黒雲は静寂を破る

 城内部で行われた、『もうひとつのデュエル』。
 新谷遊璃と御堂美玲――そしてその影に見え隠れするのは――



「使わせて欲しい、って……どういうこと?」

 美玲は遊璃に聞き返した。さっきから遊璃はどこか様子がおかしい。寝ぼけているのかな、と最初は思ったがそれも違うように見えた。

「どうって……そのままの意味。私、『タイムルーラー』を使いたいの」

 さも当然と言わんばかり。眼は空ろで口調にはどこか傲慢さがあって……まるで『少しだけ別人になった』ようだった。

「ね、いいでしょ? 美玲と私でデッキを交換する。『サイレント』は強いデッキだよ」
「そ、そうだけど……」

 美玲は直感で、『タイムルーラー』を渡すのは彼女にとってよくないと感じ取っていた。
 相手を納得させるように、表面上の理由を語る。

「ほら、その、『サイレント』は桐谷くんが遊璃ちゃんに貸してるものでしょ? やっぱり、勝手にやりとりするのはダメだよ」
「……どうしても、ダメ?」

 遊璃の懇願するような眼に思わず決心が揺れる。美玲自身そう気が強いほうでもなく、強く頼まれたら断りたくない性分だ。
 しかし――遊璃の眼に懇願の他に見えた――『策略』の色。
 それに気付いたとき、美玲はぞっとした。
 ――やっぱりダメだ、断らなきゃ――

「……うん、ダメ」
「……そう」

 遊璃は残念そうに呟き、一見諦めたかのように見えた。
 ――しかし。

「だったら」

 彼女は腕のD・パッドを持ち上げ、言った。

「デュエルして決めよう」

 その宣言と同時に、美玲のD・パッドもデュエルモードになった。

「えっ!? そ、そんな……!」

 まさか味方であるはずの遊璃からデュエルを申し込まれるとは、夢にも思っていなかった。
 美玲はD・パッドを操作したが、どうやってもデュエルモードのままだ。

「ごめんね、美玲。だけど感じるんだ……『タイムルーラー』から、『引力』を。手に入れなきゃいけないっていう『運命の感触』を」
「な、何を言ってるの……?」
「奪い取ってでも、支配者をこの手に置く」
「遊璃ちゃん、こんなのおかしいよ。私達、仲間でしょ?」

 いくら美玲が説得しても、遊璃の意思は揺るがず、また始まったデュエルは止められない。

「……行くよ、美玲」
「うう……!」

 もはや始めるしかない。『仲間割れ』を。

「デュエル!」



「こうもうまくいくとはな」

 デッキの中で、『黒』は考えていた。

「あの小娘の持つ闇……余程深いものだったらしい。ソウル以上に精神操作をかけやすかったぞ……ククク」

 遊璃はタイムルーラーを欲し、美玲はそこに異様な雰囲気を感じ取る。
 全て、計算通り。

「あとは小娘を多少追い詰めればいい……デッキ内容は……これくらいにしておくか」

 遊璃も美玲も、精神とデッキにおいて、既に手の平の上にあった。



「私ターンから……ド、ドロー」LP4000

 先行は美玲。
 ――本当はデュエルしたくないけど、やるなら全力でやらないと――

「モンスターを1体伏せて、さらに永続魔法《時を刻む巨針》発動!」

 美玲の背後に、巨大な置時計が現れた。長針も短針も文字盤もこれといった特徴はなかったが、いずれも動いていなかった。

「このターンは終了。だけどエンドフェイズで《時を刻む巨針》の効果発動……タイムカウンターを、『増やす』」TC(タイムカウンター)0→1

 ガコンと音を立てて、時計の長針が動いた。同時に、美玲の頭上に文字盤のないかけ時計が出現し、『1』の文字だけが浮かび上がった。
 タイムカウンターは時のエネルギー。カードに乗せるのではなく、デュエルそのものに発生する。

