第1話 - まいごのプリンセス -

 ……風が吹いている。

 私、寝ていたのかな?

 草が頬をなでてくすぐったい。どこで寝てるんだろ私。

 太陽がまぶたの裏を赤く色付けて、眩しい。


 って。


 ぱっちりを目を開ければ、そこに広がっているのは抜けるような青空。
 がばっと上半身を起こせば、見えるのは畑。畑。……畑。

 昨日、私は確かに自分の部屋のベッドに入って寝たはずで。
 次に目覚める場所がこんないかにも田舎っぽさ溢れる場所なわけがない。いや私が住ん
でるあたりはそりゃ結構な田舎だけど。田んぼばっかだし。

 なんとなく動かした左手が何かにぶつかる。

 何これ、棒?
 やたら長くて、先っちょに石だか銅だかよくわからない刃みたいなのが。
 こいつを見てくれ、どう思う? すごく……槍です……。

こなた「……はいぃ!?」

 ちょまっ、コレは槍だよね? RPGでよく見かける槍ですよね!?
 しかも私の手元に置いてあったし! つまりコレは何、私の!?
 まさかフィールドに出たらイャンクックとかババコンガとかが襲ってきて、それを狩っ
ちゃったりなんかしちゃったりするんじゃないですよね!?
 ていうかなんか髪に変な棒刺さってるし。服だって明らかに剣と魔法のファンタジーチ
ックなんですがこのセンス。
 で、オマケにここはどこ。私は泉こなた。うん、記憶喪失じゃないね。

 って、おいおい……。

こなた「なぁにこれぇ!!」

 思い切り叫んでみたけど特に何もなし。人も通りかからないし。
 とりあえず……近くに建物がある。そこまで行ってみよう。
 窓開いてるし、誰かいるよね。
 槍を拾い上げてみる。どうにも持ちにくいけど我慢しよう。

 建物に近付き、窓から中を少しだけ覗いてみる。

 げ。

こなた「何あのゴリラみたいなの……」

 いやもう本当にゴリラみたいな……人なのかなあれ。
 そして変な仮面を付けた二足歩行の犬(?)と、小さな熊みたいなのが何匹も。

 聖堂……なんだと思う。それっぽい長椅子や聖壇が見えた。
 彼らに占拠されているそこに入ろうという気にはさすがになれなかった。
 ゴリラ男とかどう見てもガラ悪いし。

 そそくさと建物から離れ、辺りを見回す。

 ……やっぱり誰もいない。
 だけどここが高台らしいということはすぐにわかった。麓に街があったから。
 とにかく、ずっとここにいるわけにはいかない。こっちの方には人は来ないみたいだし、
いつさっきのゴリラ一味に見付かるとも限らないし。

 そう考え、私は坂を下りていく。


???「オイ!」

 15分ほどかけて街にたどり着いた時、突然大声が聞こえてきた。
 急いで声のした方へと走る。ああもう、この槍邪魔くさいなあ!

 いた。街の入り口近くだった。
 ……頭が玉ねぎなチビ剣士。あぁ、そのまんまたまねぎ剣士なのかな。ってことはこれ
FFの世界だったり?
 と、そのチビたまねぎともう1人。彼(?)に背を向けているいかにも旅人な誰か。

チビたま「名前くらい名乗れよ!」

 やっぱりさっきのもチビたまねぎの声だったんだ。
 ……ここまで来ておいてなんだけど、ちょっと関わり合いにならない方がいいかも――

 あれ?

 チビたまねぎを無視して建物に入っていくその人の横顔に見覚えがあった。
 あのクールな顔、メロン色のショートカット……。

こなた「みなみちゃん、だよね」

 他人の空似にしてはクリソツすぎる。
 いやでもこういうシチュだと見た目が同じでも中身は別人みたいな感じなのかも?
 けど何がどうなっているのかもわからない状況でもあるんだからやっぱり別人だとして
も話しておかないとダメ……だよね?

