The Legend of the Lucky Star 第一話

第一話


“……あれ?”

気が付いた時、彼女は病室の入り口に立っていた。なんでこんなところにいるのかが、彼女には不思議だった。
もっと不思議なのは、その病室にいる面々だ。
自分の父親、自分の従姉妹、自分の友人達……それぞれがベッドにすがるように泣いている。
しかもそのベッドにいる、沢山の計器が付けられた人物は……他ならぬ自分自身であった。

“……そうだ、私……轢かれちゃったんだよね……車に……”

彼女にとっては、ほんの数分前の出来事。しかし現実世界では、その事件からすでに二日が経過していた。

彼女の名前は、泉こなた。

彼女は二日前、高校入学時にパソコンを買い替えるために秋葉原を下見に訪れ、その帰りに……飲酒運転のトラックに轢かれたのだ。
では、病室の前に立っている自分は一体なんなのか?
幽体離脱、もしくは幽霊。後者の場合……死んでいることになる。

“……イヤ……だよ……”

死んでいるかもしれない。そう思った時、こなたの瞳から涙が溢れた。

“猛勉強して……やっと……やっとお母さんとお父さんと同じ陵桜学園に入れたのに……! なんで……なんで死ななきゃいけないのさ……!?”

自分が望んだ、陵桜学園の入学。せっかくの努力も、試験に合格したことも、死んでしまえば、すべてが水の泡だ。
悲しみで立っていることもできず、彼女は座り込んだ。

『助けてやる』
“え……?”

直後、そんな声がして、振り返る。そこにいたのは、着ている服がスカートでなければ男子と見間違えていただろう活発そうな女性。八重歯が(なぜか)キラリと光る。
年は同程度だろうが、こなたにとって、まったく見覚えのない女性だった。

『あんたには、生きててもらわなくちゃ困るからな。だからアタシが生き返らせてやる』

こなたは口を開けたまま、そう言う女性を見ることしかできなかった。
なぜ、霊体であるはずの自分が見えるのか? なぜ、初対面の人物を助けるのか? そして何より……そんな力は、実在するのか?

『困惑しているみたいだな。てゆーか、初対面の奴にこんな事言われれば当り前か』

そう呟きながら、女性が自分の方へ歩きだした。と思ったら、今度はいきなり頭を掴まれた。

“わ、わ!!”
『大丈夫だ、あんたの魂を戻してやるだけだから。ここでの記憶は消させて貰うからな』

何が何だか、こなたにはわからなくなっていた。女性の声など全然頭に入っていない。
とりあえず、女性から離れることだけを考え、必死に抵抗していた。

『だー! 暴れるなっての! その時が来たらちゃんと教えてやっから、とっとと寝ろー!!』

そう言われた瞬間、視界がいきなり真っ暗になった。



「はぁ……はぁ……」

こなたはベッドに身体を起こして頭を抱える。
時計を見ると、午前一時。先ほどまで見ていたものは、夢だったのか?

(違う……アレは、夢なんかじゃない……)

あの時の傷痕が疼く。事故が起きたのも、霊体として病室の入り口にいたのも、紛れもない『現実』。
しかも、自分の目の前に現れた、あの女性は……

“うおーい。聞こえるか? チビッ子”
「わっ!?」

突然、誰かの声が聞こえてきた。
いや、聞こえてきたというよりも頭に直接語り掛けてきたと言った方が適当だろう。頭の中で声が反響している。

“あー、ちゃんと通じてるみたいだな。あと、チビッ子のは声に出さなくても聞こえるからな”
(みさきち……だよね。この声……)

みさきち――日下部みさお。こなたの友人であり……
かつて、こなたを生き返らせてくれた、あの女性だった。

“さっき、あの時のこと思い出したろ? それのことで話があるから、近くの公園で待っててくれ”
(う、うん……)
“んじゃ、また後でなー”

何故か受話器を置くような音がした。通信……と言うのだろうか、それが終わった合図なんだろう。
こなたは服を着替えると家からこっそり抜け出して、言われた通り自分の家から一番近い公園へと向かった。





「……暗い……」

公園に着いて、こなたは呟いた。
昼間は子供達がいて賑やかなのだが、今は深夜。人はおろか鳥すらいない。
空は晴れているだろうが、今日は新月なので灯りは街灯のみ。
しかもほとんどの街灯は死んでいて、目障りな明滅を繰り返している。
不気味なほどの静寂が、こなたの恐怖をより一層駆り立てた。

「!!」

何かの存在を感じ取ったこなたは近くの茂みの中に隠れる。
少し経って、先ほどまで自分がいた場所に『人でも動物でもない何か』が現れた。

「あれは……餓鬼(がき)……人の精気を喰らい、人間に転生しようとする妖魔……。低級の妖怪だけれど、力のない人間は無力……」

数は二匹。身の丈は大型犬ほど。その姿を見て、こなたは口走った。
生で見るのは初めてなのに、そういう『妖怪』についての知識などないはずなのに。

――なぜ自分は餓鬼なんてものを知ってるんだろう?

第一、目の前に妖怪の類が、異形の者がいるのだ。
それなのに、自分は至って冷静。一体どういうことなんだろうか?

『人間ノ匂イガスルナ』
『近クニイルノダロウカ?』

自分の存在は既に気付かれているようだ。辺りをうろうろしている。
このままでは、見つかるのは時間の問題だ。

「とりゃああ!!」
『グガ!?』

見つかるくらいなら先制攻撃、こなたが茂みから飛び出し餓鬼の一匹を蹴飛ばした!
その身は空中に投げ出されるも地上スレスレで一回転し、着地する。

『大丈夫カ?』
『不意討チハ食ラッタガ、問題ナイ。ソレヨリモ……』
『アア。コノ娘、普通ノ人間ヨリモ上等ノ精気ヲ持ッテイル。喰ラエバスグニ人間ニナレルゾ』
「く……」

こなたは格闘技経験者。少しはダメージを与えられたかと思ったが、まったく効いていなかったようだ。
……そうだった。こういう妖怪に『普通の攻撃』は、当てることはできても通用はしないのだ。気付くのが、思い出すのが、遅すぎた。

『早速喰ウカ?』
『ソノ前ニ、ヤラレタ礼ヲシナケレバナ』

猛スピードで餓鬼が迫ってきたと思いきや、何かが地面に落ちたような音が辺りに響いた。

「……え……?」

こなたは顔を恐怖で引きつらせ、ギギギと音がしそうなくらいぎこちない動きで右を見た。


そこに、今まであったはずの右腕は――なかった。


「――!! うわあああああああああ!!!」

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