らいど・おん・みー!?p2


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§第一話「敦は美少女に『おにいちゃん』と呼んで欲しいタイプの人間なのである」


☆2

 こういった場合、主人公と呼ばれるだいたいの人物の反応は、

「一体どうなってるんだ? 分かったぞ、これはどっきりカメラだな!」

と来ても良さそうなものだが、敦の場合は違った。

 彼はちょっとしたオタクだったからだ。
〝ちょっとした〟の酌量は人によって差があるが、敦はとりあえず自己紹介の際に
『ちょっとしたオタク』と名乗ることにしている。

 休日の朝にテレビ画面に食いつき、特撮や魔法少女など、対象年齢が低めに設定されている番組を細かくチェックしているオタクが〝ちょっと〟なのかは自分でもたまに疑問だが、まあ、それはさておくとしよう。



 彼はオタクという趣向の持ち主であるがゆえ、
 自分でも驚くほどこの状況に対して冷静だった。
 まあ、こういうことはよくあるしな。あくまで空想世界での話だが。
 さて、美少女の正体だが……やはり、ここは本人に尋ねるのが一番だろう。



 敦は食事を終えると、先に食事を終え二階に駆け上がったれんぼ――恋慕と書くらしい――を追い、階段を昇る。

 高瀬家の二階には三部屋ある。両親の寝室、父親の書斎、そして敦の部屋だ。
 自室に入る前にあることを思いつき、ほかの二つの部屋をチェックした。
 間違いなく両親の寝室と書斎だ。彼女もいない。よし。

 そして意を決して自分の部屋の扉を開いた。

 そこに恋慕はいた。
 敦のベットに腰掛け、膝の上にウサギのぬいぐるみを乗せて、
 携帯ゲームをぴこぴことプレイしている。
 こちらの入場を意に介す様子もない。
〝おにいちゃんと同じ部屋で生活している妹〟として、実に自然体だ。

 だが敦は彼女にこう言った。

「それで、君は誰なのさ」
「えー?」
 不思議そうな顔で、恋慕がこちらを見る。
「恋慕は恋慕だよ。今日のおにいちゃん、ちょっと変」
「ダウト」
「だうと?」
「万が一僕の頭が変になって、可愛い、もとい、
 すンごく可愛い妹の存在を忘れてしまったと仮定してさ。
 それでもおかしいよ。年頃の女の子が男兄弟と同じ部屋なんて」
「どうしていけないの? 恋慕、子供だからわかんなーい」
「それは……げふん、まあ、割愛。
 第一、ベットも勉強机もないじゃないか。
 うちの親は娘の入学に勉強机を買ってやれないほどケチじゃないよ。
 だったら僕の記憶の方が正常と考えた方がいい。
 要するに君が、〝今日初めて家族になった誰か〟……ってことになるだろ?」

 ちょっと胸を張りたくなるような推理を突きつけると、恋慕の様子が変わった。
「ふぅん。いがいと頭いいんだ」
 幼く可愛らしい声は相変わらずだが、大人びた余裕のあるトーンに、
 子犬のようにまん丸だった瞳は猫のように鋭いものになっていた。

 これが本性のようだ。

「さっきはあんまりにもお馬鹿そうだったから、
 もうちょっと遊べると思ってたのに」
「両親の記憶をいじっちゃうんだから、
 君は異星人か異世界人てとこかな」
「うぅん。異次元人」
「異次元人かぁ……」
 惜しい。まあこちらは根拠のない勘だから当たるはずもないか。

「それで、僕に何の用?」
「……何の用って、私、まだ何も言ってないわ」
「記憶を書き換えなかったんだから、僕に用があるんでしょ?」
「すごい適応能力だわ……アパル、どうする?」
 恋慕はウサギのぬいぐるみに尋ねた。
 すると驚いたことに、

「いやぁ、どうしようか?」

 と、ウサギのぬいぐるみが顔を上げて返事をしたではないか。
 ぬいぐるみがしゃべるというキャラクターは時々見かけるが、
 さしもの敦もこれには驚いた。
 ここに来て腹話術というオチもないだろう。
「下層界の人間に協力を仰ぐのは初めてじゃないけど、
 こんなにごく平然とされるとはね。
 物わかりが良すぎて逆に対応に困るよ」
 アパルというらしいぬいぐるみが、愚痴るように言う。

「どうする? やっぱりアレかしら」
「うん。彼のためにもアレでいいかもしれないね」

 こちらに通じない共通認識で合意し、頷き合う。

 おっとなんだろう。そこはかとなくいやな予感がしてきたぞ。

「アレ……ってなに?」
 少し声を低めに尋ねてみる。
「あ、うん。おにいちゃんったら、あんまり察しが良すぎるから……」
 恋慕は人差し指を立てた。
 どういう仕組みか、その指先にバチバチとスパークが発生する。
「……ちょっとばっかし怖い思いをしたほうがためになるかなーって」



 あ。やばい、調子に乗りすぎた。

 己の迂闊さを呪っている最中の敦を、恋慕がドンッと突き飛ばす。
 もんどり打ち仰向けになった敦の胸板に恋慕が跨ってきた。
 指先のスパークが白熱電球のような輝きを放つ。
 ああ、やばい。
 これは絶対やばい。
 選択肢を間違えたギャルゲーの主人公がどんな気分なのかわかってきた。
「えーっと。考え直す気、ない?」
 一応問いかける。
「ぜーんぜん。かくごなさーい♪」

 どす。

 嬉々とした恋慕は、命乞いする敦の額を容赦なく突いた。
 がくりと、まるで階段を踏み外したような錯覚が敦を襲い……、
 敦の意識は闇にかき消えていった。


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