは不釣り合いに思えなくもない、大振りな攻撃をかわしてストレイボウは氷の刃を放つも、 なんなく回避されてしまう。 再びストレイボウへと接近しようと跳躍するザ・ヒーロー。 が、その二人の間に新体操のリボンのような、けれども硬質な破壊力を持った五本のうねる刃が割って入り、 ザ・ヒーローは着地点で地を蹴り直し後方へと飛び退く。 それは“雷鳴”の名を持つ武具、ウルミン。セエレのことを追ってきたパパスの手によるものだった。 「その子供の手当を頼む! 俺は回復魔法は使えないッ!」 ストレイボウは襲撃者から目を離さないままに、助けに入った影に向かって声を張り上げる。 その人物が本当に信用できるのかはわからないし、そもそもどんな事情があるのかさえストレイボウには知る由もない。 例えば、剣で貫かれた子供が実は殺し合いに乗っていたのだということだってあるかもしれない。 ただそうであったとしても、恐怖の表情を浮かべ逃げていた幼い子供に問答無用で剣を突き立てるという行為を 簡単に受け入れられる心は、彼の正義の中にはなかった。 「早く!!」 「く! ……かたじけないっ!」 男が子供を抱えてこの場から離脱する気配を察して、ストレイボウは再度呪文を練り始める。 その者が回復術の使い手か、またはその手段を持っていることを願いつつ。 構築する魔法は詠唱にあまり時間を必要としないもので、初級に近いものだ。 魔法使いであるストレイボウにとって接近戦は避けたいものであり、 先ほどの援護のおかげで開いた襲撃者との距離を維持しておきたかった。 それに可能性の話でいうのならば、この少年は幻術のようなものにかかっているだけだということだってありうるのだ ――――自分がかつて、ある者に対してそう仕向けた時のように。 間断なく呪文を唱えて動きを牽制し、急所は外すように注意しながら威力の抑えた魔法を、ストレイボウは放ち続ける。 ……だが次第に、その顔からは余裕が消えていくこととなった。 加減しているとはいえ、無数に放つ魔法は一向にかする気配さえない。 今では少年との間隔を保つためには、詠唱の最中も動きづらいローブで森を走り回らなければならないハメになっている。 もとより魔法使いにとって不利な一対一の戦闘と承知ではあったが、未だ有効打ひとつ与えられないことに 疲労だけが蓄積していった。 相手は、魔法や投擲武器といった遠距離攻撃は仕掛けてこない。 剣一本を手に、こちらを狙ってくる。 魔法を放つ。避けられる。 ジリ貧へと近づきつつある状況が、ストレイボウの心に焦りを生み出していく。 魔法を放つ。避けられる。 脳を侵食していくような疲労感が、ストレイボウの心から冷静さを奪っていく。 魔法を放つ。避けられる。 剣を持った相手に――オルステッドと同じ“剣士”に追いつめられているという事実が、ストレイボウの心にほの暗いものを落としていく。 「シルバーファング!!」 当初の意図を無視して放った高位魔法も、周囲の木々を凍りつかせるだけで、当たらない。 “剣士”が樹の影からあらわれ、攻撃を加えるため振り向いていたストレイボウの前に立ちはだかった。 大したダメージも受けていないように見える涼しげなその表情に、強烈な既視感が沸き起こる。 友への憎しみによって手に入れた、オディオの力。 つい先日まで自身を満たし当たり前のように行使できていたはずの力が汲み出せないことに、牙を鳴らしたくなる。 欠けを認識した今、無駄とは知りつつもその力へと手を伸ばそうと―― 「……駄目だよ」 少年の口から発せられた心を見透かされたかのような一言に、ストレイボウの顔が驚愕に染まる。 ただ同時にその声によって、ぴしゃりと冷水を浴びせられたごとく暗い感情が薄らいで、現実へと引き戻された。 「君のその力は、駄目だ」 再度ザ・ヒーローが魔法使いに言葉を投げる。 実際のところ、ザ・ヒーローはストレイボウの心を読んだというわけではない。 全てを終えて辿り着いたカテドラルの頂上。