ID:RQBYWhco氏:こなたが先輩かれしが後輩

 縁は異なもの味なものと、国語の先生が言ってたような気がするけれど、
僕はこの縁の味というのをどう言ったらいいか把握しきれていない。
とりあえず、どんな味覚音痴も水を欲しがるくらい、濃い味だというのは確かだ。
ただしこれが美味しいかどうかとなると、まだ判断しようがない。
……もしもこれが初恋ならば、レモンだとかカルピスだとかの味ときっぱりと言えるのに、
あんな胸焼けを覚えるような出来事を、そう呼ぶのは憚れる。
それ程衝撃的だといえば、運命的だと良い風に言い換えられるけれど、
それはちょっと遠慮したくなりたいのは確かで。
……長くぐだぐだ続けてしまったけど、ようするに、
僕は泉こなた先輩を、自分ではどう思っているか把握出来ずにいる訳で……。
「こんな美人で綺麗なお姉さんを前にして、何を迷っているのだね君はっ」
いや、お姉さんと呼ぶには背が低いです。ていうか性格含めてお姉さんは無理があると思います。
「私より1cm低いのに?」
「そ、そんなの、些細な差じゃないですか、すぐ抜きますよ! 僕男なんですから!」
「まぁまぁ、貧背はステータスだよショタっこ君」
「ひんせーって何!? あとショタって言うな!」
……そう、僕はこの濃い先輩に、ショタって言葉の意味が解るくらいまで付き合ってしまっている訳で。
どうしてこんな事になったんだか……。


先輩との出会いは、学園に入ってまだ一ヶ月も経ってない頃、夕焼けに染まった駅前での事、
同じ学生服の女子生徒が、二重にした紙バックの中にやたら重い物をいれて、それを引きずるようにして
歩いている後姿を見た。背が小さいから、腕をだらりと下げてしまっては本当にひきずってしまうから、
ある程度腕を曲げて持ち上げているという状態で、本当に辛そうだった。
……かといって、ここで助けを勝手出るのはどうなんだろうか? と、自問は一応した。
こちらが例え親切で荷物を運ぼうと申し出ても、相手が必ずしも感謝するとは限らない。
寧ろ理不尽な態度で断られる可能性もある、……十人十色、人の数だけパターンはある。
なので、ここは都会の人間っぽく、スルーしておくのが一番波風たたない事だと、
その侭通り過ぎようとも思ったんだけど――
「ふえー、もう疲れた、パス」
「え?」
「はぁ、しんど、流石にいっぺんに買いすぎたかなぁ……」
「……」
横に来た瞬間、というかジャスト、……自分の目の前にある歩道にドンと紙袋が置かれた。
「頼むよもう、次の電信柱までぇ、……あれ?」
その時、初めて目があった。
初めて見た彼女の瞳は、
死んだ魚の目をしていた。
「……キミ、誰?」
それはこっちのセリフだと言い返す事は、意識も朦朧としてそうな彼女にはとても出来なかった。
……全く知らない他人に、テンパッて荷物運びを願う程衰弱する原因になったのが、
オタクグッズだと後で知った時には、こなた先輩と同じ、死んだ魚の目をしたと思う。


「いやー本当助かったよ、アッシーより役に立つね、ヨッシーだね!」
「……え、えっと、どういう意味ですか?」
「え!? つ、つまりだね、パシリであるアッシーと、ヒゲオヤジのタクシーのヨッシーをかけた言葉で
ってギャグを説明させてどうするー! 業界のタブーに平気に触れるね」
あ、ギャグだったんだ、としか感想がなく、当然笑えなかった訳で。
今いる場所は彼女の家の前で、家もさほど遠くない場所だったから、……彼女曰くヨッシーとして、
ここまで荷物を運ぶ事になった。……正直、腕が痛い。
「このお礼は必ずするからさ、名前とクラス教えてよ」
「ああ、そういえば紹介してませんでしったけ。……ありえませんよね普通」
とは言っても、電車の中で燃えつきたよ真っ白にとか言いながら始終うつむいたし、
電車を降りた時には元気になってたけど今度はそのハイテンションに言葉をつぐむしかなくて。
で、やっと名前を知る事になると思ったら?
「……あ、そうだ折角だから、こう言ってくれない、ごにょごにょ」
「え、……なんで?」
「なんでって、こういうのはやっぱりお約束じゃないとねぇ」
「え、ええと……」
その時僕は、後悔していたと思う。
「……キサマの作戦目的とIDは」
「二年! 泉こなたぁ!」
学年がなんで作戦になるか解らない。
なんでよりにもよって、こんな変な人と関わってしまったのだろうかと、
この人が自分より先輩である事なんて、その時には些細な問題としてしか認識してなくて……。


