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指定された場所のビルに葛西がついたのは午後1時を回ったころだった
そのころにはすでに、弾間から渡された紙はただの白紙となっていた
恐らく特別なインクなのだろう、火であぶっても水につけても文字が再び浮かび上がる事はなかった

入口に立っていた男に連れられ、階段を下り、いくつもの部屋を通され一つの部屋に入れられた
床も壁も天井も全て明かりを少し反射するほど白く、
部屋にも向かい合うような形で二つの折り畳み椅子と折り畳み机が置かれているだけだ
(長くいると気が滅入りそうだな…)
椅子に座り、早く終わらせてくれないかなと小さく呟いた途端、先ほど自分が入ってきた突然ドアが開いた

突然の出来事に驚くが、すぐに平静を取り戻し入ってきた男の方を見る
GIカットにした茶髪にスーツが釣り合っていないような気がしたがそれを飲み込み黙っていると、男が口を開いた
「実験協力者ですね?」
「ええ、まあ…」
「手短に済ませます、あなたにはコレを使ってもらいたい」
足元の鞄を机の上に載せ、中から一本の注射器を出した
「あの…これは…?」
「皆さんそれを伺われます、まあとりあえず『ジレッタ』とでも呼んでおきましょう」
「はあ…」
「あなたにはこれから一週間、毎日午後1時にこの『ジレッタ』を注射してもらいます」
「あの、ジr」
「医者がやるみたいにアルコールとかで拭く必要はありません」
「いやジr」
「それとこの端末を渡しておきます、指示に従ってお使いください」
「いやz」
「まだ何か?」
「…何でもないです」
威圧に気圧されうなだれる葛西を無視して男は鞄を差し出した
「一週間分の薬と端末です、くれぐれも無くしたりしないでください」

鞄を片手に項垂れながら部屋を出ると先ほど入口にいた男が立っていた
ずっとここにいたのかと考えた途端スーツの男の態度と言いこの男と言い何か不気味なものを葛西は感じた
帰りは問題なかった、男がついてこいとでもいうように先導したのだ
だが葛西はこのビルの異様さで何度も吐きそうになった
どこもかしこも『綺麗すぎる』のだ、おまけに同じような装飾で同じような大きさのドアが並んでいるときた
吐き気に耐えながら何人かとすれ違い、しばらく歩くと今までのとは違うドアにたどり着いた
恐らく出口なのだろう、男はドアの傍で立ち止まりそれ以上動こうとしなかった

逃げ出すようにドアから飛び出すと、そこはどこかのビル街の路地裏だった
先ほどのドアは固く施錠され、押しても引いても少しも動かない
諦め帰ろうとする葛西だったがある事に気付いた、むしろ思い出したのだ
案内してくれた男も、すれ違った人間も、誰もかれも皆『目線が明らかにおかしなところを向いていた』のだ
脆弱な精神の葛西は白昼夢だと決めつけようとするが、右手に握られた鞄の存在がそれを許さない
鞄の中でプラスチックの容器が軽くぶつかり合う音を聞きながら、葛西は思わず胃の中のものを全部吐いてしまった
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