そこで太上老君に導かれて見た宇宙の存在。 素粒子の振動や銀河のうねりまではっきりと感じ取れたあの時とは違い、茫漠とでしかなかったが それでもその感覚を呼び戻すことで、ストレイボウの中に存在していた巨大な力の残滓を彼は認識することができた。 ザ・ヒーローは、なまりのように重い天空の剣を手に駆けていたことで幾分上がっていた息を抑えるため立ち止まり、 現人鬼である散に対峙した時と同じように、見極める。 「どうやら今は、うまく使えていないみたいだけど。  でもその力を振るい、その力に溺れ続けたら、きっと君は人間でいられなくなる。それはそういう類のものだ。  だから――」 呼吸を整え終えたザ・ヒーローが、三たびストレイボウへと接近する。 実際の質量と感覚的な重さが一致せず扱いづらくはあるが、先ほど攻めを抑え守りに専念していた間に だいぶ手になじませることができた、天空の剣をもって。 しかしその刃はまたしてもストレイボウを斬るには至らなかった。 突如出現したゴーレムが、ザ・ヒーローの前に立ち塞がったがために。 ◆◆ ずっと謝ろうと思ってた。 幸せをひとり占めしていたことを。助けてあげられなかったことを。見捨ててしまったことを。 まだまだ僕はこどもだからって、そんな言い訳を続けていたら、もう大人になることができなくなった。 だけどこのからだのこと自体は気に入っていた。 母さんが教えてくれた、物語の中の勇者さまにそっくりだったから。 それでも結局、また逃げ出して。ほんとうの意味ではやっぱり勇者になれなかった。 ぽうっと、あたたかい光に包みこまれる。 まっくらだった世界が、明るくなる。 その光とはまた別に、血を失って冷えていくからだに触れている熱を感じる。 どうやら、誰かに抱きかかえられているみたい。 やさしくて、こわかった――こわかったけれど、それでも確かにやさしかった、母さんと同じぬくもり。 おなかの中にいたときから知っている、なつかしいその温度に、さっきまで満ちていた恐怖や痛みがとけていく。 「気がついたかっ!?」 まぶたをゆっくりと開く。黒いひとみが心配そうにのぞきこんでいるのが見える。 そして一緒に、頭にあるにはそぐわない白い布が目に入って、思わず口もとがゆるんだ。 自分のものじゃなくなってしまったみたいに感覚のない腕をそっと伸ばして、それをはずす。 「もう……おとななんでしょ……?」 動かしづらくなった口で、いたずらっぽく言ってみた。 いい子じゃなくても、大きな手は優しく添えられたままで、あったかかった。 そのことにほっとするけれど、ふわふわした意識はまただんだんと沈みこんでいこうとしている。 たぶんもうすぐ、からだのどこも動かせなくなってしまうんだろう。 だから、まっくろな影におおわれてしまわないうちに、伝えたいと思う。 「……マナ……一番最初の……顔がいっぱいだったところで……みんなの前で話してた…………僕の……妹なんだ……」 声がうまく出せなくて、途切れ途切れのちいさなものになってしまうけれど、 耳をこっちに近づけてくれていることを感じて、安心してつづける。 まだ、謝らなくちゃと思ってるし、そんな簡単に、許されることじゃないんだろうけど。 でも、今ならわかる。 マナにとって一番必要なものは、よくわからない神さまの愛だとか、ごめんなんて言葉だとか、 そんなものじゃきっとなくて―― 「おねがい……マナのことを…………だきしめて……あげて……  このあたたかさを…………マナにも……分けてほしいんだ…………」 うなずいてもらえたのが、かすんできた景色の中でもわかって、安堵する。 最後に、首をすこしうごかして、上を向く。 夜明けはまだこないけれど、星がのこっている空に祈って、重くなったまぶたを閉じた。 【セエレ@ドラッグオンドラグーン 死亡】 ◆◆ ストレイボウへと向かう予定だったザ・ヒーローの刃が、ゴーレムの固い右腕を肩から切り落とす。 