――で、現在
「むう、かがみんに負けぬツンデリストが居ようとは……」
「かがみんって誰ですか……」
会ってなかったっけ? と、彼女が人差し指を頭にあてながら不思議そうな顔をする。
なんでリアクションをこういちいち取ってくるんだろうと、はぁと一つ溜息をつく。
ショタの意味も知ってるし、ツンデレの意味も知っている。
……知識だけでオタクを名乗る訳にはいかないけど、少なくともこなた先輩のノリにはついていけてる。
何気ない日常会話に、唐突に何かしらのネタを仕込んでくる事、突然あがるテンション、始まる小芝居、
どう考えても、こなた先輩はおかしい。
……そうなると、
「でさぁでさぁ、今度の土曜日の話なんだけど」
「……秋葉原に行く事ですか? 僕は付き合うだけですよ、荷物持つだけのポーター」
「そんな事言わないでさ、ね、ね、一緒に行って欲しい場所があるんだって」
「変な所じゃなかったらいいですけど、……どこですか?」
「コスプレカフェ」
「嫌な予感がする」
「なんと、そこは店員だけでなくお金さえ払えば客までもコスプレ可能!」
「予感的中した!」
「で、せっかくだから二人でダブルメイド」
「予想の斜め上言った!」
大丈夫だよ、君には仮面用意するから! って言うけど、何が大丈夫か解らない。
やばい、僕、この人にどんどん染められていってる気がする、このままじゃなし崩しに駄目になる、
……そう、本当はもう逃げ出せばいいんだけど、……だけど、
「ねぇねぇ」
「……」
……にこっと笑われると抵抗出来なくなるのは、男が悲しい生き物っていう当たり前の理由だからか、
それとも、相手がこなた先輩だからこその、特別な理由なのか。
「……はぁ、もう」
未だに僕は、判断出来ない。

「絶対嫌です」

「……あれ? なんでここで断るの? 話の流れ的におかしいような」
「流れってなんですか流れって」
「TAKE2」
「やらない!」

 


~こなたが先輩かれしが後輩 補足編~


泉こなた先輩と付き合う事になった経緯は語れない。
というか正確に言うと、語りたくても語れないというのが正しいというか。
なにせ、僕達の間には、それらしい宣言は一切なかったから。
あの例の荷物持ち運び事件以後、少子高齢化の時代には似合っていないマンモス校の、
広い校舎の中から先輩はたびたび僕を見つけ出し、互いのクラスまでお邪魔する事はなかったが、
渡り廊下とかの諸々の場所での立ち話や、必ずしも二人きりじゃないが一緒に下校する事が多くなった。
……コンビニにちょっと寄ってくるといって、食玩選びで三十分待ちぼうけくらった時はちょっと殺意を覚えた。
まぁそんなこんなで、学校の知り合い程度の関係だろうなと、自分では思ってたけど、
「こなちゃん、そういえばこの子は?」
と、その日一緒に話してた、こなた先輩の友達の一人が聞いてきて、
「うん? そうだね、……彼氏」
え、と声を出して固まったのは、まず僕が一番最初だった。
その後、なんか、ちょ、か、彼氏って待ちなさいよ! とか、おおう、やっぱりツンデレは萌えるねぇ、とか、
だからそのツンデレっていうのは止めなさい! とか、聞こえる中僕は固まり続けていた。
結局その日、先輩と出会ったのはそれが最初で最後、彼氏発言も爆弾みたいな冗談かなと思ったけど、
翌日の土曜日、電話がかかってきた。
今から一緒に遊びに行こうと。
「だって私達、付き合ってるんだよ?」
一体何時から――という疑問も許されない侭、僕はそのまま駅前まで呼び出され、
……そして、また荷物持ちとして働かされた訳で。
「うわあ、今月なんでこんなに限定品発売するんだよー……」
「……泣くくらいなら買わなきゃいいじゃないですか」
「解ってないなぁ! 買わないと余計泣く事になるんだよ!?」
解りません、解りたくもありません。
こうして僕は出会ったあの日みたいに、重い紙袋をぶらさげながら、
……自分の恋人であるらしい先輩の、楽しそうな横顔をぼうっとみつめていた。


