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焼ける鉄の匂い、燃え盛る炎の匂い、埃の匂い、少なくとも良い匂いとは呼べない匂いと、鉄と鉄をぶつける金属音が辺りを占める地下室で、巨大な鎧のようなものに向かって数十人の男が作業をしている。
ある者は鉄を熱して、ある者は彫刻でも掘るように鉄の形を整え、ある者は胴体部と碗部つなぎ、ある者はワイヤーのような物を鎧の中でつなぐ。
よく見れば殆どの人間は一人の男の指示を受け、その男の手足のように動くだけ。
段々と出来上がってくるのは、鉄の巨人とも言える、”ゴーレム”と呼ばれるものだ。
”ゴーレム”人が乗り込み、魔力を糧にして動く、ちょうど十年前に突然生み出された巨大な人型兵器。その存在はこれまでの戦いの常識を一気に覆した。
敵の近くを歩くだけで敵の部隊は陣形を崩し、訓練された剣技も、弓も、その文字通り鉄壁の装甲の前では無意味。唯一効果のある魔法も、唱える前に潰されては意味が無い。
つまり、このゴーレムはたった一機でそれまでの一個兵団をはるかに超える戦力なのだ。
今や十年前の戦場は旧世代の戦場と、魔術師は魔法使いとしての意味でなく、ゴーレムの搭乗者という意味として呼ばれ、ゴーレムの質、量がそのまま国の強さとなった。
もちろんゴーレムにもデメリットはあるが、
この力にくれべればそれはとても小さいものだった。
指示されたことを終えたのか、手足達が指示を出した少年のもとへ集まっていく。
髪は手入れされていなくぼさぼさで、服装も薄い布の上にところどころ焦げの着いた上着を羽織って腰に小さな鞄をいくつもぶら下げているだけ、とだらしなくてくたびれた雰囲気を出している。しかし顔つきは年相応の若々しいもので、くたびれたりはしていない。そんな容貌の男だ。
そいつが一言つぶやいた。

「終わったぞ。お疲れ様。」

特に感情の篭もっていない、事務的な声だ。
その声を聞きつけて、一人の男が地下室へ降りてきた。肥満、とまでは行かなくとも少し丸っこいシルエットをした中年だ。
中年は、地下室の中心でたたずむ、巨大な鉄の鎧を上から下まで眺めて、口を開く

「ふむ、いいだろう。君は期待通りの働きをしてくれた。感謝しよう。」

台詞を言い終わると、中年は報酬だ、と言って少年に鞄を投げた。
鞄は中々重いもので、少年は少しよろめきながらも鞄を受取った。
中身を確認すれば、ざっと数十枚の金貨と、淡い光を放つ魔力の篭もった魔石がいくつか。

「確かに受取った。」

そんな素っ気の無い台詞をまた事務的な声で告げ、その場に居た全員に背中を向けて中年が現れた地上への階段へ歩き出す。
少年の一歩目の足音と同時に、中年がなにやらつぶやき始めた。
つぶやく声は聖書でも朗読するかのように、ただのつぶやき声とは違う何かを纏っていた。

「詠唱か。やっぱりかクソが!」

中年の声が少年の声に届き、少年は勢い良く中年の方へ向き直る。
その刹那、中年の指より放たれた炎の矢が少年の頬を焦がした。

「余裕のないこの国が、お前のような不安因子を消したがるのは当たり前。流石に予想していたか・・・」

中年は残念そうに、ため息と共にその台詞を吐き出した
少年は”鍛冶師”と呼ばれる、ゴーレムのメカニックを生業としている。
しかし少年はどこかの国に属することなく、傭兵のように様々な国で鍛冶師の仕事を行ってきた。
ゴーレムが国にとって非常に重要な位置に存在するこの世界において、何時自国の技術を他国に流すかわからないこの少年は国にとって消したくなるのも無理は無いのだ。

