開幕─優しい紅鬼(アカオニ)─


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彼は、いわゆる天才だった。



小さな頃から、学力では彼に叶う同年代は居なかったし、下手をすれば彼が小学3年の時点で、中学3年生よりも頭が良かった程だった。

それは学力という意味でもそうだが、彼が得意としていたのは、物事の筋道を素早く理解し、それに対して一番良い選択を出来る……いわゆる、頭の回転という意味合いの方が強かった。



そんな彼だからこそ……このイベントの意味を理解し、こういった行動を取るのは、ある意味必然だったのかも知れない。



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見渡す限りの、青青青。
いや、色合い的には緑の方が正しいが、これを色で例えるなら緑より青の方が正しい気がした。

そんな青の中に、一人だけ人が立っている。
肩口までの、男性にしては長い髪が、風に吹かれてなびいている。

これだけならまるで絵になりそうな程の優雅さを持っているのだが、男性には余り似合わない様な真っ赤なカチューシャを付けた頭を、面倒そうにボリボリと掻き毟る姿は、優雅という言葉からはほど遠い。
どちらかと言えば、背の高さも相まって草原に伸びる一本の木の様に感じてしまう。

「誰が木の役だ」

……そう、この青年の通称は、木の役(本人は否定)。
また、この世界にも居るとある人物に、ツッコミ王子と言う不名誉なあだ名を付けられた彼の名前は、色崎 紅規。

彼の世界で一番と言っても良い頭脳と、一番と言っても良い程の苦労を背負う、木の役である。

「だから誰が木の役だ」



紅規はゆっくり息を吐き出すと、再び髪をボリボリと掻き毟る。

彼の上空には、馬鹿らしくなる位の星空が広がっていた。

(……これが本物の空なら、少しは気分も晴れるんだろうけどな)

しかし、今の彼の上に広がるのは、バーチャルの星空だ。
空だけじゃない、彼の髪を揺らす風も、一面に広がる草も、風が草を揺らしてかさかさと音を立てる様子も、全て彼の脳が見ている幻に過ぎない。

現実の彼は、彼の大事な友人と一緒に、機械の前で眠っているのだから。



最初は、ただの興味だった。
異次元のデュエリストとデュエルが出来る!という謳い文句に、大事な友人の一人ともう一人の友人の持つ精霊が惹かれたのがきっかけで。
学校の帰りに皆でプレイしてみようと、やり始めたのが運の尽き。

訳が判らないイベントに巻き込まれ、その上ログアウトが出来ないときた。



……これが、ただのイベントなら、彼も友人と共にゲームを楽しんでいただろう。

……そう、ただのイベントなら、だ。



(……ただのイベントなら、『ログアウト出来ない』なんて事をするはずがねぇ。 そんな事をすればトラブルになるのは間違いないんだからな。 となると、考えられるのは……基地外が起こしたサイバーテロ、って事ならまだ良いかもな)



しかし、天才と謳われる紅規の頭は、イベントと言う事を否定する。
変わりに浮かび上がってくるのは、サイバーテロ、国家の陰謀、某国の制裁、等々……どれも危険だが、眉唾な物ばかり。

何か大きな物が関わっているのは判るが、その全貌が見えてこない。



……けどまぁ、このイベントの事なんて、色崎紅規には『どうでもいい』のだが。



(……問題は、イベントのクリア条件。もし、最後の一人が決まってしまえば、負けたプレイヤー達は一体どうなる? そのまま元の世界に帰れるって保証は何処にもない。 もしかしたら、全員このまま、バーチャルリアリティーの世界に捕われたままって事もあり得る……)



色崎紅規にとって、『どうでも良くない』事はただ一つ。



(……それは、駄目だ。 俺や弥琴ならまだしも、郷が巻き込まれてるのは絶対に駄目だ!)



