ID:Go7ZYIDO氏:フル☆メタ

※クロス先の時系列は完全無視です。短編の方は全て、長編の方は一部設定だけ引き抜いてたりします。
パラレルと思ってください。


0話『引っ越しのマイタウン』

 

東京都調布市多摩川町のタイガース・マンション。
その入り口付近に、五階の一室を見つめる一人の男がいた。
彼は今日でこのマンションを去るのだが、小さなカバンを一つ肩越しに担ぎ上げ、それ以外は何の荷物も持っていない。

(……今日でこの町とも……)

一人で感傷に浸り、次の目的地へと向かおうとした矢先――

「ぅぉぉおおおおお!!」
「!」

後ろから誰かが、喚き散らしながら自分の元へと走ってくる。
彼は腰のホルスターに手を掛けて拳銃を引き抜き、声の主へと突き付ける。

「む……?」

が、声の主を特定するやいなや拳銃をホルスターへと戻した。

「はあ……はあ……よかった……まだ出発してなかったのね……」

女だった。ほっそりした線の薄い顔、やや切れ長の目。腰までとどく長い黒髪で、赤いリボンで端を結わえている。

「キミが何故ここにいる。今は授業中のはずでは……」
「アンタが転校するっていうから、大急ぎで走ってきたのよ!」

ちなみに、ここから彼女達が通う高校へはタクシーに乗っても結構な時間を要するはず。
それを全力疾走してきたとは……相当な体力である。

「何よ……また“任務”なの……?」
「……すまない。だが、俺の変わりに……」
「私が言いたいのはそうじゃないの! せめてどこに行くかくらい教えてくれてもいいじゃない!」

目尻に涙を溜めながら男の肩をつかみ、ガクガクと頭をシェイクする。

「と、とにかく落ち着け」

彼女の手を離し、辺りを確認する。そして彼女の体をまじまじと見つめ、

「……盗聴器は付いてないな」
「当り前じゃないのよ……」

どこからかハリセンを取り出し、握りしめる。

「わかった。キミには教えよう」
「ホント!?」

目を輝かせて男の顔を見つめる。
いつのまにか、彼女が持っていたハリセンは消えていた。
男は彼女の言葉に頷き、

「次の任務先は埼玉県春日部市にある陵桜学園という高校だ」
「陵桜……?」
「そこで俺はある人物の護衛につくことになった。コールサインは“マリンブルー”、彼女の名は……」



「……わかった、明日だね。手配しておくよ。……ああ、それじゃ」
「お父さん、誰と電話してたの?」

埼玉県幸手市某所。
受話器を置く父親に、娘がゲームをしながら尋ねた。

「明日、陵桜に転校生が来るぞ」
「!」

ゲームを進める手がピタリと止まる。
スタートボタンを押してポーズを掛け、父親の方を向いた。

「わざわざお父さんに連絡が来たってことは……遂に来るんだね。“護衛”が」
「ああ。変な男だったら叩きのめしてやる!!」
「ほどほどにネ……」

右手を握り拳にして高らかに掲げる父に呆れながら、娘はゲームのポーズを解除した。

「お母さんも私と同じなんだよね。遺伝とかするのかな」
「さあな。少なくとも、俺は聞いたことはないが」
「そっか」

自分が幼いころに亡くなり、記憶にすら残っていない母親。
例え偶然であろうとも、『自分は母親と同じ』。そう思うと、ちょっとだけ嬉しくなった。


1話『災厄のヒューマン』


「久しぶりね、かなめ! 中学振りかしら?」
『そうね。高校に入ってからは連絡してなかったものね~。つかさは相変わらず?』
「ええ。毎朝毎朝、寝過ごしまくってるわ」

陵桜学園の2―D教室、柊かがみが携帯で誰かと話をしていた。
すぐ近くで談笑していた女の子二人も、その相手の名前を聞いて駆け寄って来た。

「柊! かなめって、電話の相手は千鳥なのか!?」
「そうよ。なんなら変わる?」

携帯電話を自分の耳元から離し、日下部みさおに向ける。
それを乱暴に奪い取り、

「もしもし、千鳥か!?」
『みさお、久しぶりね。まだかがみやあやのに宿題見せてもらってたりするの?』
「みゅーん……久しぶりなんだからもっと別なこと話せってヴぁ……」
『あっはは、相変わらずね。あやのとも変わってくれる?』
「ああ、今変わるよ」

かがみの携帯を、今度は隣の峰岸あやのに手渡す。
それを両手で丁寧に持ち直し、旧友と会話を始めた。

「もしもし、カナちゃん? 久しぶり」
『久しぶりね、あやの。変わりはない?』
「うん。みさちゃんのお兄さんとも元気でやってるよ。カナちゃんは大丈夫?」
『ええ。友達もできたし、中学よりはマシになったわ』
「そっか、よかった。あ、柊ちゃんに変わるね」

携帯電話をかがみに戻し、またみさおと談笑する。
ただし、その内容はかなめに対するものへと変わっていた。

「で、なんでいきなり電話してきたの?」
『そうそう。そのことなんだけど……かがみの知り合いに“泉こなた”って子いる?』
「知ってるもなにもこなたは友達だけど……」

いきなり友達の名前が出てきて面食らってしまった。
自分はこなたと知り合ったのは高校からなのだが……かなめもこなたと知り合いだったのか?

「私がどーしたって?」
「ぅおわ!? いつの間に!?」

いつの間にか隣にいたこなたに驚き、携帯を落としそうになってなんとか持ち直す。

『そこにいるのね?』
「え、ええ、まあ……知り合い?」
『知り合いってわけじゃないけど……忠告ね。そっちの生活、メチャメチャになると思うわよ』
「は?」
『私のあげた“アレ”、使う日が近いうちに来ると思うわ。あ、あとその泉って子と代わって』

なんだかワケがわからないが、とりあえず言われた通りに携帯をこなたに差し出す。
当のこなたは不思議そうに首を傾げ、

「なに? 誰から?」
「私達の中学時代の友達。アンタに話があるんだって」

戸惑いながらも携帯を受け取り、自分の耳につける。

「……もしもし?」
『はじめまして。あなたが泉こなたね?』
「……そうだけど、人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るもんじゃない?」
『……どこかで聞いたことある台詞ね……まあいいわ。私の名前は千鳥かなめ。“コールサイン:エンジェル”らしいわ』
「!」

その単語を聞いた瞬間、こなたの身体がピクッと震えた。
そして、誰もいない窓際後方へと歩いていく。

「……へぇ。千鳥さん、“も”なんだ」
『私を護衛してたヤツがアンタに付くことになったわ。覚悟しなさいよ、アイツは相当やばいから』
「大丈夫。私の近くにも相当やばい人がいるから。ふふふ……」

会話の内容こそ聞き取れていないものの、不気味に笑うこなたに対しかがみは背筋を震わせた。
それから予鈴が鳴り、電話をかがみに返したあと、こなたは自分の教室へと戻っていった。

 

数分後、その教室――2―Eの前に一人の生徒と一人の先生が立っていた。

「ココ、2―Eがウチらのクラスやからな。ほな、呼ぶまで待っといてくれ」
「了解しました」

直立不動で返事をする男に言い残し、先生は2―Eに入った。
残された生徒は、一枚の紙と、中にいるある人物を見ながら何かを確認していた。

「……アクアマリン“泉かなた”の娘、“泉こなた”……」



「ほな、今日は転校生を紹介するでー」

2―E担任の黒井ななこ先生の言葉に教室が沸き上がる。いつの時代、どこの場所でも転校生が来たら心躍るであろう。

「先生、転校生は男性でしょうか? それとも、女性でしょうか?」

先生の発表にいち早く質問したのは、このクラスの委員長である高良みゆきだ。

「男やでー。外見は……カッコいいて言うよりは怖いかもしれへんな」
「怖いって……何でですか?」

恐る恐る質問したのは柊つかさ。隣のクラスにいる柊かがみの双子の妹だ。

「頬に傷あるし、オーラがな。まあ百聞は一見にしかずや。ほな入ってこい!」

ドアを開け、転校生が入ってくる。ハンサムと言ってもいいのだろうが、それよりまずいかつい印象の顔。
ざんばらの黒髪、への字口、と油断のない眼差し。一見すると細身だが、柔道かなにか、そういう荒っぽいスポーツでもやっていそうな物腰だ。
その左頬には、確かに大きな傷があった。

