ショーン・コラージと二人の少女p6


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§5:異国の祭壇


 ジムはとにかく急いだ。
 シャーレの幸せを願う運命に、ここまで連れてきてくれた親友の命をも担い、ひたすら山を駆け上がった。
 やがて彼は山の中腹にて、岩の裏に隠れた洞窟を見つける。
 大人がちょうど入れるほどの大きさで、どういうわけか、穴の端から端へ太いロープが渡してある。
 入り口の上部でたるみを持たせてぶら下がっているのだ。
 立ち入り禁止を意味するものではなさそうだ。
「いや、これはただの洞穴じゃなさそうだぞ。ショーンならなにか判るかも知れないが……」
 穴はずいぶん深く、日の光が差し込む様子はない。進むには時間となにより勇気が必要だ。
「『悩む間に、時間を惜しむべきだ』か。その通りだ」
 ジムは勇んで洞窟に飛び込んだ。



 洞窟はの内部は広いが暗く、そしてやけに湿っぽかった。
 用意していたランプに火を入れて、ジムはあたりを見た。
 大きなホールのようになっているらしい。
 すぐ目の前は、こんこんと水が湧き出す泉になっていた。
「ふうむ。アルトック山に、こんな場所があるなんて聞いたこと無いぞ。
 しかし入り口のロープは、間違いなく誰かが張ったものだ。
 ということは、意図的に隠されていたのかもしれないな。
 やはりこのあたりにシャーレが呪われた秘密があるに違いない」
 ジムはさらにランプをかざして捜索を続けた。
 すると、泉を挟んだ対岸になにか、木製の机のようなものがうかがえた。
 ジムは水に手をやり、腐っていないことを確かめて足を入れる。
 膝ほどの水深を、そろりそろりと足元の無事を気にして進み、対岸にたどり着く。
 そして彼はあちこちの壁に、自分の知らない文字が描かれていることに気づいた。
「これは、ああ、見たことがある!
 ショーンが読んでいた東洋の本と同じ文字だ!
 やっと合点がいったぞ。この机は祭壇だな。
 先々代の領主は、神の教えがルーンに入ってくる時に、この祭壇が邪魔で壊してしまった。
 それがアルトック山の主の怒りをかったんだ」
「その通りよ、ジム。あなたは思った以上に賢いわ」
 にわかに言葉を投げかけられ、ジムは入り口を見る。そこにはシャーレが居た。
「でもここまでよ。
 この入り口を塞いでしまえば、やがて時間があなたを殺すことになるでしょう」
「ショーンはどうした!?」
「あの男なら私の足元でのびているわ。望むなら、人質にしてあげてもよろしくて。
 さあ、ジム! 生き埋めになるか、友達を殺されるか、そのいずれも避けて私のいうことに従うか。
 寛大な私は、選ぶ権利をあなたにあげることにするわ」
「ショーンは言ったぞ。君は僕をここに寄越したくはなかったんだ。
 選ぶ権利を渡す前に、手札を明かせ! 君は何を恐れている?」
「あなたにそこまでの自由は無いわ、ジム! 
 おしゃべりはお終いよ、早くこっちにいらっしゃいな!」
 シャーレは足元にいるショーンの首を掴んだ。
「待て、シャーレ!」
 ジムは叫んだ。
「ここまでくれば、君の恐れるものはだいたいの想像がつく。君はこれが怖かったんだ」
 そう言って、ジムはリュックから青銅の鏡を引っ張り出した。
 途端にシャーレの顔が青ざめる。
「やっぱり、あなたはそれを持っていたのね」
「ああそうだ。偶然にね。
 これはこの場所に祀られていたものなんだろう。
 となれば、これを元に戻せば山の主の怒りが静まるかもしれない。
 同時に呪いそのものである君は立ち消えるはずだ。
 これを渡そう、シャーレ。
 その変わり、ショーンと君の内側にいるシャーレを解放するんだ」
「それには及ばないよ、ジム」
 気絶していたはずのショーンの顔に精気がみなぎり、彼はシャーレに足払いをかけると、
 あっという間に再び彼女を拘束してしまった。
 その様にはジムも仰天した。
「ショーン、無事なのかい?」
「ああ。この山の秘密を聞き出すために、ちょっと一芝居うったのさ。
 ただ死んだふりをしている最中に、君の推理がひどく冴えていたから、芝居が無駄になるのではないかとひやひやしたがね」
「僕もずいぶん肝を冷やしたよ」
「お互い様というもんさ、ジム。さあ、その鏡を祭壇に戻したまえ。
 そうすれば、二人の少女は一人に戻る。一件落着だ」
 ジムは頷き、鏡を祭壇に戻そうと振り返る。
「まって、ジム!」
 それを制止したのは、悲痛な声を上げるシャーレだった。

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