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総統閣下は自分の現状にお怒りのようです ◆XVQJu8nbLY



口髭を蓄えた壮年の男性は地面に落ちていた眼鏡を見下ろして、物思いに耽っていた。
どうやら会場に飛ばされる時に彼がかけていたものが落ちたらしい。
これは支給品ではなく衣服にカウントされるのか。
もしもの時のために携帯していた拳銃が取り上げられているところを考えれば、取り上げられるのはあくまで武器だけ、衣服その他小物はその範疇に含まれないということか。
そう一人で納得した彼は、周囲を見渡し、一人ごちる。


「つまり、そういうことか」


男は震える指で眼鏡のフレームを掴み、眼鏡をかけ直す。
先ほどより鮮明になった視界が捕えるのは、背の高い木立と乱雑に放り投げられているデイパック。
そして、頭上には自分とその周囲を煌々と照らす満月。
視界に映る全てが、彼にこう伝えていた。
これは現実だ、実際にお前の身に起こっている出来事なのだ、と。


「……全部、夢じゃなかったってことか……アンポンタン……」


それは、あまりに突然の出来事だった。
数分前まで彼は確かにいつものようにブリーフィングルームで部下の運ぶ情報を待っていたはずだ。
というのに、気付いたら見知らぬところに引っ張り出され、理解が及ぶ前に外に放り出された。


最初こそ、なにかの悪い夢だと思っていた。
しかし、頬をくすぐる冷たい夜風の感触は、踏みしめた大地の感触は、夢ではない。
首を冷やしている鈍い金属の感触が夢なはずがない。
ならばあの、あまりに現実離れした宣告すらも、夢として片付けられない。


『最後の一人になるまで殺し合え』


男は一度大きく息を吸い込むと、こう叫んだ。


「どういうことなんだよ!!」

「これはなんだ!? 今まで散々色々な物をこきおろしてきた罰か!?
 だからってなにも、クール終了寸前の最終回シーズンに引っ張りださなくてもいいだろうが!!
 最後の一話で簡単に評価は覆るんだぞ!!」


男の怒気にまみれた大声で叫び散らす。
それに答えるように、デイパックの中からシューシューという呼吸音が漏れたが、男の怒りは収まらない。
それどころか、その音に煽られて激情はますます勢いを増していく。


「そりゃあ色々な意見を述べてきた! だがそれは愛があってこそだ!
 愛がなければはるばる日本から祖国までアニメを持ってこさせたりするわけがないだろうが!!
 こきおろしただけで愛がないと決めつける頭の固い奴なんて大っ嫌いだ!!」


的外れな怒りを撒き散らしながら男の怒号は続く。
それもそのはず。複線回収が最終話頼みになる最近のアニメで一番大事な最終話を見逃してしまったのだ。
国に帰ればBDやDVDが届いているだろうが、生で見てこその迫力と緊張感はもう一生手に入らない。
特に、手抜きされていた作画が最終話で不死鳥のように甦る様は生で見ているからこそ味わえる特権。だからBDよりも生の方が好きだと言う人も多いとか。

さて、閑話休題。視点はもう一度殺し合いの渦中の男へと戻る。


「仮にだ! 百歩譲ってこの殺し合いに乗るとする!!
 わしも軍人だ! 殺せと言われれば殺す! 不本意だがなぁ!!
 国に残してきた人民のためだ、そこ100人足らず殺すくらいでビビらん!」


事実、男の双肩には祖国の数百万人の命がかかっている。
普段はアニメやゲーム、日本のバラエティなどにうつつを抜かしていても、そこは国のトップ。
この場所に居るであろう数十人と祖国で自分を待つ数百万人、どちらをとるかなんて比べるまでもないことだ。

彼が、ゲームスタート直後の混乱の抜けきらない頭で最初に考えたことも、『優勝への道』だった。
武器を手に持ち、他者を出し抜いて優勝し、祖国に帰ることしか頭になかったと言っても過言じゃなかっただろう。



だが―――

「そう踏ん切りをつけた結果がこれだよ!」


デイパックの口を乱暴に開き、その場で地面に中身をぶちまける。

中身は数分前、初めて開いた時となんら変わってはいない。
蠢く『なにか』が、デイパックの半分以上を占めていた。


中から半身を出している、およそ生き物とは思えない色をした『なにか』。
『なにか』はずるずると自分の体を引きずりながら起き上り、男性の方に向き直る。

のっぺりとした、まるでペンキで描かれたような顔。
ひょうきんなのか無愛想なのか、それともなにも考えていないのか、なにも図ることのできないうろんな瞳。
暗闇の守りの中では、一瞬見失いそうになる迷彩色のボディに取ってつけたような四つの脚。
その脚で、歩くでもなく這うでもなく、滑るように器用に男の方へ近づいてきた。