「ほな、前でて挨拶し」
「は」

その転校生は一歩進み出ると、『休め』の姿勢で胸を反らし、

「相良宗介ぐ……です」

よく通る声で言った。直後、転校生〈相良宗介〉の顔が蒼白になる。

クラスのみんなが「ぐ?」と宗介の言葉を反芻する。

「……噛みました…」

ソレを聞いて、みんなが納得する。ただ一人だけ、微妙に違うことを思っていたが。

(……なるほど……職業病みたいなもんだネ……千鳥さんが言ってたのはこのことか……)

「ほな、質問タイムや。なんかあるか?」
「はい!」

つかさがまるで小学一年生のように元気よく手を挙げる。

「んじゃあ、柊」
「どこから来たんですか?」
「いろいろです。アフガン、レバノン、カンボジア、イラク……
 長く留まった場所はありません。以前は東京都練馬区陣代高校に所属していました」

クラス中がしんっ、となる。そんな時でも、先生が気まずい沈黙を破る。

「じゃ、じゃあ、次の質問なんかあるか?」
「はい、趣味はなんでしょうか?」

みゆきが次の質問を口にする。

「釣りと読書です」

その瞬間、一人の男子生徒の目がキラリと光り、机を叩きつけながら立ち上がる。

「君! 釣りというのは「次の質問で~す」

言い切る前にこなたの質問と声が被る。男子生徒は涙を流しながらシュンとした顔で再び座る。

「その腰の膨らみはなんですか?」
「…………」

宗介の額に多量の脂汗が滲み出る。冷静を装うとするが、無駄な努力であった。

「気にしないでください……」
「無理や」

先生が宗介のポケットに手を突っ込み、中に入っていたモノを取り出す。
妖しく黒光りする“それ”はなんと拳銃〈グロック19〉だった。
オーストリアのグロック社製、9ミリ弾を使用するスライド式自動拳銃。総弾数は一五発で、パーツに強化プラスティックが多い。
まあ“それ”がそうだとわかっているのは宗介と“泉こなた”のみで、他の人間はただのモデルガンとしか思っていないが……
いや、例えモデルガンだとしても、そんなモノを学校に持ってきたヤツが行き着く道はただ一つ。

「ほほ~……モデルガン、ね……アホか!!」

……鉄拳制裁。先生のゲンコツが宗介の頭にクリーンヒットした。

「帰り取り来い。返してやるから」
「……先生」
「ん? なんや」
「その自動拳銃ですが、薬室にはすでに初弾が装填されています。セーフティもかかっていないため、非常に危険ですのでトリガーには絶対に触れないでください」
「セーフティ? 最近のモデルガンはそんなんもついてるんか。これやろ?」

そう言うと先生はぎこちない動きではあったがセーフティをかけ、マガジンを取り出した。これには宗介も驚愕した。

「先生ー、なんでそんなの知ってるんですか?」

宗介の心を代弁するかのように、こなたがそう質問する。

「いや、泉の従姉って警官やんか。こないだ飲みに行った時にいろいろ見せてもろたんや」
「ゆい姉さん……なんてことしてんの……?」

某SOS団員が団長に呆れるがごとく手を額にあて、顔を横に振るこなただった。

 

その後、席替えをすることになった。こなたの周りは、後ろがつかさで右隣が宗介だ。

「よろしく頼む」
「うん、よろしく~」

こなたは軽く宗介に会釈し、後ろのつかさと談話を始めた。

「いや~、どうしてこう“日常”って簡単かつ突然に壊れちゃうかなぁ?」
「ほぇ?」

隣で『アームスレイブ・マンスリー』を読む宗介を見ながら、こなたは呟いた。

 


「おっす、みんな!」

お昼休み、今度はかがみが2―Eに入ってきた。前の席の机を借り、こなたの机にくっつけ、お弁当を広げる。

「ねぇこなた。このクラスに転校生が来たって聞いたんだけど……」
「お~。かがみ、情報早いね~」
「いや、まあ、それは置いといて……」

かがみはこなたを通り越した先にいる宗介を見る。干し肉をコンバットナイフで削ぎ、それを食べていた。
かがみは目をひくひくさせながらナイフの動作を追う。

「アイツがその転校生……?」

「肯定だ」

話を聞いていたらしく、宗介が話に入ってきた。

「相良宗介だ。よろしく頼む」
「えと、私は柊かがみ。よろしくね……」
「なるほど、君とつかさは双子なのか」
「ええ……」

引きつった顔のまま会話するかがみ。そしてすぐに顔の状態をもとにもどし、

「ていうかソレ、銃刀法違反なんじゃないの?」
「その点は心配ないと思うよ」

宗介が説明しようとする前に、こなたが口を開いた。

「みゆきさん、銃刀法違反になるのって、刃渡り6cmまでだっけ?」
「えっと、銃刀法……ですか?」

軽く考えたあと、思い出したかのように答える。

「その通りです。刃体の長さが60mm以上の刃物は携帯不可とされています。ちなみに折り畳み式の刃物は、刃体が55mm以下の携帯は可能のようです」
「日本の銃砲刀剣類所持等取締法はそのように記載されているな」

宗介がみゆきの説明を裏付ける。ちなみに銃砲刀剣類所持等取締法とは、銃刀法の正式名である。

「でしょ? だからそのナイフは59mmくらいなんだよ。じゃないと持ってるわけないし」
「なるほどね~。こなちゃん頭いい~」
「むふふ、もっと誉めたまへ~」

つかさの言葉でふんぞり返るこなた。

「ていうかかがみ、弁護士志望ならこれくらい知っとかなきゃ」
「むぐぐ……こなたに遅れをとるなんて~……」

(……これで人間関係はだいたい掴めた……。先ほど2―Dから出てくるところを見たから、他にも友人と呼べる人間はいるだろう……)

そう思いながら、一口サイズになった最後の干し肉を口のなかに放り込む宗介だった。

(しかし……泉はこのナイフが59mmであることを疑いすらしなかった……
 このナイフは〈ミスリル〉以外には普及していないはずだが……どういうことだ?)



『転校生がきた』というのに特に何かイベントがあったわけでもなく、そのまま放課後になった。
こなたはいつもの三人――つかさ、かがみ、みゆきと下校しようとしていた。

「あ!」
「ゆきちゃん、どうしたの?」
「教科書を置いてきてしまいました。ちょっと待っていてください!」

そう言い残し、もと来た道を走っていく。

「教科書ぐらい置いてってもなにも変わらないのに……」
「置き勉してるアンタと一緒にすんな」

みゆきを待つ間、下駄箱の前で談話をしてることにした三人。
その下駄箱の陰に相良宗介がいた。三人の会話を耳に入れながら教室の前で見ていた資料にまた目を通す。
資料には泉こなたの写真に加え、氏名、年齢、生年月日、家族構成、身長、体重、血液型、病歴、果てはスリーサイズまで書き込まれていた。
ふと、備考欄に目が止まる。そこに書かれていた文字は、以前にも見たような内容だった。

“ウ■■■■ドに該当する確率:88%(ミラー統計法による)”

肝心な部分は黒く塗り潰されていたが、それは現在の相良宗介には意味のないものだった。
“ささやかれた者”、すなわち“ウィスパード”である。
本来知るはずのない、存在するはずのない技術“ブラック・テクノロジー”を知っていて、場合によってはその知識を引き出すことのできる人物だ。
条件が揃えば現代の水準の遥か上を行く科学理論や技術を提供することができ、故に世界中の国家及び軍隊、テロリストなどが血眼になって捜している存在なのだ。
そのウィスパードの存在を宗介が知ったのは陣代高校――前回の任務“ウィスパード:千鳥かなめの護衛”だった。
ウィスパードがテロリストやゲリラの手に渡れば、ブラック・テクノロジーを使ってとんでもない兵器を作り出し、世界中を火の海にすることも可能だ。
それを阻止するために、相良宗介ならびに彼の所属する対テロ極秘傭兵組織“ミスリル”はウィスパードの護衛を行っているのだ。

