「まざー・こんぷれっくす」ID:oSSXuIDO氏

〈こなたside〉

私は『母の日』が大っ嫌いだ。
なぜなら、私にお母さんがいないからだ。
周りの人は、「お母さん、嬉しがっていた」とか、
「お礼にケーキ買ってもらっちゃった」とか、はしゃいでいたり。
その光景、私には耐えられなかった。
お母さんのいない私を蔑むような気がして。
……否、実際に私を蔑んでいたのだ。
私を哀れむような視線が、耐えられなかった。


「こなた、そろそろ行くぞ」
「……うん……」


中学を卒業し、私は遠く離れた埼玉県にある陵桜を受験、見事に受かった。
今の学校には未練なんか何一つなかった。
あるのは――不安。今の中学から、陵桜に行くのは私だけ。
ただでさえ私はオタクなのだ。友達ができるか、あまり希望はない。
そして、陵桜に初登校する時がきた。





陵桜に入学してから1ヶ月が経った。
まさかこんなに早く友達が出来るなんて思わなかったな。
担任の先生も、ネトゲで同じパーティにいたし。なんたる偶然。


「どっちかってゆーと、かがみは……オーク!」
「な! 私だけ怪物か!」
「オーク……ですか?」
「ゆきちゃん、オークってのは……」
「だー! つかさ、しゃべるな!」


うーん、賑やかだなあ。辛かった出来事が嘘のようだよ。


「そういえば、もうすぐ母の日だね!」


……そう、嘘だったらどんなによかったのかな……


「私達は今年もカーネーションをプレゼントするんだ!」
「家族みんなで一本ずつプレゼント。これ、恒例になってるのよ。みゆきは?」
「そうですね……私は、しばらく母の日をお祝いしていませんでしたね……」


……いや、わかってる。みんなに悪気はない。みんな、私にお母さんがいないって知らないんだから……。
わかってる。わかってはいるんだけど……
すべてが私を見下しているかのように錯覚しちゃう。重症だな、これは。


「ねえ、こなちゃんは、毎年お母さんに何かあげてたの?」


もちろん。直接渡せたことはないけど、毎年、母の日とお母さんの誕生日には、
必ずお母さんの大好きだったというパンジーを仏壇・お墓に供えている。
そう、『供えて』いる。だから悔しい。お母さんに、何もプレゼントしてあげられなかったことが。
それに、お母さんのコト、ほとんど憶えていないから……余計に悔しい。


「どうしたのよ? こなたが考え込んでるなんて珍しいわね」
「何か悩み事があるのなら、ご相談に乗りますよ?」


あっ、しまった。答えるのを忘れちゃった。


「ううん、大丈夫。大したことじゃないから」
「そう? それならいいけど」


本当は、大したことなんだけどね……
ああ、このまま時が止まっちゃえば良いのに。
もしくは、母の日なんて無くなっちゃえばいいのに。
 
私の嫌いな日は、すぐ近くにせまっている。





母の日。この日が日曜でよかったと思う。
今、私はお母さんのお墓の前にいる。もちろん、お父さんも一緒。
お母さんが大好きだったというパンジーの花を、花瓶にたてる。
花瓶に寄りかかり、力なくうなだれる花。まるで、今の私みたい。
 
 
 
私は、この場所が好きでもあり嫌いでもある。
好きな理由としては、お母さんの近くにいると感じられること。
案外、近くで私たちを見てたりして。
 
嫌いな理由は、お母さんがいないという事実を突き付けられるから。
時々、思うんだ。『お母さんは、ホントはどこかで生きているんじゃないか』って。
でも……ここにくると、淡い希望はあっさりと打ち砕かれる。
やっぱりお母さんはいないんだと、思い知らされる。


「あれ………?」


おかしいな、涙が出てきちゃった。
今まで、ここにきても一度も泣かなかったのに、なんで今日は……?


