ショーン・コラージと二人の少女p3


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§2:素晴らしき親友


 翌朝ジムは、重たい体を引きずり、自宅にも帰らずある人物を訪ねていた。
 煉瓦をタールで覆った住処を見つけると、木戸を打ち鳴らす。
「ショーン! ショーン=コラージ! 開けてくれ、ジムだ!」
 するとまもなく扉が開かれる。
 迎えたのはジムと同い年の少年だ。
 ぴしっとしたYシャツの上にチョッキを被せ、チェック柄のズボンも着崩れが無い。
 金髪は整髪剤で整えられ、精悍な顔つきにある鋭い眼光は、同年代の少年達とは違う精力的な輝きを持っていた。
 彼こそがショーン=コラージ。リーン随一の偏屈者として知られる男だ。
 彼はジムを少し観察すると、喜びをこめてこう言った。
「やあ、ジム! すばらしき我が親友よ!
 その顔は、なかなかおもしろいやっかい事を持ちこんできてくれたようだね!!」
「その通りだ、ショーン。君にとって最高で、僕にとって最悪の出来事だ。
 そしてこんなやっかいな事件は、君以外に相談する事はできない」
「よろしい! 大変よろしい!!
 ……さあさあ、そんなところに立ってないで、中に入りたまえ。
 見たところ君の体はずいぶん冷えているね。上物のアッサム・ティーを振る舞おう!」



 ジムが事の顛末をショーンに話す。
 ショーンは先の嬉々とした表情とは打って変わって、椅子の背もたれに深く腰掛け、じっと目を閉じ、静寂に聞き入っていた。
 一見すると、まるで寝ているように取られがちだが、それは大きな誤りだ。
 ジムは彼が考え事をしながら神経を研ぎ澄ましている時、それ以外の動作を止めてしまうことをよくよく知っていた。
 ジムが言葉を紡ぎ終えると、目を開いて、しかしまた停止し、そして今度は大笑いを始めた。
「なにが可笑しいんだ、ショーン!」
 ジムは大声を上げた。
「いや、すまない。
 だってほら……君にしては、なかなかロマンチックな恋をしていたのかと思うと、不思議に笑いがこみ上げてきてね。
 それも僕の知らないところで!
 まるでルーン=ルーシィーの〝悔恨の口付け〟のようじゃないか。
 そして我らがジム・リックバートンの次の主演はあの喜劇、〝怪傑の仮面〟ときた。
 ヒロインを救うため颯爽とマントを翻すのさ。
 それを想像すると、笑わないでくれと言う方が……無理というものじゃないかね?」
「君に相談したのが間違いだったよ。失礼する!」
 憤慨するジムを、ショーンは詫びて引き留めた。
「待ってくれジム、謝るよ。事の深刻さは僕にも伝わった。
 本当さ……疑わないでほしいな。
 それが証拠に、君に有力な情報を僕は知っている。待ちたまえ」
 そういうとショーンは、まだわき起こる笑みを噛み殺しながら、本棚から一冊を抜き出した。
 ジムが問いかける。
「それはなんだい? 古い文献かい?」
「あながち不正解ではないかな。これは僕の日記だ」
「日記が一体どう役に立つのさ」
「日記を役立てる方法を知らない節、君は日記というモノを勘違いしている。
 日記とは、その日の出来事を記すばかりではなく、自らが意識的に行った行為の記録の総称だ。
 そして過去の自分は常に未来の自分を支える材料を残す。……些細な事実を忘れなければね。
 よくに日記をつけ始めて、書くことがないとぼやく哀れな人間がいるが、僕から言わせればそんなものは日記とは呼べない。
 せいぜい、市街地のゴロツキ共が路地裏に残した落書きと、同価値の代物さ」
「君の持論はまた今度、ゆっくりと聞こう。今はそれを活かしてほしいな」
「焦りは禁物だよ、ジム。少し落ち着きたまえ」
 そう言ってショーンは本をめくる。
「ああ、あった。2年前の僕曰く、こうある。
 『3番区の青空市で、それはそれは上品な婦人達――もちろんこれは皮肉だ――の噂話を耳に挟む。
  領主の娘は昔から狂人癖があり、それゆえ幽閉されている。
  それは先々代の領主が、アルトック山の主に粗相を働いた呪いである』と」
「それがシャーレだというのかい!? ……ただの噂話じゃないか!」
 ジムが抗議の声を上げると、ショーンは極めて冷静にこう言った。
「ジム。ここら一帯の人間はね、『天に在す我らが主』とある神以外の存在を信じちゃいけないきまりなのさ。
 それが山の主だなんて……本当に存在しない限り、間違っても口にしたりしないとその日の僕は書き記しているよ」
 ジムは唸った。
 シャーレの秘密は、彼女すら知らないところで、街の怪談話としてとっくに知れ渡っていたのだ。
「やあ、まさかその彼女と、君がくっつくなんて僕も予想していなかったけどね。
 ……どうしたんだい、ジム。唸ってないで、さあ! 支度をしないか!」
「支度だって?」
「いやまったく、ほとほと君は主役には向いてないよ。
 アルトック山に行くのさ!
 『悩む間に、時間を惜しむべきだ』と、〝怪傑の仮面〟にもこうあるぞ!!」
 ショーンに急かされ、そうだとジムは立ち上がった。
 下らない世間話にショックを受けている場合ではない。
 今はシャーレを救うために行動しなくては。
 勇むジムの側で、ショーンはせむしのように体をかがめて何かを数えていた。
 のぞきこむと端金が少々積まれているのが見える。
 ショーンは少し呻くと、珍しく困った顔で振り返った。
「ところでジム。君は馬車を雇う賃金を持ち合わせているかい?」
 アルトック山まで、少しばかりくたびれなくてはならないようだ。


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