「よし……」

資料をカバンにしまい、こなた達のもとへと向かう。
宗介は小さいころから世界中の紛争地で戦争をしてきたため、日本の常識がほとんどと言っていいほど通用しない。
学校に銃やナイフ、ピアノ線を持ってきたり、地雷を仕掛けたりと物騒なことばかりだ。
そういう事件を起こす度に、宗介の頭に護衛するはずだった千鳥かなめのハリセンが飛んでいた。
前回の任務ではそれらの事件のためにかなめに思い切り嫌われていたため(最初だけだが)、今回はそれなりに友好を図ってみることにした。

「今帰るところか」
「あ、相良君」

宗介の言葉に一番早く反応したのはこなただった。

「うん、ゆきちゃんを待ってて」
「ゆきちゃん? ……委員長殿のことか」
「言い方が軍隊ぽいけどそうよ。そう呼んでるの、つかさだけなんだけどね」

かがみがつかさのほうを見る。そのつかさは「あうー」と唸っていた。

「皆さん、お待たせしまし……あら? 相良さん」
「一緒に帰ろう、だって」

宗介が話そうとした瞬間、こなたが口を開いていた。
先ほどから何度もこなたにセリフを盗られ、宗介の額に脂汗が滲み出てきた。

「待て待て、相良君、そんなの微塵も言ってなかったじゃない」
「いや、かまわないが」

宗介に軽く一蹴されたかがみは「あ……そう……」としか返せなかった。
 
 

 
 
「くさくってさ~!」
「いや、慣れればなんともないぞ」
「うげっ、慣れたの?」
「どんだけ~」

宗介を加えた五人での帰り。たまに軍事系統の話が宗介から出され、みゆきがそれに乗ったりと、意外と溶け込めていた。
宗介も四人の話になんとかついていけている。前回の教訓が生かされた結果であろう。

「そういえば、アンタ達のクラスでも前に数学2の抜き打ちテストあったわよね。結果は帰ってきた?」
「六時間目にそのようなプリントを配っていたな。俺は受け取っていないが」
「まあ、今日きたばっかだしね」

宗介の言葉にこなたがそう付け加える。

「みゆきは高得点でしょ?」

さも当たり前のようにかがみが尋ねた。
だが、振られたみゆきは困ったように視線を下げた。

「いえ、今回はあまり得意な部分ではなかったので……82点でした……」
「へぇ~、意外ね。私は86点だから、みゆきよりも高いんだ」
「私なんて50点ちょうどだったよ~」

つかさらしいわね、とかがみは軽く笑った。そしてイタズラっぽい笑みでこなたを見る。

「で、アンタは?」
「こなちゃん、今回は点数を教えてくれなかったけど、なんで?」

こなたはムフフと不気味に笑いながら鞄を漁っていた。
そしてプリントを取り出し、自信タップリにかがみ達に突き出す。

「う……うそ……98点!?」
「はわわ~、あと一問で100点だ~!!」
「……すごいです……」

そのプリントを見た三人が絶句する。当のこなたはふんぞり返っている。

「なんで、こなたが……? し、信じられん……」
「……? 泉は成績がよくなかったのか?」

三人の態度があまりにも失礼だったため、宗介はそう考えることしかできなかった。
かがみはプリントに目を向けたまま、

「つかさと同じか、その前後よ。それがいきなり98点だなんて……こんなの、あり得ない……」

何度もプリントを見直し、採点ミスがないか確かめる。しかし、その答えはどれも間違いではなかった。

「カンニング……はないわよね、計算過程までバッチリだし……」
「最初は全然解けなかったんだけどね。神の声が聞こえたのだよ~! ってね」

えっへん、とない胸をドンと叩くこなた。
その言葉に宗介が反応するが、周りは誰も気付かなかったようだ。

「へ~、奇跡ってあるものなのね~」
「もしかしなくてもそれは誉めてないよねぇ?」

まあそれはかがみなりの強がりなのだが。

(ふむ……『神の声』か……。ウィスパードとして覚醒しつつあるようだな……)

 


その後、上り電車と下り電車で家の方向が違うみゆきと別れ、途中で乗り換える柊姉妹とも別れ、最終的にこなたと宗介だけになった。
太陽は地平線の彼方へ沈もうとしている。

「相良君の家ってこの近くなの?」

こなたの質問を受けて、宗介は少し遠くに建っているマンションを指差した。


「あそこの一室が俺の部屋だ。今日から借りる手筈となっている」
「げ、いいところじゃん……」

そのマンションは最近できたばかりの高級マンションだった。
この近辺では最も高い建物で、結構目立っいる。

「相良君って、お金持ち?」
「いや、アメリカ合衆国に住んでいる知人に費用を出してもらっている。なので高級である必要は一切ないのだが……」

これは嘘である。家のことを聞かれたらこう答えるように〈ミスリル〉から言われていた。

「えっと……そうだ、私の家に寄ってく?」
「断る」

こなたの提案を間髪を入れずに叩き落とした宗介。こなたは最初と同じ、人差し指を立てたまま固まってしまった。

「俺はこれまで幾多の人間と戦ってきた。そのうちの数人が日本に入国していることがわかっている。つまり俺はこの日本でも狙われている可能性が高いのだ」

これは本当である。ミスリルに入ってからも例外ではなく、以前の任務でも宗介自身が狙われることも少なくなかった。
宗介の説明を聞いたこなたが「なるほどね」と納得する。

「長く一緒にいると、私もそれに巻き込まれる可能性がある、と」
「その通りだ。一般人が巻き込まれることなど、奴らにとってはどうでもいいことなのだ」
「へ~、大変なんだね、〈ミスリル〉も。んじゃ、私の家はこっちだから」

そう言って十字路を左に回ろうとするこなた。

「じゃあね」
「ああ、また明日」

そう言って二人は別れた……はずだった。

「待て!」

先ほどこなたが曲がった道に戻ってきた宗介。その目の先には苦笑いをしたこなたがいた。

「遅いよ~。そんなんじゃ敵は火星から月まで来ちゃうよ。もしかして狙ってた?」
「その『狙ってた』という単語がどういう意味を示すはわからないが、あまりにもスムーズに会話が進んでいたため、少し考えるまでわからなかった」

宗介はかなり焦っていた。このような焦りを感じたのは久しぶりだ。
彼が何に焦っていたかというと……

「泉……君がなぜ〈ミスリル〉の存在を知っている……?」

“極秘”傭兵組織だけあって、その存在を知る一般人はごくわずか。
故に、こなたのように普通の(こなたは普通じゃないが)女子高生がミスリルを知っているはずがないのだ。

「そういうのはお父さんから聞いたほうが早いと思うよ」

そう言ってこなたは歩きだす。その後ろを宗介が追う。

「いつ、俺がミスリル所属だと気が付いた?」
「うーんと、最初からかな? 正確には、相良君があの銃を出した時」

――あの銃が? 本物を持ったことがある黒井先生でさえわからなかったのにか?

