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Operation TomodachiⅡ~未来への咆哮~ ◆czaE8Nntlw









遠ざかっていく勝治とシャロの背中を眺めながら、譲治は権兵衛へと話し掛ける。

「…権兵衛、君はどうにも頭が切れるようだけど、僕にしてみれば大馬鹿者だね」
「馬鹿で結構。むしろ私にとって馬鹿は褒め言葉ですがね」
「黄金の魔女にたった一匹で挑む犬畜生。全く素晴らしい度胸だよ」
「ほう…魔女、ですか。では、一つお訊きしてもよろしいですか?」
「時間稼ぎのつもりかい?…まぁいいさ。どうせ一瞬で決着は着くんだ、少し遊んであげるよ。それで、何を訊きたい?」

禅問答なら得意分野だ。如何に権兵衛が知識豊かとはいえ、千年間生きてきた自分には敵うまい。
そう心の中でほくそ笑んで、譲治は権兵衛の質問を待つ。
だが、権兵衛が口にしたのは思いもよらぬ問いだった。

「貴方は自分が魔女である、と証明出来ますか?」

今更、この犬は何を問うているのか。
仮にも切れ者だなどと思った自分が馬鹿だった。所詮野良妖怪の犬だ、全く意味のない質問をするとは馬鹿にも程がある。

「ははははは!!質問というのはその程度のことか!?
当然、出来るに決まっているだろう!
僕はジョージ・ベアトリーチェ。千年を生きた黄金の魔女。僕がここにいる事そのものが、僕が魔女であるという証拠そのものだ!!」

高笑いする譲治を尻目に、権兵衛は内心でガッツポーズをしていた。
策は成った。このような自尊心の強い高慢な連中は、往々にして自己の存在を他人に認めさせようと躍起になるものだ。
ならばそれを徹底的に否定してやればいい。存在を否定し、思い上がった自尊心を叩き潰す。
そうして彼らを怒らせ、冷静さを失わせる。
そこに、付け入る隙が出来る。
かくなる上は、どの様な詭弁でも構わない。とにかく彼のアイデンティティである“魔女”というものを徹底的に否定する。

「…サン・ジェルマン伯爵という人物をご存じですか?18世紀のフランスに現れた、不老不死を名乗る錬金術師の男性だったそうですが…彼について面白い説がありましてね。
それによると、彼は不老不死でも何でもない、一介の詐欺師に過ぎなかったと言うのです。
数百年間も同じ人物が存在しているかのように、歴代の詐欺師が“不老不死のサン・ジェルマン伯爵”を演じ続ける。
言動さえ過去の人物と一致していれば、容姿が多少変化したところで怪しむ人間は居ませんからね。
いや、過去のサン・ジェルマン伯爵を知る人物が死んでしまえば、全くの別人でも構わない。
何故なら不老不死であるのは彼だけですからね。他の人物は皆、彼より先に死ぬ。
只の人間に彼が不老不死なのか、それともペテン師なのかなど判別がつけられる訳がない。
…譲治さん、貴方は本当に魔女なのですか?本当に千年を生きたのですか?本当だというのなら、是非それを証明していただきたい」
「…笑わせるな犬畜生。私が詐欺師だと!?ふざけるな!私は魔女だ!赤き真実がそう告げている!!お前の意見など、詭弁に過ぎない!!!」

淡々と話し続ける権兵衛に譲治は僅かな恐れを抱き始めていた。
この犬が言っている事は何の証拠も無い、只の仮説でしかない。
だが、その言葉一つ一つには凄まじい重みが籠っている。
コイツは似ているのだ。あの忌々しい探偵気取りの小僧────右代宮戦人に。

「赤き真実?それが真実である証拠などどこにも無い。
貴方が魔女であると主張しているのは貴方だけだ。
“貴方が魔女であること”を証明するに必要な第三者の意見が無い以上────。

今、この場には“貴方が魔女である”事を証明するものなど何一つ無い!」

その瞬間、世界に音が響いた。
何かが弾けた様な、割れた様な、不思議な音。
その音は、譲治にとって何よりも大切な“魔法”を切り崩した音だった。




────バトルロワイアル開幕前、ルシフェルと譲治は参加者の選定を行っていた。

「さて、“幻想郷からの参加者”はこれくらいで充分かな」
「待ってよルシフェル。面白い参加者を見つけたんだ。ほら、コイツ」

そう言って譲治はルシフェルに一枚の書類を手渡す。
ルシフェルは気だるげにそれを受け取ると、さらりと全体を流していく。

「なるほど…権兵衛、か。中々に興味深い」
「でしょ。彼も参加させちゃおうよ」
「ああ、了解だ。制限はどうする?」

書類に記された、“ありとあらゆる概念を解体する程度の能力”の部分を指でつつきながらルシフェルは問う。
そうだね…と譲治は考え込み、一つの結論へと至った。

「使えなくするってのも面白くないし、効果を弱体化して、なおかつ本人が力を自覚していない時系列から連れてこよう」
「よし、それじゃあこれでいいな。次は…」



そうだ。この犬には特殊能力がある。それもかなり強力な能力が。
もちろん大幅な制限のおかげで、そう自由に使えなくはしてある。
だが、この犬はさっき何と言った?
“貴方が魔女であるとは言えない”。その台詞は、自分が魔女であるという概念を崩壊させたのではないか。