崩れ落下していくその腕を構成していた煉瓦が、土煙を巻き起こす。 その晴れた先、ゴーレムの傍らにはセエレに支給されていたアームターミナルを身に着けたパパスの姿があった。 「聞かせてほしい。なぜおぬしは、こんなことを……?」 先程までセエレを抱きかかえていたパパスの手は今、怒りに打ち震えている。 しかしその感情にじっと耐えながら、静かに、厳かに、目の前の少年に尋ねた。 ザ・ヒーローはその問いかけに剣を降ろして、パパスの装着している機械へと視線を向けながら、訥々と語り始めた。 「昔……僕はそのCOMPを使って、悪魔を仲魔にして共に戦っていたりしてたんだ。  それを手に入れてからは、息つく暇もなかった。  たった一人の肉親だった母は悪魔に食い殺されて、  僕がいた東京は神の手の者によってI.C.B.Mが落とされて、そのあとも海の底に沈められて、  大切な人たちや、友はみんな――」 穏やかで、どこか平板ささえ感じさせる声。 それがいったん途切れるも、ほどなくして再開される。 「前々から少しずつ増えていた悪魔がどんどん街に溢れてくるのに従って、僕の日常は崩れていった。  人々の祈りは神や悪魔によってたやすく摘み取られて、人類の未来はそれらの手に渡りかけた。  ……仲魔になってくれた悪魔はみんな、力になってくれたよ。  でも今となってはもう、彼らも含めた悪魔のことが憎くて憎くて堪らない」 数時間前の邂逅の際に見た、人の形をした醜い獣の姿をザ・ヒーローは思い出して、薄く笑った。 しかしそれも瞬時に消え、人間の潜在能力が引き出された筋力をもってして、再び天空の剣を持ち上げる。 「そんな風に人を大事に思えるんだったら尚更、こんな殺し合いに従うことなんかは――」 魔法使いの声には頷かずに、ザ・ヒーローは言葉を続けるため口を開く。 血にまみれて磨耗していった心、されど同時に磨き上げられることとなった意志は固く、揺らがない。 「そうだからこそ、守りたいものがあるんだ。  ……この殺し合いの最後の一人は、神の力を得るんだったよね。  だから――僕は殺す。君たちが、君たちであるうちにも」 すくった皿に残ったものをこぼれ落とさぬように。 人のどんな選択も受け入れ、世界の天秤は振れるとしても。 彼自身の天秤は、もう揺れることはない。 ◆◆ パパスには、先程看取った子供とちょうど同じくらいの年頃の子があった。 魔界に連れ去られた妻を救うための過酷な旅にも、幼いながらに懸命についてくることができて。 襲いかかるモンスターに果敢に立ち向かっていったり、子供たちだけでお化け退治を行なったり、 日に日に逞しく育っていく一人息子の姿に幸せを噛みしめながら、日々を過ごしていた。 とはいえまだまだ6つばかりの子供。 甘えたくとも母は近くになく、旅の中にあっては父も十分には構ってやれず。 元気に振る舞ってはいても心の奥では淋しい思いをしているのだろう、 そろそろ村に腰を落ち着けて、これからは思う存分遊んでやろうと、そう考えていた矢先のことだったのだ。 人質とされてしまった息子の眼の前で、パパスがゲマの炎に骨一つ残さず焼かれたのは。 そうであったがために、この殺し合いの始めの無残な親子の死にはなおのこと心を痛めた。 アイテムによる思考力の低下があったとはいえ、原因となった者――勘違いではあったが――の話に 耳を傾けることもなく、思わず激昂してしまうほどに。 ただ先立つこととなってしまったが、我が息子――リュカならば、きっと立派に成長してくれるだろうと信じていた。 いつの日か自分の遺志を継ぎ、伝説の勇者を見つけだし、妻――リュカにとっては母――を、救い出してくれると。 しかし、そうではあっても。いや、そうであるからこそか。 息子の行く末について、空の上から祈り続けずにはいられなかった。 信じて託しはしたが、自分の願いが息子を縛ることになるのならば。 幼き日より見せていた強さと優しさ故に、重荷となっても捨て去ることができずに、苦しむことになるのならそれは―― ◇ 「だから――僕は殺す。