――で、それから少し後
まぁそんなこんなで、僕はこなた先輩と付き合う事になった、……少なくとも体面的には。
傍から見ればお似合いのカップルという事らしい。……主に、身長が。
「男の子でこの身長、しかも顔は女の子みたい、黒歴史から引っ張り出してきたような設定だよね」
学校からの帰り道、こなた先輩がこっちを見ながら言ってくる。
……確かに本当なら、僕はこの顔を見下ろして、先輩からは見上げられているはずだけど、
正直、落ち込む。中学になったら自然と伸びるだろうと、たかをくくっていたらこんな事になった。
かわいいとか言われても、怒る前に酷く気が沈んでしまう。
「どうしたの? 元気ないね?」
「……原因は先輩が今作ったばかりですよ」
「なんだか解らないけど、よしよし」
「頭を撫でても逆効果なんですってば」
そうなのかーと言いながらえんえん撫でてくる。絶対この人、解っていてやっている。
……はぁ。
「むう、本当元気ないなぁ、……よし! 今日はお姉さんが君と遊んであげよう」
「……え? ……正直こなた先輩には、そういう色気が」
「何を想像したぁ!?」
「励ます、遊ぶ、ってなったらそれは」
「聞きたくない! 純情なショタっこからそんな汚れた言葉は聞きたくないよ!」
僕をなんだと思ってるんですか、健康な高校生の男子なんですよ。
「……まぁ、早とちりした事は謝ります、ごめんなさい」
「……そこは顔を真っ赤にして、目をうるうるさせながら謝る所じゃない?」
「だからそういう属性をひっつけないでください」
ともかく、こうしてこなた先輩が僕の部屋に来る事になった。だけど、

「という訳で昨日買ってきたシンプルシリーズの最新作をだね」
「……あ、それうちじゃ出来ません」
「ほえ? PS2無いの? wii派?」
「いやwiiもなくて」
「ま、まさかセガ信者!? ドリキャス!? サターン!? メガドラ兄さん!?」
なんだか凄く瞳をキラキラさせて詰め寄ってこられて、ちょっとひるみながら僕は、
「うちにゲームはありませんよ」
と言った。
「えええええ!?」
「そ、そんな驚かなくても」
「DSも!? ピスピも!? そんなはずは!」
「……全部の高校生がゲームをしてる訳じゃないですってば」
「そんな、は! そういえばこの部屋、漫画すら置いてない!」
確かに僕の部屋は殺風景かもしれない、あるのは勉強机とベッド、それとオーディオコンポくらい。
「パ、パソコンも無いなんて……普段一体どう過ごしてるの君……?」
「……高校入ってからは、ぼうっとしてましたね」
「中学までは?」
「部活でバドミントンやってて、……といっても、背が伸びなくてずっと補欠だったからやめましたけど」
体格が恵まれてなかったからって、それだけで放り出すのは根性ないなと自分では思ったけど。
そういう訳だから、部活にも入らなかったせいで、高校に入って一ヶ月近くは暇で暇でしょうがなかった。
だけど一ヶ月になる前に、こなた先輩に出会ってしまった訳で……。
「……むう、仕方ないねぇ、ちょっと今から家までくる!」
「え? いやだって、ここもう僕の家」
「来るのは私の家だよ?」
「何をしに……」
……それから二時間後。
「……はぁ」
僕の部屋の床には、こなた先輩の家から運んできたダンボールが一つ置かれている。
内容は漫画がびっしりと、ゲームとソフト一式。
入門編として用意されたのは、JOJOとうしおととら、ヘルシングというのはまだ早いらしい。基準が解らない。
ゲームはDS、ソフトはメテオスと応援団……脳をきたえる以外にこういうのも出てたんだ。
でもなんだろこのもえすたらきドリルって。一体何をするゲームなんだろう。
……まぁそんな訳で、この日から僕は、徐々に、こなた先輩の趣味に付き合わされる事になった。
会う度に、調教はどこまですすんでるかね? と、本人である僕に聞くこなた先輩は、とても愉快そうだった。