「ターンエンド」
「私のターン、ドロー」LP4000

 遊璃が動き出す。
 美玲は一度、今遊璃が持つ『サイレント』デッキの戦いぶりを見ている。敗北こそしたが、かなり強いデッキだと認識していた。

「《サイレント・レディ》召喚」ATK100 ☆1

 白い肌をした女性が現れる。

「その召喚時効果で、手札から《サイレント・ガール》特殊召喚」ATK0 ☆1

 似た雰囲気を持った少女がその隣に並ぶ。

「《ガール》の特殊召喚時の効果、レベルを好きな数字に変更、私はレベル5に!」☆1→☆5

 そして《レディ》は……チューナー。

「レベル5《ガール》に、レベル1《レディ》をチューニング、合計レベル6! 来て!」

 力強い躍動と共に、翼は羽ばたく。

「《サイレント・ペガサス》シンクロ召喚!」ATK2400 ☆6

 現れたのは、白く輝く天馬。筋肉は逞しく、翼は麗しい。

「さらに墓地に送られた《ガール》の効果で、デッキから次の《ガール》をサーチして手札に加えて、バトルフェイズに突入!」

 天馬が動き出す。

「バトル、伏せモンスターに攻撃!」

 翼を動かし天を駆けるも、その身に包むのは静寂。音も立てずにタックルをかけ、伏せモンスターを粉砕した。
 破壊されたのは、《シャインエンジェル》。

「《ペガサス》の効果、効果モンスターを戦闘で破壊したからカードを1枚ドロー!」
「チェーンして《シャインエンジェル》の効果発動、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚するよ!」

 互いに引かない両者。アドバンテージの差は未だ0。

「これかな? デッキから、《タイマー・ハンター》特殊召喚!」ATK1500 ☆4

 柱時計の体で長剣を持った、異形の戦士が現れる。

「えーっと、《タイマー・ハンター》は相手に戦闘ダメージを与えられないけど、タイムカウンターの数×500ポイント攻撃力を上げるよ」ATK1500→2000

 そしてこのターンのエンドフェイズ時に《時を刻む巨針》によりタイムカウンターはひとつ増え、攻撃力は2500となる。つまり《サイレント・ペガサス》を超え、戦闘破壊が可能となる。
 しかし遊璃もそれを黙って見逃さなかった。

「メインフェイズ2、手札の《サイレント・フェアリー》の効果発動」

 宣言と同時に、白い小さな妖精が時計の狩人の周囲を飛び回り、白い光の輪で包んだ。

「手札から相手効果モンスターに装備、装備モンスターの攻撃力はフィールドの効果モンスター×200ポイントダウンする」ATK2000→1600
「う……」

 これで攻撃力は上がっても2100。《サイレント・ペガサス》に届くものではなくなった。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「エンドフェイズにタイムカウンターはひとつ増えるよ」TC1→2