「……こなた……やっぱり、淋しいのか……?」


……認めたくないけど……私は淋しいんだ。お母さんがいなくて。
この間の一件で、それが表にでてきちゃったんだ。
お母さんの分まで、お父さんが頑張ってきてくれた事はわかる。
だから私も、できるだけ弱さを見せないようにした。お父さんを心配させたくなかったから。


「こなた、オレの胸なら、貸してやるぞ?」
「…ひっく……ありが……っ……お父さ…」


全部言い切る前に、私の涙腺が限界を迎えた。


「ぅあ……っ……うわあああぁぁぁ……!!」


周りに人はいない。幽霊さんとかには迷惑だったかもしれないけど、私は涙が枯れるまで泣き続けた。
それしか……できなかったから。





気が付いたら、私は自分の部屋にいた。目の前には、お父さんがいる。
どうやらあの後、私は眠っちゃったみたい。


「こなた、今日は疲れたろ。ゆっくり休みなさい」
「……うん」


結局、お父さんに迷惑をかけちゃったな。
もう少し、お母さんといたかったんだろうけど……
今度、お父さんの誕生日の時、今まで以上にお祝いしてあげよう。
今まで私を、男手一人で育ててくれたお礼に。
でも……はぁ、明日が憂鬱だ。私が壊れなきゃ良いけど。
 
 
 
私は実は、母の日自体はそんなに嫌いなほうじゃない。
私が嫌いなのはその次の日。つまり、明日なんだ……



〈かがみside〉

私は母の日が大好きだ。
いつもは恥ずかしくって言えないけど、
母の日があるからお母さんに「ありがとう」が言える。
こなたが聞いたら「やっぱりツンデレだー」って言うんだろうけど。


「はい、お母さん。いつもありがとー」
「……えっと……ありがと……//」


毎年、一人一本のカーネーションを渡してるけど、
ありがとうがなかなか言えないのよね。


「うふふ……どういたしまして」


確かに恥ずかしいけど、この笑顔が見たときに、『言ってよかった』って思える。
 
でも……この世のなかには、お母さんがいない家庭もあるのよね……
そんな人が身近にいたら……私、慰めてあげられるのかな……


「よーし。今日は奮発して、お母さんのために何か作ってあげる!」


つかさがエプロンをかける。
私も、手伝おうっと。お母さんがいるという当たり前のことが、幸せなんだから。
『親孝行したい時に親はなし』って言うし、今のうちに親孝行しないとね!





次の日の登校時、こなたとは会わなかった。ま、あいつのことだからまた遅刻か何かでしょ。
授業の準備をしてから、つかさ達のクラスに顔を出した。


「おっす!」
「あ、お姉ちゃん」
「かがみさん、おはようございます」


あら? こなた、まだ来てないのね。でも、そのうちくるか。


「昨日、お母さんにカーネーションの花束を渡したら、とても喜んでくれまして……」
「私達もー。お姉ちゃんと一緒に料理も作ってあげたんだよ。
 ……そういえば、なんで母の日にはカーネーションをあげるの?」
「それはですね……」


みゆきによる母の日に関する豆知識など、いろいろ他愛のない話をしているうちに、ホームルームが始まりそうな時間になった。


「じゃ、また後でね」


そう言って、私は教室を出た。


「あ、かがみん……」
「あれ? こなた、今来たの?」


教室に戻る途中、廊下でこなたと会った。
荷物を持っているから、今来たばかりなのだろう。


「う、うん……ちょっとね…。ケホッ」


ははぁん、そういうことか……


「風邪を引いてるのにちゃんと来るなんて偉いわね。来るかどうかギリギリまで悩んだんでしょ?」
「あ、うん。そんなに大事じゃないから行けってお父さんが。コホッ。
 本当は授業が面倒だから休みたかったんだけどね……」


頭を掻いてはにかむこなた。
私は「こなたらしい考えね」と笑い、こなたと別れた。
でも反応を見る限り、それだけじゃないような気がするんだけど……





「あれ? こなたは?」
「休み時間が始まった瞬間に出てっちゃったけど……」


風邪引いてるのに? どうかしたのかしら?


「………」
「みゆき、どうしたの?」
「あ、いえ……なんでもないです」


そうは見えないんだけどなぁ。こなたもみゆきも何かおかしいわね……
 
 
結局その日、学校の中でこなたに会うことはなかった。
帰る前につかさがこなたを捕まえていたから、帰りは一緒だったけど。


「なんで私達から逃げてたのよ?」
「いや、つかさやみゆきさんに風邪移したら悪いし。ゲホッ」
「ちょっとこなちゃん、お姉ちゃんは!?」
「かがみんはツンデレだから大丈夫でしょ」
「何よその定義!? ていうか、私はツンデレじゃないっつーの!」


あーもう! 何度言ったらわかるのよ!?


