ショーン・コラージと二人の少女p7


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§6:ジムのやりかた


 シャーレが涙を流して訴える。
「お願いよ、ジム……確かに、私は悪党だわ。でも、消えてしまうなんていやよ。
 目の前で自分を消されようとして、あなたなら正気でいられるの?」
 それに被せるようにショーンが言う。
「耳を貸すな。この女は、君のやさしさにつけ込むつもりだ」
「いいえ、お願いよジム。もう一人のシャーレは返すわ。
 これまでのように、私は彼女の身の中で粛々と生きていく。約束する。
 だから、私の願いを聞いて!」
「迷っているな、ジム! 凶暴な女の、何の保証もない約束だぞ!」
「シャーレと共に生まれて、彼女の中でずっと押し黙ってきたの!
 時々外に出ることができて、おもいきり暴れられても、また閉じ込められて!
 すこし悪さが過ぎたわ、でも!
 人の影として生きてきた苦しみを、あなた達は知らないだけよ!」
 ジムは静かに考え込むと、ショーンに向かってこう言った。
「彼女を解放してくれないか、ショーン」
「とても聞き入れられる話じゃないね。君は正気じゃない」
「なにかあったら、僕の命を盾にして、君が銅鏡を戻せばいい。
 人の命をこの手で決めることが、こんなに簡単でいいと思うかい?」
「ああ、まったく、君というやつは……」
 ショーンは渋々、シャーレの体を解放した。
 するとシャーレは驚く勢いで駆け、人とは思えぬ脚力で泉を飛び越てジムに飛びかかった。
 銅鏡を奪い放り投げると、いつかのようにジムに被さり、その首を圧迫する。
「愚かなジム! あなたは自分を救う機会を失ったわ!」
「それみたことか!」
 駆け寄るショーンに、ジムは叫んだ。
「来るんじゃない、ショーン! 僕は少し、彼女と話をする!」
「話ですって? 私に話すことは何もないわ!」
 そう投げかけるシャーレに向かって、ジムは不意に、やさしい笑みを浮かべた。
「君になくても、僕には山ほどある」
 そして両手を伸ばし、あやすように彼女の体に触れる。
「まずは謝らなくてはいけないね。
 すまなかった。僕は今まで、君を一人の人間として見ていなかった」
「あたりまえだわ。私はこの山の呪いを受けた、化け物よ」
「いいや違う。君は何かを恐れる一人の人間だ。
 もっとちゃんと接していれば、痛みを知る君は、みんなにやさしくなれるはずだったんだ。
 そうだろう?」
「絵空事だわ」
「それはどうかな。……まず名前をつけよう。
 〝もう一人のシャーレ〟なんかじゃない、君だけの名前を……そうだな」
 ジムは指先で、彼女の前髪を撫でた。

「〝クローバー〟がいい。
 人より一つ多くハートを持つ君たちは、見つけた誰かを幸せにすることができるんだ」

「名前なんて無意味だわ。私はシャーレを乗っ取るのよ。
 だいたい、一体、私と出会って……誰が幸せになるというの?」
 ジムは頷き、力強く答えた。
「僕だ。他の奴らにくれてやるものか」
「……!」
 クローバーと名付けられた少女は、手中にある首に一気に力を加えた。
 ジムがぐうと呻く。
「ジム!」
 ショーンがクローバーに飛び掛かろうとする。が、その足は泉の前で踏みとどまった。
 クローバーがジムに向かって叫んだ、その様子を見たからだ。
「お前は大嘘つきだ! 私と出会ったお前の、一体どこが幸せなんだ?!
 シャーレは毎晩お前のことを考えて、お前の夢を見ていた!
 私さえいなければ、お前とシャーレは幸せになれたのに……、よくもそんな嘘を!」
 そしてクローバーはジムを離し、――一体何を隠したのか――その顔を覆った。
「どうせ嘘なら答えて見せろ!
 私は何故生まれてきた? どうして二人の少女として生まれてきたんだ!?」
「簡単なことだよ、クローバー。
 君と僕とシャーレと、3人で幸せになるためさ」
 それを聞いたクローバーは立ち上がり、つかの間にううと声を上げると、すぐ側の壁に弱々しくもたれ掛かかり、こう言った。
「シャーレを返すわ。……後のことは、シャーレと相談しなさい」
 そして目を閉じた。
 ――その表情が一変、優しい目つきになり、彼女は起き上がろうとしているジムに飛びこむ。
「ジム!」
「シャーレかい!? ……ああ、よかった!」
 二人は抱きしめあい、お互いの無事を確認する。
 それを見ていたショーンは、ふうとため息をついた。
「やれ、僕は今まで、ずいぶん人を驚かせて見せたつもりだったが、まったく叶わないね。
 君らしい幕引きだよ、ジム」
 それから周囲を見渡す。
「……しかし一体、何故こんなところに東洋の祭壇があるのだろう?
 表のしめ縄も気になる。
 山の主の正体を、もう少し調べなくてはならないようだな……ん?」
 ショーンは、ジムがまったく反応をしていないことに気づいたようだ。
「おおい、ジム! ジム・リックバートン!」
 手拍子を数回する。
 するとシャーレと長い間抱き合っていたジムが、やっと返事をした。
「なんだいショーン」
「それは言いぐさだね。僕はこの一件で、ずいぶん骨を折ったつもりだ。
 後生だから置いていくような真似はしないでくれよ」
「ああ……すまない、ショーン」
 ジムはシャーレに彼を紹介した。
「彼の名はショーン=コラージ。
 このリーンでもっとも偏屈と言われている男で、僕の唯一無二の大親友だ」


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