 時計盤に『2』の文字が表示され、同時に狩人の攻撃力が上昇する(ATK1600→2100)。

「私のターン、ドロー!」LP4000

 状況は悪いが、まだまだ打開はできると美玲は思っていた。
 手札のモンスターよく確認してから、使う。

「えと、《タイマー・チェンジャー》召喚、効果発動。手札の『タイマー』モンスターともう1枚を捨てて2枚ドロー!」

 効果発動はタイムカウンターの存在が条件だが、その分大規模な手札交換ができる。さらに引いたカードに『タイマー』が存在する場合、手札交換は加速する。今がそれだった。

「さらに効果発動、引いたカードの中に『タイマー』モンスターが存在する場合、それと《チェンジャー》自身を墓地に送って、さらに2枚ドロー!」

 引いたカードをさらに確認する。ややこしいカードが多い中、1つだけ短いテキストのカードがある。事前に確認していた、このデッキのキーカードだ。だが今は使えない。

「カードを2枚伏せて《ハンター》を守備表示に変更(ATK2100→DFK1500)、エンドフェイズにタイムカウンターを増やして、ターンエンド!」TC2→3

 布石は上々。たとえ劣勢でも、それを一撃で吹き飛ばすほどのパワーがこのデッキにはあると、美玲は信じていた。
 遊璃にターンが回る。

「私のターン、ドロー」LP4000

 相変わらず遊璃はどこか不気味な雰囲気を持っている。しかし具体的にどこがとはさっぱりわからない。自分の錯覚にも思える。

「手札から《サイレント・コープス》召喚、効果発動」ATK1600 ☆4

 白い肌と衣を持ち、醜いながらもどこか麗しいゾンビが現れ唸り声を上げる。すると地面が盛り上がり、墓地のモンスターが静寂を破り復活する。

「墓地から《サイレント・レディ》特殊召喚(ATK100 ☆1)、さらにその効果で手札から《サイレント・ラビット》特殊召喚!」ATK1300 ☆4

 ペガサス、ゾンビ、女性、兎と3体のモンスターが並び、さらに展開は続く。

「《ラビット》の効果、特殊召喚時にデッキからもう一体《サイレント・ラビット》特殊召喚!」ATK1300 ☆4

 これで遊璃のフィールドにはモンスターが4体。まだまだ止まらない。

「さらに罠カード《静寂の戒め》、フィールドに『サイレント』が2体以上いる場合、効果モンスターを1体破壊する! 《タイマー・ハンター》破壊!」

 天から光が降り注ぎ、静寂を守らぬものを粛清する。また装備モンスターが破壊されたことにより、《サイレント・フェアリー》は自身の効果で遊璃の手札に戻った。

「う!」

 これで壁モンスターはいない。一応伏せカードは3枚あるが、敵モンスターは多数いるというのにこれはキツイ。
 さらに来る。静寂を司る、聖竜が。

「《ラビット》《コープス》《レディ》をシンクロ! 合計レベル、9!」

 静寂を纏い静寂を従え、静寂を与えに降臨する。

「《サイレント・トライ・ドラゴン》!」ATK2800 ☆9

 三叉の尾を持つ白き竜が、美玲を見下ろす。
 前のデュエルで、美玲はそのモンスターを知っている。だから、すぐに対処した。

「カウンター罠《神の警告》!」LP4000→2000

 突如唸った雷を受け、断末魔を上げながら竜は砕け散った。

「《サイレント・トライ・ドラゴン》が……! だけどこれであなたのライフは2000、決めさせて貰うよ!」

 遊璃はバトルフェイズに突入した。

「バトル、《サイレント・ペガサス》でダイレクトアタック!」

 天馬が敵を討たんと駆け出す。これを許せば美玲は敗北する。
 もちろん止める。

「罠カード《時空のウォール》!」

 空間が捻じ曲がり、天馬の突撃を止めた。

「攻撃を無効にし、その攻撃力500につき1つタイムカウンターを増やす!」TC3→7

 時計盤の文字が次々に表示される。これで時は来た。あとはこのターンを耐えればいい。
 とりあえず耐えるべきは次の攻撃。

「《ラビット》でダイレクトアタック!」

 小柄な兎が駆け出し、美玲に飛び掛った。鋭い前歯が腕に刺さる。

「うっ!」LP2000→700

 ライフ3桁は中々厳しいが、それでも耐えればどうとでもなる。
 幸い、遊璃はそのままバトルフェイズを終えた。

「このままターンエンド!」TC7→8
「よーし、私のターン、ドロー!」LP700

 用意は整った。
 いざ、発動!

「魔法カード《時を支配する能力》発動! タイムカウンターを5つ取り除いて、デッキから『タイムルーラー』1体を特殊召喚する!」TC8→3

 時は来た。支配者は降臨する。

「私はこれを選ぶ、《タイムルーラー DL・ROW(ディーエル・ロウ)》!」ATK3000 ☆8

 遊璃の目の前に現れたのは、金髪の剣士。
 筋肉質な体を金の鎧で包む。鎧は腰の部分の緑色とインナーの黒が全体を引き締め、きらびやかながらも『力』を感じさせる。手にした長剣はきらりと光り、その柄と篭手の甲に見える時計のマークは自らが持つ力の象徴か。

