「それじゃぁゆたか、行ってくるねー」
いつものように仕事に出て行くゆいお姉ちゃん。
といっても最近は高速機動隊の仕事が忙しくて、帰ってくるのは大体3日に一度くらいなんですが。
「いってらっしゃーい!」
元気に手を振り返す私。ゆいお姉ちゃん、頑張ってね。
さて、私はというと。
まずはお腹のハッチを開けてコンディションチェック。
この前はハサミが刺さって体を壊しちゃったから、周りにものがないか確かめて。
…うん、今日も問題ないみたい。ハッチを閉じて、着替え着替えっと。
今日は晴れ。絶好のお出かけ日和です。
お気に入りのバッグをさげて、元気よく飛び出す私。
この体になってから、遠出するのも平気になりました。
そんなある日のこと、道端で倒れている子供を見つけました。
「…!大丈夫!?しっかりして!」
「うぅ…」
すぐに身体を起こしてあげました。どうやら転んですりむいてしまったようです。
私はバッグの中から消毒薬とばんそう膏を取り出して、その子の膝を手当てしてあげました。
「…お、お姉ちゃん?」
「もう大丈夫だよ。…ところでどうして転んじゃったの?」
「…私の犬が…タロが逃げちゃって…追いかけてたんだけど…えぐっ…」
それは大変です。私はその子にタロちゃんの特徴を聞いて、探してあげることにしました。
「タロー!…タロー!」
「タロちゃーん!」
「くぅ…ん」
「いた、あそこの木の上だよ!」
「タロ!」
「くぅん…」
「どうしよう、降りられないみたい…」
「私に任せて!」
私は木の上に登って、タロちゃんを助けてあげることにしました。
もう少し…もう少し前に出なきゃ…やった!届いた…!
そう思っていたその時でした。
突然木の枝が折れて私とタロちゃんはまっ逆さま。
私は咄嗟に身体を捻ってタロちゃんが傷付かないようにしました。
「わん!わん!!」
「タロ!よかったぁ…タロ…!」
「きゅーん、きゅーん…」
「いたたた…」
「お姉ちゃん、ありが…」
お礼を言おうとしたその子の顔が、一瞬凍りついたような気がしました。
「あっ…」
「お、お姉ちゃん…首が…」
「あわわわわ…ちょ、ちょっと待って」
慌てふためいて頭を元に戻す私でしたが、次にその子が発した言葉は衝撃的なものでした。
「お姉ちゃんって、ロボットなの?」
「え………?」
「だって人間ならあんな風に首が曲がったりしないもん」
「た、確かにそうだけど……」
「でもタロが助かってよかった。ありがと、ロボットのお姉ちゃん」
……違うんだけど……orz
でもまぁ、そう見えても仕方ないですよね……
「あの、私一応人間だから…」
「えー!?どこから見てもロボットだよー」
「ううん、違うの。サイボーグって言って、頭の中身は人間なんだよ」
「ふぅん…へんなの」
………変ってあのねぇ………
なんだか一気に力が抜けてしまいました。私って本当に人間なんでしょうか…。
困り果てた私は、こなたお姉ちゃんに相談することにしました。
「ん?…ゆーちゃん、どうしたの?」
「こなたお姉ちゃん…私ね…」
私はこなたお姉ちゃんに胸のうちを全て話しました。
「私…子供に『ロボット』って言われたの…」
「まさか!…子供にそれを言われるなんてきついよねぇ、ゆーちゃんだって人間なのに…」
「それでね…ちょっと思ったんだ…」
「?」
「なんで私はサイボーグなんだろうって」
「!!」
さっきまでニコニコしていたこなたお姉ちゃんの顔が一瞬、険しくなりました。
「だって考えてみて?今の私は腕も顔も胸も全部機械仕掛け。しかも脳まで手が入れられて…こんな身体で…私が一体何なのか…時々わからなくなる…」
「ゆーちゃん!落ち着いて…」
「なんでこんな中途半端な身体になったのか…いっそ、いっそのことロボットにしてくれればよかったのに!」
私は思わず言ってしまいました。自分の本音を…。
「…ゆーちゃん!!」
「いっそ全部ロボットになってれば、こんな風に悩むことなんて…」
――パンッ
え………?
乾いた音が私の頬から響きました。
いつもは優しいこなたお姉ちゃん。そんなこなたお姉ちゃんが私を叩いた…。
それは普段見ない、ちょっと怖い顔。だけどその目はどこか、悲しくて…。
「……ちゃだめだよ」
「?」
「そんな簡単にそんなこと言っちゃ駄目だよ!ゆーちゃんはゆーちゃんなんだよ!例え血が通ってない身体でもね、ゆーちゃんは人間なの!生きてるんだよ!」
こなたお姉ちゃんは泣いていました。
「人間だから悩むこともあるし、そりゃ苦しむことだってあるよ!…嬉しいこともある、悲しいことも辛いこともみんな…!機械の身体だからって何さ…ゆーちゃんだって立派な人間なんだよ?」
「…お姉ちゃん……」
「簡単に諦めちゃ…うぇぐ…駄目だよ……ゆーちゃんがロボットになっちゃったら……私たちのことを…忘れちゃったら……ひっく……私……私……!」
「うぅ…お…ねぇ……ちゃ……ごめんね…ごめんね……!」
そして私たちは泣きました。互いに抱き合い、涙を流して、ひたすらに…。
「うわぁぁぁぁぁあ!ゆぅちゃぁぁぁぁぁん!!」
「お姉ちゃん……お姉ちゃん!うわぁぁぁぁん!」
――ガチャ
「ただいまー、こなた、ゆーちゃん、今日は仙台のお土産をだなー」
「「……ぇ?」」
「ぬおっ!?」
おじさんが驚いたのも無理はないでしょう。
私たち二人が涙の後を浮かべて抱きあっていたんですから。
「そうか…こなたもゆーちゃんもそんな趣味が…」
「ちょ、お父さん、なんて所に…」
「ち、違うんです叔父さん、これは…」
「俺は猛烈に感動しているゥゥゥゥゥゥ!!!」
相変わらずなおじさんの姿を見てると、急に笑いがこみ上げてきました。
さっきの悩みなんて、意外とちっぽけだったのかもしれません。
「ちょ、お父さん何勝手に男泣きしてるの!」
「あはは…なんかどうでもよくなってきちゃった」
「でしょ?ゆーちゃん、生きてるからこうして笑うことも出来るんだよ」
数日後。
私はコンビニのアルバイトの帰り、いつだかの女の子に出会いました。
「あ、あなたは!」
「あ、この間のロボットのおねーちゃん!」
……だから、ロボットじゃないのに……orz
<オワリ>