 ――で、現在
「あ、かがみさんって、この人だったんですね」
昼休み、僕は先輩に呼ばれてお弁当を一緒に食べる事になった。
「そういえばまだ自己紹介とかしてなかったわよね、私は」
「かがみんはツンデレ、つかさは妹、みゆきさんは眼鏡っこだよ」
「まともに紹介しなさいよ!」
親友という事もあってか、かがみ先輩のつっこみは僕より一段鋭い。年季が入ってる二人というか……。
「あ、そうだ僕は」
「ショタ」
「だからなんで属性で!」
「ショータ君っていうんだねー」
「違いますよ!」
まー名前なんて無しでいいじゃんとかこなた先輩が言うけど、いい事ない、全然。
けどどういう訳かこの冗談じゃない考えが通ってしまって、以後、僕はかれし君とか、ショタ君とか、ショータ君とか、
本名で呼ばれる事はなくなった訳で……。
「まさに北斗の子分だね」
「……ケンシロウに子分って居ましたっけ?」
むう、まだまだ修行が足りないな、とか言われました。どうしたらいいんでしょうか、僕は。



~こなたが先輩かれしが後輩 パジャマパーティー編~


僕の朝はいつも、背伸び体操から始まる。
……雑誌の広告にあっためきめき伸びる身長法の教材セット、値段も3800円とお小遣いでなんとかなる額で、
駄目でもともとの心積もりで買ったんだけど、そんな心積もりはもっちゃいけない事を、僕は知る事になった。
背伸び体操を続けたものの、僕の身長は一年に数センチというかたつむりみたいな成長だった。
つまり、ひいき目に見ても効果はない商品だった事になる。
しかし騙されたというにも、成長には個人差があるみたいだし、僕以外の人は成功してるかもしれない。
それに、この体操をしたから、一年に数センチだけとはいえ伸びたのかもしれない。
まぁ一番の理由が、この体操、体の線がまっすぐになるみたいで気持ちいい。
毎朝寝坊しない理由にもなるし、僕はこの背伸び体操を毎日の日課にしていた。
……けど、それが途切れる事になる。
「パジャマパーティー?」
「そう! みんなでパジャマになってお菓子食べたりトランプしたりして過ごすパティの国の素晴らしい習慣!」
「いや、それは知っているんですけど、……どうしてまた僕の家で?」
「いやその、パティもかがみんもみゆきさんも都合悪いらしくてさ」
「え、じゃあ誰がパーティーに参加するんですか?」
「君と私」
「……二人だけ?」
「うん」
「それパーティーって言わないんじゃ」
でも、恋人同士の過ごし方としては悪くない提案だったから、
少しだけ熱くなった頬をかきながら、いいですよと言おうとした時だった。
「頼むよー、うちの家にあるテレビ修理終わるの明日なんだってー、点検っていって全部もっていかすんだよー
ア ニ メ が み れ な い !」
それが理由か。
「……誰かに録画してもらえばいいじゃないですか」
「駄目なの! 初回はリアルタイムで見なきゃいけないの!」
そんなこだわりは是非捨てて欲しいと思う。
そもそもテレビを見るったって、前言ったとおり、僕の部屋にはテレビは置いていない。
……そしたら今日だけ部屋に運べばいいじゃん、と軽く先輩は言った。
というかまずその前に、女の子と一晩自分の部屋で過ごす、という事がまず難題だったんだけど。
母に、寧ろ断ってくれという願いで昼休み電話したら、今日お寿司とるからとか言われた。
……息子が女の子を連れてくるのが、本当嬉しいらしい。はぁ。

