このまま手を繋いで

みさきちからかがみのことを聞かれるなんて、予想外だった。完全に油断していた。
かがみ……元気ないんだな。どうにかしたいけど……
私はもう、かがみとは会わないって決めたんだ。
私はかがみに振られた。だから……かがみに会う資格なんてないんだ。

「ねえ、こなちゃん」
「何?」

つかさと秋葉原に寄った帰り道、つかさが深刻そうな顔で話してきた。
つかさとみゆきさんには、何があったのか話してある。だから二人は、私がかがみが好きだってことも知ってる。

「多分、こなちゃんを振ってからだと思うけど……お姉ちゃん、元気がないんだ。こなちゃんも上の空な時があるし……そんなお姉ちゃんとこなちゃん、見たくないよ」

つかさが言いたいことはつまり……『元気を出してもらうためにも、二人に会ってもらいたい』ということだろう。

「……それは、無理だよ。私とかがみの関係は終わったんだ。会わない方が……逆に二人のためだと思う」
「……そっか……」

シュンとして、視線を下げるつかさ。
私がかがみに告白したから……つかさにもみゆきさんにも寂しい思いをさせてるんだな。
やっぱり……告白しなけりゃよかったんだな……
告白さえしなければ……こんなことには……

「それじゃ、また明日」
「うん……じゃあね、こなちゃん」

電車を降りて、恋人であるゆーちゃんが待ってくれてるはずの家に向かう。
もうすっかり日が暮れてしまった。お父さんもゆーちゃんも心配してるかな。

数分歩いて、自分の家が見えるところまで来た。あと少し。

(ん……?)

家の前でうろうろしてる人がいる。
ゆーちゃんかな、と思ったけど、身長と髪型からそれはないだろう。
まあ、近づけばわかるかなと思って歩いていくと……

「やっと帰って来たわね、こなた」

いるはずのない人間が、そこにいた。

 

〈このまま手を繋いで〉

 

「……」
「……」

とりあえず、かがみを招き入れたものの……お互いにあさっての方向を向いたまま一言もしゃべらない。
こっちから何か……と言いたいけれど、私は話すことなんてない。
それに、かがみの方から訪ねてきたんだ。向こうの用件を聞かないことには何もできない。
そう思っていると、かがみがおもむろに口を開いた。

「あ、あのさ……」
「……」
「な、何から話せばいいのかわからないんだけど……」
「……」
「私が断ったのは……私とアンタが同性どうしだから、なのよ。同性どうしの恋は許されない……そう思ってた」
「……それで?」
「それで……ある人に言われたの。『お前はこなたを振ってから、ずっとこなたのことばかり考えてるだろ』って」

顔を赤くして、そっぽを向くかがみ。

「私は、寝ても覚めてもこなたのことばかり考えてた。こなた無しじゃ、私の生活は成り立たないって気が付いた。だから……」

かがみがポケットから何かを取り出す。それは……私がプレゼントした、あの指輪だった。

「遅くなって、悲しませてごめん。自分勝手だけど……これが、私が出した答えよ」

そう言ってかがみは、自分の左手の薬指に指輪をはめた。
それは……私の告白を受け入れるという意味だった。

「こなた、今度は私からの告白よ。まだこの指輪を持ってたら……こなたの薬指にはめてちょうだい」

……嬉しさの前に、怒りがこみあげてきた。
せっかくかがみがOKを出したのに、なんで怒りなんか感じてるんだろう。自分が信じられなかった。

「……何言ってんの……?」
「え……」
「かがみの言葉が、どれだけ私を傷つけたかわかってるの!? なのに、なのに今ごろOKを出したってそんなの受け入れられるはずがないじゃん!!」
「こなた……」

止まらない。本当はこんなことを言いたいわけじゃないのに、口が止まらない……!

「一度振っておいて、なのに後で告白を受け入れる……? ふざけるのもいい加減にしてよ! それに、私はゆーちゃんという恋人がいるんだ!」
「え……!?」
「もう……なにもかもが遅すぎるんだ!!」
『遅くなんかないよ』