君たちが、君たちであるうちにも」 血なまぐさい内容とは裏腹な、ひどく透き通った優しい声が森に響いた。 忘れもしない、特徴的な意匠の剣を構えた少年の目は、微塵も揺らぐことなくまっすぐ前を見据えている。 パパスは複雑な思いでその視線を受け止めて、ゆっくりと言葉を発した。 「……ならば私は全力で止めねばなるまい。これ以上、お前が修羅の道を歩むというのならば」 親を亡くしたという少年の、その瞳の奥に宿る黒々とした憎悪を見つめながら、静かにそう宣言した。 【エリアC-5/森林地帯/1日目/黎明】 【ザ・ヒーロー@真・女神転生Ⅰ】 [状態]:疲労(小) [装備]:天空の剣@DQ5 [道具]:基本支給品1式、キメラの翼4枚@DQ5 [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、神と契約する 1:目の前の二人(ストレイボウ、パパス)を殺す [参戦時期]:ニュートラルルートエンディング後 [備考] 大きな力について、意識すればいくらか感知することが可能です。 ストレイボウのオディオの力を認識しました。 【ストレイボウ@LIVE A LIVE】 [状態]:疲労(中) [道具]:基本支給品1式、不明支給品1~3 [思考・状況] 基本行動方針:神に従わない、オルステッドの引き立て役だった過去に決別する 1:少年(ザ・ヒーロー)に対処 2:情報を求め魔王山へ向かう 3:偽魔王と闘った部屋まで行けば、また力が戻るのではないかと期待 [参戦時期]:魔王山にて岩盤を落としオルステッドたちと別れた以降 [備考] ゲーム中、レベルアップで覚えさせる事が出来る魔法は全て使えますがオディオとしての力は制限されています。 地図がおおよそ正しいことを把握しました、また魔王山が自分の知る魔王山であると認識しました。 【パパス@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】 [状態]:健康、男らしさ減少 [装備]:ウルミン@ベルセルク、ハイレグアーマー@MM2R、アームターミナルE(仲間:ゴーレム@DQ5(右腕欠損)) [道具]:基本支給品*2(松明1つ消費)、不明支給品0~2、ワタナベのパンツ@LIVE A LIVE、元々着ていた服 [思考・状況] 基本行動方針:道を踏み外した子を正しい方へ導く 1:少年(ザ・ヒーロー)を止める 2:マナのもとに行き、抱きしめる [参戦時期]:死亡後、エビルマウンテンで吹っ切れたリュカに会うよりも前 |047:[[heat beat]]|投下順|049:[[やってしまいましたなあ]]| |042:[[超融合]]|時系列順|033:[[MONEY!MONEY! ~君が世界を動かしてる~]]| |009:[[森林に変態の影が/Perverts in the Dungeon]]|セエレ|&color(red){GAME OVER}| |009:[[森林に変態の影が/Perverts in the Dungeon]]|パパス|054:[[愛を取り戻せ]]| |003:[[世紀末救 世/星 主伝説]]|ザ・ヒーロー|054:[[愛を取り戻せ]]| |012:[[東の山に……]]|ストレイボウ|054:[[愛を取り戻せ]]|