宗介は何が何だかわからなくなってきていた

「ま、家にくればわかるよ。すぐそこだよ」



「実は最初から家に相良君を呼ぶように言われてたんだよね。ま、あがってよ」
「失礼する」

こなたに案内されて泉家にあがる。
辺りを油断なく見回し、後ろを見せないように壁ぎわを移動していく。
何が出てきても対応できるよう、腰の辺りに手を掛けて警戒。

「お父さ……あれ?」

リビングまで入ってきた二人だが、そこに父親の姿はなかった。

「書斎……かな」
「待て!」
「わわっ! 何!?」


廊下に出て書斎までの道を見つめる。
その瞬間、こなたの前に宗介が躍り出た。

「あそこをよく見てみろ。ブービートラップだ」
「え、あ……ホントだ」

宗介が指を差したところにたこ糸が張ってある。足首の高さにあり、通ったらすぐに切れる仕組みだ。

「切らないように気を付けろ」
「う、うん」

たこ糸を切らないようにまたぎ、とりあえずそのトラップは攻略。
だがそのトラップを抜けた向こうも、防犯装置がいくつも仕掛けられていた。
念のため赤外線スコープを装着。予備の方をこなたに渡すと、手慣れた手付きでそれを装着した。

案の定、そこには赤外線レーザーの網が張り巡らされていた。侵入者を撃退する電気銃(テイザー)やワイヤーネットの発射装置、催涙ガスの噴霧器まである。
宗介は苦労してそれらを無力化し、迂回できるものは迂回。こなたはそれについていく。

「ちょ、これ全部グレードアップしてるし……」
「静かにしろ。人体から放射される、わずかな二酸化炭素を検出するセンサーがある」
「……お父さんてば……」

トラップを無力化し、ゆっくり移動していく。
なにも指示していないのにトラップに引っ掛からないこなた。手が掛からなくていいのだが、逆に手慣れすぎていて気味が悪い。それに“グレードアップ”とは?

「そこがお父さんの書斎だよ」
「よし……」

こなたが指差した部屋までトラップはあと一つ。
だが、安心している場合ではない。扉にもトラップが仕掛けられている可能性が高いだろう。
宗介は慎重にセンサーをかいくぐり、扉の前でこなたを待つ。

「よっと……」

普通の女性なら恥ずかしくて絶対にできないであろう態勢でレーザー光をかいくぐる。
もう少しで、というところで……

「やふー!! ゆいねーさんが来たよー!!」

女性――自称ゆいねーさん――が勢いよく玄関の扉を開けて突入してきた。

「わわ!?」

それに驚いてバランスを崩したこなたの右足がレーザー光を遮ってしまった。

「しまっ……」

完全に油断していた。これまで順調に来たが、まさかこんなことで……!
次の瞬間、『じゃきんっ!』と黒光りするテイザーが天井から降りてきた。この距離では避けられない!
宗介は腰のホルスターから拳銃を抜き、テイザーに銃口を向け――

パンっ!!

電光が発射される直前、テイザーは銃声とともに吹き飛んでいった。
しかし、発砲したのは宗介ではなかった。

「いやー、ごめんごめん。“訓練中”だったかー」

右手に銃口から煙の吹き出す煙……
どう考えてもこの女性――成実ゆいがテイザーに発砲したのだ。

「もう、ゆいねーさんってば……死ぬかと思ったよー」
「いやー、ホントーにごめんね」

いたって冷静に会話をする二人だったが、こなたのすぐ後ろにいた宗介は軽い混乱状態に陥っていた。
玄関からここまでは結構距離が離れている。しかも太陽の位置関係からして向こうから反射で見えないはず。なのになぜテイザーを狙い撃ちできた?

「おーい。トラップは全部無力化したぞー」
「あ、お父さんの声だ」

書斎から聞こえてきた男の声。この男が全ての元凶だと理解して、部屋に入るこなたの後に続く。
後ろからはゆいがついてくる。やはりトラップは無力化されているみたいだった。

「君がこなたの護衛につくという男か」

部屋の奥にあった机と椅子。それに腰掛けながら、男が尋ねてきた。

「名を名乗れ。場合によっては『護衛対象を殺そうとした』として排除せねばならんぞ」
「ちょっ、相良君!?」
「仕方ないさ。トラップを仕掛けたのは俺だしな」

さして動揺もせずに、男は淡々と口にした。

「俺の名前は泉そうじろう。隣にいるこなたの父親だ。さっきのは……護衛につく人間がどれくらいできるヤツか試すためだったんだ。ちなみに合格だ」
「何?」
「それはホントーだよ。今日、家を出る前に『トラップを仕掛けておくけど、お前は何もするな』って言われたから」
「キミが“ミスリル”から派遣されたこなたの護衛かー。これからよろしくね」

宗介はイマイチ事態が飲み込めないようで、首を傾げた。

「泉、この男は君の父親で間違いないのか?」
「しょーしんしょーめい、私のお父さん」
「しかし……」

かなめから聞いていたが、日本のだいたいの家庭は娘を大事に育てるという。
だがこの家は、娘にトラップが発動したにも関わらず全員がいたって冷静。
しかも話し振りからしてこの家の全員が“ミスリル”の存在を知っている。これはいったい……?

「う~んと、どこから話せばいいかな」

頬をポリポリと掻きながら、困ったように天井を見上げるこなたの変わりに、ゆいが説明に入った。

「こなたは“ウィスパード”ってので、悪い組織とかに狙われてるんだよね。それを阻止するのがミスリルでしょ?」
「俺も昔、ミスリルでウィスパードの護衛をやってたんだ。だから、いつさらわれてもいいように、いろいろ教え込んでるんだよ」
「トラップの解除方法とか、縄脱けとか。格闘訓練もしたから、結構強いよ?」

ふむ、と唸り、宗介は三人を眺めた。
嘘をついているわけではないだろう、あまりに堂々とし過ぎている。
それに『泉そうじろう』という人物がミスリルにいたかどうか……帰って調べればすぐに出てくる。
そんな危険性の高い嘘をつくバカな人間でもないだろう。

「なるほど。父親であり、また指導教官(ドリル・インストラクター)でもあるのだな」
「まあ、そういうこと。ちなみにこっちは従姉のゆいねーさん」
「これからよろしくねー」

宗介は軽く一礼すると反転、部屋から出ていこうとする。

「どこ行くの?」
「帰るのだ。あまり長居していると……」
「ちょっと待ちなさい。キミに電話が来てる」

そうじろうは携帯電話を持って宗介に差し出した。
不思議に思いながら電話を受け取り、耳につけた。

「……もしもし」
『もしもし、サガラさんですか?』
「!? たっ、大佐殿!?」

彼の額に大量の脂汗が滲み出る。直立不動、気をつけの姿勢で話に耳を傾ける。
『彼女』はミスリルの大佐で、簡単に言うと『軍曹』である宗介の上司である。

「はい……はい……はっ!? い、いえ、ですが……了解しました……」

電話を切った時には、彼はなぜか疲れ切った様子だった。携帯電話をそうじろうに返す。

「……『ミスリルは資金難だからマンションを借りることができなかった』……だと……?」
「そーゆーこと。こっちから言っても信用してくれなさそうだったから、大佐殿にお願いしたのさ」
「お父さんって、今でもミスリルと繋がりがあるんだよね」
「い、いや、だからと言って……」

宗介が大佐から言われた言葉は『この家に泊まらせてもらって』というものだった。
護衛対象の家に泊まらせてもらうとは……本末転倒もいいところである。

「仕方ないじゃん、お金ないんじゃ」
「『こなたに危害を加えないのであれば』快く迎え入れるよ」
「わーお、お父さん目が怖いヨ?」

宗介は考えた。
いくつもの苦難を独学で乗り越えた彼だが、今回ばかりはどうしようもない。
ミスリルで支払われている給料も、前の陣代高校の修理代で貯金を含めて使い果たしている。新しく家を借りることは……無理だろう。

「……了解した。しばらく世話になるが、よろしく頼む」
「ま、こっちも守ってもらうんだから、持ちつ持たれつってところだネ。よろしくー」

二人は固い握手を交わした。

「ところで泉」
「なに?」
「最初に俺の自宅を聞いたはずだが……」
「ああ、あれ? 最初はどこに住む予定だったのかなって。あれだけ高級じゃ、いくらなんでも無理だよねー。ちなみに今までどこで暮らしてたわけ?」
「ミスリル情報部が住むマンションが近くにあった。『手配が済むまではそこに住まわせてもらえ』と」
「ふーん。大変だね」
「ああ……」


2話『一目惚れのハリケーン』(南から来た男)


相良宗介が陵桜に転校してから一週間が経った日の朝、こなたと宗介は電車の中にいた。

「だから、外部からの信号の受信部と起爆部のサーキットは別物だから、コントロール型の爆弾はダミーに惑わされなければ簡単だよ。
 仕掛け自体が複雑でも、基本的な構造は同じなはずだから大丈夫」
「なるほど、助かる」
「いやいや、これくらいならどんどん聞きたまへ~」

