開幕―戦姫出陣―


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 体感型オンラインデュエルシステム『Cyber Connect Duel』――通称『CCD』。このMMO(多人数同時参加型オンラインゲーム)が登場したのは、今からどれほど前だっただろうか。

 世界中の誰とでも時間を気にせず戦える、オンラインの特性をフル活用したゲームシステムに加え、〝体感型〟の謳い文句通り、最新のVR技術を駆使した臨場感あふれる決闘。俗にいうVRMMOの先駆けとなったこのゲームが、他のゲームの追随を許さなくなるまで、さほど時間はかからなかったように思える。まさに、唯一にして最高のゲームだ。



 ……ところで、こんな噂を聞いたことはあるだろうか。

「『CCD』のプレイヤーには、時々〝違う世界〟の人間がいる」

 にわかには信じがたい話だが、他のプレイヤーの素性を知らない者は否定もできない。小さな疑心がじわじわ広がる、それが噂というものだ。

 では、こんなのはどうだろう。

「『CCD』には、選ばれた者だけが行ける〝隠しステージ〟が存在している」

 ――この噂には、少しばかり興味深い話がある。もし興味を持ったのなら、最後までぜひ聞いてほしい。








 /* Cyber Connect-交錯世界の決闘者- */







 ある日ゲームをしていたら、突然目の前が真っ暗になった。
 手持ちのモンスターが無くなったわけでも、比喩的に表現したわけでもない。文字通り、視界が突然黒に染まったのだ。

 しばらく呆然としていると、突如世界に光が満ちた。早い話、ゲーム空間が正常に表示されたというだけの話だが。


 ……いや、1つ訂正があった。
 正常ではない。自分の居た場所が、明らかに違うエリア――正確には深い森の中――になっている。表示バグか、或いは強制的に場所を移されたか。
 不審に思いながらも、この場から抜け出そうとログアウトを行う。……が、いつまで経ってもゲームを抜けられない。どうやらログアウトすらも出来なくなっているようだ。

「満足に娯楽も提供できんとは、所詮は人の作った物(がらくた)か」

 現状をそう評したのは、グラマラスな体躯とツーサイドアップの黒髪が特徴的な女性だった。ゲームの場でも制服(改造済み)という、模範と反面教師の同居する風貌。
 彼女の名は「織田 信凪」。とある学園において生徒会〝当主〟を務める人物である。

 信凪は息をつき天を仰ぐ。木々の隙間から覗く黒ただ単調で、居場所の目印になり得るものを見つけることは出来なかった。己が目のみでは状況を把握できないと察した彼女は、懐からD・パッドを取り出しMAPを起動した。
 『CCD』の世界では、デッキ情報やゲーム内通貨といった、ゲーム進行に必要なデータの全てをD・パッドで管理している。もちろんMAP機能も備わっているため、これで現在位置を把握することが可能なはずだ。

「……ッ」

 表示された画面を見た瞬間、信凪の眉根が激しく歪んだ。
 結論から言えば、現在位置の特定はできた。問題は、表示されているMAPそのものだ。

「島流しとは、随分と屈辱的な真似をしてくれる」

 ――孤島。表示されたエリアは、そうとしか言い表せない狭苦しいものだった。今までプレイしていた広大な大地は見る影もない。

 他の情報を求め、信凪はD・パッドを操作していく。その末に判明したのは、〝デッキが無い〟という重大な事実のみ。

「成程、単なる失策ではないようだな」

 強制的なMAP移動、ログアウト不可、そしてデッキの消失――ここまで重なって、単なるエラーで済ませられるわけがない。
 信凪が事の重大さを噛みしめていたとき、不意にD・パッドの画面が突然暗転する。そして



『おめでとう』


 シンプルなフォントで書かれた、短い賛辞が表示された。
 突然のことに、さしもの信凪も微かな驚きを覚えた。そんな彼女に構うことなく、文章はさらに続いていく。 

『この特別エリアには、あらゆる世界から選ばれた腕利きの決闘者が集まっている。君達はこのエリア内で互いに決闘し、頂点を競い合ってもらいたい』

『ルールは簡単。決闘し敗北した者は、これから配布する〝デッキ〟と〝エントリーカード〟を勝者へ渡す。これを繰り返し、全てもエントリーカードを集めた者を優勝だ』

『エントリーカードは譲渡できず、決闘の結果によってのみ移動が行われる。また、奪われたデッキやエントリーカードを暴力で奪い返すのは禁止とする』

『現在の時刻はゲーム内時間で午前0時、デッキ及びエントリーカードの配布とともにゲームを開始する。以降6時間ごとにD・パッドへこちらからの指令を通達するため、見逃すことの無いように。今回の指令は――〝エントリーカードを2枚集めること〟。手持ちの1枚を含め2枚で構わない』

