らいど・おん・みー!?p4


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§第三話「棚ぼたハッピーと唯一の誤算」


 ハッと覚醒した。
 フローリングの上……先ほどの住宅街の上空ではない。


 敦は自分の部屋に戻ってきたのだ。
 もっともそれは体感上の話で、実際はここで仰向けになっていただけなのだろうが。


「おはよー、おにーちゃん」
 ベットに腰をかけ、恋慕がこちらを見下ろしている。





 うぅん、あの組んだ脚の向こうにさっきのしましまパンツが……くっ、もうちょっとで見えそうなのに。
「あんな疑似体験した直後でもパンツの方が大事なのかい」
 恋慕の隣に居るアパルだ。呆れた顔で覗き込んでいる。
 一方の恋慕は心得てやっているようで、「あはは」と笑っていた。


「美少女のパンツは万国共通の宝なんだよ」


 そう教えてやると、アパルは、なにか可愛そうなものを見る目で見つめてきた。
 まったくもって失礼なぬいぐるみだ。
 とはいえここでがんばってもその秘宝は拝ませてもらえないだろう。



「それであのあと、どうなったのさ」
 諦めて腰を上げ、本題に入る。

 さっきのビジョンが本当なら、ここから幾分と無い距離の街はほとんど壊滅状態で、自分はドラゴンのままだ。なによりあんな激戦を繰り広げた覚えなど無い。


「そこはあれよ。
 私たち異次元人だから、努力すればすぐに元通りにできるわ。
 幸い、アパルの先手で怪我人も出てないし。
 あと記憶もさくっと消さしてもらったの。なにせ異次元人だから」
「えらい適当で便利な説明だね」
「おにいちゃんの場合、メタな話の方がわかりやすいでしょ?」
「うん。だいたいわかった」
「ほんとにわかってるのかよ……」
 何が不安なのかアパルが頭を抱えて唸り始めたが、まあ些細なことだ。



「じゃあなんで僕の妹になったの? 鶴の恩返し?」
「残念、ちょっと違うの」
 恋慕は組んでいた脚を正し、一区切り、


「大事な話だからよく聞いてね?」


 と、敦が頷くのを確認した。


「私たちはドラゴンになっちゃったおにいちゃんの体を元に戻そうとして、
 結果、ごらんの通り一見は普通の人間として生活できるくらいには治すことが出来たわ。
 でもね、体の奥底、目には見えないところで変身因子がとぐろを巻いているの」
 自分がまた変身? うぅん、実感が湧かないはなしだ。
「本当に申し訳ないけど、私たちは街の復元に魔源……あ、さっきの雷とか出す素ね。
 街の修復や体の治癒にもそれを使うんだけど、大量に消費しちゃってすぐには治療に取りかかれなかったのよ。
 ちょっと左手の甲を見て」
 恋慕に言われて見る。
「うわ、なにこれ!」
 どういうわけか今まで全く気付かなかったが、妙な模様が描かれていた。
 人差し指から薬指にかけてVの字を描き、その中央に水滴のような点が打ってある。
「なにこの落書き! 中学生かよ! かっこ悪っ!!」
「落書きじゃないわ。
 それはある古代文字の一つで、術をかけられているっていうマーキングなの。
 術によって形状が違ってて……あ、アザみたいなものだから、洗っても消えないわよ」
 ゴシゴシやっていると、恋慕が忠告してきた。



「さっきまでこんなのなかったのに……」
「見えないように隠してたのよ」
「消して。ダサい」
「うーん、ごめんね? あったほうが自覚が出ると思うから」
「だったらせめて、デザインの変更をですねぇ」
「それも無理なの」
「むぅ……」
 しょうがない。敦は引き下がった。
「つまり、これが浮かんでるうちは、僕はドラゴンになってしまうってことなの?」
「それには間違いはない。だが、君は運が良かったんだ」
 アパルが引き継ぎ説明をはじめる。
 よくわからないのでとりあえず首を傾げておいた。



「さっき恋慕が古代文字と言ったが、それは本来もう少し複雑な形をしている。
 つまり中途半端なんだ」
「へぇ……。中途半端だと、どうなるの?」
「君にかけられた術そのものが未完成に終わってるってことさ。
 だから君はあのとき、ラブラの呪縛から自分の意志を取り戻すことに成功したんだ」
 なんだ。てっきり主人公補正かなんかが発動したと思ったのに、
 からくりはちゃんとあるのか。ちぇっ。

「やだ、そんなに落ち込まないで」
 露骨に落胆する敦に、恋慕が近付いて言った。

「たとえ術が未完成だったとしても、すごいことなのよ。
 魔術に綻びがあっただけ。
 ……それを引き裂いたのは、おにいちゃんの強い精神力なんだから」
 白い頬に、さくら色を滲ませながら恋慕が言う。
 うお。なんだ、ちょっといいムードだぞ。
「私、おにいちゃんのことをすっかり……」
「恋慕」
 こほん、とアパルが咳払いする。
 あとにしろってか。空気読めよぬいぐるみめ。


「……いっとくけど、浮かれてられるのも今のうちだからね、それ。
 あとで後悔しても知らないよ」
「後悔? なにを?」
「まあともかく」
 こちらの疑問には答えず、アパルが仕切り直しをする。
「僕と恋慕は、時間をかけて君の体を治すことに決めた。
 恋慕が君の家族を名乗るのも、完治するまではなるべく側に居た方が良いという判断だ」
 だから突然可愛い妹ができたというわけか。
 災い転じて福と成す。ムフフ。



「少しは顔に出さない努力をしてくれ。
 やっぱりご両親同様記憶を操作したほうがよかったかなぁ……」
「わ、勘弁して。せっかくとってもハッピーなのに」
 敦がそういうと恋慕はふふっと笑い、おんぶをせがむように背中に張り付いてきた。
 女の子の香りがする。そんなもの嗅いだこと無いが、たぶん間違いない。
 こんなに可憐な顔が近いんだ、どうしたって頬が緩んでしまう。
 なにより背中に密着した微妙なふくらみが……ほんとに微妙なふくらみがぁ!
「ど、努力はしてるんだぞ?」
「はぁ……」
 呆れてモノも言えません、とアパルは深い深いため息をついた。
「まあ君には知る権利があるし、警告の意味も込めて現状維持にしておくけどさ……。
 応急処置はしてあるから、突然変身なんて事はないだろうけど……何が起きるかはわからないからね」
「あー、うん」
 敦は頷く。
 やっぱり実感が湧かないが、話の内容は理解できた。
「僕らからは以上だよ。なにか質問は?」
「大量にあるけどとりあえず、『可愛い妹が出来てとても嬉しい』」
「それは質問じゃないだろ……。繰り返すけど、後悔するなよ?」
「だからなにを……」



「おにーちゃん♪」
 恋慕が甘えた声で再びすり寄ってきた。



 年端のいかない少女の、きめ細やかな肌が敦の皮膚と摩擦する。
 わあスベスベだー。
「助けてくれてありがとう。おにいちゃんとってもかっこよかったよ」
 高瀬敦、一七年の人生で最大級の幸せ。
 よりのもよって超が付くほどの美少女が、敦の好みのロリッ子が、憧れの眼差しでこちらを見つめている。
 なんという棚ぼたハッピー! 異性との経験が乏しい敦はすっかり舞い上がってしまった。
「おにいちゃん…………」
 切なげな声が、ドキリとするほど可愛らしい微笑みが……自分のものに……。

「チェアー」

 ん?
 なんだ、おわ!
 恋慕の一言で、がく……っと敦の力が抜けた。
 足が勝手に膝をつき、倒れる上半身を支える為にとっさに腕を伸ばした。
 必然的に四つん這いという情けない姿になる。

「え……、か、体……動かないっ!?」
「さっきビジョンを見せたついでに、ちょっと〝条件付け〟しておいたの」
「条件付け……っ?」
「ふふっ」
 恋慕は身動きの取れない背中に腰掛け、敦の頭を優しく撫でた。
「好きよ、おにいちゃん……大好き」
「あ、あの~恋慕サン? なんで上に乗ってるのかな?」
「あぁ、その困った顔……かわいいっ」
 恋慕の歓喜に満ち、恍惚とした声。


 確実に何か、やばいスイッチが入っている。


「ちょ、アパルっ! この子おかしいよっ!!」
「だから言ったんだよ。
 それが恋慕の愛情表現なんだ……僕の手には負えないから」


「後悔するなってこのことかあああああああああああああああああああああッ!」


 絶叫する敦を尻目に、ウサギのぬいぐるみは部屋の外へと出て行く。
「ちょっと! その〝あとはごゆっくり〟って空気は何っ!?
 まって……オイマテッ!!」
 ばたん。
 ドアは無情に閉ざされた。


「うーさーぎめぇぇぇ!」


「えへへ。恋慕、もーっとおにいちゃんの困った顔がみたいなぁ」
 二人っきりになった部屋で、恋慕がどこかとぼけた声で言う。
「いや僕はもっとノーマルな方面でイチャイチャを提案ってうわなにそれ、異次元人ってそんなの持ち歩いてるの?
 ホンモノ初めて見たよ? てかそれどうするの?
 いや、やめて、いきなりそれは絶対痛いから! 
 ホント許して……ぎゃあぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!」


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