空から花が降っている。
くるりくるりと回って落ちる。
色とりどりの花が雨のように降っているのを見て、つかさは空に手を伸ばす。
届かない。触れているのに、触れない。
つかさは不思議に思いながらも、諦めずに同じ事を繰り返す。
おかしな事はもうひとつある。
赤やピンク、白や紫などの様々な色の花があったが、黄色の花だけが見当たらない。
「どうして黄色の花だけ無いんだろう?」
つかさの呟きは独り言にならない。
何故なら、つかさの背後に一人の少女が立っている。
「黄色い花なんて、もうどこにもないよ。これは全部、ゴミになる花」
「どこにもないの?」
「たとえあっても気づけない。黄色がどんな色か知っている人は、世界にもほとんどいないから」
少女は何度も他人に説明してきた言葉のように、すらすらと答える。
つかさはふと思い出し、頭のリボンを解いてじっと見る。
「ここにあるよ。ほら、これが黄色の」
つかさが説明をしながらリボンを持った手を差し出すと、少女は目を輝かせて飛びつく。
奪うことはしなかったが、少女はリボンをぎゅっと強く握っている。
「ちょうだい!」
「えっと、これはプレゼントで貰ったものだから」
「でも、黄色を手に入れたら幸せになれるの。みんなもその伝説を信じて、いつも探してるんだよ」
少女はリボンを見つめたまま叫ぶ。
つかさは自分よりもずっと背の低い少女を見て、考える。
お気に入りの物だけど、この子ならばきっと大切にしてくれる。
迷った末に、つかさはリボンを手放すことにする。
「私は他の色の花もきれいだと思うよ。だから、黄色以外の花と交換しようか」
「いいの!?」
「うん。だけど、大切にしてね」
「ありがとう」
つかさはリボンを少女に譲り渡そうとする。
しかし、そのとき一陣の風がつかさの手からそれを奪い、空に舞い上がらせる。
二人は慌ててその後を追う。
リボンは宙を舞い、丘の向こうへ。
つかさ達は駆け足で丘を越えて、下りになっている坂の斜面を見て驚く。
目の前には黄色の花畑が広がっている。
追いかけていたリボンのことは、二人の頭からとっくに消えている。
「こんな所にあったんだ」
「……みんなが探してたのに、誰も気が付かなかったんだね」
「うん。だけど、私はこの花を見たことがあるよ。お父さんとお墓参りに行くと、いつも供えていくの」
「この黄色の花を?」
女の子は首を縦に振る。
「お父さんは知ってたのかな。こんな近所に咲いてる花が、黄色をしているっていうことを」
「知ってたのかもね。お墓に必ず持っていく花に、あなたがいつか興味を抱くのを待っていたのかも」
「ううん。やっぱり偶然だと思う。死んじゃったお母さんが好きな花だったから、選んでいただけだと思う」
「お母さん……いないんだ。お父さんのことは好き?」
「バカだから嫌い」
「あはは。そうなんだ」
少女は笑う。
つかさも笑う。
そして、夢は終わる。
「珍しいわね。つかさがこんな早くに起きてくるなんて」
トーストをかじっていたかがみは、髪に寝癖の残るつかさの姿を見つけてくすりと笑う。
「そんなことないよ。いつもどおりだよ」
つかさは頬を膨らませて言う。
「なんだか変な風に曲がってるけど……。もしかして、リボンを着けたまま寝たの?」
かがみは呆れたように言う。
「そうみたい。そうそう、このリボンのおかげで不思議な夢を見ることが出来たんだよ」
「へえ、どんな夢だったの?」
「あんまり覚えてないんだけど、花と女の子が出てきたような……」
つかさは必死に説明をしたが、かがみはさっぱりわからないという表情をする。
「あとは、夢の中の女の子がこなちゃんに似ていた……ような気がする」
「こなたか。あいつが出てきたら、ファンタジーもぶち壊しよね」
「うーん?」
つかさは曖昧に笑って誤魔化すと、ぽつりと独り言を口にする。
「こなちゃんの今度の誕生日には、プレゼントに黄色の花を添えてみようかな」
終
最終更新:2008年04月28日 00:11