一瞬のことだった。 魔王山へと逸る足を向けていたところ、小さな子供が必死の形相でこちらの方へと駆けてくるのが目に入った。 ただちょうどその瞬間、魔王山とは反対の北西の方角からとても人間によるものとは思えないほどの大声が響いてきて、 思わずそちらを振り返る。 そして再び前を向いた時には、 「――ごめんね」 その子供の腹から、剣が一本生えていた。 ◇ ストレイボウは何が起きたのかを理解すると、すぐさま攻撃呪文の詠唱に入った。 キメラの翼によってD-7からC-5へと移動していたザ・ヒーローは、セエレの体を押して腹部に突き刺した天空の剣を抜き、 一気にストレイボウへと距離を詰める。 そして剣を持つ腕を勢いよく後方へと振り抜いて、そのまま肩を軸に前へと一回転させる。 重量のあるハンマーを思い切り打ち下ろすかのような、一撃。 引き抜いた際に、剣先の錨のような返しが抉り取った内臓片を遠心力で弾き落としながら、 ストレイボウの脳天目掛けて振り下ろす。 「ッ! シルバーウインド!」 見て推察できる剣の重さからは不釣り合いに思えなくもない、大振りな攻撃をかわしてストレイボウは氷の刃を放つも、 なんなく回避されてしまう。 再びストレイボウへと接近しようと跳躍するザ・ヒーロー。 が、その二人の間に新体操のリボンのような、けれども硬質な破壊力を持った五本のうねる刃が割って入り、 ザ・ヒーローは着地点で地を蹴り直し後方へと飛び退く。 それは“雷鳴”の名を持つ武具、ウルミン。セエレのことを追ってきたパパスの手によるものだった。 「その子供の手当を頼む! 俺は回復魔法は使えないッ!」 ストレイボウは襲撃者から目を離さないままに、助けに入った影に向かって声を張り上げる。 その人物が本当に信用できるのかはわからないし、そもそもどんな事情があるのかさえストレイボウには知る由もない。 例えば、剣で貫かれた子供が実は殺し合いに乗っていたのだということだってあるかもしれない。 ただそうであったとしても、恐怖の表情を浮かべ逃げていた幼い子供に問答無用で剣を突き立てるという行為を 簡単に受け入れられる心は、彼の正義の中にはなかった。 「早く!!」 「く! ……かたじけないっ!」 男が子供を抱えてこの場から離脱する気配を察して、ストレイボウは再度呪文を練り始める。 その者が回復術の使い手か、またはその手段を持っていることを願いつつ。 構築する魔法は詠唱にあまり時間を必要としないもので、初級に近いものだ。 魔法使いであるストレイボウにとって接近戦は避けたいものであり、 先ほどの援護のおかげで開いた襲撃者との距離を維持しておきたかった。 それに可能性の話でいうのならば、この少年は幻術のようなものにかかっているだけだということだってありうるのだ ――――自分がかつて、ある者に対してそう仕向けた時のように。 間断なく呪文を唱えて動きを牽制し、急所は外すように注意しながら威力の抑えた魔法を、ストレイボウは放ち続ける。 ……だが次第に、その顔からは余裕が消えていくこととなった。 加減しているとはいえ、無数に放つ魔法は一向にかする気配さえない。 今では少年との間隔を保つためには、詠唱の最中も動きづらいローブで森を走り回らなければならないハメになっている。 もとより魔法使いにとって不利な一対一の戦闘と承知ではあったが、未だ有効打ひとつ与えられないことに 疲労だけが蓄積していった。 相手は、魔法や投擲武器といった遠距離攻撃は仕掛けてこない。 剣一本を手に、こちらを狙ってくる。 魔法を放つ。避けられる。 ジリ貧へと近づきつつある状況が、ストレイボウの心に焦りを生み出していく。 魔法を放つ。避けられる。 脳を侵食していくような疲労感が、ストレイボウの心から冷静さを奪っていく。 魔法を放つ。避けられる。 剣を持った相手に――オルステッドと同じ“剣士”に追いつめられているという事実が、ストレイボウの心にほの暗いものを落としていく。 「シルバーファング!!」 当初の意図を無視して放った高位魔法も、周囲の木々を凍りつかせるだけで、当たらない。 “剣士”が樹の影からあらわれ、攻撃を加えるため振り向いていたストレイボウの前に立ちはだかった。 大したダメージも受けていないように見える涼しげなその表情に、強烈な既視感が沸き起こる。 友への憎しみによって手に入れた、オディオの力。 つい先日まで自身を満たし当たり前のように行使できていたはずの力が汲み出せないことに、牙を鳴らしたくなる。 