……一般人には到底理解できない高度な会話である。周りの人間はポカンとしている。
アナウンスが鳴り響き、目的の駅へと着いた二人は電車を降りてホームを歩いていく。

「……泉」
「何?」
「君は、どこまで知っているんだ?」

何が、と問い掛けようとしてやめた。
聞きたいのは宗介の所属する組織――ミスリルのことであろう。

「まあ、お父さんからいろいろ聞いたからね。各地の紛争を止めたり、私のような……なんて言ったかな……」

そこでこなたは思い出そうとあごに手をやる。

「ウィスパード……か?」

宗介は思い切り声を小さくしてこなたに囁いた。
この単語の意味を知っている人間が近くにいたら危険だからだ。

「そうそう、それそれ。を護衛したり」

電車から降りた二人は階段を降りる。改札口まではすぐそこだ。

「覚醒してから、どのくらいだ?」
「ん? まだ二週間も経ってないよ」
「何……? 覚醒してからの時間が短いと『囁き』により脳が正常に機能しないと聞いたが……」

二日前に自力で非致死性のスタングレネードを完成させたことから、宗介は完全に『囁き』から来る知識を使いこなしているように思っていた。
だが、こなたは覚醒してから二週間も経っていない。なのに、なぜ……?

「お父さんも、前の……お母さんの護衛の時にそれを知ったんだって。だから、精神面を鍛えたって言ってた。どんなことされたんだろう、もう記憶にないや……」

……泉そうじろう、なかなか抜かりのない男である。
定期をかざして改札口を出る二人。

「んじゃ、また学校で」
「ああ」

家から出てきて、ここで二人は初めて別行動となる。
こなたは同駅で降りる柊姉妹と共に登校するため、駅前で待つ。宗介はこのまま学校へと向かう。
『護衛はどうした?』とお思いの方もいると思うが、心配はいらない。
前述したスタングレネードだが、彼女は護身用に3つ持っているのだ。
それに先日、ウィスパードを狙う組織を一つ、ミスリルが壊滅させたばかりだ。しばらくは危険にさらされることはないだろう。
そして、最大の理由は……

「おはよー、こなちゃん」
「おはよ、かがみ、つかさ!」

やってきた柊姉妹に挨拶するこなた。だが柊かがみはどことなく元気がないようすだった。

「おはよ、こなた。相良君は?」
「大丈夫、先に行ってるよ」

その言葉を聞いたかがみは安堵からため息をはき、ゆっくりと歩いていく。
それについていくように、こなたとつかさも歩きだす。
こなたが宗介と別れた理由、それはこの柊かがみが原因だった。いや、厳密に言うならばかがみだけではないが。

「アイツが学校に来てから平和というものが消えたわ……」

かがみは宗介をあまりよく思っていないのだ。というか、当たり前の反応である。
窓に飛んできた野球ボールを手榴弾と間違えて撃ち抜くわ、体育館への渡り廊下に地雷を仕掛けるわ、行動が異常なのだ。
しかも体育館への渡り廊下に仕掛けた地雷を誤爆させ、体育館へはグラウンドを通らないと行けなくなってしまった。
そんな彼を普通に受け入れる学校、及びクラスメイトであるこなた達に疑問を抱いていたりもする。

「まあまあ、相良君の境遇を知ってるでしょ?」
「日本だと誇大妄想狂にしか見えないわよ……。はぁ、戦争って怖いわね。あんな奴まで生み出しちゃうんだもん……」
「お、お姉ちゃん……それはちょっと言い過ぎ……」

改札を出てから大分歩いた。もうすぐ陵桜に辿り着くというところで、かがみは大きなあくびをした。

「おや、かがみん眠そうだね~」
「うん……昨日ちょっと初代のバイオ○ザード見つけてね、遅くまでやってたから……」
「あんなに怖いの、私じゃできないよ~」

つかさが嘆いてる横で、かがみはまた小さくあくびをする。
陵桜の正門を通り、玄関へと向かった。

「どのエンド? ○リーの44マグナム取った?」
「いや、いつもはそれでやってたからね……全員生存エンドをやっとクリアしたのよ……」
「おー、感想は?」

心なしか、こなたの顔が生き生きしてるように見える。
初代の『バ○オハザード』という懐かしい言葉を聞いて喜んでいるのだろう。

「最後ねー、まさか本当に爆発するとは思わなくってびっくりしたわ。どでかい爆発がドカーンと……」

その時。大きな爆発音が辺りに轟いた。

「そうそう、こんな感じに……へ?」

何が起こったか、単刀直入に言おう。学校の玄関が爆発したのだ。
玄関ホールの大気が震え、黒煙が立ち上ぼり、近くにいた生徒が数名、爆発の爆風に吹き飛ばされ、その光景を見ていた人たち――こなた達を含む――は硬直してしまった。

「……!!」
「ああ、こなた!」

その硬直からいち早く抜け出したこなたは玄関へと駆け出した!



「よし……」

次第に晴れていく煙の中で、宗介は呟いた。

「こんな朝早くから何の騒ぎ?」
「ム、泉か」

煙がまだ完全に晴れ切っていないというのに、こなたはそこにいるのは宗介だと確信していた。
まあ、こんなことをするのは宗介以外にいないからなのだが……

「誰かが、俺の靴箱を開けた形跡があった」

煙が晴れてから、髪の毛を一本こなたに見せる。おそらく靴箱に挟んでおいたのだろう。
その時、聞き慣れた靴音が聞こえてくる。後ろからかがみが走ってきているのを横目で確認。

「爆発物の可能性もあったため、このような爆破処理を行った。
 以前いた陣代高校でも同様の事件があったのだが、詳しく検査をしようとしていた時に十数名の生徒が反対したので、今回は速やかに爆破処理を遂行した」
「だからっていきなり爆発はないよ……」

こなたは小さく溜め息をつき、彼にそう伝えた。
その少し後ろで、かがみが腕組みをしながら『うんうん』と同意している。

「遠くから拳銃で撃ち抜けばいい話じゃない。爆発物が入ってたんなら、一発で爆発……」
「爆発してんのはお前の頭ン中だ!!」

――ごちんっ☆

かがみの鉄拳がこなたの頭を襲う。

「ツッコむところが間違ってんのよ、全体的に!!」

ハーハーと肩で息をするかがみ。
そのすぐ下ではこなたが頭に特大のたんこぶを作って倒れていて、宗介が冷や汗を流しながらその光景を見ていた。

「相良君、この平和な日本で、人の靴箱にバクダンを仕掛ける危険な人間がどこにいるわけ?」
「君は甘い。こういう形のテロこそ、安全な国での最大の脅威なのだ。
 つい最近もアメリカで、海軍の退役大佐が自宅の郵便受けを開けて上半身を吹き飛ばされる事件があった。俺とて油断は許されない」
「はあ……そうですか……」
「……しかし」

彼は倒れた靴箱を見て呟いた。

「どうやら今回も爆弾はなかったらしい」
「どーしてわかるのよ?」
「爆発音は一度きりだった。それに、俺を狙った爆弾が靴箱の中にあったのなら、対面にも爆風が行くはずだ」
「殺傷力を高めるためのネジクギとか撒き散らしながらね……」

よろよろと立ち上がるこなたがそう付け加えた。
宗介は靴箱を持ち上げ、裏側をかがみに見せる。

「見ろ、靴箱の裏はほとんど無傷だ。これは、爆発物が入っていなかった証拠だ」
「……つまり、この騒動は『空騒ぎ』だったってわけね?」

空騒ぎの部分を強調して、かがみは呟いた。宗介の顔面には大量の脂汗が滲み出ている。

「……いや、爆発物の可能性も捨てきれなかったことを考慮すると、爆破は適切な処理……」
「やかましい!!」

かがみは(この一瞬でどこから出したのか)ハリセンで宗介の頭をはたいた。

「爆弾の可能性なんて皆無よ! か・い・む!! わかる!?」
「く……ム?」

ごそごそとハリセンを鞄の中にしまう。
カバンに入り切るまで、宗介はその『武器』を不思議そうに見つめていた。

「なんでハリセン持ってるの? 家宝のハリセン?」

まだまだ消える様子のない頭のたんこぶをさすりながらこなたは尋ねる。

「家宝がハリセンって、あんたねぇ……。これは中学校時代の友人から貰ったものよ。今まで倉庫に眠ってたんだけど、あんたのためにわざわざ引っ張り出してきたのよ。
 多分あの子も使ったでしょうね。相良君が今までいた『陣代高校』に行ったんだから」

