黒雲は静寂を破る

「黒雲は静寂を破る」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

黒雲は静寂を破る」(2012/06/01 (金) 16:58:52) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

 城内部で行われた、『もうひとつのデュエル』。  新谷遊璃と御堂美玲――そしてその影に見え隠れするのは―― 「使わせて欲しい、って……どういうこと?」  美玲は遊璃に聞き返した。さっきから遊璃はどこか様子がおかしい。寝ぼけているのかな、と最初は思ったがそれも違うように見えた。 「どうって……そのままの意味。私、『タイムルーラー』を使いたいの」  さも当然と言わんばかり。眼は空ろで口調にはどこか傲慢さがあって……まるで『少しだけ別人になった』ようだった。 「ね、いいでしょ? 美玲と私でデッキを交換する。『サイレント』は強いデッキだよ」 「そ、そうだけど……」  美玲は直感で、『タイムルーラー』を渡すのは彼女にとってよくないと感じ取っていた。  相手を納得させるように、表面上の理由を語る。 「ほら、その、『サイレント』は桐谷くんが遊璃ちゃんに貸してるものでしょ? やっぱり、勝手にやりとりするのはダメだよ」 「……どうしても、ダメ?」  遊璃の懇願するような眼に思わず決心が揺れる。美玲自身そう気が強いほうでもなく、強く頼まれたら断りたくない性分だ。  しかし――遊璃の眼に懇願の他に見えた――『策略』の色。  それに気付いたとき、美玲はぞっとした。  ――やっぱりダメだ、断らなきゃ―― 「……うん、ダメ」 「……そう」  遊璃は残念そうに呟き、一見諦めたかのように見えた。  ――しかし。 「だったら」  彼女は腕のD・パッドを持ち上げ、言った。 「デュエルして決めよう」  その宣言と同時に、美玲のD・パッドもデュエルモードになった。 「えっ!? そ、そんな……!」  まさか味方であるはずの遊璃からデュエルを申し込まれるとは、夢にも思っていなかった。  美玲はD・パッドを操作したが、どうやってもデュエルモードのままだ。 「ごめんね、美玲。だけど感じるんだ……『タイムルーラー』から、『引力』を。手に入れなきゃいけないっていう『運命の感触』を」 「な、何を言ってるの……?」 「奪い取ってでも、支配者をこの手に置く」 「遊璃ちゃん、こんなのおかしいよ。私達、仲間でしょ?」  いくら美玲が説得しても、遊璃の意思は揺るがず、また始まったデュエルは止められない。 「……行くよ、美玲」 「うう……!」  もはや始めるしかない。『仲間割れ』を。 「デュエル!」 「こうもうまくいくとはな」  デッキの中で、『黒』は考えていた。 「あの小娘の持つ闇……余程深いものだったらしい。ソウル以上に精神操作をかけやすかったぞ……ククク」  遊璃はタイムルーラーを欲し、美玲はそこに異様な雰囲気を感じ取る。  全て、計算通り。 「あとは小娘を多少追い詰めればいい……デッキ内容は……これくらいにしておくか」  遊璃も美玲も、精神とデッキにおいて、既に手の平の上にあった。 「私ターンから……ド、ドロー」LP4000  先行は美玲。  ――本当はデュエルしたくないけど、やるなら全力でやらないと―― 「モンスターを1体伏せて、さらに永続魔法《時を刻む巨針》発動!」  美玲の背後に、巨大な置時計が現れた。長針も短針も文字盤もこれといった特徴はなかったが、いずれも動いていなかった。 「このターンは終了。だけどエンドフェイズで《時を刻む巨針》の効果発動……タイムカウンターを、『増やす』」TC(タイムカウンター)0→1  ガコンと音を立てて、時計の長針が動いた。同時に、美玲の頭上に文字盤のないかけ時計が出現し、『1』の文字だけが浮かび上がった。  