彼の想い人の事、だけである。



(……正直、全員が帰れるのが一番いい。 けど、そんなの、このバーチャルリアリティーの運営側が、バーチャルリアリティーからの脱出手段を用意している訳がねぇ。 外部からの救出を待つしかねぇが……外部から何かされた瞬間に、運営側がこの世界を放棄……消去してしまう可能性もあるから、外部の人間は迂濶に手を出せない。 なら、中に居る人間でどうにかするしかねぇ……)

彼の思考の中には、彼の想い人だけである。
暗く冷たい彼の人生に、暖かさと光を与えてくれたのは、彼の友人……特に、想い人の存在が大きかった。

(……少なくとも、最後の一人になれば……運営側も、無下に扱いはしないだろう。 もし基地外による犯行なら、ゲームの勝者を尚更ぞんざいに扱うはずがない。 ……少なくとも、来るかどうかも判らない助けを待つよりかは、ずっと良い)



だから、彼は考える。
自分の一番の幸せの為に。
自分自身を犠牲にしてでも、守りたい人の為に。
例えその意志が、守りたい人が絶対に望まないであろう事だとしても、それでも彼は、彼女の為に、行動を起こすのだ。



(……いいぜ、運営様よぉ……お前等がデュエルを望むなら、お望み通りデュエルしてやるよ。 それでもし、郷に何かしやがったら……その時は、覚悟しやがれ)



Dパッドと呼ばれる、デュエルディスクの扱いにも慣れてきた。
自分自身に支給されたデッキにも、既に目を通してある。
強いデッキだ、少なくとも、自分の元のデッキである『カエル』よりかは、ずっと自分に合っている。
回した事は無いが、そのデッキの回し方は理解している。

やれる、戦える、勝てる。



……心の中で、少しだけ自分の元のデッキの事を思い出す。
幼い頃から使い続けていた、自分の分身であるデッキ。
もう二度と、あのデッキしか使わないと誓ったはずの、その誓いを……今、破る。
罪悪感が無い訳じゃない。 けど、誓いを破って郷が守れるなら、安い物だ。



(……まずは、弥琴と郷を探しつつ、見つけた奴を片っ端から倒して行く。 例え見つけた時に弥琴と郷が負けてたとしても、俺が勝ってるならそれでいい。 俺が弥琴にデッキを渡して、弥琴がわざと俺に勝ち、デッキを返して貰ってから俺が誰かのエントリーカードを奪う。 最終的に俺と弥琴が生き残れば……俺と弥琴の二人が、郷とデュエルしてわざと負ければいい。 郷さえ生き残れば……それでいい)



一瞬だけ、彼の心に、涙を流す想い人の表情が浮かぶが、それを無理矢理心の底に沈ませる。

(……これを知れば、郷は納得しないだろうな。 けど大丈夫だ、お前はただ、『ゲームで勝てばいい』……何も知らずに、ゲームを楽しんでいればいい……そうして、元の世界に帰ってくれ)





青年は、動き初める。
目指す場所は、視線の先。
先程、一瞬だが、視線の先にある光が動いた気がしたのだ。
恐らく、参加者のDパッドの光だろう、暗い夜な上に、見晴らしのいい草原だからこそ見つける事が出来た光だ。

未だに光を放つそれに向けて、青年は歩き続ける。







……優しい青年は、青年を優しくしてくれた少女の為に、修羅になる道を選んだ。
恐らく、少女の必死の説得にも、青年は応じる事はないだろう。

この青年の未来は、誰にも判らない。
このまま修羅として、少女の為に人を狩る道を行くのか。
それとも、誰かが青年を元の暖かい道へと戻すのか。





その答えは……青年が目指す、光の先にあるのかも知れない。



{場所:時間}G-5:0:10前後
【色崎 紅規@Gray foolishness】
[参戦時間軸]不明(少なくともバトロワ編前)
[状態]修羅、カエル達に対して多少の罪悪感。
[デッキ]【サイバー流(ver.遊輔)@遊戯王Symphonic】
[思考・状況]
1:郷を救う。その為に参加者を片っ端から倒す。
2:弥琴と郷の捜索。
3:デッキの強化(乗り換えも視野)
[備考]
※【白咲 弥琴@Gray foolishness】がイベントに参加していると思い込んでいます。
※光の正体は後続の作者様にお任せします。
※草原の像については、暗いので気付いていません。ある程度近付けば気付くと思います。


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