§1章 名駅ホームでまもなく列車が♪だだんだんだだん!
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夜空に銃声がこだまする。
その様子を大樹はあぜんとして見守っていた。
無抵抗に転がった……皮ジャンの少女。
──どうなったんだ? 女の子に銃を突き付けられて、ドンッて音がして……。
すとんっと力が抜けた。臀部が冷たい床に着く。
「大樹ちゃんッ!!」
聞き覚えのある高い声で、彼女がホームに入ってきた。
長い一本のおさげ髪がちょっと垢抜けない感じがする、童顔の少女。
おさげのさきっちょにはピンク色のリボンが結んである。
服装は茶色いミンクのコートに、手には硝煙の登るショットガンを握っていた。
葵だ。──さっきまでメールの応酬をしていた大樹の友達だ。
「大丈夫!? 危ないところだったよっ!!」
「お前っ! ここでなにしてんのよっ!!」
相手が葵という安心感からか、大樹はやっといつもの調子を取り戻した。
「大樹ちゃんが心配でずっと後ろから追ってたんだよ!
危機一髪だったね!!」
「いやいやいや、さらっと聞き逃せないこと言ってんじゃないわよ!
じゃあなにか、あんたさっきのメールもすぐそこで打ってたの!?
てかちげぇ!
それよりつっこむところはショットガンだ!
どーすんのよっ!
あの子撃ち殺しちゃったわよ!!」
「む……ぅ」
そんな問答の最中、皮ジャンの少女が、なんと息を吹き返して立ち上がったではないか。
「うっそっ!? 生きてる!?」
「細かい話はあとだよ!」
葵はショットガンを構え、ズドォン!
……耳をつんざく衝撃をもう一撃見舞うと、大樹の手を掴んで立ち上がらせた。
「死にたくなかったらついてきてッ!!」
「おいおい、どっかで聞いたことあるぞそのフレーズ」
ともかく、ここは葵に従ったほうがよさそうだ。
葵と大樹は、改札方面への階段を駆け降りた。
パンパンパンッ!! っと背後から銃声が連射される。
「ひぃーッ!」
わけもわからず、泣きそうになりながら大樹は走る。
改札に切符を通す余裕などない。
ハードル走の要領でとび越え、太閤口という西側の出口から名古屋駅を飛び出す。
音に驚いた人々で駅内外はにわかに騒がしくなっていた。
タクシーが群れをなすロータリーで、葵は白い乗用車に飛びつく。
そして運転席に踊りこんで、
「乗って!」
「乗れって、あんた免許あんの!?」
「いいから早くっ!」
言われるまま助手席に乗る。
葵がエンジンキーを捻ったその時、
どんっ!
ボンネットに皮ジャン少女が着地した。
新幹線ホームから飛び降りてきたらしい。
「ギャーッ!!」
大樹の悲鳴をよそに、彼女は無言で拳を振り上げる。
そしてフロントの強化ガラスをパンチ一発で突き破った。
その手で大樹の襟首を掴み、小さな体躯からは想像できない怪力で引き寄せる。
「ターミネーターかよお前はッ!!」
「大樹ちゃん、何かにつかまってて!」
「馬鹿よく見ろ! つかまれてんのはこっちだわ!」
葵がアクセルを踏み込み、乱暴にハンドルを捻った。
車は円を描くように踊り狂い、遠心力で少女は振り回される。
続けて葵は停車していたタクシーに容赦なく車体をぶつける。
ごちん、ごちんと数発やったところで、敵は耐え切れず手を放した。
すかさず、車は一気に発進した。
最終更新:2012年05月17日 00:06