 先輩の家によって、もろもろの荷物をバッグにつめてでてきた所を、一緒に歩いていく。
チェーン店の出前とはいえ、上寿司を用意して母親は待っていた。
父は仕事で今日は遅くなるらしく、食事は僕と先輩と母親の三人でとる事になった。
で、根掘り葉掘り聞いてくる。正直勘弁してほしくて、耳の先まで真っ赤になる。
照れる僕が珍しいのか、先輩はにやにやしながら僕を見てくるし、ああ、もう。
……お寿司も食べて、これ以上邪魔しちゃ悪いからと母は居間へひっこんで、
僕はとりあえず父の部屋にあるテレビを自分の部屋にもってきて、その間にこなた先輩はお風呂に入って、
(……先輩のあとに僕がお風呂入るのって、なんかまずい気が)
と、くだらない事を考えている内に、コンコンとドアが叩かれたあと、開いた。
「やっほー、いいお湯だったよ」
「……」
「ほへ、どーしたの?」
……ちっちゃな体も、それをすっぽり覆うような長髪も、なによりそのまるっこく可愛らしい笑顔も、
お湯上がりで全部が全部磨かれていて、……またその姿がピンク色のたるんだパジャマとよくあって。
「……ふふーん、惚れ直した?」
「! ぼ、僕もお風呂入ってきます!」
図星をつかれて、慌てて僕は部屋を飛び出した。すれ違う際にツンデレーとか言われた気がする。
服を脱いで、先輩に支配された頭に熱いシャワーをあびて、体にもかけてから、
広いとはいえない湯船に、先輩と同じくらいの体を沈ませる。
「……ていうか、逃げなくていいじゃないか僕、素直に言えば」
まがりなりにも恋人同士なんだから、あそこで、かわいいって一言言えば良いだけなのに。
「はぁ、気が弱いな、僕」
自然と顔半分をお湯の中に沈めて、ぶくぶくと泡をふいて、
……今更先輩が入ったお湯という事を思い出して、目を見開いて慌ててざばっと立ち上がって、
再び、何してるんだろう僕、と自己嫌悪する事になった。

