今から300年以上も、昔。
現在よりも能力者の数が少なく、希少とされていた時代だった。
そんな時代だから、能力者はとても優遇されていた。
……そう、それがどんな『厄介者』で『悪戯っ子』であっても。
「やーい、騙されてやんのー♪」
「酷いよお姉ちゃん、嘘つくなんて!」
「え? 私は別に『水が飲みたかったらおいで』って言っただけで、どんな飲み方をするとかは言ってないだろ」
「だからって頭からぶっかけるって……!」
「私がそういうヤツだってお母さんから聞かなかったのか?」
少年が気付いた時には、少女は既に木の上に腰掛けていた。
「あーっ、木に登るなんてずるいよ!」
「登ってない。座ってるだけ」
金髪ショートヘアの少女は、ミリア。
正式には「ミリア・スカーレットライナー」。
彼女の住む村で唯一の能力者である。
いや……唯一ではなく、『もう一人の』と、言うべきだろうか。
「お姉様~……っ」
やがて、もう一人の能力者が現れる。
「……あれ? 君、どうしたんですか? ビショビショになって……」
「ミリアにやられたんだよー!」
彼女の名前は、カルティエ。
正式名称は「カルティエ・スカーレットライナー」。
「あら、お姉様に……乾かして貰ってはいかが? お姉様は火魔法も使えるはずよ」
「そんな事したら火だるまになっちゃうよー!」
少年の年齢は7、8歳程度だろうか。
声変わり前の幼さを残した少年である。
「火だるま? ……あぁ、確かにそうね」
「認めた!?」
そんな少年を見て、カルティエはクスリと笑う。
「仕方ないわね……私の能力で、あなたが水を浴びたのは無かった事にしてあげるわ」
「無かった事に……?」
「あなたがお姉様に水をかけられたというのは幻影でした…………と。どう? 服が乾いてるはずよ」
「……あ! 乾いてる!」
「おー、久しぶりに見たなーカルティエが未来ねじ曲げるの」
「ありがとー、お姉ちゃん!」
少年は礼を言うと、去って行った。
「因果律操作と言ってくださいな。……あ、それからお姉様。村長がお呼びですわ。何かやらかしたんですの?」
瞬間、ミリアはカルティエの横に降り立っていた。
「いや……心当たりは無いな」
「そうですか……じゃあ大丈夫ですね。行ってらっしゃいですわ」
「ああ。行って来るよ」
……この『呼び出し』のせいで二人の未来が変わってしまうとは、未来視の能力を持つミリアにも予想出来なかった事だった。
最終更新:2012年08月19日 19:05