「まったく、も~!」
「あはは……ゲホっ! ゲホっ! はぁ……はぁ……」
「こ、こなちゃん!?」
「これは……今朝よりも大分悪化してますね……!」
「ちょっと、大丈夫!?」
「見れば……わかるよね……?」


こなたの具合が相当悪い。私達はとりあえずこなたを家まで送っていくことにした。


「ちょ、ここまでしてくれなくても大丈夫だよ……」
「病人は無理するなっつーの。黙っておんぶされてな」


腰を下げ、こなたに背を向ける。
さっきのこなた、かなり辛そうだったし、運んであげることにした。


「…はは、やっぱりかがみはツンデレだー」
「次言ったら乗せてやらないぞ」
「冗談だって……。じゃ、お言葉に甘えさせてもらうとしますか……」


こなたが私の肩に腕を掛け、それと同時に私は立ち上がる。…って、軽!!


「はぁ…はぁ……、病気になると、なんかネガティブになるね……」


私もよく風邪ひくけど、確かにそうね。


「じゃあ、暗い気分を吹き飛ばす話題ってことで、
昨日こなちゃんはお母さんにカーネーションとかプレゼントした?」
「!!」
「あんたお父さん子だから、さぞ喜んだでしょうね?」


からかうようにニシシと笑う。しかし、こなたからの返事はない。


「……こなた、どうした?」
「……うぁ……あああ!」
「ちょ、こなた!?」


私の背中で激しく泣きじゃくる。
今の質問のどこに泣く作用があった!?


「二人とも……バカァ! うあああああああああ!!」


え、何!? 私達のせいなの!?


「…うぁ……っ……」
「……?」


大声で泣いていたかと思いきや、今度は一気に静かになった。
スースーと寝息が聞こえることから、泣き疲れて眠ったみたい。


「こなちゃん、どうしちゃったのかな……」
「ホント、なんでいきなり泣きだしたのかしら……」


私、何か悪いこと言ったかしら……


「みゆき、あんた何か知ってるんじゃないの?」


さっきからみゆきの様子が変だった。
多分、何かに気付いたんだと思う。


「あ、あの……」


コホンと咳払いをし、「これは推論なんですが」と前置きして話し始めた。


「泉さんには……お母さんがいないのではないでしょうか…」
『……え……?』


こなたに……お母さんがいない……?


「泉さんは、以前から『お母さん』という単語に反応していましたし、
 先ほどお二人が言ったセリフの内容からしますと、そう考えるのが妥当かと。
 私達を避けていたのも、その話題を振られたくなかったと考えれば、つじつまが合います」


た、確かに……
じゃあ、私達は知らず知らずのうちにこなたを傷つけてたって言うの!?


「みゆき、なんで黙ってたの!? 言ってくれれば、こなたを泣かせなくて済んだかもしれなかったのに!!」
「……私の推論が間違っている可能性もあります。
もし、間違っていたら、別の意味で泉さんを傷つけることに……」


あ……

私、馬鹿だ……

こなたのことをわかってやれなかっただけじゃなくて、みゆきにまで八つ当たりするなんて……友達失格だな……


「まずは事実確認しなければなりませんね」
「……でも……」


もしみゆきの推論が当たっていたら、こなたに何をしてあげたらいいの?
どうすればいいのか、わからないよ……


「こなちゃんが起きたら……まずは謝らないと。話はそれからだよ……」


そう……ね。許してくれるかはわからないけど…それしかないものね……





こなたの家についた。こなたは相変わらず、私の背中で眠ったままだ。
インターホンを押すと、中から藍色の髪をした男性が出てきた。
こなたと同じ位置にほくろがある。確実にこなたのお父さんだろう。


「あれ、どちらさまかな?」
「あの、私達はコイツの友達で……」


振り返り、背負っているこなたを見せる。その瞬間、こなたのお父さんが驚愕する。


「こな……!? ととと、とにかくあがって!!」


う~ん、動揺してるね……
 
 
 
