ID:kxFQM2AO氏:ずっと一緒にいたいから

いくら双子の姉妹と言えど、完全に心は通じ合わない。
だから会話をし喧嘩をするのだ。
それはとても自然な事だと言うことは、もちろん私も幼い頃から理解していた。
ただ、たとえ完全に通じ合う事ができなくても、ある程度の予測は出来ると思っていたのだ。

事件が起こったのは高校三年生の三学期の事で、高校の卒業までのカウントダウンが始まろうとする頃だった。
ほんの少しだけ冬の寒さが弱まり、春の兆しが見え隠れしていたが、妹の目覚めは相変わらず遅かった。

「つかさ、起きなさい!早くしないと遅刻するわよ!」
「うーん、後五分……」

こんな具合である。
そんな対処の仕方も私は慣れたもので、妹の布団をバサリと音を立ててまくり上げた。

「うわーん、寒い~。眠い~……」
「いい加減にしなさい、早く着替えて」

妹をまくし立てて、急いで朝食をとり終えた後、私と妹はバス停へ足を早めた。
そこで待っていたのはこなただった。
こなたはいわゆるオタクであり、大抵寝不足である事が多い。
案の定、こなたはその日も眠たい顔を見せていた。

「うあーう゛ー、おはようさん、二人ともー……」

こなたはその日、徹夜をしていたのだそうだ。

その時の私は受験勉強に追われていた。
一方、妹とこなたの方は今年の秋には専門学校を受験しており、その時すでに合格までしていたのだ。
私は日々をマイペースに過ごしている二人の姿を見ると、羨ましく思えてしょうがなかったが、私もこれが終われば、と自分に強く言い聞かせながら勉強を続けていた。


昼食時になり、私はもう一人の親友であるみゆきと、大学について語り合っていた。

「少々かがみさんの家からは、遠くはありませんか?」
「そうなのよね。合格したら大学の近くで一人暮らしをしようと思って。」

私がしようとする一人暮らしでは、自由を手にできるだろうと考え、憧れを感じていた。
しかし妹は、それに異論をとなえた。

「え?お姉ちゃん、一人暮らしするの?やだよー、さみしくなるよー」
「でもそれはまだ、わからないし、先のことよ」

「そんな事ないよ。だって、もう三ヶ月もないんだよ?」

妹にそう言われてドキッとした。
確かにそう言われると、三ヵ月は短いような気もしてくる。

「こなちゃんも一人暮らしをするんでしょ?いやだよ。みんなといつまでも一緒にいたいよ……」

そう言って、妹は顔をしかめながら涙を流した。
私もそうであって欲しいと思う。
しかしたとえバラバラになったとしても、また直ぐに会えるのだろうし、何よりも新しい生活を受け入れるためには必要な出来事なのだと思う。

「せっかくみんな仲良くなって、みんなでお昼ご飯を食べて、みんなで勉強をするようになったのに。どうしてそれが出来なくなっちゃうの?」

これは妹の、純粋な甘えなのだろうか?
目の前で泣きじゃくる妹に、どんな声をかけてやればいいのか、わからなくなってしまう。
結局その場にいた私と親友達は、黙ってその様子を見守っている事しか出来ず、ただ時間が解決するのを待つしかなかった。




学校が終わり、私とみゆきは私の部屋で勉強会を開いていた。
となりの妹の部屋では、こなたと妹が遊んでいるはずだ。

ちょうどその日は私の家族が誰も家にいないため、少し騒げていいかも知れないと考えたのだった。

「今日気が付いたんですけど、つかささん、目元にクマが出来ていませんでしたか?」
「クマ?そうだったかしら。気が付かなかったわ」
「今日、私たちが離れ離れになると言うことで泣いてしまっていましたし、その事で実は深刻に悩んでしまっているのかもしれません」

みゆきはややうつむいたまま、囁くようにボソボソと私に告げた。
確かにこなたもみゆきも、妹にとって今までで最高に気の合う親友なのだろうし、私との関係ならばさらに深い。
それゆえにこの関係を大切したいと思っているのかもしれない。


私はジュースとお菓子でも持ってこようかと、みゆきに一言告げて一旦自分の部屋を出た。

おやつの準備が出来たら、隣の部屋で遊ぶ妹の様子を見てみようか。
そのついでにみゆきの言うクマの有無も確認してみようかと考えながら、私は冷蔵庫の中のオレンジジュースをグラスに注いだ。

「つかさ、こなた、入るわよ」

返事は返ってこない。
私が持っているお盆の上には、四つのグラス入りのオレンジジュースと、お菓子で山盛りになった大皿が載せられていた。
だから扉を開けてくれないと、少々困るのだ。

返事がないことを不審に思ったものの、ただ聞こえなかっただけなのだろうとあきらめて、肘を使って妹の部屋の扉を開いた。
こなたがつかさのベッドで眠っている。
肝心のつかさはここにはいない。

仕方がない。
私は重たいお盆を抱えながら、そしてこなたが起きぬ様に気をつけながら、静かに妹の部屋から抜けた。

私の部屋は扉が開きっぱなしになっていた。
私が閉め忘れたのかもしれないと反省しつつ、扉を開けずに済むことにホッとした。
テーブルの前に座るみゆきに声をかけた。

「みゆき、お待たせ。つかさ見なかった?」

うつむいたみゆきの胸は、鮮やかに赤く染まっていた。

「みゆき!」

私は慌ててみゆきを揺さぶったが、まるで立てかけたバッグが倒れるのと同じように、みゆきの体が床に崩れてしまった。
すぐに隣の部屋へと走り眠っているこなたを起こそうとしたが、彼女のお腹もまた、赤く染め上げられていた。

「こなたーっ!どうしたのよ、こなたー!」

声が裏がえり、必死で親友に呼びかけたが、やはり何も返っては来ない。
私がそうしていると、突然背中に鋭い痛みが走った。
痛みで声を出す事が出来ず、必死に背中に手を回して痛みの原因を探った。
背中にそそり立つ、ある一つの固い突起物に指先が当たった。
しかし、その突起物は何者かに抜き取られてしまった。
全身の力は抜けていき、眠り続けるこなたの体に、私の上半身が覆いかぶさった。
何とか首だけを動かして、後ろを振り返ると、私の血をまとう包丁を握りながら私を見下ろす、つかさがいた。

「な……………」


「ん……………」


「で……………」

私は一呼吸ごとにしか言葉を喋れなかったが、かろうじて彼女に問いかけた。

「痛い?ごめんね……。でもこれで、みんながバラバラになることはないんだよ。これからもずーっと、みんな一緒だから」

突然訪れた私の最期は、最愛の妹から与えられたものだった。
これが私の人生と言うストーリーの最悪の落ちなのか、それとも最善の締めであるのかは、私にはわからない。

ただ、悔しいのは、妹がここまで思い詰めていたことを、理解してやれなかった事だ。
そうすれば、こんな大きなクマを、妹の目元に作る事はなかったはずなのだ。


最後に私が見たものは、自分のお腹に包丁を刺し込んでいる、双子の妹の笑顔だった。
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