続く


~こなたが先輩かれしが後輩 パジャマパーティーその2編~


「戻りました」
といって、あつめのタオルで髪をくしゃくしゃと拭きながら、自分の部屋に戻ったら、
こなた先輩は漫画を読みながら待っていたんだけど、
「……」
……なんかぼうっと僕の事をみつめている。てっぺんから爪先まで、髪の毛一本一本確かめるみたいに。
なんでまた、……まさか。
「……惚れ直した?」
「うん、私の嫁は世界一だなぁと」
「だ、誰が嫁ですかっ」
同じ質問なのに、なんで今度はする方が、顔を赤くしなきゃならないんだろう。
掌の上で僕を躍らせて、こなた先輩は満足そうに笑っている。ああ、もう。
「まぁまぁ、とりあえず座りたまへー」
そう言って、こなた先輩は椅子にしている僕のベッドの横を、ぽんぽんと叩く。
隣り合って座るって、と一瞬ためらいそうになったが、……一応の自分たちの関係を思い出し、
おずおずと隣に座らせてもらった。
――ぴとっと肩を触れ合わせてきた
「!?」
え、えっと、なんなんですかこの攻撃!? パジャマ姿で若い二人がぴとって、
って、こなた先輩めちゃくちゃニヤニヤしてる! これ別に自分がこうしたい、って理由よりも、
僕の反応を楽しむ事に重きを置いている!
「……萌え~」
……少なくとも、恋人相手に言う台詞じゃないよ、これ。
お風呂上りの火照った体に、CCレモンは冷えているし爽やかできもちいい。
先輩もこれを飲みながら、パイの実じゃなくてチョココロネの実というのをパクパク食べながら、
アニメが放送するまでの時間、ゲームをしている。……。
「先輩、こういう場合って対戦ゲームとかしません?」
「まぁ、そうだね」
「解ってるなら、なんで先輩だけがゲームしてるんですか」
「ちょっと待ってよー、せめてこの子落としてから」
やっているのはギャルゲーって奴だし、やっぱりこなた先輩はおかしい。
「これじゃ、パジャマパーティーでもなんでもないですよ」
「確かにそうだね、何かお話する? ハルヒの二期はどのエピもってくるかなとか」
「あの、もうちょっと恋人らしい話を」
「……ハルヒとキョンはどっちがツンデレで勝つんだろうね」
「なんで他人の、しかも漫画のキャラの恋話をしなきゃいけないんですかっ」
いやいや、ハルヒはラノベだよー、とか言うけど、どうでもいいです。
「こなた先輩の事がよくわかんない……」
「ふふ、ミステリアスな女と言ってくれたまへ」
「そういう意味じゃなくて。……急に僕の事彼氏とか言い出しますし、……でもその割りに
全然恋人っぽい事しませんし、今日だって、結局、その」
そこでこなた先輩は手をとめて、僕を見ながら汗をかきながら、口を真四角にあけて、
「つ、つまり、したいの? 若いねぇ……」
「話が飛びすぎですよ! というか若いですよ、高校生だから!」
照れなくてもいいじゃんと頭をぺしぺし叩いてくる、……この人本当に僕をからかうのが好きみたい――
――一瞬で
「……」
「……ん、えへへ、……奪うというのはなんか新鮮。キス自体初めてだけど」
……唇と、唇が、ひっついた。
赤くなっているこなた先輩の顔より、自分の顔が赤くなっているのが、頬と耳の火照りで自覚する。
その赤い色を、先輩はさっきよりもにやにやと眺めていて……。
――で、アニメの放送時間
「……あの、こなたせんぱ」
「しっ」
発言を許されませんでした。
――で、アニメの後
「いやーおもしろかったねー、初回だけあって作画も気合入ってたし! どんだけ坂野サーカス!」
「さ、サーカスなんてありましたっけ? いやそれよりも」
ゲームしてる間も、アニメを見ている間も、聞けなかった事をやっと聞いた。
「そ、その、なんであんな事、したんですか?」
「……嫌だった?」
「いや全然! 嬉しいですけど、……けどいきなりというか、なんというか」
「そうだね、語れば長くなるけど」
こなた先輩は言った。
「君がショタだから」
「全然長くなってない!」
「いやー、何? 不意打ちでキスされてからの、ショータ君のあの悶えっぷり!
あれだけでもうごはん何杯でもいけるね、しかも丼でだよ!」
「わかんない! もう少しもわかりたくない!」
自分が昨今ブーム(?)の萌えとやらである事を、僕はけして認めたくなかった。
で、こなた先輩曰く、僕がこうして苦悩する所も、また萌えだって。
……すいません、オタクの人ってみんなこうなんですか? だとしたら趣味悪くありませんか?
で、結局夜更かしはつづいて、僕達は二人ともベッドじゃなく床で寝てしまう失態を演じてしまった。
当然背伸び体操も、この日だけは休まざるをえなかった。



次回予告
拝啓、皆様。今僕は、生まて初めての格好をしています。
「ほほう、これは」
「……なんで僕がこんな目に」
こなたが先輩かれしが後輩コスプレ編 副題:何のコスプレをどういう状況でさせるかは決めてない 


~コスプレまでの繋ぎ編~

 

 候補その一、メイド。
「ほらほら、女装メイドとかトレンディだよねー」
「……どこの国の話ですか」
「日本」
「……マジですか」

 候補その二、ブリジットか渡良瀬準か結城蛍。
「これこなたさんがするんですか?」
「いや、君がだよ?」
「あの、僕は男ですよ」
「うん、このキャラも男だよ?」
「……え?」

 候補その三、かがみん。
「かがみさんは漫画やアニメのキャラじゃないでしょう!?」
「んー、でもさー、あれだけのツンデレはいないよー、ほらコスプレも簡単だし、あいた!」
「またあんたはろくでもない事考えて……」
「うう後ろから不意打ちはひどいよーかがみん、なんて愛の鞭?」
「愛情なんて一欠片もないわよ!」
「……欠片もないんだ」
「え、あ、ちょっとこなた、何マジで落ち込んでのよ、いや、今のは言葉のあやで」
「……と、これこそが正しいツンデレの姿なんだよ、わかったショータ君?」
「こなたー!」


~こなたが先輩かれしが後輩 コスプレ編~

 