眼鏡のレンズ越しに二つの視線が交錯する。
男も『なにか』も何も喋らない。
二人の間に見えない壁でも存在しているように、お互いのを、ただただじっと見つめ合う。

そして、満を持して、『なにか』がその第一声を発した。




 . ______
 |        .|
 |        .|
 |  ■   ■ .|
 |   . ■    |  <シュー
 |  .■■■  |
 |  .■  ■  |

呼吸音を撒き散らすだけの、初対面の男に対して警戒心や敵意のかけらも示さない生き物。
それが、男性の唯一の支給品。
それこそがこの地で生き残るための唯一の可能性……だったものだ。


「主催者なんて大っ嫌いだ! 殺らせる気あんのかバーカ!!!」


デイパックから出られたことがよほど嬉しかったのか、『なにか』はシューシューという鳴き声をあげながら楽しそうに男の周囲をくるくると歩いている。
その生き物の様子を見て、男の怒りのボルテージはとうとう頂点に達した。


「畜生めぇぇぇぇええええええええええええ!!!!」


かけなおした眼鏡を思い切り地面に叩きつけ、地団太を踏みならし、体の全てを使って怒りを表現する。
はたから見れば、それはもう滑稽な光景だっただろう。
だが、男はいたって真面目である。それほど、この出来事が彼の堪忍袋の緒を千切るにふさわしい出来事だったのだ。
男の言葉は続く。


「こんなよく分からん生き物一匹押しつけて、はい殺し合ってくださいだと!?
 わしだってユーモアに富んだ方だ! だがこんな場所での命張ったジョークなんて誰も期待してない!!」


「ああ、危機意識が足らんかった……技術革新に慢心して生身での格闘の練習なんてしようとも思わんかったからな!
 こんなことなら周りの目など気にせずキン肉バスターや二重の極みの練習をしておくんだった! そう、スターリンのように!!」


一風変わった男の演説。傍聴者は『なにか』一人。
『なにか』はまるで男の演説に賛同するように、飛び跳ねて、その存在を示す。
それを一瞥した男は、憎々しげにこう付け足した。


「そもそもなんだこの生き物は!! もしやる気を起こさせたいんだったらもっと分かりやすい生き物にするだろ!
 こう、男の本能を揺さぶるような、おっぱいぷる~んぷるんのな!!」

男が一気に捲し立てた後、一人と一体の間に再び沈黙が流れる。
肩を怒らせていた男も、その沈黙と夜の冷たい空気で次第に冷静さを取り戻し始めたらしい。
体中の怒気を吐き出すように大きく深呼吸をして、誰にともなくこう弁解した。


「……確かに、おっぱいがでかくてもこの状況じゃやる気は起きない……
 わしもその辺はしっかり分かってる……」


あえてそこから訂正したのは、やはり男としての性なのだろう。
男は乱暴に頭を掻き毟るとさらに大きく一息ついて。
寂しそうな目で『なにか』を見つめてこう呟いた。


「でも、お前でなにをしろっていうんだ……?」


緑色の不思議な生き物は男の問いかけなど気にもかけていないようで、彼の顔をのぞき込んだり、足元でピョンピョン跳ねたりを繰り返すだけ。
男は、最後にもう一度小さくため息をついて、不思議な支給品にこう告げた。


「……行こう、生き物……」


―――


とりあえず恒例のやり取りを終え、移動する道すがら、総統閣下は考えていた。
自分はどこへ向かい、何をするべきなのだろうか。

最終的な目標はすでに決まっている。


『ストーリーだけなら生じゃなく、BDで見ても一緒。ただ、最終回を見ないっていうのはムカムカする。
 新アニメやコンプリートBOX特典を見るために祖国にも帰る。あと国民のためにも』


優先順位はともかくとして、第一として心にあるのはやはり祖国の事だ。
なんとかして祖国に帰りたいが、彼の頭脳を持ってしても、帰る方法は二つしか思い浮かばない。

一つは優勝。これはほぼ確実だが落とし穴がある可能性も否めない。
勝てば帰すなんて口約束、反故にされてしまえばそれまでの努力はパーになるのだ。
そしてもう一つが主催者の打倒と脱出。こちらはハイリスクハイリターン。
様々な障害はあるが、全てを乗り越えられれば祖国に帰ることは容易だろう。