「これが、タイムルーラー……!」

 やはり感じる。不思議な引力を。
 ――だけどそれが効果モンスターである限り、『サイレント』の敵ではない――
 そう思っていた。

「行くよ、バトルフェイズ!」

 支配者の効果が、発動するまでは。

「効果発動!」

 支配者が、手にした長剣を振り上げた瞬間。
 周囲の空間の色が反転し、また元に戻った。

「こ、これは……」
「すごい!」

 遊璃も美玲もその派手な演出に驚く。しかし派手さの後に待っていたのは、静寂。
 支配者を除く、フィールドの全てが止まっていた。天馬も兎も、呼吸すらしていない。

「えーと、これが《DL・ROW》の……たぶん『時を止める能力』! 自分以外の全てのカードの効果も発動も、無効にする!」
「えっ!?」

 遊璃は完全に裏をかかれた。攻撃は手札から発動する《サイレント・ガードナー》で、効果は《ペガサス》が持つ耐性で防ぐつもりだった。
 しかし両方動かない。時は止まっているのだ。

「《DL・ROW》で攻撃!」

 止まった世界を1人駆け、敵へと迫る。そして長剣を振り降ろして天馬を真っ二つに切り裂いた。しかし両断されたまま、動かない。
 くるりと支配者はそれに背を向け歩き出す。一歩、二歩、三歩――その時。
 天馬は破壊され、その余波が遊璃に襲い掛かった。

「ううっ!」LP4000→3400
「よし! このまま、ターンエンドするよ!」TC3→4

 遊璃はD・パッドを操作し、《DL・ROW》の能力を調べた。どうやら自分バトル時効果以外に、戦闘以外でフィールドを離れるときタイムカウンターを取り除くことでフィールドに留まる効果を持っている。

「私のターン、ドロー!」LP3400

 カードを引いてもまだ、対抗策は見当たらない。

「うーん……《ラビット》を守備表示にしてモンスターを1体伏せて(ATK1300→DFK650)、ターンエンド!」TC4→5
「私のターン、ドロー!」LP700

 美玲は引いたカードを見て、にっと笑う。何か嫌な予感を、遊璃は感じ取っていた。

「魔法カード《時を支配する能力》発動! タイムカウンターを5個取り除いて、さらに支配者を呼び出す!」TC5→0
「また!?」

 嫌な予感は的中、状況は悪化していく。

「今度はこれ! 《タイムルーラー QUEEN・OF・DEAD(クイーン・オブ・デッド)》!」ATK2500 ☆8

 フィールドに出現したのは宝玉で彩られた真紅の玉座。そこにふわりと腰を降ろしたのは、女王。赤と黒の妖しくも美しいドレスに身を包んで膝の黒猫をなで、真っ黒な瞳で他を見下ろす。

「効果発動! ターンに一度、フィールドのカードを1枚破壊……伏せモンスターを、破壊!」

 女王が気だるげに右手を上げ、パチンと指を鳴らす。その瞬間伏せモンスター――《サイレント・スライム》が爆発し、破壊された。

「さらに手札から《タイマー・ハンター》を召喚!」ATK1500

 遊璃のフィールドには守備表示の《ラビット》1体、一方美玲は『剣士』『女王』『狩人』の3体。伏せカードはない。

「バトルフェイズ! まず《タイマー・ハンター》で《サイレント・ラビット》に攻撃!」

 狩人は獲物の兎目掛けて駆け出し、手にした剣を振り上げる。
 これは止める。

「手札の《サイレント・ガードナー》の効果発動! 自身を墓地に捨て、『サイレント』の戦闘破壊を防ぐ!」

 振り下ろされた剣は兎の手前で音もなく止められる。

「まだまだ! 《QUEEN・OF・DEAD》で《ラビット》に再攻撃!」

 すっと女王の右手が上がる。そして手刀を斬るように、それを振り下ろした。その瞬間《ラビット》は爆発し、破壊される。

「うぅ!」
「さらに《DL・ROW》でダイレクトアタック!」

 今度は時を止めずに(『時を止める能力』はバトルフェイズ開始時に使うのが条件)《DL・ROW》が駆け出して遊璃に向かって剣を振るった。
 ――誰も知る由もない。その剣に篭もった『黒』の力。傷口から遊璃に進入する力を。