タイムカウンターは時のエネルギー。カードに乗せるのではなく、デュエルそのものに発生する。 「ターンエンド」 「私のターン、ドロー」LP4000  遊璃が動き出す。  美玲は一度、今遊璃が持つ『サイレント』デッキの戦いぶりを見ている。敗北こそしたが、かなり強いデッキだと認識していた。 「《サイレント・レディ》召喚」ATK100 ☆1  白い肌をした女性が現れる。 「その召喚時効果で、手札から《サイレント・ガール》特殊召喚」ATK0 ☆1  似た雰囲気を持った少女がその隣に並ぶ。 「《ガール》の特殊召喚時の効果、レベルを好きな数字に変更、私はレベル5に!」☆1→☆5  そして《レディ》は……チューナー。 「レベル5《ガール》に、レベル1《レディ》をチューニング、合計レベル6! 来て!」  力強い躍動と共に、翼は羽ばたく。 「《サイレント・ペガサス》シンクロ召喚!」ATK2400 ☆6  現れたのは、白く輝く天馬。筋肉は逞しく、翼は麗しい。 「さらに墓地に送られた《ガール》の効果で、デッキから次の《ガール》をサーチして手札に加えて、バトルフェイズに突入!」  天馬が動き出す。 「バトル、伏せモンスターに攻撃!」  翼を動かし天を駆けるも、その身に包むのは静寂。音も立てずにタックルをかけ、伏せモンスターを粉砕した。  破壊されたのは、《シャインエンジェル》。 「《ペガサス》の効果、効果モンスターを戦闘で破壊したからカードを1枚ドロー!」 「チェーンして《シャインエンジェル》の効果発動、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚するよ!」  互いに引かない両者。アドバンテージの差は未だ0。 「これかな? デッキから、《タイマー・ハンター》特殊召喚!」ATK1500 ☆4  柱時計の体で長剣を持った、異形の戦士が現れる。 「えーっと、《タイマー・ハンター》は相手に戦闘ダメージを与えられないけど、タイムカウンターの数×500ポイント攻撃力を上げるよ」ATK1500→2000  そしてこのターンのエンドフェイズ時に《時を刻む巨針》によりタイムカウンターはひとつ増え、攻撃力は2500となる。つまり《サイレント・ペガサス》を超え、戦闘破壊が可能となる。  しかし遊璃もそれを黙って見逃さなかった。 「メインフェイズ2、手札の《サイレント・フェアリー》の効果発動」  宣言と同時に、白い小さな妖精が時計の狩人の周囲を飛び回り、白い光の輪で包んだ。 「手札から相手効果モンスターに装備、装備モンスターの攻撃力はフィールドの効果モンスター×200ポイントダウンする」ATK2000→1600 「う……」  これで攻撃力は上がっても2100。《サイレント・ペガサス》に届くものではなくなった。 「カードを1枚伏せて、ターンエンド」 「エンドフェイズにタイムカウンターはひとつ増えるよ」TC1→2  時計盤に『2』の文字が表示され、同時に狩人の攻撃力が上昇する(ATK1600→2100)。 「私のターン、ドロー!」LP4000  状況は悪いが、まだまだ打開はできると美玲は思っていた。  手札のモンスターよく確認してから、使う。 「えと、《タイマー・チェンジャー》召喚、効果発動。手札の『タイマー』モンスターともう1枚を捨てて2枚ドロー!」  効果発動はタイムカウンターの存在が条件だが、その分大規模な手札交換ができる。さらに引いたカードに『タイマー』が存在する場合、手札交換は加速する。今がそれだった。 「さらに効果発動、引いたカードの中に『タイマー』モンスターが存在する場合、それと《チェンジャー》自身を墓地に送って、さらに2枚ドロー!」  引いたカードをさらに確認する。ややこしいカードが多い中、1つだけ短いテキストのカードがある。事前に確認していた、このデッキのキーカードだ。だが今は使えない。 