そして、どちらを選ぶにしてもさしあたった問題が一つ。


「なにかのゲームのモンスターにも見えるが……それにしてはマヌケな顔だ。
 武器を持てそうもないし力も弱い。戦力にはなりそうにないな」


単純な力だ。生き残るための力。
先に彼が激昂していた原因はつまるところがこれ一つ。
満足な武器があれば、道も自ずと開けてくるだろうに、彼が手に入れたのは不思議な生き物ただ一体。
これでは生き残れるものも生き残れない。
ならば考えられる生き残りの方法は、どうにかして武器を手に入れるか、強い者の庇護を受けるかだが……
しかしこれにも問題が付き纏ってくる。


「皆が皆殺し合いに否定的な誇り高い人道的な奴ら、なんて楽観視は出来んだろうな」


そう。自分がどのようなスタンスであれ、それは他人には関係がないのだ。
もしかしたら、この場所には自分以外は猟奇殺人者が集められているかもしれない。
もしかしたら、敵国の幹部クラスが集められているかもしれない。

そうとなれば、自分から話しかけるなんて選択はできるはずがない。
いや、仮に相手が普段正義感が溢れる好青年でも、信用することは出来ないだろう。ことこの場所においては。


最初に集められた場所で見せられた光景を反芻する。
主催者側の一人であるディアズと、人質にされていたジェニー、その父親と思しきメイトリックス大佐。
メイトリックスはいとも簡単にディアズを殺して見せ、そしてジェニーのためにその矛を収めた。
つまりメイトリックスにとってジェニーがそれだけ大切だということ。
正義感にあふれた男が、少女を救うために殺し合いに乗る。そういう可能性も捨てられないのだ。

ふと、いつものすちゃらかメンバーや、妻子の顔が脳裏をよぎる。
チクショーメ!とか大っ嫌いだバーカ!などと騒ぎ散らして困らせたことも多々あったが、嫌いなわけではなかった。
趣味の相違から他愛もない口喧嘩を重ねたこともあったが、それは気を許していたからこそ。
彼らは無事だろうか。こんなふざけた地に呼ばれてはいないだろうか。


「……そういうことか、畜生め。なんともまぁ、上手い方法を考え付いたもんだ」


唐突にそう呟くと、鞄からまっさらな紙を取り出しで感慨なさげに一瞥した。

つまりこの『見えない参加者名簿』も、主催者の罠の一部だったということ。
名簿を最初から見せないことで参加者の不安を煽り、ゲームを加速させることが狙いだろう。
愛する者が呼ばれているのではないか、そう勘違いして救うための殺戮を犯す者が現れるだろう。
一回目の放送ですでに脱落していることを知り、後悔の念と怒りから報復に走る者も現れるだろう。
これは言わば、火打石だ。人間の焦りという導火線に火を付けるための。

それが、一説によるとIQ150というヨコハマの天才美少女の初期設定すら凌駕する総統の出した結論だった。


「とりあえず、名簿が使い物にならない間は何もできんな。下手に動けばそれこそ奴らの思うつぼだ。
 乗るだ乗らないだは、第一回放送後から決めよう。今は……」


指で首輪をなぞる。
主催者の持つ拘束力はこれ一個に尽きる、そのため、これを外せるとなればかなり有利に事を進められるようになるだろう。


「これを解除できるものが支給されている可能性もあるかどうかだが……こんな不思議生物が居るんだ。あってもおかしくないだろう。
 なんにせよ、情報が少なすぎる。コイツの完成度や精度もそうだが、主催者の事、参加者の事、支給品の事、地図の事、なにも分かったもんじゃない」


戦争を左右するのは情報の正確さと量だ。少なくとも祖国はそれを積み重ねて勝ちを得てきた。
ならば、この場所でもやることは一つ。


「知りたいことが多すぎるが、一つ一つ地道に調べていくしかなさそうだな」

とりあえずの方針は以下の通り。
この『盤上』で行われる命がけの情報戦の攻略。
ありとあらゆる情報を制し、地の利を得て、自身が祖国に戻る礎とする。
最終的に誰を敵に回すにしても、築き上げた情報の城で迎え撃つのみ。

そのために必要なのは、何をおいてもまず信頼に足る情報の確保だ。
舞台を実際に見て回り、人を観察し、言葉を交わして、情報を得て。
そうして下準備をして初めて、総統閣下のバトルロワイヤルは始まる。