欠けを認識した今、無駄とは知りつつもその力へと手を伸ばそうと―― 「……駄目だよ」 少年の口から発せられた心を見透かされたかのような一言に、ストレイボウの顔が驚愕に染まる。 ただ同時にその声によって、ぴしゃりと冷水を浴びせられたごとく暗い感情が薄らいで、現実へと引き戻された。 「君のその力は、駄目だ」 再度ザ・ヒーローが魔法使いに言葉を投げる。 実際のところ、ザ・ヒーローはストレイボウの心を読んだというわけではない。 全てを終えて辿り着いたカテドラルの頂上。そこで太上老君に導かれて見た宇宙の存在。 素粒子の振動や銀河のうねりまではっきりと感じ取れたあの時とは違い、茫漠とでしかなかったが それでもその感覚を呼び戻すことで、ストレイボウの中に存在していた巨大な力の残滓を彼は認識することができた。 ザ・ヒーローは、なまりのように重い天空の剣を手に駆けていたことで幾分上がっていた息を抑えるため立ち止まり、 現人鬼である散に対峙した時と同じように、見極める。 「どうやら今は、うまく使えていないみたいだけど。  でもその力を振るい、その力に溺れ続けたら、きっと君は人間でいられなくなる。それはそういう類のものだ。  だから――」 呼吸を整え終えたザ・ヒーローが、三たびストレイボウへと接近する。 実際の質量と感覚的な重さが一致せず扱いづらくはあるが、先ほど攻めを抑え守りに専念していた間に だいぶ手になじませることができた、天空の剣をもって。 しかしその刃はまたしてもストレイボウを斬るには至らなかった。 突如出現したゴーレムが、ザ・ヒーローの前に立ち塞がったがために。 ◆◆ ずっと謝ろうと思ってた。 幸せをひとり占めしていたことを。助けてあげられなかったことを。見捨ててしまったことを。 まだまだ僕はこどもだからって、そんな言い訳を続けていたら、もう大人になることができなくなった。 だけどこのからだのこと自体は気に入っていた。 母さんが教えてくれた、物語の中の勇者さまにそっくりだったから。 それでも結局、また逃げ出して。ほんとうの意味ではやっぱり勇者になれなかった。 ぽうっと、あたたかい光に包みこまれる。 まっくらだった世界が、明るくなる。 その光とはまた別に、血を失って冷えていくからだに触れている熱を感じる。 どうやら、誰かに抱きかかえられているみたい。 やさしくて、こわかった――こわかったけれど、それでも確かにやさしかった、母さんと同じぬくもり。 おなかの中にいたときから知っている、なつかしいその温度に、さっきまで満ちていた恐怖や痛みがとけていく。 「気がついたかっ!?」 まぶたをゆっくりと開く。黒いひとみが心配そうにのぞきこんでいるのが見える。 そして一緒に、頭にあるにはそぐわない白い布が目に入って、思わず口もとがゆるんだ。 自分のものじゃなくなってしまったみたいに感覚のない腕をそっと伸ばして、それをはずす。 「もう……おとななんでしょ……?」 動かしづらくなった口で、いたずらっぽく言ってみた。 いい子じゃなくても、大きな手は優しく添えられたままで、あったかかった。 そのことにほっとするけれど、ふわふわした意識はまただんだんと沈みこんでいこうとしている。 たぶんもうすぐ、からだのどこも動かせなくなってしまうんだろう。 だから、まっくろな影におおわれてしまわないうちに、伝えたいと思う。 「……マナ……一番最初の……顔がいっぱいだったところで……みんなの前で話してた…………僕の……妹なんだ……」 声がうまく出せなくて、途切れ途切れのちいさなものになってしまうけれど、 耳をこっちに近づけてくれていることを感じて、安心してつづける。 まだ、謝らなくちゃと思ってるし、そんな簡単に、許されることじゃないんだろうけど。 でも、今ならわかる。 マナにとって一番必要なものは、よくわからない神さまの愛だとか、ごめんなんて言葉だとか、 そんなものじゃきっとなくて―― 「おねがい……マナのことを…………だきしめて……あげて……  このあたたかさを…………マナにも……分けてほしいんだ…………」 うなずいてもらえたのが、かすんできた景色の中でもわかって、安堵する。 