(……やっぱり、私だけで選んだものを渡さなきゃだめよね……)
町を歩きながら、栗色の髪にカチューシャを着けた女の子――峰岸あやのは悩んでいた。
彼氏に贈る誕生日プレゼントなのだが、今彼女の手元にあるのは幼なじみでもある彼氏の妹に選んでもらったもの。
自分だけで選んだもので、彼氏を喜ばせたい――その思いが、彼女を突き動かしていた。
だが……彼氏の誕生日は、すでに明日にまで迫っている。今日中に見つけなければならない。
(……いろいろと回って探してみようかしら……)
しかし、そう簡単に見つかるはずもなく。
シルバーアクセ――
(確か、こういうのに興味がないのよね、彼……)
おしゃれな服――
(……は、みさちゃんが選んだものと被るし……)
レストランで食事――
(……ううん、こんなのプレゼントでもなんでもない……)
パソコン――
(今も持ってるはずよね……第一、高価すぎて手が出ない……)
ゲーム――
(う~ん……あんまりやらないのよね……ゲームは……)
フィギュア――
(これは問答無用で……って、あら?)
目の前にあるのぼりを見て、ようやく自分が秋葉原まで来ていたことに気が付いた。
「い、いつのまに……?」
もちろんさっきからなのだが、考え事をしながら歩いていた彼女は気付くはずもなく。
ここまで歩いてきて、結局彼が欲しがりそうなものはひとつも見つからなかった。
諦めて帰ってしまおうかと思った時……
「あれ、峰岸さん? こんなところで何やってるの?」
「泉ちゃん」
青色の長い髪を持つ少女――泉こなたと鉢合わせをした。大量の紙袋を両手で持っている。
隣のクラスにいる友達の友達で、最近顔を合わせたばかりだが、その小ささと髪の色とネコ口はとても印象的だったので忘れることはなかった。
「彼にあげる誕生日プレゼントを探してたの。でも、見つからなくて……」
「あ、だったら一緒に探してあげるよ」
「だ、ダメよ!」
彼女の善意を踏み躙るのは忍びなかったが、自分にも貫き通したい信条はある。
「誕生日プレゼントは、私だけで選びたいの。だから……ごめんね」
「んー、それなら仕方ないね。また明日」
「じゃあね」
紙袋を持ったまま残念そうにきびすを返す。
あやのも帰ろうと歩きだした時、こなたが急に「そうそう」と言った。
「プレゼントってのはね、『自分がもらっても喜ぶもの』ってのがミソだよ」
「え?」
「ギャルゲじゃ通じないんだけどね。じゃ、今度こそまた明日」
それだけ言うと、こなたは振り返らずに通りを歩いていき、人ごみに紛れて見えなくなってしまった。
(……自分がもらって喜ぶもの、か……)
あやのは、自分の家とは違う方向に歩きだした。
そして、翌日――
「「誕生日、おめでとう!」」
「ありがとな、二人とも」
クラッカーを鳴らす二人の少女に、頭を掻きながら感謝をする男。
少女の片方は峰岸あやので、もう片方は幼なじみで彼氏の妹の日下部みさおである。
「んじゃー、兄貴に早速プレゼントだゼ」
「お、なんだ?」
みさおから小さな箱を受け取った兄は開けて中を確認して、
「クッキー?」
「頑張って作ったんだってヴぁ。腹下すとか言うなよ!」
「大丈夫だっつーの。……お、普通に美味いな」
「フツーかよ……」
料理はあまり得意じゃないみさおだが、今日のために頑張って作ったのだろう。
そのうちの一つを口の中に放り込んで感想を述べると、みさおがガックリと肩を落とした。
「あやのはなんだ?」
「あ、えと……はい、これ」
持ってきた紙袋からボロボロ(だとあやのは思っている)のGパンを取り出した。
「おっ、ヴィンテージ物か!」
「アタシと一緒に買いに行ったんだゼ」
「……と、もう一つ」
ガサゴソと紙袋に手を突っ込みながらあやのは言う。
「それってみさちゃんに選んでもらったものだから……自分だけで探してみたの」
紙袋から取り出したのは……かわいい熊のぬいぐるみだった。
「リラッタヌ?」
「昨日まで迷ってたんだけど……ある人に『プレゼントは自分がもらっても嬉しいものがいい』って言われて……他のが良かった?」
彼はしばらくぬいぐるみを見つめて――
「いや、そんなことないよ。ありがとな」
「あ……///」
笑顔で見つめられ、つい顔が赤くなってしまった。
「よーし、プレゼントも渡したし、パーティーだっゼー!!」
「ふふふ……」
「んじゃ……乾杯っ」
ちなみにこの数分後、みさおはあやのがプレゼントしたリラッタヌに誤ってジュースをこぼしてしまい、地獄を見ることになるのだが……それはまた、別のお話である。