「このあたりで、なにかが掴めそうな場所は……」


ポツリと呟いた独り言に、答えるように後ろから響く呼吸音。
歩みを止め、三歩後ろを付き従う『なにか』に向き直る。

自分の常識の外の生き物。彼もまた、与えられた情報の欠片だ。
閣下は数瞬彼を見つめると、そのまま、今までよりも分かりやすく彼と向き合った。


「そういえば、お前を知る者もこの地にいるのかな?」


言葉の通じないものとのコミュニケーションを図る。現実主義的な閣下にしては珍しい行為である。
祖国に『オカルト』の存在を信じていた土壌があったからこその発想かもしれないが、真意のほどは分からない。

やはりというべきか、『なにか』は答えない。ただ、ピョンピョンと飛び跳ねるだけ。
しかし、総統にはそれが彼なりの『肯定』の証だと思えた。


『なにか』がなんなのかは十数分一緒にいた今でもさっぱり理解できない。
しかし、コイツが自分にとっての妻子、メイトリックスにとってのジェニーである可能性もないわけではない。
できるだけ早いうちに、素性を知っておくにこしたことは無いだろう。
そういった意味合いを込めて、総統は

「そうか。なら急ごう」

とだけ言って、今度は不思議な同行者の方にも気を配りながら再び地図に視線を落とした。

男一人と生き物一体。
夜の帳が隠す未来に向けて、まだ歩きだしたばかりだ。


【F-05 森の中/1日目 深夜】
【総統閣下@総統閣下シリーズ】
[状態]:健康、怒鳴り終わって賢者モード
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式+?
[思考・状況]
基本行動方針:生きて祖国に帰る
1.情報収集。首輪の解析
2.スタンス先送り。第一回放送から本気出す
3.この生き物はなんなんだ、チクショーメ!
4.メイトリックスを警戒……?

[備考]
※出典はあくまで総統閣下シリーズ、現実や最後の十二日間での真面目な独裁者ではありません
※サブカル知識も豊富ですが、なんらかの制限がかけられている可能性があります



さて、博識なニコニコ野郎の読者諸兄ならすでにお気づきだろう。
彼が与えられた支給品は、まったくのハズレというわけではない。
むしろ、個人的な相性(一見ハズレのオリーブオイルを武器に代えるほどの愛称)を除けば、大当たりと言ってもいい支給品である。


男のデイパックから出てきた『なにか』

それは、ある時は初心者に手厚い洗礼を行うトラウマメイカー
またある時は新築物件を見つけてはリフォームを仕掛けてくる意匠変えの達人
そしてまたある時は、実況動画のマスコットキャラクター

彼が、彼こそがクリーパー。
マインクラフトの世界を代表する悪意の体現者。


シュー シュー


低く、小さく、しかし確かに、呼吸音が響く。
彼の目覚めは、まだ遠い……


総統閣下に与えられた支給品は一つ。
マインクラフトの『クリーパー』。
そしてそれを武器として扱うための『説明書』。

冷静さを欠いた閣下が見落とした説明書は、未だデイパックの奥に眠る。
閣下がそれに気づくまで、彼はひたすらに息をひそめ、ただただ追い回す。
自分の存在意義を。


【クリーパー@マインクラフトシリーズ】
[状態]支給品、首輪なし
基本行動方針:総統についていく、総統の合図で爆発する

※爆発命令以外の言語コミュニケーションは不可能です
※大きさは実際の三分の一程度(総統閣下の腿あたり)です。爆発の威力もその分弱まっています

以下、総統閣下が未読の【クリーパー説明書】(総統の支給品の+?です)

  • クリーパー
 マインクラフトシリーズに登場する敵で、周囲を巻き込んだ自爆を行います
 今回支給されたクリーパーはその知能向上・性能劣化版となり、
 むやみに爆発せず、あなたの出す自爆命令に従いますが、威力はさほど強くありません
 また、命令がなければ爆発をすることもありません
 しかし、爆発の権利を持つ者(最初に目を合わせた者)が死んだ場合に限って、彼は近くの参加者に突っ込んで自爆を行います。お気を付けください
 爆発権利の譲渡はクリーパーの目の前で行い、相手の承諾があれば可能です
 ちなみに、レベルをあげて物理で殴ることで爆発させずに殺すことも可能です

sm28:いったい何が始まるんです? 時系列順 sm33:The Fantasy Flaps in Starlit Sky ~果実の罪をお許しください、星の光にガラスの羽は煌めくから~
sm28:いったい何が始まるんです? 投下順 sm30:真夏の夜の淫夢!グレイト・クレイジー・ティロフィナーレ
総統閣下 sm:34青鬼ごっこ




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