突然聞こえた二人以外の声。振り向くと、そこにはゆーちゃんがいた。

「ゆーちゃん……?」
「遅くなんかないよ。こなたお姉ちゃん、私とデートに行ってる時も、かがみ先輩のこと考えてるじゃない」
「そ、それは……」

図星だった。買い物に行ってても、ついついかがみに似合いそうなものを探したりしちゃってる。
私はまだ……かがみのことを諦めきれなかったんだ。

「お姉ちゃんは、かがみ先輩が好きなんでしょ? せっかく受け入れてくれたんだから、付き合わないとおかしいよ」
「で、でも……そうしたらゆーちゃんは……」

私はゆーちゃんと付き合ってる。かがみと付き合うとなると、ゆーちゃんと別れなくちゃならない。
それは……ゆーちゃんに失礼だ。

「私は大丈夫。前に言ったよね、私はこなたお姉ちゃんが幸せならそれでいいって」
「……あ……」

そうだ。確かにゆーちゃんは……そう言っていた。
『私はこなたお姉ちゃんの愛を応援する』……そんな感じのことを。

「だからお姉ちゃん、お願い。かがみ先輩と……」

ゆーちゃんはチラッとかがみを見て、後ろのドアに手を掛ける。

「……じゃあ、私は外に出てるね。私が言いたかったのは……それだけだから」

ゆーちゃんが部屋から出る瞬間に見えたのは、ゆーちゃんの涙だった。
扉が閉まって、部屋には私達二人だけ。会話もなにもない。

「……仕方ないなぁ……」

私は立ち上がって、机の引き出しをあさる。
そして、引き出しの奥にしまってあった、かがみとおそろいの指輪を……左手の薬指にはめた。

「ゆーちゃんに……感謝してよね……」
「……こなたっ!!」

顔を真っ赤に染めているであろう私に、かがみが抱きついてきた。

「こなた……本っ当にごめんね……」
「ううん、私こそひどいこと言ったよね。ごめん」
「こなた……」
「かがみ……」

私達はお互いに、相手の身体を抱き締めた。
もう二度と離さない、私が大好きな人。
私のために諦めてくれたゆーちゃんの分まで……私はかがみを愛していく。

「ところでこなた」
「ん?」
「さっきのアンタ、完全に『ツンデレ』だったわよ」
「ぶっ!!」

……どうやら、私の方がかがみんの嫁だったようで。

 


それから数日後、私達は遊園地デートを楽しんだ。
仲直りの印に、と……初恋成就記念に。
そして家に帰ってきて……とても珍しい人物を見つけてしまった。


「ただいまー」
「お邪魔しま……」
「おう、チビッ子に柊じゃねぇか。邪魔してるゼ」

……えーっと……なにゆえ私の家にみさきちがいるのだろうか……

「あれ? 言ってなかったっけ。私とみさお先輩、付き合ってるんだよ?」

……え……?

「……マヂかよ?」
「またレアなカップリングだネ……」
「レアって言うなってヴぁ! アタシらはちゃんと愛し合ってるんだからな!?」
「みさお先輩、落ち着いて……」

ちゃっかりみさきちのことを名前で呼んじゃってるゆーちゃん。
これは……どう考えても本当みたい。

「みさお先輩と話してるうちに、どことなくこなたお姉ちゃんに似てるように感じて……それで、私から告白したんだ」
「柊みたいな奴も好きだったんだけどな、実はゆたかみたいな子も好みだったんだよ」

ふぅむ……対極にいる二人だからこそ、ってことかな。恋愛って奥が深いねぇ……

「で、柊とチビッ子はどうする気?」
「え? どうするって……」
「これからの生活ですよ。同性結婚は認められていないので……」

これからの生活、か……

「そんなのわかるわけないじゃん、未来に描けることなんて。買い立ての、真っ白なスケッチブックみたいにさ」

買ったばかりのスケッチブックは真っ白。これから自分が何を描くかなんて……わかるはずがない。
成り行きに任せて……って言ったらイメージ悪いけどさ、そんなもんじゃないの?


「ふむ、こなたにしてはまともな台詞ね」
「ひどっ!!」

かがみの言葉に即座にツッコむ。それを見て笑うみさきちとゆーちゃん。
なんだか恋人というよりは友達だけど……これが、あるがままの私達なんだから別にいいんだ。と思う。

 

「しっかし、まさか日下部とゆたかちゃんが付き合ってたなんてね」

夜。早々と私のベッドに潜り込んでるかがみがネトゲをしている私に同意を求めてきた。

「確かにね。でもさ、二人にとっては『あり得ない話ではなかった』ってことだよね」

パソコンの向こうの黒井先生な別れを告げ、パソコンの電源をOFF。
かがみの隣に潜り込んで、ベッドの中で会話を続けた。

「私ね、今回の一件で『あり得ないことなんて何一つない』って知ったわ」
「100%がないように、0%もないんだね」
「いや、0%はあるぞ。あんたが法学部や医学部に入る確率ね」
「あぅ」

私のおでこをツンツンとつつくかがみ。さっきも言ったけど、これが私達なんだ。

「こなた」
「かがみ」

お互いに名前を呼び合い、顔を近付けて……唇にそっとキスをした。
私はかがみの手を握る。かがみも私の手を握ってくる。好きな人と触れ合うのが、こんなにも嬉しいなんて知らなかったな。
そしてちょうどいい眠気が私達を夢の世界へと誘う。
夢の世界でも一緒になれるよう、私達は手を握ったまま、すうっと目を閉じた。
このまま手を繋いで、二人でどこまでも行こうね。かがみ。

「「……おやすみ……」」

 

 

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