第2章 鬼も福も逃げる戦場
さて、早速だが、読者である皆さんに問おう。
豆は歳の数だけ食ってるか? まぁ食っても食ってなくてもどうだっていい、俺は十七粒食えば済む話だから、市販の豆一袋で間に合う。
では、恵方巻きも食ってるだろうか? まぁ恵方巻きくらいは食ってるでしょう、南南東とかどのへんだよって言いたいけど。
んじゃ最後に質問だ、豆まきはしてるか?
こうなるとしてるっていう人は中々少なくなるだろう、まぁ豆が散らかるだけだから金と食いもんが無駄になるだけだからな。友達がいないとなるとそれはもう慰めることしかできないわけだが。
さて、俺のいる溝ノ口武蔵率いる混沌とした家族(?)は、やっぱり大騒ぎである。
「ふははははははは!!おまめさんが美味いではないか!!」
「いえいえ、御代官様のお料理には敵いませんよ・・・」
「なに?わたしの料理には敵わないですって?」
「あっ、いえ、その、美合様の料理も中々いいものですが・・・」
「お前らもう飯なんかくうなああ!」
「ぎゃああああああ!」
――――てな具合だ、全く騒々しい、恵方巻き食う時くらい静かだといいんだけどな。
この家庭(?)に普通を求めるのは多分ムリだろう・・・。
「よっしゃてめえら!今から恵方巻きを食うぞ!」
恵方巻きか、とりあえず俺も一緒に食うことにするか
「恵方巻きとな?」
「おおてんろくん!君がいればこの節分は完成しそうだ!」
完成って、何が完成するんだよ、俺が神じゃあるまいし。
「さぁ!俺は恵方巻きを食うぞファミリーッ!」
「黙って食え。」俺は頭にチョップをかける
「うぅ……」
そしてやっと全員が静かになったのを確認してから、俺らは恵方巻きをかぶりつく。
「よし、南南東がどこか分からなかったけど、今年はいいことあるそうだ」
こいつ、南南東がどこかわかってなかったのか、まぁ向いてる方角はあってたけど。
でも女子勢は何をふざけてたのか、鬼門の方角を向いてやがった。まぁどうでもいい。問題なのは突っ込む奴がいなかったということだ、まぁこれもどうでもいい。
「よーし!節分のお楽しみ、豆まきをやるぞ!」
………うげっ、豆まきか、嫌な予感しかしないぜ全く。
「関目さまと一緒に死ねるなら私は本望です・・・」
天童は相変わらず何を言ってるのかわかりやしねえ、さすが百合と言ったところか。
「よーし!全員鬼で豆をぶつけ合うぞ!始めぇい!」
……結局、この状況の整理をしきれないまま、武蔵の気分でこの節分豆まき大会は始まってしまった。以下、その悪魔の節分のご様子をお送りしよう。
「ハハハーァゥフ!」
「どうだ!おれのド変態成分が込められた豆は!」
「今のは…痛かった…痛かったぞォーッ!」
なんか飛んできそうな叫び声を上げた、ああよーしよし、痛いの痛いの飛んでグフッ
「てめーきめえんだよ!そういうのは美少女にやってもらうもんでしょうが!」
いや、俺は顔も体格も声も女なんですけど、見た目かわいいぺったん娘ですけど。
「キサマッ!例え見た目が女でも中身が男じゃグハァッ!」
女軍団の方から高速で豆が一粒飛んできた、盲管銃創でもできたんじゃねえのかこれ。
「男子、とくに紀伊。マジでうるさい。」
「………カァーッ!美人な天満橋さまに罵られた!これで勝つる!」
もういい、こいつドMだからどうしようもない。そう思いつつ俺は豆をビニール袋の中に詰め込み、そして紀伊の上で豆を落とした。
「………てめえ」
おお、これは良い感じに怒ってるぞ、気持ちいくらいにグハァッ!
「どうだ!マメリケンパンチの威力は!」
……豆が潰れて単なるパンチになってるじゃねえか、顎が歪んだかもしれん、そんなことはないけどな。いつから節分は殴り合い大会になったんだ。太字と斜め文字がうざいくらいに多くなるじゃねえかくそったれ。
「……紀伊、お前は絶対に生かして帰さん。」我ながら何いってんだと思うが、まぁ右手にたまねぎ、左手に包丁(!)じゃ誰だってビビるだろうな。
あとついでに目にゴーグル、鼻息は頑張って止める。これで完璧だ。さて、紀伊くんの泣き顔をしっかりと拝むとするか。
「あ、あれ?てんろくん?なにその包丁と玉ねぎは?」
「さて、予想してみて下さい、俺は今から何をするでしょうかぁぁぁ?」
「ひぎぃぃぃぃぃいいいいい!」
あ、やっぱり逃げやがった、でも俺の素早さに敵うやつなど誰もいないんだよ、ご成長ありがとうございました、人生の終わりです。さようなら、紀伊さん。
そして、俺は、玉ねぎに包丁を入れ・・・
「○○○!」
さて、皆様には俺が何を言ったか、予想してもらうことにする。まぁ目がやられるやつといったら「アレ」くらいしかなかったりするんだけどな。
「うああああああああ!目が、目がぁあぁあぁぁああああああ!」
こうかはばつぐんのようだ!
