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――――俺達が魔王城に着くと同時、空はすっきりと晴れたのを覚えている。



『世界』と敵対する『魔界』と言えば、誰もが赤紫の空とか、黒々しい雲だとかを想像する様な物だけれども。いや、現に着く直前まではそうだったのだけれども。とにかくこの時だけは、俺が魔王討伐の使命を受けた時に見上げた空のように、白い雲が点々と浮く、あの青空だった。

「……不気味だな、こうも晴れていると、逆に」

俺の後方で……あー、名前は何だったか。全く思い出せないな、仮に1としよう……1が小さく声を上げた。黒髪に、厚手そうなコート。腰の萎びたホルスターから幾つもの傷が出来た漆黒の魔法銃――確か、マクニフとか言ってたっけ――を抜き出し、周囲を見渡して警戒し始めた。

「……大丈夫ですよ。もう魔王城上層にしか魔力元は見当たりませんから」

聞き慣れた、柔らかい女性的な声。……こいつも名前が思い出せない、仮に2としよう。そして声から容易に想像できる柔和な笑顔が見えた。東方の国で出会った、1と同じような墨色の髪の女性。赤や黄を散りばめた華やかなその衣類はキモノというらしい。如何にも動き難そうだが、魔力と共に織られたキモノは運動能力を格段に上げるという。2は櫛で艶のある髪を整えると、その櫛を大きく開いた袖へと入れた。確か、中にポケットがあると言っていた。

「だな。もう周囲に魔物も、魔王の配下も居ないぞ」

「……雰囲気の事だ、雰囲気」

俺が魔力を探査し、魔王城の一段と巨大なそれ以外には周囲に無い事を確認してから2の言葉に同意した。2は先天的に生物が持つ魔力が『見える』ため、仲間にしたのだ。草むらに潜む魔物や山賊の奇襲から俺達が幾度と無く身を守ってこれたのは、2の特殊な目が有ってこそだ。
1がばつの悪そうにマクニフをホルスターに収めた時、1の肩を誰かが叩いた。1が振り返ると、2とはまた違った端麗な笑顔が其処にあった。

「そんな落ち込まないの~、私も魔力の探査なんか出来ないから、『――――』の味方よ~?」

妙に間延びした声の持ち主は、やはり名前が思い出せないので3とする。長く輝く金髪と、透けるほど薄い布を何枚も組み合わせたやけに露出度の高い服が目を引く。見かけとは裏腹に防御力はこのパーティーでも随一。何度鋭い牙の噛み付きを受けても、剣のような爪の切り裂きを喰らっても殆ど傷を負わず、すぐさま魔法で反撃する姿は印象的だった。

「……すまん」

1はそう言って顔を3から背け周りを見渡しているようだったが、俺には『ふり』だとすぐに分かった。女性と話すのが苦手な1の事だから、どうせ顔が茹蛸の様になっているのだろう。何時もの事なので、俺は気にしてないのだが。

しかし、ご丁寧に台詞にもノイズが掛かっているなんて。この記憶も随分高性能なもんだ。

「さて……それでは『――――』殿。そろそろ行くか?」

やはりノイズが掛かっているが、その女性とも男性とも取れない中性的な声は確かに俺の名を呼んだ。振り返ると、全身鎧を着込んだ俺より少し背の高い騎士が1人。先ほどの3人のように名前は思い出せない為、コイツの名前は4だ。まさに騎士といった性格と、武器。ロングソードで魔物をバタバタ薙ぎ倒す姿は、頼りになった。……しかし、全身鎧で少しの皮膚も見せない謎の人物でもあったりする。いつかそのメットを剥がすのは密かな夢だったりする。

「そうだな、行こうか」

俺が4の言葉に頷きとともに声を返した直後、硬く閉ざされていた魔王城の門が轟音と共に開きだした。俺達の道を塞いでいた紫色のおどろおどろしい門は、数分掛かってやっと動きを止めた。そのときには既に魔王への道は完全に示されていて、視線の先に見えるのは茨の森や底なし沼ではなく、ただ黒く、巨大な城がそびえているだけだった。城と俺達との距離はざっと500mぐらいだろうか。

「あぁ」

1が再びマクニフを抜き出し、魔力を充填しながら答えた。弾も発射用の火薬も魔力で再現する魔力銃は、込める魔力で威力が大きく変わったのを覚えていた。

「はい」

2が手を掲げると、長く紅い装飾がされた直棒の両端に少し湾曲した刃が取り付けられた……確かナギナタとかいった武器を召喚する。目は真剣なそれに変わっていた。

「オッケ~」

3は腰からナイフを取り出し、両手に持って構える。投擲武器としても使えるこのナイフ。3の命中率はすこぶる良かった。2とは違い、その目は何時もと同じだ。

「御意」

4は腰の鞘から長剣を抜き、両手で持つ。派手な演出こそ無いものの、技術はピカイチだった。多分敵を倒した数は、4が一番多いかもしれない。

「よし、行くぜ!」

俺の声と共に、一斉に足を踏み出す。魔王を討つ。その目的だけを胸に秘めて、歩き出したのだった。
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