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サーバ地方の最南端に存在する『炎の神殿』へと続く橋を作るための砦。それが、サーバ砦である
その中に……各地の町や村から連れてこられた市民がいるはずである
もしかしたら、かがみ達の家族や、みゆきの母親もここに……

「む、誰――」

扉の前にいた男は、仲間に警告を発することもできずに絶命した
男に向かって突進したみゆきが口を塞ぎ、それと同時に彼女の剣が男の心臓を貫いたのだ
人を殺すのは忍びないが……こちらが加減しても、向こうは殺す気でかかってくる
『自分の身を守るため』
昨日見た、こなたの記憶の中で言われていたこの言葉が脳裏に蘇ってきた

「……人は、《業(ごう)》が深い生き物ですね……」

たとえそれが、自分以外の誰かを守るためであっても、殺される側にとってはそんな理屈は関係ない
『背負う』。それが、剣を取って戦う者の《業》である

「命は命を犠牲にしなければ、人は生きていけないのですから……」

剣についた男の血を見つめながら、みゆきは呟く
悲しそうに目を伏せたその顔を見て、こなたは慰めるようにみゆきの肩を叩いた

「だったら……生きてる限り、《業》を背負い続けようよ。犠牲になった人達のためにも、ね」
「……はいっ」

力強く返事をして剣にこびり付いた血を落とし――二人は無言のまま砦へと突入した
 
 
 
その様子を、遠くの高台からつかさとかがみが眺めていた

「……よし、そろそろいいかしら」
「そうだね、行こ……ってお姉ちゃん!?」

かがみは高台を飛び降りて下の地面に見事に着地
その高台を見上げて両手を広げ、

「さ、降りて来なさい。歩いてくると遠回りになっちゃうから」
「え、え~~!?」

高台から下を見下ろして、足が竦んでしまった
ここから地面までは相当な高さがあり、つかさでなくとも足が竦んでしまうだろう
なぜかがみが飛び降りることができたのか、つかさには疑問で仕方がなかった

「大丈夫よ、私がしっかり受けとめるから」
「うう~……えい!!」

勇気を振り絞り、つかさは高台から飛び降りた
だが……その高さは、つかさにとってはやはり高すぎた

「きゃああああああ!!」
「わっとと!」

悲鳴をあげながら落ちてくるつかさをしっかりと受け止め、地面にゆっくりと降ろした

「ふう……ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして。じゃ、行くわよ!」
「うん!」
 
 
 
 
 
『戦力を二つに分ける?』

その数十分前。かがみ達がいた高台の上で、四人は会議を進めていた
どこで入手したのだろうか。サーバ砦の地図を広げて、みゆきがある部屋をトントンと指差す

『風の精霊シルフに調べてもらったところ、この部屋に自爆スイッチがあるようです』
『じっ、自爆スイッチ!?』

かがみが思わず大きな声をあげた
自爆スイッチなんて押されてしまったら、町の人達が吹き飛んでしまう
いや、町の人達だけでなく、自分達も……

『先に町の人達を助けに行くと、自爆スイッチを押される危険性があります。ですが自爆スイッチを無力化に行くと、町の人達が危ない……』

その通りだ。もしかしたら、町の人達を人質として使う可能性がある

『そこで、町の人達を救出に向かう班と自爆スイッチを無力化する班に分ける必要があるんです』
『なるほど……』

そして会議の結果、自爆スイッチの無力化及び陽動はこなたとみゆきの賢者班、町の人達の救出はかがみとつかさの姉妹班となった

『いい? こなた。魔術が使えないからって、みゆきにばっか頼ってちゃダメよ?』
『わかってるってば。それじゃ、行ってくるね』
『手筈通り、私達が侵入に成功したら向かってきてください』
『うん、わかった。死なないでね……!』

コクンと頷くと、こなたとみゆきは高台を飛び降りた
 
 
 
 
 
そして二人は、サーバ砦を駆けていく
襲い来る軍の人間を切り付け、殴り倒し――場合によっては殺していく
断末魔のそれを振り払うのではなく、背に負って、二人は長い通路を駆け抜ける

「――待ってください!」

みゆきはこなたの腕を掴み、制止させる
こなたは慌てて後ろの通路に目を向けるが、人影はない
『追っ手が来たのでは』と思ったが、どうやらそうではないみたいで安心した

「どしたの? みゆきさん」

その問にすぐには答えず、こなたの向こうの扉を凝視する

「……この先は、ちょっとした広場になっています。おそらく、私達の突入を聞き付けた軍の人達が待ち構えているでしょう」
「それじゃ……」
「はい。袋叩きにあう可能性も少なくありません」

みゆきは小さく言うと、剣を床に突き立てて集中を始めた。精霊を呼び出すのであろう
こなたは『精霊を召喚する』ところを初めて見る。半ば興奮気味に、集中する彼女を見つめた