皮肉タップリに宗介に言い放つ。宗介はその友人が誰なのか一発で理解した。

(……そうか……似ているわけだ……)
「……?」

その時、かがみの肩に紙が舞い落ちてきた。見上げると、上空から無数の紙切れが降ってきている。
それの一つをこなたが手に取り、それを三人が同時に覗き込む。

「手紙……のようだな」
「え……あ、確かにそれっぽいね……」

こなたが持つ紙切れには、『相良~』の文字があった。
その文字を見て、かがみは激しく落胆した――ようにこなたには見えた。

 

 ☆


「ではお二人とも。先ほどの火災を説明してくれますか?」

クラス委員長であるみゆきは、事件の目撃者であるこなたとかがみに告げた。
クラスの人間が起こした事件をまとめ、教職員に知らせるのはみゆきの役目。
事件を客観的に説明できるこなたとかがみが必要なのはわかるのだが……

――宗介が靴箱を爆破した。

これ以外にどう説明しろというのだろうか?

「委員長、自分が説明します」

二人が――否、かがみが返答に困っていると、それまで黙っていた宗介が口を開いた。
ちなみになぜここまで馬鹿丁寧な話し方なのかというと、以前かがみが『みゆきはクラスで一番偉い人物よ』と言ったからだ。

「本日0810時、自分が登校してきたところ、靴箱に不審物の存在を察知しました」
「不審物……」
「爆発物の可能性もあったため、最も迅速かつ適切な処理方法を実施しました」
「それはどんな処理方法だったのですか?」
「高性能爆薬による爆破処理です」
「爆破、ですか……?」

みゆきの眼鏡がギラリと光る。それを見て、かがみは確信した。みゆきは怒っているに違いない。これはいい機会だ。
宗介はみゆきを(なぜか)上官のように慕っている。その上官から叱責を食らえば、宗介の暴走も少しは治まるかも……
かがみがそう期待していると、みゆきは深く息を吸い、

「直ぐ様爆発というのはいただけませんね。逆に周囲への被害が拡大するだけですよ」
「なるほど。二度としないよう、善処いたします」

かがみ一人が『がたーん!』と倒れて教室の机をひっくり返した

「どうしました? かがみさん」
「みゆき! あんたまで『ソッチ』に行ってどうすんのよ! 学校の靴箱を爆破する高校生がこの世界のどこにいるっていうのよ!」
「ここにいるじゃないですか」
「そーじゃなくてぇ!!」

かがみは半狂乱になり、頭を掻き毟った。

「かがみさん、少し考えてもみてください。相良さんは世界中の紛争地域を育ってきたのですよ? 日本では異常な行為ですが、相良さんが育った環境では当然の行いだったのかもしれないじゃないですか」
「それは……そうかもだけど……」
「少しずつ、少しずつでいいですから、かがみさんも相良さんを受け入れてあげてください。
 そうすれば、日本の生活にも慣れ、こうした行動は起こさないようになるかも知れませんよ?」

相変わらずの寛容さ、かがみは心の中で『こいつ、聖人君子か!?』とツッコんでいた。
みゆきは自分の席から腰をあげ、つかさのもとへと向かう。

「どうですか? つかささん」
「うん……ほとんど燃えちゃってたよ……」

つかさは、こなたに命じられて手紙の紙片を集めていた。
修復しようと試みているのだが、なにぶん損傷が激しすぎる。
ピンク色の便箋のようだったが、ほとんどが灰と化していたらしく、紙片はごく一部しかない。

「相良さんの靴箱に入っていたもので間違いないですね」

焼け焦げた紙片の一つを指さす。そこには確かに『相良』と『宗』の左半分が書かれている。

「この手紙が……ですか」
「はい」

宗介は紙片それぞれを順番に見て回った。
『が好き~』『素敵な~』『の世界に~』『放課後、体育館裏に~』
読めるところは、これだけだ。

(……どう見ても峰岸の字よね……日下部の兄さんがいたんじゃなかったの……?)

「委員長、やはり敵意ある第三者の仕業でしょう」

宗介はそう断定し、


――相良宗介、お前が好きなものは戦争だろう。ならば俺が素敵なその世界にお前を誘おう。放課後、体育館裏に来い。血祭りにあげてやる。

「……などといった内容に違いありません」
「なんでそうなるの……」

こなたはとても長いため息をついた。『~』に表すと10個はついていただろう。

「これ、どこからどう見ても女の子の字だよ?」
「甘い。これは筆跡鑑定を逃れるための偽装工作だ。相手はプロかもしれん」

ごっつい殺し屋が、かわいいピンクの便箋に少女文字を書き連ねていく。
そんな姿を想像し、つかさは背筋を震わせた。

「ピンク色の便箋、内容、どれをとってもラブレターでしょ!?」
「ロブ・レイター(後程、強奪)? 以前も聞いたが……」
「どうしてアンタは物騒な発想になるわけ? 恋文よ、恋文。これならわかるでしょ?」
「恋文、か……」

宗介はそう呟き、どこか遠い目で窓の外を見つめた。

「かつて俺がいた部隊の下士官が、ある村の女性と恋をした。勿論、それを俺達は祝福した。だがその女は、敵のゲリラ側のスパイだった」
「はぁ……」
「そのせいで俺がいた部隊はほぼ壊滅状態、その下士官も責任をとって……」

『ラブレターを送った人間は敵かもしれない』
そう、宗介は言いたいのだろう。

「とりあえず、準備をしておくに越したことはないだろう」
「そうですね。『善は急げ』と言いますし、その手紙の送り主が誰であろうと、準備する必要はあると思います」

宗介は紙片を鞄にしまい、すっくと立ち上がった。

「ちょ、ちょっと相良君! 授業は!?」
「安全優先。今日の授業は欠席だ」

それだけ言うと、彼は教室を立ち去った。

「……いいの? あれで……」
「とりあえず、先生に事の顛末を伝えてきますね」

みゆきは宗介とは反対側の扉から教室を後にした。


結局、お昼休みに入っても宗介は戻って来なかった。



こなた達のクラスでの食事を終え、自分のクラスに帰ってきたかがみは異様な光景を目にした。
クラスメイトの日下部みさおが机に突っ伏し、横で峰岸あやのがなにやら言葉を投げ掛けていた。
みさおはとても明るい性格だ。そんな彼女が机に突っ伏している姿を、かがみは(テスト前以外に)見たことがなかった。

「ど、どうしたのよ、日下部?」
「ああ、柊ぃ……」
「みさちゃんね、一目惚れしちゃったの」
「あやのぉぉ!! 言うなってヴァ!!」

あやのの言葉に顔を真っ赤にして叫ぶみさお。

「へ~、日下部も女の子だったのねぇ」
「ぅぅ……だから言いたくなかったんだってヴァぁ……」

かと思えば、またも机に突っ伏す。忙しい女の子である。

「それで? なんで机に突っ伏してたワケ?」
「んぁあ……『今朝、そいつの靴箱にラブレターを入れて、今日の放課後に呼び出しちまった』んだよ……時間がどんどん近づいてきて……緊張してるんだってヴぁ……」

かがみは、最悪の事態を想定して、そして首を横に振った。

(ううん、違うわよね。日下部はあんな女の子らしい字は書けないし、第一、内容だって……)
「それでね? みさちゃんったら『私のかわりにラブレターを書いてくれ』って頼んできたのよ」
「私字ぃ汚いし、文面も考え付かなかったからさ。でも、あやのに書いてもらって正解だったゼ。あんなかわいらしいの、私には無理だったよ」
「最近入ってたアニメのやつを使っただけなんだけどね?」