最後に、首をすこしうごかして、上を向く。 夜明けはまだこないけれど、星がのこっている空に祈って、重くなったまぶたを閉じた。 【セエレ@ドラッグオンドラグーン 死亡】 ◆◆ ストレイボウへと向かう予定だったザ・ヒーローの刃が、ゴーレムの固い右腕を肩から切り落とす。 崩れ落下していくその腕を構成していた煉瓦が、土煙を巻き起こす。 その晴れた先、ゴーレムの傍らにはセエレに支給されていたアームターミナルを身に着けたパパスの姿があった。 「聞かせてほしい。なぜおぬしは、こんなことを……?」 先程までセエレを抱きかかえていたパパスの手は今、怒りに打ち震えている。 しかしその感情にじっと耐えながら、静かに、厳かに、目の前の少年に尋ねた。 ザ・ヒーローはその問いかけに剣を降ろして、パパスの装着している機械へと視線を向けながら、訥々と語り始めた。 「昔……僕はそのCOMPを使って、悪魔を仲魔にして共に戦っていたりしてたんだ。  それを手に入れてからは、息つく暇もなかった。  たった一人の肉親だった母は悪魔に食い殺されて、  僕がいた東京は神の手の者によってI.C.B.Mが落とされて、そのあとも海の底に沈められて、  大切な人たちや、友はみんな――」 穏やかで、どこか平板ささえ感じさせる声。 それがいったん途切れるも、ほどなくして再開される。 「前々から少しずつ増えていた悪魔がどんどん街に溢れてくるのに従って、僕の日常は崩れていった。  人々の祈りは神や悪魔によってたやすく摘み取られて、人類の未来はそれらの手に渡りかけた。  ……仲魔になってくれた悪魔はみんな、力になってくれたよ。  でも今となってはもう、彼らも含めた悪魔のことが憎くて憎くて堪らない」 数時間前の邂逅の際に見た、人の形をした醜い獣の姿をザ・ヒーローは思い出して、薄く笑った。 しかしそれも瞬時に消え、人間の潜在能力が引き出された筋力をもってして、再び天空の剣を持ち上げる。 「そんな風に人を大事に思えるんだったら尚更、こんな殺し合いに従うことなんかは――」 魔法使いの声には頷かずに、ザ・ヒーローは言葉を続けるため口を開く。 血にまみれて磨耗していった心、されど同時に磨き上げられることとなった意志は固く、揺らがない。 「そうだからこそ、守りたいものがあるんだ。  ……この殺し合いの最後の一人は、神の力を得るんだったよね。  だから――僕は殺す。君たちが、君たちであるうちにも」 すくった皿に残ったものをこぼれ落とさぬように。 人のどんな選択も受け入れ、世界の天秤は振れるとしても。 彼自身の天秤は、もう揺れることはない。 ◆◆ パパスには、先程看取った子供とちょうど同じくらいの年頃の子があった。 魔界に連れ去られた妻を救うための過酷な旅にも、幼いながらに懸命についてくることができて。 襲いかかるモンスターに果敢に立ち向かっていったり、子供たちだけでお化け退治を行なったり、 日に日に逞しく育っていく一人息子の姿に幸せを噛みしめながら、日々を過ごしていた。 とはいえまだまだ6つばかりの子供。 甘えたくとも母は近くになく、旅の中にあっては父も十分には構ってやれず。 元気に振る舞ってはいても心の奥では淋しい思いをしているのだろう、 そろそろ村に腰を落ち着けて、これからは思う存分遊んでやろうと、そう考えていた矢先のことだったのだ。 人質とされてしまった息子の眼の前で、パパスがゲマの炎に骨一つ残さず焼かれたのは。 そうであったがために、この殺し合いの始めの無残な親子の死にはなおのこと心を痛めた。 アイテムによる思考力の低下があったとはいえ、原因となった者――勘違いではあったが――の話に 耳を傾けることもなく、思わず激昂してしまうほどに。 ただ先立つこととなってしまったが、我が息子――リュカならば、きっと立派に成長してくれるだろうと信じていた。 