「さて、君の罪は一つある! 俺を殴ったことだぁぁぁぁああああ!」こうして紀伊を引っ捕らえることに成功した。
その後のことは描写するのも面倒なことになっていたのは言うまでもない。そして紀伊にとって節分がトラウマになってしまったのも言うまでもないことである。
「はぁ、元気があっていいねぇ」
美合が武蔵に対して話しかける。とわざわざ言ってみたが別に珍しい光景ではないので俺はなんとも思わない。むしろ俺と武蔵と紀伊のいずれかに話しかけなかった日があったなら多分翌日は地球が滅ぶんじゃないかと心配してしまう。
「そうかね?毎日毎時毎分毎秒元気じゃないか。」
なんだ何か長ったらしいこと喋ってたぞ、、まぁどうだっていいか。
「さてと、そろそろ私も本気出すとしますか」
「お、例の機関銃か?」
………ん?例の機関銃ってなんぞや? っていうかなんで武蔵は知ってんだ?
「はい、この日のための節分仕様・お豆さん機関銃発射☆」
ズドドドドドと、割と物騒な音をたてながら豆が大量に発射される、どっからでてきたんだその機関銃は。
「うわあああああ! いてえ! ちょっとやめてくれないか!」
「紀伊くんは鬼だ、鬼だから私は撃つ」
「待て待て待て他のヤツを狙えよ! 例えば天六とか!」
「いや、無理だね。あんな状況じゃどうしようもないよ。」
………ちなみに、当の俺はというと。
関目に苦しめられていた、というか胸に顔を締め付けられてるだけだけどね。
「さて坊や、あと何分耐えられるかしら?」
「………! ―――――――!」
声が届かない、っていうかどうしてこんな状況になってるんだ。全くこんなハーレムはいらないぜ、さっきから紀伊が叫びまくってうるさすぎて迷惑だ。
「ちょっとてんろくん!なんで私の関目ちゃんの胸にあたることができてるのよ!」んなこと俺も知らねえよボケ、と言いたかったが未だに締め付けられてるため、俺のその心の叫びが彼女に届くことはなかった。
そして俺はもうだめになったのでギブアップの意味を込めて床を叩いた。とりあえず俺の言いたいことがうまいこと届いたようで、やっと解放してもらえた。
……なにか、俺の後ろから黒いオーラを感じるが、気のせいだといいなぁ。
「天六!なんで関目の胸にあたってるのよ!」
「おや、嫉妬かい? 君が貧乳だから?(笑)」
「うるせぇぇぇぇぇぇえええええ!」
そのとき、豆が高速でこっちに大量に飛んできて、意識が強制シャットダウンを喰らったのは言うまでもない。
「………ん、ここは?」
目覚めた時、もう夕方になってて、豆の片付けがもう終わっていた。どうやら後に聞く話によると俺は武蔵に寝室へ運ばれていたらしい。
折角目覚めたので、リビングに戻ると………。
………みんな、二十歳超になっていた、なんてことはなくて、関目が美合に叩かれまくってた。
「なんで天六をあんなふうにしたのよ!」
「まぁまぁ、てんろくんは鬼なんだから、あれくらいしてあげないとね」
「やることが間違ってるよ!もういいよ関目なんか大ッキライ!」
いつの間にか喧嘩になっていましたとさ。何一つめでたくねえし。っていうか子供かあいつは。
「そんなこと言わないで、みんな悲しんじゃうでしょ?」
あれ、関目ってあんなんだったっけ、俺の感覚がぶち壊れ始めてきたぞ。
「なんで………なんであいつは関目さまになぐさめてもらてるんだ………」
そしてこいつは何なんだ、包丁片手に美合か関目のもとへ行ってグサッ。なことをしでかしそうで怖いんですけど。美合の場合だと「なんでアナタは私の関目さまをとるの?」みたいなことを言って、関目の場合だと「なんでアノ女に近付くの? 私はあなたのことが好きなのに」的な。うん、ただのヤンデレです、本当にありがとうございました。
まぁ、実際なにかが起こるなんてことはなくて、この喧嘩はお互いの和解により平和的に解決した。まぁ俺らのことだからこうなるのは予想できたけどね。
そんなわけで、これから余り豆を使って何かしら作るそうだ、作れるのかどうかはよくわからないけど、きっと美味いだろうと思う。
さて、これから晩飯だ、今日は何が出るのかね。