『ノルマを達成したものには相応の見返りを用意する。達成できずともペナルティは無いため、行動は各自の判断に任せる――さぁ、思う存分楽しんでくれ』




 この文を最後に、D・パッドは再び通常の動作を取り戻した。それとほぼ同時に、信凪は手元に違和感を覚える。右手を見ると、そこには先ほどまで無かったはずのデッキと、黄金色に輝く1枚のカードが握られていた。これがエントリーカードなのだろう。表面には薄く「織田 信凪」の名が掘り込まれていた。これで誰のカードを奪ったかを判断するらしい。

「このデッキ……私の物ではないな」

 デッキの一番上のカードを確認した信凪は面倒そうに呟いた。信凪の使用デッキは【深紅眼(レッドアイズ)】。《アース・シンクロン》なるカードを入れた覚えが無い以上、別のデッキを回されたのだろう。

〔うわ、めっちゃ美人! いきなり変なとこに飛ばされたときはどうなるかと思ったけど、これはこれでラッキーだったかも!〕

 幻聴だろうか。テンションの高い、幼い声が聞こえた気がする。辺りを見回すが人の気配はない。幻聴だろう。

〔……あれ、スルー? おーい〕

 また聞こえた。それも目の前から。眼前にあるのは暗い森と、手にしたデッキくらいだが。
 信凪の脳裏に舞い降りた1つの予感。それに従い、彼女は口を開く。

「〝貴様〟か?」

 視線の先にある《アース・シンクロン》のカードへと。

〔お、気付いてくれた!〕

 果たして、予感は当たった。声に反応するかのように輝くカード。眩い光に細めた目を再び開いた時、信凪の前には浮遊する1体のモンスター――《アース・シンクロン》がいた。

〔初めまして綺麗なおねーさん、僕はアース・シンk――モガッ!〕
「眼前に立とうとは良い度胸だ。私を織田 信凪と知っての狼藉ならば……良い度胸だ。全力をもって叩き潰そう」
〔ちょっ、ごめんなさいごめんなさい!!〕

 突然現れた得体のしれないモンスターに対し、首根っこを一掴みして対抗する信凪。あまりにも凄まじい覇気に押され、彼(?)はただ平謝りをするほかなかった。

〔ぱ、パートナー同士仲良くやろう? ね?〕
「パートナーだと? 下郎が。貴様ごときが私と対等に並び立てるとでも思ったか」
〔……えー〕

 にべもない。

「私の事は「信凪様」とでも呼べ、そうすれば駒の1つ程度には数えてやろう」
〔わ、わかりました……信凪……さ、様〕

 出会って1分足らずで、アースと信凪の関係性は完全に確立されたといって過言ではないだろう。良好な関係かどうかは甚だ疑問ではあるが。

〔ところで今からどうするの?〕
「貴様、まだ己の立場がわかっていないようだな」
〔すっ、すみません! ……えっと、今からどうするんですか?〕
「決まっているだろう。他の参加者を討つまでだ」

 即答だった。アースもこれには驚き、思わず意見を口にしようとしたが。

「この状況に疑問を持っていないとでも思うか? 違う。疑問を抱くことが無駄だと察したまでだ。運営は〝生き残れ〟という規則のみを課した。下手な制約も処罰もない、純粋に強者を決めるにふさわしい舞台だ。余計な詮索など他の者に任せればいい。――私は、この世界の天下を奪うだけだ」

 理性を超えた強者の欲求。彼女はそれに従い、この戦いに全力で挑むことを宣言した。
 MAPを展開し、現在位置と進むべき方角を見極める。そして信凪は、宙へ浮くアースへ首だけを向け、挑発的な笑みを飛ばした。

「先ずは市街地へ向かい他の参加者を探す。ついてこい、貴様の実力が我が軍にとって必要なものか見極めてやろう」


{d-7:午前0時}
【織田 信凪@遊戯王e-Squire】
[時間軸]不明
[状態]自分好みの状況に高揚
[デッキ]ウォリアー
[思考・状況]
1.市街地へ向かう
2.対戦相手を探す
3.デッキの性能を確かめたい
[備考]精霊《アース・シンクロン》を保持中



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キャラ別
織田 信凪 [←前へ|次へ→無題6