「カードを2枚伏せて《ハンター》を守備表示に変更(ATK2100→DFK1500)、エンドフェイズにタイムカウンターを増やして、ターンエンド!」TC2→3  布石は上々。たとえ劣勢でも、それを一撃で吹き飛ばすほどのパワーがこのデッキにはあると、美玲は信じていた。  遊璃にターンが回る。 「私のターン、ドロー」LP4000  相変わらず遊璃はどこか不気味な雰囲気を持っている。しかし具体的にどこがとはさっぱりわからない。自分の錯覚にも思える。 「手札から《サイレント・コープス》召喚、効果発動」ATK1600 ☆4  白い肌と衣を持ち、醜いながらもどこか麗しいゾンビが現れ唸り声を上げる。すると地面が盛り上がり、墓地のモンスターが静寂を破り復活する。 「墓地から《サイレント・レディ》特殊召喚(ATK100 ☆1)、さらにその効果で手札から《サイレント・ラビット》特殊召喚!」ATK1300 ☆4  ペガサス、ゾンビ、女性、兎と3体のモンスターが並び、さらに展開は続く。 「《ラビット》の効果、特殊召喚時にデッキからもう一体《サイレント・ラビット》特殊召喚!」ATK1300 ☆4  これで遊璃のフィールドにはモンスターが4体。まだまだ止まらない。 「さらに罠カード《静寂の戒め》、フィールドに『サイレント』が2体以上いる場合、効果モンスターを1体破壊する! 《タイマー・ハンター》破壊!」  天から光が降り注ぎ、静寂を守らぬものを粛清する。また装備モンスターが破壊されたことにより、《サイレント・フェアリー》は自身の効果で遊璃の手札に戻った。 「う!」  これで壁モンスターはいない。一応伏せカードは3枚あるが、敵モンスターは多数いるというのにこれはキツイ。  さらに来る。静寂を司る、聖竜が。 「《ラビット》《コープス》《レディ》をシンクロ! 合計レベル、9!」  静寂を纏い静寂を従え、静寂を与えに降臨する。 「《サイレント・トライ・ドラゴン》!」ATK2800 ☆9  三叉の尾を持つ白き竜が、美玲を見下ろす。  前のデュエルで、美玲はそのモンスターを知っている。だから、すぐに対処した。 「カウンター罠《神の警告》!」LP4000→2000  突如唸った雷を受け、断末魔を上げながら竜は砕け散った。 「《サイレント・トライ・ドラゴン》が……! だけどこれであなたのライフは2000、決めさせて貰うよ!」  遊璃はバトルフェイズに突入した。 「バトル、《サイレント・ペガサス》でダイレクトアタック!」  天馬が敵を討たんと駆け出す。これを許せば美玲は敗北する。  もちろん止める。 「罠カード《時空のウォール》!」  空間が捻じ曲がり、天馬の突撃を止めた。 「攻撃を無効にし、その攻撃力500につき1つタイムカウンターを増やす!」TC3→7  時計盤の文字が次々に表示される。これで時は来た。あとはこのターンを耐えればいい。  とりあえず耐えるべきは次の攻撃。 「《ラビット》でダイレクトアタック!」  小柄な兎が駆け出し、美玲に飛び掛った。鋭い前歯が腕に刺さる。 「うっ!」LP2000→700  ライフ3桁は中々厳しいが、それでも耐えればどうとでもなる。  幸い、遊璃はそのままバトルフェイズを終えた。 「このままターンエンド!」TC7→8 「よーし、私のターン、ドロー!」LP700  用意は整った。  いざ、発動! 「魔法カード《時を支配する能力》発動! タイムカウンターを5つ取り除いて、デッキから『タイムルーラー』1体を特殊召喚する!」TC8→3  時は来た。支配者は降臨する。 「私はこれを選ぶ、《タイムルーラー DL・ROW(ディーエル・ロウ)》!」ATK3000 ☆8  遊璃の目の前に現れたのは、金髪の剣士。  筋肉質な体を金の鎧で包む。鎧は腰の部分の緑色とインナーの黒が全体を引き締め、きらびやかながらも『力』を感じさせる。手にした長剣はきらりと光り、その柄と篭手の甲に見える時計のマークは自らが持つ力の象徴か。 