「……んで、なんの用? じーさん」
「お姉様、敬語を……」
「どうでもいいだろ。仮にも能力者だぞ? 私は」
「……」
二人がやって来たのは、村長の家。
部屋の壁は本棚で覆われており、たくさんの本が詰まっていた。
「……私がお前達を呼び出した理由が、分かるか?」
「はぁ? 何を言って……」
「『仮にも能力者』なのだろう? ミリアの方は読心術が使えるとも聞いた」
「……いや、あれはまだ練習中で……」
村長は口ごもるミリアに視線を向けると、すぐにそらした。
「まあ良い。今回、呼び出した理由はじゃな……
我が国が、隣国の挑発に乗り、戦争を開始したから
なんじゃ」
「隣国と……戦争を!?」
「どこの国だよ!?」
いきなりの通達に驚き、動揺を隠せない様子の二人。
「国名は……『聖リーフシェルト帝国』」
聖リーフシェルト帝国。
近隣国の中では最も人口が多く、軍事力も絶大な国である。
独自の「シェルト教」という宗教が栄えており、信仰も盛んである。
そして、この宗教の特徴故戦争時には非常に残虐な行動が多く目につく。
虐殺を行ったり、村を丸焼きにしたり、拷問をしたり……。
「敗者には死を」
という考えを基準とした国である。
そんな国と、戦争を……。
考えただけで悪寒が走る。
「リーフシェルト……」
「よりによって……! 王は一体何を考えている!?」
そんな二人とは対称的に、村長は酷く落ち着いた様子である。
「そして、これはそんな国王様からの命令だ。__存在する全ての能力者を集め、軍隊を作れと、な」
能力者を筆頭とした、特殊な部隊を作る。
……国王は、それをリーフシェルト帝国への対抗策としたのだった。
「ちょっと待てよ! そりゃあ、私は戦闘にもそれなりに慣れてるからまだいいさ。だけど、カルティエは!? コイツはまだ11歳を過ぎたばかりなんだぞ!?」
「……お姉様……」
冷静さを失い、村長に対してそう叫んだミリア。
怯えた様子でそれを見守るカルティエ。
「『全ての能力者を』というのが国王の命令。年齢は関係無いのだ」
「そんなの……っ! 私が許すと思うのか!?」
ボッ、と音を立てて、ミリアの左手に小さな青白い炎が現れた。
「お姉様、落ち着いて__!」
カルティエのその言葉で火を消した物の、ミリアが焦っているというは事誰が見ても理解出来た。
「それなら、カルティエに代わる新たな能力者でも生み出したらどうだね? 最も、そんな事が出来るとは思わないが」
「カルティエは生まれつき体が弱いんだぞ!? そんな……戦争なんて……」
ミリアの声が段々と小さくなってゆく。
……と、次の瞬間。
ミリアが床に座り込んだ。
「お姉様!?」
「お願いだよ……カルティエだけは……」
ミリアの目からは涙が溢れ、床に少しずつ落ちていった。
「うむぅ……」
そんなミリアの様子を見て、村長は困ってしまった。
村長とて、感情が無い訳ではない。
孫だっているのだ。
同世代の少女の泣き顔には弱いのであろう。
「お姉様……私なら……」
『私なら大丈夫』。
カルティエはそう言おうと思ったが、自分の体が弱いことぐらいは知っているし、姉がそれをなによりも気にかけていることを分かっていた。
「……ふむ、仕方がない……。……ミリア」
「なんだよ……っ」
「お前の功績次第では、カルティエを戦争に出さないで済むかもしれぬぞ」
「本当か!? ……いや……本当ですか?」
「ああ」
ミリアの瞳から、輝きが少し……消えた。
「やってやるよ。相手を倒せばいいんだろ? カルティエが戦争に出ないで済むなら、私は……誰にだって立ち向かってやる。そいつを倒してやる」
「……お姉様……?」
カルティエは、ミリアの様子が少し変わってしまった事に驚きを隠せなかった。
「仕方あるまい……それで許可しよう」
……この時。
ミリアの未来視の力は完全では無かった。
そう、完全では無かった……。
だからこそ、これから起きる事態を知らなかったのであろう。
いや__
知らなくて、良かったのだ。
最終更新:2012年10月21日 18:49