「うっ!?」LP3400→400

 長剣が遊璃の体を切りつける。遊璃は思わず身を屈めた。
 ――痛い!――
 ソリッドビジョンのはずなのに、体には激痛が走る。今まで味わったことないほどの痛み。もうそれを通り越し、『恐怖』に至るほどの痛み。
 苦しみながら支配者の顔が見えた。笑っている。その笑みにぞっとするほどの『恐怖』を覚える。
 ――怖い……怖い怖い怖い、怖い!――
 体が震え、歯の根がかちかちと鳴る。

「ゆ、遊璃ちゃん? 大丈夫?」

 美玲の声も届かない。支えるもののないこの世界で、恐怖は際限なく遊璃の体を巡る。しかし。
 ――そうだ――
 その時、思い出した。『恐怖』から逃れる術を。自分が頼れる支えを。私を守ってくれる、友達の名前を。
 その名は――

「黒雲……!」

 助けを求め、呟く。
 その時。

『よく我が名を呼んでくれた』

 声が聞こえる。自分の中から。

『さあ、友達になろう。君を恐怖から救ってやろう……』
「……うん……」

 遊璃は静かに眼を閉じた。それと同時に、『新谷遊璃』という人格は眠りに着く。代わって目覚めるのは、『黒』……『黒雲』。



「遊璃ちゃん……?」

 こわごわと美玲が声をかける。その声はもう、新谷遊璃には届かない。

「……ククク……」

 遊璃は眼を開いた。
 その瞳は、いや眼球全体は真っ黒の闇に染まっている。どう見ても通常の状態ではない。

「掴んだぞ……『ボディ』。やはりたいして『馴染む』感じはせんが、贅沢をいえる状況ではないか……」
「ゆ、遊璃ちゃん? 何言ってるの?」

 美玲の目の前にいる人物は遊璃のはず。しかし今、美玲は『違う』という感じを持っていた。雰囲気、喋り方、声の感じ――何よりも自分と『同類』の気配、即ち『精霊の気配』を感じ取っていたのだ。しかしはっきりとした確証はつかめない。雲を掴むように、実感がない。

「貴様に説明して何か私にとくがあるのか? ちゃんとデュエルを続けろ」
「う、うん……」

 そう、今は何があってもデュエルを続けるしかない。それがこの世界のルールだ。

「このまま、ターンを終了するよ」TC0→1 《ハンター》ATK1500→2000
「クク……私のターン、ドロー!」LP400

 このスタンバイフェイズ時、カード効果が発動する。

「墓地に存在する《サイレント・スライム》の効果発動。相手フィールドに効果モンスターが存在する場合、墓地より蘇る」DFK2000 ☆4

 白いスライムがべちゃりとフィールドに湧き上がる。
 そしてメインフェイズ1。美玲は《QUEEN・OF・DEAD》の効果を発動させた。

「《QUEEN・OF・DEAD》の効果発動! 自分のターンの同じフェイズをスキップすることを条件に、このフェイズ、スキップさせてもらう!」

 女王の膝の黒猫が駆け出して、フィールドの真ん中に来たかと思うと――爆発した。
 今度は『時を爆破する能力』。時間を爆発させ、フェイズをなくする。

「……フン」

 遊璃――と呼んでいいのかもわからない彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らし、バトルフェイズをスキップした。
 メインフェイズ2。

「手札から《サイレント・ハーピィ》通常召喚(ATK1000 ☆3)。効果により貴様のフィールドの《QUEEN・OF・DEAD》を手札に戻す」

 鳥人の放った旋風により、死の女王は煽られ手札に戻された。女王は破壊時に死の淵より復活できるのだが、バウンスではどうしようもない。

「うっ!」
「ククク、さらにレベル4《スライム》にレベル3《ハーピィ》をチューニング!」

 天馬を越え、死を越えた存在が降臨する。

「来たれ不死鳥! 静寂なる炎、穢れを焼き払う紅蓮となれ! 《サイレント・フェニックス》シンクロ召喚!」ATK2000

 白い炎を持った不死鳥が、フィールドに舞い降りた。
 攻撃力は《DL・ROW》の敵ではないが……?