「これが、タイムルーラー……!」  やはり感じる。不思議な引力を。  ――だけどそれが効果モンスターである限り、『サイレント』の敵ではない――  そう思っていた。 「行くよ、バトルフェイズ!」  支配者の効果が、発動するまでは。 「効果発動!」  支配者が、手にした長剣を振り上げた瞬間。  周囲の空間の色が反転し、また元に戻った。 「こ、これは……」 「すごい!」  遊璃も美玲もその派手な演出に驚く。しかし派手さの後に待っていたのは、静寂。  支配者を除く、フィールドの全てが止まっていた。天馬も兎も、呼吸すらしていない。 「えーと、これが《DL・ROW》の……たぶん『時を止める能力』! 自分以外の全てのカードの効果も発動も、無効にする!」 「えっ!?」  遊璃は完全に裏をかかれた。攻撃は手札から発動する《サイレント・ガードナー》で、効果は《ペガサス》が持つ耐性で防ぐつもりだった。  しかし両方動かない。時は止まっているのだ。 「《DL・ROW》で攻撃!」  止まった世界を1人駆け、敵へと迫る。そして長剣を振り降ろして天馬を真っ二つに切り裂いた。しかし両断されたまま、動かない。  くるりと支配者はそれに背を向け歩き出す。一歩、二歩、三歩――その時。  天馬は破壊され、その余波が遊璃に襲い掛かった。 「ううっ!」LP4000→3400 「よし! このまま、ターンエンドするよ!」TC3→4  遊璃はD・パッドを操作し、《DL・ROW》の能力を調べた。どうやら自分バトル時効果以外に、戦闘以外でフィールドを離れるときタイムカウンターを取り除くことでフィールドに留まる効果を持っている。 「私のターン、ドロー!」LP3400  カードを引いてもまだ、対抗策は見当たらない。 「うーん……《ラビット》を守備表示にしてモンスターを1体伏せて(ATK1300→DFK650)、ターンエンド!」TC4→5 「私のターン、ドロー!」LP700  美玲は引いたカードを見て、にっと笑う。何か嫌な予感を、遊璃は感じ取っていた。 「魔法カード《時を支配する能力》発動! タイムカウンターを5個取り除いて、さらに支配者を呼び出す!」TC5→0 「また!?」  嫌な予感は的中、状況は悪化していく。 「今度はこれ! 《タイムルーラー QUEEN・OF・DEAD(クイーン・オブ・デッド)》!」ATK2500 ☆8  フィールドに出現したのは宝玉で彩られた真紅の玉座。そこにふわりと腰を降ろしたのは、女王。赤と黒の妖しくも美しいドレスに身を包んで膝の黒猫をなで、真っ黒な瞳で他を見下ろす。 「効果発動! ターンに一度、フィールドのカードを1枚破壊……伏せモンスターを、破壊!」  女王が気だるげに右手を上げ、パチンと指を鳴らす。その瞬間伏せモンスター――《サイレント・スライム》が爆発し、破壊された。 「さらに手札から《タイマー・ハンター》を召喚!」ATK1500  遊璃のフィールドには守備表示の《ラビット》1体、一方美玲は『剣士』『女王』『狩人』の3体。伏せカードはない。 「バトルフェイズ! まず《タイマー・ハンター》で《サイレント・ラビット》に攻撃!」  狩人は獲物の兎目掛けて駆け出し、手にした剣を振り上げる。  これは止める。 「手札の《サイレント・ガードナー》の効果発動! 自身を墓地に捨て、『サイレント』の戦闘破壊を防ぐ!」  振り下ろされた剣は兎の手前で音もなく止められる。 「まだまだ! 《QUEEN・OF・DEAD》で《ラビット》に再攻撃!」  すっと女王の右手が上がる。そして手刀を斬るように、それを振り下ろした。その瞬間《ラビット》は爆発し、破壊される。 「うぅ!」 「さらに《DL・ROW》でダイレクトアタック!」  今度は時を止めずに(『時を止める能力』はバトルフェイズ開始時に使うのが条件)《DL・ROW》が駆け出して遊璃に向かって剣を振るった。  ――誰も知る由もない。その剣に篭もった『黒』の力。傷口から遊璃に進入する力を。 「うっ!?」LP3400→400  長剣が遊璃の体を切りつける。遊璃は思わず身を屈めた。  ――痛い!――  ソリッドビジョンのはずなのに、体には激痛が走る。今まで味わったことないほどの痛み。もうそれを通り越し、『恐怖』に至るほどの痛み。  苦しみながら支配者の顔が見えた。笑っている。その笑みにぞっとするほどの『恐怖』を覚える。  ――怖い……怖い怖い怖い、怖い!――  体が震え、歯の根がかちかちと鳴る。 「ゆ、遊璃ちゃん? 大丈夫?」  美玲の声も届かない。支えるもののないこの世界で、恐怖は際限なく遊璃の体を巡る。しかし。  ――そうだ――  その時、思い出した。『恐怖』から逃れる術を。自分が頼れる支えを。私を守ってくれる、友達の名前を。  その名は―― 「黒雲……!」  助けを求め、呟く。  その時。 『よく我が名を呼んでくれた』  声が聞こえる。自分の中から。 『さあ、友達になろう。君を恐怖から救ってやろう……』 「……うん……」  遊璃は静かに眼を閉じた。それと同時に、『新谷遊璃』という人格は眠りに着く。代わって目覚めるのは、『黒』……『黒雲』。 「遊璃ちゃん……?」  こわごわと美玲が声をかける。その声はもう、新谷遊璃には届かない。 「……ククク……」  遊璃は眼を開いた。  その瞳は、いや眼球全体は真っ黒の闇に染まっている。どう見ても通常の状態ではない。 「掴んだぞ……『ボディ』。やはりたいして『馴染む』感じはせんが、贅沢をいえる状況ではないか……」 「ゆ、遊璃ちゃん? 何言ってるの?」  美玲の目の前にいる人物は遊璃のはず。しかし今、美玲は『違う』という感じを持っていた。雰囲気、喋り方、声の感じ――何よりも自分と『同類』の気配、即ち『精霊の気配』を感じ取っていたのだ。しかしはっきりとした確証はつかめない。雲を掴むように、実感がない。 「貴様に説明して何か私にとくがあるのか? ちゃんとデュエルを続けろ」 「う、うん……」  そう、今は何があってもデュエルを続けるしかない。それがこの世界のルールだ。 「このまま、ターンを終了するよ」TC0→1 《ハンター》ATK1500→2000 「クク……私のターン、ドロー!」LP400  このスタンバイフェイズ時、カード効果が発動する。 「墓地に存在する《サイレント・スライム》の効果発動。相手フィールドに効果モンスターが存在する場合、墓地より蘇る」DFK2000 ☆4  白いスライムがべちゃりとフィールドに湧き上がる。  そしてメインフェイズ1。美玲は《QUEEN・OF・DEAD》の効果を発動させた。 「《QUEEN・OF・DEAD》の効果発動! 自分のターンの同じフェイズをスキップすることを条件に、このフェイズ、スキップさせてもらう!」  女王の膝の黒猫が駆け出して、フィールドの真ん中に来たかと思うと――爆発した。  今度は『時を爆破する能力』。時間を爆発させ、フェイズをなくする。 「……フン」  遊璃――と呼んでいいのかもわからない彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らし、バトルフェイズをスキップした。  メインフェイズ2。 「手札から《サイレント・ハーピィ》通常召喚(ATK1000 ☆3)。効果により貴様のフィールドの《QUEEN・OF・DEAD》を手札に戻す」  鳥人の放った旋風により、死の女王は煽られ手札に戻された。女王は破壊時に死の淵より復活できるのだが、バウンスではどうしようもない。 「うっ!」 「ククク、さらにレベル4《スライム》にレベル3《ハーピィ》をチューニング!」  天馬を越え、死を越えた存在が降臨する。 「来たれ不死鳥! 静寂なる炎、穢れを焼き払う紅蓮となれ! 