最近入ってたアニメ? そういえばラブレターを送るっていう話を見た気が……

――あなたが好きです。直接お話する勇気がなくて、いつも遠くからあなたの顔を見つめていました。
  素敵な横顔、真摯なまなざし……いつの間にか、私はあなたの世界に迷い込んでいました。
  放課後、体育館裏に来て下さい。せめて一度だけ、あなたとお話がしたいんです――

その手紙の内容を思い出した直後、かがみは激しいめまいを起こし、その場に倒れこんでしまった。

 


放課後の体育館裏、そこにいるのはみさおでも宗介でもなく、柊かがみその人だった。
――とりあえず、準備しておくに越したことはないだろう。
一度は無視して帰ろうとしたのだが、宗介のこの言葉が引っ掛かったのだ。

(アイツのことだし、パンツァーファースト(対戦車ライフル)とかゆートンデモナイモノ持ってきそうな気が……日下部が心配だわ……)

と考え、体育館裏の茂みに隠れていたのだ。ちなみにこなたやつかさには『用事がある』と言って、先に帰らせた。
……はずだった。

「かがみ」
「ひゃっ……!!」

突然、後ろから聞こえた声に、かがみは思わず竦み上がった。

「こ、こなた!? 帰ったんじゃなかったの!?」

声をひそめ、こなたに尋ねる。

「私も気になったからね。そういうかがみも用事があるって言ってなかったっけ?」
「き、気が変わったのよ!」
「ふーん……」

こなたは意地の悪い笑みをたっぷりと浮かべ、視線を逸らしたかがみを凝視していた。

「……あ、きたわ」
「え、どれどれ!?」

茂みの中から顔を出し、こなたが声を上げる。
彼女達から数m離れた場所から、日下部みさおが歩いてきた。

「お~、あのラブレター書いたの、みさきちだったんだ」
「みさきち!?」

こなたをみさおに紹介してまだ一週間しか経っていないが、あだ名をつけるまで仲良くなっていたとは……

「そ。でも向こうは“ちびっ子”としか呼んでくれないんだよね……」
「へぇ…」

こなたからみさおに視線を移す。みさおは辺りをキョロキョロ見回し、

「ま、まだ来てねーよな……相良君……」

その顔はほのかに赤み掛かっているように見えた。

「ハァ!? あんた男子を“君”付けで呼んだことないだろ!!」
「う~ん、すっかり恋する乙女みたいな感じだね……」

いつもの元気さはどこへやら、今の彼女からは、恋する者に特有の匂い立つような恥じらいと艶やかさを感じる。

「相良君、朝から準備してたんだよね」
「そうね、実際には見てないけど」
「準備ってどんな準備だろ……」
「さあ。強襲騎兵(アーム・スレイブ)とかロケットランチャーでも取りに行ってるんじゃないの?」
「ありそうで怖い……。とにかく待とうよ」
「そーね」

二人は鞄を抱えると、その場にしゃがみ込んだ。
ちなみに『アーム・スレイブ』とは戦争に使われている人型兵器である。
 
 
 
だが、六時を過ぎても宗介は現れなかった。
茜色に染まっていた空も、すでに暗い紫色へと移り変わりつつある。街灯の光が、体育館裏をやわらかく照らしだした。

「……来ないね。もう二時間も経ってるけど……」
「そうね。こういうのもなんだけど、日下部もよく待つわね……」

日下部のことだ、少し待たされただけでも怒り心頭に帰ってしまうものかと思っていた。
しかし、違う。彼女は辛抱強く待ち続けていた。とても切なそうな、寂しそうな顔をしながら。

「……来ないの、かな……」

一人呟くその姿がとても痛々しく見えた。恐らく彼女にとって初めての恋。勇気を出して、ラブレターも送った。
それなのに、彼は、相良宗介は来ない。二時間待っても、来ないのだ。

「……日下部……」

もう相手は来ないだろう……。そう思いながら待ち続けている彼女の気持ちが、かがみにも伝わってきた。

「……まだ……もう少し待ってみっか……」

それが本当に“もう少し”になる可能性は万に一つもないことは、とっくの昔に気付いている。
だが、彼女はそれでも、ひたすら待つことを選んだのだ。
と、こなたは突然、置いていた鞄を持って中腰になる。

「ごめん、もう帰るね。あんまり遅くなっちゃうと、お父さんが心配しちゃうよ……」

それは嘘だと、かがみは確信した。彼女の顔が、それを物語っていた。
どうやらこなたにも、日下部の気持ちが伝わってきたのだろう。“もうこの場にいたくない”とでも思っているに違いない。
長い付き合いだ、そんなことはお見通しである。
……そういえば、宗介は訳あってこなたの家に居候していると聞いている。もしかしたらこなたは、宗介を連れてくるつもりなのかもしれない。

「そう。じゃ、また明日ね」
「風邪引かないように気を付けてね」

こなたは、最後にみさおの方を見てから、その場を去った。
 
 
 
二人は待った。いつか、相良宗介が現れることを信じて。
だが、彼女達の思いもむなしく、更に一時間がすぎてしまった。もう七時だ、完全に日も暮れた。
こなたは……宗介の説得に失敗したか、あるいは帰ってきていなかったのか。
どちらにしろ、宗介が現れる可能性は限りなくゼロだった。

「……っ……」

いつのまにか、みさおの目には涙が浮かんでいた。僅かな希望も、完全に絶望に変わっていた。
体育館裏を照らしていた街灯の明かりが、まるで悲劇のヒロインを照らすスポットライトのようだ。

「最っ低ね……アイツ……」

腹が立つ。
宗介は確かに暴走気味だが、かがみが運ぶはずの荷物を代わりに運んでくれた時もあった。彼は、本当は優しい奴なのだ。
……そう、思っていたのに。すっぽかしなんてあんまりではないか。

「……もう……帰るか……」

みさおは一人呟くと、街灯の光が届かない闇の中へ消えていった。
一人残されたかがみは、自分も家に帰ろうと立ち上がり、しかし頭を振ってみさおが消えた方へ走った。

「日下部!」

みさおは校庭の真ん中を歩いていた。
かがみの声に反応して振り返り、そして『信じられないものを見た』というような顔をした。

「ひ、柊……お、お前、まさか……」
「ええ、ずっと隠れて見てたわ」

みさおの顔が一瞬で赤くなる。見られていたことへの羞恥か、突然の出来事に頭がついていってないのか。
とにかく、みさおは一種のパニックに陥った。

「日下部、わかったでしょ? あんたが恋した奴はそんな奴なのよ。諦めた方がいいわ」
「ひ、柊……」
「第一」

パニックから抜け出したみさおの胸に手を置き、

「私達は、こうやって友達と過ごす方がお似合いなのよ」

その言葉は、みさおの胸にすっと入っていった。
その言葉の意味するところを吟味するかのように目を閉じ、小さく笑う。

「……だな。アタシにはまだ恋愛なんて早すぎる」
「さ、帰りましょ。両親も心配してるでしょうし」
「ああ!」

かがみのおかげで立ち直ることができたみさおは元気に返事をすると、かがみと一緒にその場を後にした。
……屋上から、彼女達を狙っていた人間がいたとは知らずに……



「今戻った」
「おかえり、相良君」

宗介が帰ってきたのは、九時を越えてからだった。こなたは作務衣を羽織り、テレビから玄関に視線を移す。
宗介の服装はいつもの陵桜の男子制服。朝とまったく同じ格好である。
背中にギターケースに似た黒い塊を背負っている。
中身がセミオート式ショットガン(中身は非致死性ゴム・スタン弾)であることを知っているこなたは別段気に留めた様子もなく尋ねた。

「今日、どこに行ってたの? ずっと体育館裏で待ってたんだけど、来なかったよね」
「ああ。敵の罠の可能性が捨てきれなかったため、屋上からこのショットガンで狙っていた」