譲治は動揺を隠せぬまま、ナイフを取り出そうと力を込める。
しかしその呼び掛けに応えるものは無く。
能力を失っている、と初めて自覚した。

(…………いや、大丈夫だ、問題ない。参加者に制限を掛けたのはこの僕だ。
コイツの能力はかなり弱体化させた。崩壊した概念だって、時間が経てば戻るように調整してある。
つまり、この状況さえ切り抜ければどうにかなる!)

魔法が使えないのは痛手だが、相手は犬っころ。
それに、如何に強力な能力を持っているといえ、戦闘には役立たずだ。
ここで殺そう。
何よりも、ここまでコケにされて生かしておけるはずは無い。
強烈な怒りに震えながら、譲治は武器を取り出した。

「糞ッ糞ッ!犬畜生如きが生意気な真似をしやがって!…殺す!殺してやるッ!!」

トンプソン・コンテンダー、かつて魔術師殺しと呼ばれた男の使っていた武器。
その銃から放たれる特製の“起源弾”は、被弾した者の魔術回路を破壊し二度と魔術を扱えないようにしてしまう、いわば魔術そのものを打ち倒す弾丸である。
魔術という非常識を打倒する為の弾丸は、同じ非常識の存在たる妖怪を傷つけるには充分と言えた。

「…仕方ありませんね。では、私も」

対する権兵衛もデイバッグの中を漁り、どうにか扱えそうな武器を取り出す。
それは重厚な雰囲気を漂わせる大鎌。
西洋の死神を彷彿とさせるその鎌を口に咥え、権兵衛と譲治は対峙した。
銃と刃物。
一見すると結果は見えているようなその闘いだが、このような至近距離ならば大いに逆転の余地はあった。
間合いに入ってしまえば、銃よりも刃物の方に分がある。加えてトンプソン・コンテンダーは単発式。
一発しかないその弾丸を外してしまえば、それは敗北を意味する。
故に、両者とも迂闊には動けない。
睨み合ったままの一人と一匹の間を静かな風が通り抜けていく。
その風が止んだ時、権兵衛と譲治の姿は空中へと移っていた。
先に飛び掛かったのは権兵衛。譲治も権兵衛の姿を認めるよりも先に走り出し、一気に距離を詰める。
権兵衛の大鎌の間合い。それは同時に、譲治のコンテンダーの必中距離。

(一発は確実に食らう。だが…)
「死ねぇぇぇぇぇ!糞犬ッ!!」
(彼の首は必ず落とすッ!!)

鎌を咥えたまま一直線に突き進む権兵衛に、譲治は銃口を向けて絶叫する。
この距離でからであれば、放たれた弾丸は確実にその忌々しい身体を貫くだろう。
だが、魔法の使えない譲治もまた権兵衛の刃からは逃れられない。
弾丸と、刃。
一瞬で勝負は決する。相手より一刻でも速かった者だけが生き残る。
その刃を白銀に煌めかせながら、真っ直ぐに突き進む鎌。
鈍い鉛色を響かせて、大気を切り裂く銃弾。
両者は空中で激突し、そして────。












「ぐ…ああ……」

立って、いたのは。

「な゛ん、で、だよおぉぉ……」

────犬畜生。
首筋から鮮血を吹き上げて、譲治は空を掻き毟る。
全ての恨みと、全ての憤りを塗り込めた叫び。
それはどのような呪文より強力に、聞く者の精神を蹂躙していった。

「僕が、殺さ、れ゛るなんて、あ゛り得るものかッ!!!!認め、ないッ!!!絶対に認めな゛いぞぉぉぉッ!!」
「そう騒ぐ必要も無いでしょう。どうも高慢な人間ほど死を恐れるようだ。…それに、私とて傷を負った。どの道長くない」

両者が激突した後、権兵衛は確かに立っていた。
だがそれは無傷の勝利を意味している訳ではなかった。
左前足に空いた穴と、その周りを染め上げるドス黒い汚れ。
この闘いに、勝者は居なかった。両者とも傷を負い、しかもそれは致命傷だった。
行き着く結末はどちらも“死”のみ。ただそれが訪れるのが速いか遅いかの違いだけだ。

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぢぐじょおぉぉぉ………」

それでも、譲治は受け入れられなかった。
何故、自分が死ななければならないのだ。しかも、こんな有象無象の参加者に惨めに殺されて。
認めるものか。
黄金の魔女は死なない。絶対に、認めてなど────。

「諦めな、ベアトリーチェ。お前の負けだ」

どこかで、怨敵の声が聞こえた。

「…ッ!!!戦人アアアァ!!!!」

最期まで全てを恨み、憎しみ、憤って、譲治…“ジョージ・ベアトリーチェ”は死んだ。
その最期を権兵衛は一瞥し、虚空へと独り呟く。

「因果応報、ですね。…精々私も苦しむとしましょう」

立ち上がる力を失い、権兵衛は草原へ倒れ込む。
無理矢理に楔を打ち込んだ様な銃創からは、黒紫色の血液がどろりと流れ出している。
立ち上がる事さえ出来ないのだ、この出血量では数分と保つまい。
いや、むしろこの出血で生き長らえていることそのものが驚きだ。
腐っても妖怪、ということか。

「人の身がどの様なものであったか…その記憶はもう私にはありませんが、妖怪というのも、案外に良いものなのかも知れませんね」

権兵衛は背中に乗っていた早苗の顔を思い出して、一人で笑った。

これで良かった。人殺しは妖怪、獣の役割でいい。
彼らには真っ直ぐなままでいて欲しい。
彼らは純粋だ。他人を疑うこともしない、ともすれば危険とも言える程に純粋だった。
それはこうした情け容赦の無い催しでは大きな枷となるだろう。
だが。
同時にこの荒んだ場においてこそ、その純粋さは一層大きな意味を持つ。
あの主催者達に立ち向かう時、何よりも必要なのは純粋に……ただ純粋に全てを信じることなのだから。
清々しい程に真っ白な彼らの戦に、小賢しい妖怪の居場所は無い。
だから、これで良かった。

(ああ…………でも、願わくばもう少し、一緒に居たかったですね)

もはや言葉を並べるだけの気力も体力も残っていない。
だが、最後に一つだけ、志を伝えよう。獣である自分が出来る最も単純な意思表示で…。

(東風谷さん、シャーロックさん、リュウセイ君。貴方達なら、きっと…)

自身の身体に残る最後の力を掻き集め、権兵衛は吼えた。
白昼、太陽の下で死に行く獣の放った叫び。
太く、長く、力強いその咆哮は、一匹の獣が死に絶えるまでその声を響かせ続けていた。



◆◆◆




「ハァ、ハァ…ここまで来れば何とか…」
「大丈夫ですか?勝治くん」

息を切らしながら走り続けた勝治とシャロ。
何時の間にかあたりの地面は傾斜を持ち始めている。どうやら山に近づいているらしい。
周囲に人気は全く無い。

「もう…大丈夫みたいだ。少し休憩しようか」
「ええ、でも、私より勝治くんの方が…」
「はは……大丈夫、だよ。権兵衛さんと、約束したからね。シャーロックちゃんを守る、って……」

勝治は立木に身体を預けて、乾いた笑いを浮かべる。
その顔色は生者と思えないほどに白く。

「どう見ても大丈夫じゃないですよ!こうなれば秘伝の風邪薬で…」
「…………」
「…勝治くん?」

勝治は立木にもたれたまま、眠るように────死んでいた。


【松岡勝治@人造昆虫カブトボーグV×V】 死亡


「勝治くん!勝治くん!しっかりして下さい!!勝治くん!!」

勝治は死んだ。
だがまだ助かるかも知れない。ここで勝治を見捨てる訳にはいかない。
助けを呼ばなくてはならない。シャロはデイバッグの中にある支給品に手を伸ばす。
拡声器。
これを使えば助けは呼べる。どこにいるか分からないアルセーヌやリュウセイと連絡が取れるかもしれない。
だが、同時にオリーブ男のような危険人物も寄ってくるだろう。
どうすればいいのだろう。勝治を助ける事を優先すべきか、自分の安全を優先すべきか。
逡巡するシャロの耳へ、一つの声が響いた。
声というには少し荒々し過ぎる、獣の遠吠え。
シャロとて探偵の端くれである。その遠吠えを誰が発したのか、発した人物がどうなったか、容易に想像できた。
空気を切り裂いてその声を響かせる絶叫。それはやがて弱々しく変化して、やがて何も聞こえなくなった。
だがその咆哮に込められた意味と志は、縮こまっていたシャロの勇気を奮い立たせるには充分なものだった。

少しだけ震える手で、持ち手をしっかりと握り締め、その先端を虚空へと向ける。
キィン、というハウリングの音が辺りへ響いた。
もう迷っている時間は無い。シャーロックは覚悟を決め、空気を大きく吸い込む。
そして、ありったけの声量を拡声器に通した。

「────アルセーヌさん、リュウセイ君、聞こえますか?他の誰でもいい、これを聞いている人は助けて下さい!私の仲間が死にそうなんです!!」

その声は空気を振動させながら、辺り一面へとシャーロックの存在を宣伝していく。
この行為がどの様な結果を招くのかは分からない。
だがシャロはその全ての結果を受け入れようと、そう思っていた。



◆◆◆





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