 ああ神様……。
貴方は一体、僕に何を望んでいるんでしょうか……。
「いやー、ここまで似合うと怖いくらいだねぇ
昔の人は言ってました、奇跡は起こしてこそ価値があると!」
僕の隣では、こなた先輩が、嬉々とした様子ではしゃいでいます。
「いやでも、かわいい子にかわいい服を着せたら似合うのは当たり前だよね、奇跡じゃないか」
こなた先輩の隣では、僕が、死んだ魚の目で虚空を見上げています。
「ほらほら、写真撮るんだからさー、もっとニコッと笑って」
「わ ら え ま せ ん」
「お、おお、ツンデレメイド?」
「……いやもう先輩、お願いしますから死んでくれませんか?」
「いいけど、すぐコンティニューするよ?」
今僕は、メイドの姿で学校に居ます。武士は恥を削ぐ為に腹を割ったと聞きますが、
僕の場合、死にたいとは思えど本当に死ぬとなると躊躇してしまいますから、
ただひたすらに、この格好をさせた張本人を、心の中で呪い続けるだけなんです。
「……そーっと、そーっと、……えい」
「……何してるんですかつかさ先輩」
「そのー、かわいくて」
だからってなんで、頭を撫でるんですか。

 

 土曜日、本来なら休みの日に僕たち生徒は学園に登校致しました。といっても授業ではなく、
午前を使っての合同レクエーションみたいなものです。まぁ、それはいいです。
今思えばここでさっさと帰ってしまえば良かったのですが、ついこなた先輩のクラスに遊びに行って、
最初は皆でだらだら話をしていたのですが、ネタも尽きて、これからどうしようという段階で、
こなた先輩のあのなんとも他に類を見ない笑顔が炸裂しまして、
そして彼女が、ボストンバッグから取り出したのは、メイド服でした。
着替えさせられました。無理矢理。皆の見てる前で。
涙目になってる所ですら萌えと言われた時は、生まれた世界を呪い、
そして今は、宇宙を創世させたビッグバンに、心の中で八つ当たりをしています。
「しかし、こなたのサイズの服を着れる男子が居るなんてねぇ」
「本当ぴったりですねー」
「……どうせ僕は背が低いですよ」
「胸も無いよねぇ」
「当たり前でしょ男なんだから!」
「大丈夫大丈夫、貧乳は希少価値だから」
「男に胸がある方がデフォルトだったら気持ち悪いでしょ!」
「まぁまぁ落ち着きたまへー、じゃあこれから早速」
一緒に帰ろうかと言いました。
は?
「……こ、こなた先輩、まさか、この格好で?」
「勿論!」
「ふざけないでください!」
「大丈夫だって、校門でバニーガール姿でチラシを配るよ全然大丈夫!」
「大丈夫じゃない! って、ちょっと、何ひっぱって、た、助けてかがみ先輩!」
「いや、その、……がんばって」
この世には、ありがたくない応援だってある事を、この時初めて知りました。

 


~こなたが先輩かれしが後輩 おまけ編~

 

 普段は自分そっちのけで、漫画やゲームに興じるこなた先輩だけど、
時々凄く積極的な事がある。例えば、今がそう。
「……と、突然どうしたんですか?」
「あててんのよ」
「……何もあたってませんけど」
「うん、そうだね、まぁいいじゃない」
とかなんとか言いながらこなた先輩は、……僕を後ろからぎゅうっとしてきてる訳で。
場所はこなた先輩の部屋、オタク趣味なれど部屋は散らかっておらず、居心地はいい。
ただ、女の子らしい部屋かと言われると困る物もちらほら、なんでHなゲームがあるんですか先輩。
……まぁともかく、僕は今、曰く『彼女の部屋』とやらで、やたら甘い行為を受け取ってる訳で。
顔が火照るし、胸もドキドキする。けど全然嫌じゃない、……寧ろもっとその、
甘えて欲しいというか、甘えたいというか、……甘え合いたいというか。
「こ、こなた先輩、その」
「んー? どうしたいの?」
「え、えっと」
「普段自分は男だ男だって言ってる癖に、こういう時だと女々しいよねぇ君」
耳に痛い事を、その耳にささやくように言ってくる。
……こういう時は何も言わずに、こなた先輩の方を向いて、
「ん――」
……うるさい事を言う唇を、塞いでみた。

 こなた先輩は猫みたいに気まぐれで、さっき近寄ってきたと思ったら、
すぐどっかに行ってしまったりするから。
……偶にはこうして、無理やり、繋ぎとめたくなってしまう。

 

 

 次回、ネタがない。


 

ツールボックス

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