「気高き母なる大地のしもべよ……契約者の名において命じます。出でよ、ノーム!!」
「わわ!?」

みゆきの詠唱に合わせ、黄土色の光が空中の一点に集中する
それが強烈な光を発し、こなたの目を眩ませた

固く目を瞑ったこなたの瞳に闇が少しだけ戻ってくる。光が消えたのだろう
おそるおそる目を開けると……こなたは子供のように目を輝かせた

「の、ノームだ! 魔導書に書かれてた通りの!」

モグラというか狸というか、なんとも形容しがたい姿のノーム
他の精霊達に比べ、やや愛嬌のある体ではあると思うが……精霊というよりは人形みたいである

“っは~、まだ魔導言語を解読できるヤツがいたなんて驚きだぜ”
「あらっ?」

どんな言葉を喋るのか、どんな口調で話すのかワクワクしていたこなたは拍子抜けした
無気力な喋り方。しかも精霊とは思えないほどに言葉遣いが悪い

「一口に精霊と言いましても、様々な種類がいるわけですし……」
「そうなんだ……初めてナマで見たのに、なんかガッカリ」
“そこ! 聞こえてるぞ!”

こなたに指を差して注意するものの、やはり精霊らしさは微塵も感じられなかった

“で、みゆき。俺を呼んだ理由はなんだ?”
「あ、そうでした。実はですね……」

それから数分が経ち、二人に作戦を伝えた後、みゆきが扉に手を掛けた
彼女の左手に握られている剣は、ノームの大地の力を受け取り茶色に輝いている

“まったく、精霊を囮に使うとはな……精霊使いが荒いぜ”
「まあまあ。しばらく喚ばれてなかったらしいからいいじゃん」
“まぁな。おかげで退屈しのぎにはなりそうだ”
「では……行きます!」

みゆきが扉を開き、その陰にこなたと共に隠れる

「……なんだ? この生物は……」
「侵入したのは女二人じゃなかったのか!?」

思った通り、扉の中からはたくさんの男たちの声が聞こえる
そのどれもが、ノームの姿を見て疑問の声をあげている

“大地の力をくらえぃ! グランドダッシャー!!”

突如として男たちの足元に亀裂が走り、その穴から無数の岩塊が噴き上がった
それらが男たちに直撃、悲鳴をあげて倒れていく

「……すごい」

陰からその光景を見ていたこなたは、強力な魔術に、それしか言うことができなかった

“じゃ、あとは頑張れよ~”

それだけ言うと、ノームは姿を消した。亀裂はきれいに塞がり、あとには男達の体が横たわっているだけだ

「泉さん、早く!」
「あ、うん!」

みゆきに急かされ、男たちの間をすり抜けていく。岩塊が二人の体に当たることはない
だがしかし、グランドダッシャーの効果範囲外、つまり後ろの方にいた奴らは無傷なのだ
その無傷の兵士達が二人に襲い掛かる!

「――グレイブ!!」

みゆきが地面に剣を突き立てると同時にその光が床を流れ、みゆきの目の前でサークル状に広がっていく。この間わずか十分の三秒
サークルの内部が陥没し、上にいた男たちは悲鳴をあげて奈落へと落ちていく
数秒後にその穴はキレイに塞がれた。文字どおり、そこは男たちの墓となった

「ふう……」
「みゆきさん、危ない!」
「!!」

全滅したかのように思っていたが、グランドダッシャーを持ち堪えた男がみゆきの後ろで剣を構えていた
位置関係から……態勢を取り直すことはできない!

「これで終わr」
「そりゃ! ドリルハードキック!!」

こなたが高速回転しながら男のわき腹に足から突撃!
直撃を受けた男は吹っ飛び、壁に背中を叩きつけた後に気を失った

「泉さん、ありがとうござ……」

みゆきがこなたに向かってお礼を言おうとすると、当のこなたはフラフラになっていた

「ふぇ~……目~が~ま~わ~るぅ~……」
「い、泉さん……」

お礼を言うことも忘れ、彼女は仲間の痴態に半ば呆れてしまった
 
 
 
 
 
「大変です! 更に何者かが侵入してきた模様! 兵士はほとんどが先の侵入者討伐に出払っており……」

サーバ砦管制室に、一人の男が駆け込んできた。この砦の二番手である
すでに管制室にいた大柄な男に状況を伝えるが……

「くっくっく……」

大柄な男は、壁に埋め込まれた大量のモニターを見つめたまま、不気味に笑うだけだった
モニターは、いずれも青とピンクの髪を持つ少女を映し出している

「どうされますか!」
「お前は残ってる兵と共に新しい浸入者の方に向かえ。こいつらは、俺がじきじきに相手する」
「は!」
「ところでお前」
「なんでしょう?」
「衛生班のやつと付き合ってるそうだな?」
「ぎっくぅ!!」
「組織内恋愛はご法度だ! わかったら別れてこい!」
「は、はい!!」

大柄な男に怒鳴られ、その男は管制室を飛び出した
振り返り、また不気味に笑いながらモニターを見る

「くくく……いいぞ、早く俺のもとへ来い!! あのパトリシア隊長をも薙ぎ倒してきたという、伝説の少女『A』!!!」

 

【元ラミア軍副隊長:サーバ砦最高幹部:ヴァルア四天王“兄沢命斗”】

 

廊下を駆ける青い髪の少女を見つめる兄沢の目は、紅く燃えていた

 

 

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