《サイレント・フェニックス》シンクロ召喚!」ATK2000  白い炎を持った不死鳥が、フィールドに舞い降りた。  攻撃力は《DL・ROW》の敵ではないが……? 「このまま、ターンを終えるとしよう」TC1→2 《ハンター》ATK2000→2500 「わ、私のターン、ドロー!」LP700  たぶん不死鳥は自己再生能力を持っている。しかし関係ない。既に遊璃のライフは400、そちらを狙えば止めをさせる。そもそも今、爆発の余波により美玲のメインフェイズはスキップされる。その上でバトルフェイズ中は《DL・ROW》により、無敵なのだ。  美玲はバトルフェイズに突入し、宣言した。 「《DL・ROW》の効果発動!」  剣を持つ支配者はそれを掲げ、自らの力を行使しようとする。  ――しかし。 「チェーン、《サイレント・フェニックス》の効果発動!」 「えっ?」  静寂纏う不死鳥が支配者に突っ込む。美玲の動揺を他所に白い炎は《DL・ROW》を覆いつくし、共に消え去った。 「《サイレント・フェニックス》は相手の効果発動を自身をリリースし無効にする。自身のみエンドフェイズに蘇るがな」 「く!」  これで2体の支配者は共に消え去った。残ったのは相手にダメージを与えられない《タイマー・ハンター》のみ。  やむなく美玲はメインフェイズ2に移行する。 「このまま、ターンエンド」TC2→3 《ハンター》ATK2500→3000 「このエンドフェイズ時、不死鳥は再び墓地より舞い戻る」ATK2000  そしてターンが回る。 「私のターン、ドロー」  遊璃の体の『誰か』はカードを引き、言った。 「さて、終わらせてやろう」  『えっ』と美玲が漏らすのと同時に、動き出した。 「手札より《サイレント・ハニー》召喚! レベル7《サイレント・フェニックス》にレベル1《サイレント・ハニー》をチューニング、合計レベル8!」  来るは悪魔、『精神領域の悪魔』と同等の存在、『静寂領域の悪魔』。 「シンクロ召喚、《サイレント・スフィア・デーモン》!」ATK2800 ☆8  4枚羽の白い悪魔。瞳孔のない眼が敵を睨む。しかしその攻撃力は、眼前の支配者に及ばない。  だがそのまま、デュエルは最後のバトルフェイズへと突入する。 「行くぞ、《サイレント・スフィア・デーモン》で《DL・ROW》に攻撃!」  悪魔の腕が光を放ちつつ、敵へと突っ込む。 「効果発動、戦闘を行う相手の攻撃力の半分を、自らの力とする!」ATK2800→4300  悪魔の腕と爪が、黄金に輝いた。  そして遊璃の中の『黒』は知る。カードに篭もる闇から感じ取る。そのカードの使い手や、攻撃の名を―― 「終わりだ! 【カース・エフェクト・インパクト】ッ!」  悪魔の爪は支配者ごと、美玲を切り裂いた。 「ど、どうして」LP700→0  デュエルに、終止符は打たれた。 {g-4、城内の2階、3時25分}  【新谷 遊璃@遊戯王Symphonic】  [時間軸]本編、大会前夜  [状態]黒雲に完全に乗っ取られ、黒遊璃に。  [デッキ]サイレント@与 優希(遊戯王ASS)  [思考・状況]  1:これで良し。次はソウルを探すとしよう  2:なんならデュエルを続け配下を作るか  [備考] ・美玲に勝利しました。 ・黒雲に意識を乗っ取られてしまい、現在は黒遊璃となっています。 ・黒雲は自身(=『タイムルーラー』デッキ)を自由に作り変えることができます    {g-4、城内の2階、3時25分}  【御堂 美玲@遊戯王soul link】  [時間軸]本編30話  [状態]意気消沈  [デッキ]なし  [思考・状況]  1・本当に……遊璃ちゃん?  2・誰、この人?  3・こんなときに暁さんはどこへ?  [備考]  デッキとエントリーカードを失いました

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: