シネマね!~剣とナゴヤがB級ホラー~p5


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 白い壁で覆われた無機質な室内に、コッチコッチと無情に時間を刻む時計。
 腰が冷えそうなパイプ椅子に冷たいデスク。その上にはライト。
 背にはブラインドカーテン、正面には小さな扉……次にあそこを潜れるのは果たしていつになるのだろうか?



「オイ、どこ見てるんだ?」



 凄みを効かせた声に注目すると、対面している厳ついおっさんが目に入る。
 警察署内の取調室だ。
 もう一時間ほどこのおっさんとにらめっこをしていた。



「いいかげん、ちゃんと話をしてくれよ。
 あのショットガンはどこで手に入れたんだ?
 バイクに乗ってた奴との関係は?
 そもそも君たちは何をしようとしてたんだ?」
「だーかーらー……」
 大樹はがっくしと頭を垂れて、デスクの冷気を感じながら答えた。

「いきなり名古屋駅で襲われたんですって。
 女の子に銃を向けられて、腰を抜かしたところで葵に助けてもらったんです。
 逃げるのに必死で、後は何も知りません」
 アンドロイドって言っても信じねぇだろうしなぁ……。
「じゃあショットガンはどう説明するんだ?」
「それは──、」
 ──葵がどこかから調達してきました。
「……成り行きで、拾ったんですよ。
 あの女の子のモノだったんじゃないんですか?」


「ハァー……」
 深い、ふか~いため息。
 とても信じてくれているとは思えない。
 まあ正直、ごまかしている部分も多いのだから仕方がない。
 変な話はするなと葵にも言い含めてある。
 頭がおかしい人と認定されたらそれこそ厄介だからだ。


「で、君は本来、上京の途中だったと?」
「そーですよ」
「あの荷物でぇ?」
「荷物の中身は勝手でしょうが」
「まあ、確かに。変なものも入ってなかったしな」


 ……あー、荷物で思い出ちゃった。
 その中にはういろうが入ってるんだよな。

 ういろう食べたい。

 もう一時間も口にしてない。

 ういろう食べたい。

 思い出すともうだめだ。

 ういろう超食べたい。



「……警察署ってういろう置いてないんですか?」
「ないよ。あるわけないだろ」
「カツどんはあるのに?」
「カツどんもないよ。あれはフィクション」
「カツどんはどうでもいいんです。
 ういろうはないんですか?」
「ちょっと君、なに言ってるのかよくわからないぞ」
「ういろー……ろー」
「この子、尿検査したほうがいいんじゃないですか?」
 調書をとっている警官となにやら相談をはじめたが、大樹の耳には入らなかった。



 そんなことよりういろうください。



 コンコンっと扉がノックされる。
 入ってきた人物とおっさんが二、三会話をし、入れ替わった。

 大樹はぼーっとする頭で、

「嗚呼、この人がういろうを持ってきてくれたんだ。
 ふふふ、やさしいなぁー」
 などと勝手な妄想を繰り広げていた。







「じゃあここからは僕が話を聞くよ」
 そういわれて、やっと大樹の焦点が定まる。
 うぉあーいかんいかん、若干あっちの世界に行ってた。
 ういろうが枯渇するとすぐこれだ……。
 あ。おっさんがお兄さんに代わってる。
 いつのまに──ん?

「分かる限りでいいから、なんでもはなしてね」
 この人どっかで──大樹はその顔に見覚えがあった。


 そうだ。

 雰囲気がだいぶ違うが、新幹線のホームにいたお兄ちゃんにそっくりなのだ。

「あの──さっき、名駅のホームにいませんでした?」
「……いや? 今日は名駅に行ってないよ」
「あ……そうですよね」

 人違いか。
 まああの短い時間に他人の顔なんて覚えられるはずないしな。


 ……そういえば、あのお兄ちゃんはなんであのとき移動を始めたんだろう。
 そっくりな人物を目の当たりにして、さして気にも留めなかった疑問が
 ふつふつと沸いてきた。
 大樹と同じくらいの時間、新幹線を待っていたのにもかかわらず、突然ホームを降りるなんてことがあるのだろうか?
 普通の電車ならともかく、新幹線は別格だろう。
 なにか急用が発生したとしても、彼の態度……鼻歌交じりのようすからそうは感じられなかった。
 妥当なところで『寒いからやっぱり下で待とう』と判断した、か……?


 しかし、その直後にアンドロイド少女が現れたのである。
 タイミングが良すぎる気がするが──、


「どうかしたのかい?」
 思考に耽る大樹を不審に思ったのか、お兄さんが顔を覗き込んできた。
「あ、いいえ。なんでもないです」
 そう取り繕うと、
「そう?
 思い出したことがあったら、なんでもいってね」
 と優しく声をかけてきてくれた。

 さっきの高圧的なおっさんとは打って変わって、好感の持てる男性だった。
 ま、そういう取り調べの手法かもしれないけど。




「それにしても、この事件……まるで映画みたいだよね」
 お兄さんがそう切り出した。
 そりゃあ、激しく同意だ。
「ショットガンで銃撃戦の後にバイクとカーチェイスですからね」
 っと、大樹は何度も頷いた。
「ロボット相手に撃ち合いになったんだって?
 大変だったねぇ。
 ……えーっと、あれ?
 未来から来たアンドロイドに襲われる映画ってあったよね?」
「〝ターミネーター〟ですね」
「あー、そうそう! それにそっくりだ。
 ……映画好きなの?」
「人がびっくりするぐらいに」
「ははは。そりゃすごい。
 じゃあ、その映画ではこのあとどんな展開になるのか教えてくれるかな?」
「一回目のチェイスの後、サラとカイルが警察に捕まったあとだから……」



 大好きな洋画の話を振られてうれしくなり、大樹の舌は円滑になった。
 おもわず興奮して熱っぽく語りだしてしまう。


「警察署をターミネーターが襲撃するんですよ。
 あの有名な〝アイルビーバック〟って台詞の後、車で突っ込んで来て。
 テロリストだーっ! って警察が応戦してもまったく歯が立たずに……」










 ……あれ?

「ちょっとまって! 私、アンドロイドの話はしてないわ!!」
 大樹は遅れて気付いた。
 おかしいぞ。
 まったく違和感なく話を振られて気が付かなかった。
「なんでその話を……」
 そのとき、突然取調室を衝撃が襲った。


 警察署内に轟音が響きわたる。


 悲鳴と、ガラスの砕ける音と、タイヤの甲高い鳴き声。




〝警察署に車が突っ込んできたのだ〟




 部屋の外が騒がしくなる中、彼は相変わらず微笑んでいた。
 親切そうな笑みが、一気に不気味なものに感じられた。
「……こうなることがわかってて映画の話をさせたのね」
 大樹の質問に、彼はふふんと笑うだけだ。


「オイ、誰かいるか!?」
 扉がおもむろに開かれ、刑事と思しき中年男性が顔をのぞかせる。


「テロリストだ、手が足りない! 手伝ってくれ!」
「了解です!」
 急に警察官の顔に戻り、彼は立ちあがって退室していく。
 ……が、去り際に肩をすくめて意味深な笑みを大樹に向けていった。



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