「生憎、何度もそういう目には会って来たんだ。慣れてるんでね」

少年は不適に笑うが、内心殆ど余裕がなかった。
今まで少年は大きな国で仕事をしたことはなく、こういう目に会ったとしても兵達が烏合の衆であったりして、なんとか自分の力で逃げられた。それに、最近では自分の名もそこそこ売れてきて、命をねらわれることは殆ど無かった。
だが、今回は話が違う。この国、”エリス”はこの世界で最も強いといわれている国で、兵の質が今まで行った国とは段違いだ。
そして、この国は中年が言った通り余裕がない。本気で殺しに来るだろう。

「我らに火を与えし者よ。我ら、再び契約を交わす」

また中年が詠唱を始める。今度は遠慮することなく大きな声での詠唱だ。詠唱するときの声が大きいほど魔法の威力は高まるのだ。
中年が詠唱している隙に、少年は鞄から魔石を、腰の鞄から泥団子のようなものを取り出し、

「ぶちまけろッ!」

それらを中年の足元へ向けて投げつけた。
中年の足元で衝突した石と泥団子が反応を起こし、泥団子が爆発。辺りに煙幕のように砂を撒き散らした。

「ぐっ・・・・・・ゲホッゴホッ
誰でも良い、追え!奴を逃がすな!」

撒き散らされた砂にむせて、詠唱が中断されてしまう。砂の幕が視界をさえぎり、中年の視界から少年が消える。叫んだときにはもう遅く、誰も少年を追うことは出来ていない。
視界がはれたころには、地下室にはどこにも少年の姿は無かった。



「クソッ・・・体力はついてるつもりだったんだがな」

あの巨大な鉄の鎧が入る地下室、そこから地上へ上がる階段は流石に長い。
息切れしながら階段を上り、やっと地上への扉へたどり着く。
走る勢いのまま、ドアノブを回して体当たりするような形で扉を開ける。
地下室から出たばかりの目には眩しい光と共に眼前に広がる光景は、剣を構えて鎧で身を固めた兵士が綺麗に隊列を組んで並んでいる。
観念しろとか、諦めろとか、そういう台詞を言うことも無い。兵士達はただ目の前の少年を殺せばいいだけなのだから。

「ここまでか・・・」

と、息切れに肩を震わせながら俯いて、諦めた台詞を言う。
しかし俯く際に一瞬見えた表情、それはとてもおびえている、ましてや命を覚悟した表情にも見えない。むしろ口の端が少しつりあがって、笑っているように見える。
兵士達が構えた剣を振り上げたその瞬間、鋭い金属音がその場に居た全員の耳を劈いた。

「な、何事だ!?」

兵士の一人が声を上げ、音のした方へ顔を向ける。見れば、一人の兵士が壁に叩きつけられていた。鎧の胴体部に大きなヒビが入っている。とてつもない力で鎧ごと吹き飛ばされたのだ。
兵士達に動揺が広がり、隊列が崩れていく。
各々が辺りを見回し、兵士を吹き飛ばした犯人を捜すが見つからない。

「・・・・上だ!」

兵士の一人が上を見上げて叫ぶが、もう遅い。
そこから先は一瞬の出来事だった。
その空中に居た何かが、着地と共に剣を兵士の頭に叩きつける。そこから少しも間を置かずに、周りに居た兵士を一気に凪ぎ払う。
兵士達が動揺して動けない間に、地面に、壁に兵士達を叩きつけていく。
兵士達が皆動かなくなるまで、僅か数十秒の事だった。

「予想以上だ。雇った甲斐があった。
結局この兵士達も雑兵だったが、十分だ」

俯いていた少年が、今度は紛れも無い笑みを浮かべて顔を上げる。
雇ったのはこの目の前の女性、ついさっき兵士達を一瞬で動けなくした女性のことだ。
美しい銀髪が腰まで伸びていて、氷のような冷たい、しかし美しい瞳をしている。体は普通よりは筋肉があるが、それほど筋肉質ではない。
瞳のせいか、氷の彫像のような冷たく美しい印象を受ける。とても先ほど兵士達を吹き飛ばしたとは思えない姿だ。

「おっと、話す暇もないか。もう追っ手が来てる。
質は結局雑兵だったくせに、数だけは流石大国だ。」

鎧がガシャガシャと鳴る音がどんどん近づいてきている。追っ手が来ていると言う事だろう。また鞄から泥団子と魔石を取り出して砂の幕を引いて出口へ走った。



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