いつの日か自分の遺志を継ぎ、伝説の勇者を見つけだし、妻――リュカにとっては母――を、救い出してくれると。 しかし、そうではあっても。いや、そうであるからこそか。 息子の行く末について、空の上から祈り続けずにはいられなかった。 信じて託しはしたが、自分の願いが息子を縛ることになるのならば。 幼き日より見せていた強さと優しさ故に、重荷となっても捨て去ることができずに、苦しむことになるのならそれは―― ◇ 「だから――僕は殺す。君たちが、君たちであるうちにも」 血なまぐさい内容とは裏腹な、ひどく透き通った優しい声が森に響いた。 忘れもしない、特徴的な意匠の剣を構えた少年の目は、微塵も揺らぐことなくまっすぐ前を見据えている。 パパスは複雑な思いでその視線を受け止めて、ゆっくりと言葉を発した。 「……ならば私は全力で止めねばなるまい。これ以上、お前が修羅の道を歩むというのならば」 親を亡くしたという少年の、その瞳の奥に宿る黒々とした憎悪を見つめながら、静かにそう宣言した。 【エリアC-5/森林地帯/1日目/黎明】 【ザ・ヒーロー@真・女神転生Ⅰ】 [状態]:疲労(小) [装備]:天空の剣@DQ5 [道具]:基本支給品1式、キメラの翼4枚@DQ5 [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、神と契約する 1:目の前の二人(ストレイボウ、パパス)を殺す [参戦時期]:ニュートラルルートエンディング後 [備考] 大きな力について、意識すればいくらか感知することが可能です。 ストレイボウのオディオの力を認識しました。 【ストレイボウ@LIVE A LIVE】 [状態]:疲労(中) [道具]:基本支給品1式、不明支給品1~3 [思考・状況] 基本行動方針:神に従わない、オルステッドの引き立て役だった過去に決別する 1:少年(ザ・ヒーロー)に対処 2:情報を求め魔王山へ向かう 3:偽魔王と闘った部屋まで行けば、また力が戻るのではないかと期待 [参戦時期]:魔王山にて岩盤を落としオルステッドたちと別れた以降 [備考] ゲーム中、レベルアップで覚えさせる事が出来る魔法は全て使えますがオディオとしての力は制限されています。 地図がおおよそ正しいことを把握しました、また魔王山が自分の知る魔王山であると認識しました。 【パパス@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】 [状態]:健康、男らしさ減少 [装備]:ウルミン@ベルセルク、ハイレグアーマー@MM2R、アームターミナルE(仲間:ゴーレム@DQ5(右腕欠損)) [道具]:基本支給品*2(松明1つ消費)、不明支給品0~2、ワタナベのパンツ@LIVE A LIVE、元々着ていた服 [思考・状況] 基本行動方針:道を踏み外した子を正しい方へ導く 1:少年(ザ・ヒーロー)を止める 2:マナのもとに行き、抱きしめる [参戦時期]:死亡後、エビルマウンテンで吹っ切れたリュカに会うよりも前 |047:[[heat beat]]|投下順|049:[[やってしまいましたなあ]]| |042:[[超融合]]|時系列順|054:[[愛を取り戻せ]]| |009:[[森林に変態の影が/Perverts in the Dungeon]]|セエレ|&color(red){GAME OVER}| |009:[[森林に変態の影が/Perverts in the Dungeon]]|パパス|054:[[愛を取り戻せ]]| |003:[[世紀末救 世/星 主伝説]]|ザ・ヒーロー|054:[[愛を取り戻せ]]| |012:[[東の山に……]]|ストレイボウ|054:[[愛を取り戻せ]]|

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