「このまま、ターンを終えるとしよう」TC1→2 《ハンター》ATK2000→2500
「わ、私のターン、ドロー!」LP700

 たぶん不死鳥は自己再生能力を持っている。しかし関係ない。既に遊璃のライフは400、そちらを狙えば止めをさせる。そもそも今、爆発の余波により美玲のメインフェイズはスキップされる。その上でバトルフェイズ中は《DL・ROW》により、無敵なのだ。
 美玲はバトルフェイズに突入し、宣言した。

「《DL・ROW》の効果発動!」

 剣を持つ支配者はそれを掲げ、自らの力を行使しようとする。
 ――しかし。

「チェーン、《サイレント・フェニックス》の効果発動!」
「えっ?」

 静寂纏う不死鳥が支配者に突っ込む。美玲の動揺を他所に白い炎は《DL・ROW》を覆いつくし、共に消え去った。

「《サイレント・フェニックス》は相手の効果発動を自身をリリースし無効にする。自身のみエンドフェイズに蘇るがな」
「く!」

 これで2体の支配者は共に消え去った。残ったのは相手にダメージを与えられない《タイマー・ハンター》のみ。
 やむなく美玲はメインフェイズ2に移行する。

「このまま、ターンエンド」TC2→3 《ハンター》ATK2500→3000
「このエンドフェイズ時、不死鳥は再び墓地より舞い戻る」ATK2000

 そしてターンが回る。

「私のターン、ドロー」

 遊璃の体の『誰か』はカードを引き、言った。

「さて、終わらせてやろう」

 『えっ』と美玲が漏らすのと同時に、動き出した。

「手札より《サイレント・ハニー》召喚! レベル7《サイレント・フェニックス》にレベル1《サイレント・ハニー》をチューニング、合計レベル8!」

 来るは悪魔、『精神領域の悪魔』と同等の存在、『静寂領域の悪魔』。

「シンクロ召喚、《サイレント・スフィア・デーモン》!」ATK2800 ☆8

 4枚羽の白い悪魔。瞳孔のない眼が敵を睨む。しかしその攻撃力は、眼前の支配者に及ばない。
 だがそのまま、デュエルは最後のバトルフェイズへと突入する。

「行くぞ、《サイレント・スフィア・デーモン》で《DL・ROW》に攻撃!」

 悪魔の腕が光を放ちつつ、敵へと突っ込む。

「効果発動、戦闘を行う相手の攻撃力の半分を、自らの力とする!」ATK2800→4300

 悪魔の腕と爪が、黄金に輝いた。
 そして遊璃の中の『黒』は知る。カードに篭もる闇から感じ取る。そのカードの使い手や、攻撃の名を――

「終わりだ! 【カース・エフェクト・インパクト】ッ!」

 悪魔の爪は支配者ごと、美玲を切り裂いた。

「ど、どうして」LP700→0

 デュエルに、終止符は打たれた。




{g-4、城内の2階、3時25分}
 【新谷 遊璃@遊戯王Symphonic】
 [時間軸]本編、大会前夜
 [状態]黒雲に完全に乗っ取られ、黒遊璃に。
 [デッキ]サイレント@与 優希(遊戯王ASS)
 [思考・状況]
 1:これで良し。次はソウルを探すとしよう
 2:なんならデュエルを続け配下を作るか
 [備考]
  • 美玲に勝利しました。
  • 黒雲に意識を乗っ取られてしまい、現在は黒遊璃となっています。
  • 黒雲は自身(=『タイムルーラー』デッキ)を自由に作り変えることができます


 {g-4、城内の2階、3時25分}
 【御堂 美玲@遊戯王soul link】
 [時間軸]本編30話
 [状態]意気消沈
 [デッキ]なし
 [思考・状況]
 1・本当に……遊璃ちゃん?
 2・誰、この人?
 3・こんなときに暁さんはどこへ?
 [備考]
 デッキとエントリーカードを失いました

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最終更新:2012年06月01日 16:58