こなたの部屋に入り、ベッドに寝かせる。


「くそ、やっぱり病院に行かせておけば良かったか……」


罪悪感からか、こなたのお父さん――そうじろうさんが顔をおさえる。


「……しばらく、様子を見ましょう。それに、そうじろうさんに聞きたいこともありますし」
「俺に……?」


私達は、さっきみゆきがした推論、加えてさっきのこなた号泣事件も話した。


「……ああ、みゆきちゃんの言うとおりだよ。アイツは……かなたは、こなたが生まれてすぐに……」


……やっぱり。こなたは、お母さんがいないことにコンプレックスを抱いていたんだ……


「こなたはな、中学の頃からそれをネタにいじめられていたんだ。」
『…え……?』


コンプレックスじゃなくて……いじめが原因……?


「こなたがここに決めたのは、同級生が誰もいなかったからなんだ。
 誰も自分のことを知らない地でなら、母親がいないことを気付かれる心配はない、って」
「でも……その読みは見事に外れちゃったよ……」


こなたのベッドを見ると、横になったまま顔をこちら側に向けているこなたがいた。


「こなた! さっきは本当に……」
「いや……いいよ…」


え……?


「かがみのセリフが……いじめられてた頃に言われてたセリフそのものだったんだ……
 だから……なんだか、二人まで私をいじめてるような気がしちゃって……
 だから、二人は悪くないよ……勝手に錯覚した私が悪いから……」
「ううん、そんなことないよ! 私達が余計なことを言わなければ良かったんだよ!
 そうすれば、こなちゃんを嫌な気持ちにさせなくて済んだんだから!」


そう、そうよ……悪いのは、私達なのよ……


「……本当にごめんなさい……。だから、罪滅ぼしをさせてほしいの。
 あんた、お母さんがいないことを随分根に持ってたみたいだし、
 こなたが望むなら……私達がお母さんの代わりをしてあげるわよ?」
「!」
「そうだよ。こなちゃんのお母さんは一人だけど、私達でお母さんの代わりをやるよ!」
「できる範囲でではありますが、やれることはなんでもしますよ」


言ってから、私はビミョーに後悔した。いくらなんでも、クサイわよね……


「……ありがとう、みんな……」


……良かった。こなた、吹っ切れたみたい…


「でも……」
「ん?」


なんか、ロクなこと言わなそうな気がする……


「かがみじゃあ無理なんじゃないかな……? だって料理ヘタだし……」


……まったく、コイツは……


「それでこそいつものこなたよ」
「あれ? 怒らないの? いつになく素直なかがみん……萌え♪」
「……病人は黙って寝てろ!」


はぁ、また明日くらいからいつもの騒がしい生活が始まるわね……



〈エピローグ:こなたside〉


あれから7年が経った。私は結婚もし、子供だっている。


『……そんなこともあったわねぇ。
 こなた、あの後すぐに彼氏が出来ちゃったんだもん、ビックリしたわよ』
「つかさもみゆきさんも結婚したし、まだなのかがみんだけだよ?」
『残念でした、こないだ籍を入れたわよ』
「うそ!?」
『ホント。近々、結婚式も開くつもり』
「会場教えてよ! お祝いしたいし!」
『嫌よ! 他の参列者とかに“かがみはツンデレだった”とか言いそうだし!』
「ん~……でも、私が説明するまでも無いんじゃない?」
『……ほほ~……二度と電話かけてくるな!!!』


っ! いきなり受話器切らなくてもいいじゃん……ブツブツ……
まあでも、つかさから聞けばいいか。絶対教えてくれるだろうしね。


「ねー、近々かがみの結婚式があるらしいんだけど、行きたい?」
「んー? そうか、かがみさんもついに結婚したんだ。よし、行くか!」
「はーい、決まりね。じゃあ、つかさに電話を……」
「あ、その前に……ほら。」
「ねぇねぇ、おかーしゃん」
「ん? なぁに?」
「はい、かーねーしょん! きょうは『ははのひ』だよ! おかーしゃん、だいしゅき!!」
「!! ……フフッ、ありがと……」
 
 
 
 
 
 
 
あれから7年が経ち、私は母の日が待ち遠しくなった。
ツールボックス

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