淡々と話す宗介に、こなたは固まった。

「あ、朝からずっと屋上に……?」
「肯定だ。君達が来ていたことも、あの少女が来たのも、すべて上から見ていた」

なんと、宗介はちゃんと来ていたのだ。
体育館裏ではなく屋上から、怪しい奴らが現れるまで、ずっとショットガンを体育館裏に向けて……
これにはさすがのこなたも呆れ果てた。

「……それで、どうしたの?」
「俺が来ないと分かればすぐにでも帰ると踏んでいたが、彼女は一向に帰る気配がない。先制攻撃を仕掛けようとした矢先、やっと彼女はその場を立ち去ったのだ」

みさおにひどいことをしたという自覚はゼロである。
こなたは今朝よりも長~~~いため息をついて、

「明日、かがみにはたき倒されるだろーね……」
 
 
 
そして翌日、宗介からすべてを聞いたかがみは、案の定ハリセンで宗介をはたき倒したとさ。


3話『戦うパワー・オブ・ゼロ』

日本全国の学校が、生徒達が待ちわびる夏休みに入った7月。
陵桜学園も同じで、すでに夏休みへと突入していた。
そんなある日の早朝、太平洋のはるか上空を、一機のプロペラ機が飛行していた。
ここに来るまで、東京都某市内にある飛行場からセスナ機で二時間。八丈島の小さな空港に到着し、このプロペラ機〈キングエア〉に乗り換えたのだ。
そしてキングエアに乗り換えてからすでに三時間半が経過している。

「ねえ、まだ着かないの~?」
「我慢しろ。もう5分もしないうちに着く」

パイロットを除く搭乗者は、相良宗介と泉そうじろう・こなた父娘。
ちなみに先の不平を洩らしている人物がこなた、そのセリフを切り捨てた人物が宗介である。
まあ、無理もないだろう。長期間のフライトに加え、彼女は八丈島に着いてからずっと目隠しをされているのだから。

「せめて目隠しくらいは取らせてよ。ゲームやりにくいじゃん」

なんとこなたは目隠しをしながらゲームを進めているのだ。
しかも今までノーダメージ。ものすごいプレイングテクニックだ。

「一応こなたは一般人だからさ。メリダ島の場所を知られちゃ困るんだ」
「むう……仕方ないか……」

ゲームにも飽きてきたのか電源を切り、黙って到着を待つと、パイロットが着陸許可を要請する交信を始める。
いくつかのやり取りのあと、無線の向こうの相手が告げた。

『我が家へようこそ、ゲーボ30(サーティ)。着陸を許可する』

するといきなり、エレベータが下がった時のような感覚に襲われた。
そしてそれが次第に弱まり、プロペラの回転音と、今まであった揺れが消えた。機体が着陸したのだと、こなたは理解した。

「着いたぞ。もう目隠しは外してもらってかまわない」

宗介に言われて目隠しを外すと、プロペラ機の目の前には滑走路が広がっていた。
何気なくコンソールの上に据え付けられたGPSに目をやると、北緯20度50分、東経140度31分と表示されている。
この島は、一般の地図には載っていない。宗介やこなた達は、この島を『メリダ島』と呼んでいる。
上空から見ればそこはただの無人島だが、地下は違った。
様々な最新装備や武器弾薬の備蓄、戦闘員の訓練、超ハイテクの強襲揚陸潜水艦〈トゥアハー・デ・ダナン〉の整備基地などが地下に建設されている。
ここは、宗介が所属し、かつて父も所属していたという極秘の傭兵部隊、〈ミスリル〉の西太平洋基地なのである。


キングエアを降りると、こなたは二人に連れられて滑走路を歩いていく。話は聞いていたが、こうやって来るのは初めてだ。
しばらく歩くと、前方に二人分の人影が見えた。お出迎え、だろうか?
その人影が次第にはっきりとしていき――こなたは息を呑んだ。
金髪碧眼、あごは細く、目は切れ長、鼻筋が通っている男。ベリーショートの黒髪、吊り気味の大きな目が特徴的な、ぱっと見日本人と変わらない女性。
こなたは思った。『この二人は日本人』ではないと。
二人とも、見た目、雰囲気、物腰、日本人のそれとはまったく違う雰囲気を醸し出している。
もちろん、日本人だけの組織ではないことはわかっていたが、心の準備というものがある。
いろいろと考えているうち、その二人との距離は縮まり――

「よう、ソースケ! 長旅ごくろーさん」
「あらっ?」

『いかにも外国人』な男の方が、宗介よりもまともな日本語を話している。
これはこなたでなくともコケるであろう。

「どう? 今度の学校は」
「問題ない。ただ、かなめの幼なじみという女性によく殴られる」
「だから改めろっての」
「安全のためだ。仕方がない」

女の方は若干訛りがあるものの、どちらも宗介以上には日本語が得意だ。
と、女の方がこなたとそうじろうに近付いてきた。
そして目の前に立ってこなたを見下ろし、

「あなたが泉そうじろうさんの一人娘、泉こなたちゃんね」
「むー……子供扱いしないでくださいよ……」

『ちゃん』と言われたことが結構頭に来たのか、こなたは頬を膨らませる。


「メリッサさん、そろそろ……」

すると今度は、女の左後ろから少女が現れた。
大きな灰色の瞳。アッシュ・ブロンドの髪を三つ編みにして左肩から垂らしている。
その少女の言葉を聞くと、女は困ったように人差し指でこめかみの辺りをこつこつと叩いた。

「あちゃ、もうそんな時間か……」

ここは〈ミスリル〉の西太平洋基地だ。おそらくなんらかの(訓練・護衛・戦闘などの)仕事が入ったのだろう。

「とりあえず自己紹介だけするわ。あたしはウルズ2で曹長のリッサ・マオ。これからよろしくね。それじゃ!」

そう言うと、メリッサ・マオ曹長は足早にその場を去っていった。
曹長。つまり軍曹である宗介よりも地位の高い人物。
そして、ウルズ2。『ウルズ』とはSRT(スペシャル・レスポンス・チーム)隊員に与えられるコールサインである。
最優秀の万能選手が集まった精鋭チーム、SRT。もっとも危険で、柔軟性が要求され、かつデリケートな任務をこなすために、〈ミスリル〉の隊員からSRTが選ばれるのだ。
数字は小さい方が地位が高くなる。彼女はそのナンバー2ということは……相当な人間であることがうかがえる。
確か、宗介はウルズ7だったはずだ。

「んじゃ、次は俺が自己紹介する番だな。かわいこちゃん」

そう言って、金髪の男がこなたの前に出てきた。ギャルゲのライバルといったところか、とこなたの脳ははじき出した。
確かに、黙っていれば映画スター並みの美青年だ。
しかし彼は今、黙ってはいなかった。

「俺様はウルズ6、クルツ・ウェーバー軍曹だ。クルツ君♪って呼んでくれ。でひゃひゃひゃ!!」

そんなクルツ・ウェーバー軍曹を見て、こなたは海より深い溜め息をついた。
そして、一言。

「……『喋ると三枚目』の称号がぴったりだネ」
「どういう意味だ、おい!」

見事な夫婦漫才?にそうじろうと少女は小さく笑う。
しかし、宗介だけは無表情なままだった。

「では、私も自己紹介をしますね」

少女はそう言うと、クルツの横へ歩いてきた。

「実際に会うのは初めてですね、こなたさん。私の名前はテレサ・テスタロッサ、通称テッサです」

名前を聞いた瞬間、こなたの眉がピクッと反応した。
現〈ミスリル〉作戦部大佐であり、TDD-1の艦長。そうじろうから聞いていた名前である。
こなたは一度だけ、彼女と電話で話したことがあった。女性だとは知っていたのだが……

「私と同い年くらいじゃないの?」
「はい。今年で17歳になります」

17歳。こなたと同じ、普通なら高校二年生の年齢である。
これから夏休みの宿題に追われることになるであろう普通の高校生こなたと、悪と戦う秘密組織(こなたビジョン)の大佐テッサ。

「不公平だ……」

世の中の不条理さを嘆くこなたであった。

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