チビたま「チッ……気分悪ィなぁ」

 なんてぶちぶちと文句を吐いているチビたまねぎをスルー、私はみなみちゃん(仮)を
追いかけて建物――酒場らしい。情報収集といえばここが基本だよね――のドアを開けた。

 みなみちゃん(仮)はもちろんいた。蝶の触覚とか羽とかを付けてる……コスプレ少女?
と話していた。

みなみ「……本当に見てませんか? 白いドレスの女の子を……」
???「……」

 声も話し方もみなみちゃんそっくり。いや、ここまで来ると本物だよね?
 女の子は答えない。と言うより、みなみちゃんに圧倒されているように見える。
 うん、傍からは女の子が襲わ……いや責められてるようにしか。
 ひよりんがいたら「ネタキター!!」とかはしゃぐんだろうなあとか思いつつ。

こなた「みなみちゃん」
みなみ「……泉先輩!」

 鷹(ゆーちゃん談)の目から解放されて女の子は心底ホッとしているようだった。
 そりゃあ……うん。

こなた「目、目怖いよみなみちゃん……何があったの」

 なんかもう蛙の気分だよ……蛇じゃなくて鷹だけどさ。

みなみ「ゆたかと……はぐれてしまって」
こなた「え? ゆーちゃんもいるの!?」
みなみ「3時間……くらい前までは一緒に」
こなた「それでそこの子に色々聞いてたんだ」

 こくりと頷く。
 そっか、ゆーちゃんも。……ってことはつかさやかがみ、みゆきさんもどこかにいたり
するんだろうか。

こなた「じゃあ探さないと」
みなみ「はい……ずっと探してるんですが、この街にはいないのかも……」

 っていうことは街の外?

女の子「あの……」

 女の子がおずおずと近寄ってくる。
 差し出された手には青緑色で楕円形な石が乗せられていた。

こなた「何? これ」
女の子「手がかりに……なればと思って……」

 みなみちゃんがそれを受け取る。
 うーん……手がかりって言ってもこれだけじゃ――

みなみ「あ……」
こなた「ん? どしたの?」
みなみ「あの、これをどこで……」
女の子「ヒスイの卵……メキブっていう洞窟でお父さんが拾ってきたんです……」

 ありがとうと女の子にお礼を言って、みなみちゃんはその卵を見つめたまま酒場を出よ
うとする。
 なんか置いてきぼりだよ私。

こなた「みなみちゃん、どうしたの?」
みなみ「この石から伝わってくる気がするんです……ゆたかが洞窟にいるって」

 おお……愛の力ってヤツデスカ?
 言いかけたけど……やめとこう。なんか茶化すような空気でもないし。

みなみ「行きましょう、泉先輩……」
こなた「う、うん」

 歩く速度がだんだん速くなって……あ、走り出したっておーい!?
 こっち槍が邪魔で走りにくいんだからあんまりスピード出さないでよー!

 

 

- まいごのプリンセス -


 メキブの洞窟は街から程近い場所にあった。
 いかにもRPGの基本的な洞窟でーすみたいな入り口。
 いや、それでもゆーちゃんがはぐれてここに入ってくなんていまいち考えられないけど。

こなた「ここにいるの?」
みなみ「はい、多分……」
こなた「じゃあ……入ってみるしかないよねこれ。あ、そういえば」
みなみ「……?」
こなた「コレについてツッコミがないけど、もしかしてみなみちゃんも何か持ってたり?」

 槍のことだ。みなみちゃんは別段驚きもしていなかったから。

みなみ「私も……これを」

 そう言って腰を指す。
 おぉ、見事なまでに剣の柄と鞘……。

こなた「なる……でもみなみちゃん、剣なんて使ったことあるの?」
みなみ「いえ、全然……泉先輩は?」
こなた「いやぁ実は私も槍は。格闘技ならそこそこ自信あるんだけどねぇ」

 でもこの世界がガチガチの剣と魔法のファンタジーだったら素手じゃ色々とヤバい魔物
とかも出てきそうなわけで。
 その分には槍って結構ナイスチョイスなんじゃないかな? リーチ長いし。使い方いま
いちわかんないけど。
 まあなんとかなるでしょ。そう締めて私たちはメキブの洞窟に足を踏み入れた。

こなた「おー、中もこれまたいかにもな鍾乳洞だねぇ」

 まさにRPGの王道、序盤の洞窟といえばコレ! な雰囲気。
 光を反射する石がたくさんあるのか、明るさも充分。

こなた「松明が必要なんて言われたら立ち往生してたトコだったよ……」
みなみ「すみません……冷静でいられなくて……」
こなた「ん? いいよいいよ結果オーライだよ。……お」

 早速の分かれ道。うーん……最初の洞窟なのに。

こなた「二手に分かれ……るのは危ないのかな。武器なんか持ってるわけだし」
みなみ「……かもしれませんね」
こなた「どっち行けばいいとかはさすがにわかんない、よね」
みなみ「……すみません」
こなた「んー、気にしないでいいって。右行ってみよ右」

 適当に道を選び、ずんずんと進んでいく。
 洞窟の中は本当に静かで、モンスターが出てくるわけでもない。
 つまらないな――なんてことも正直、少しだけ思ってたり。

こなた「だいぶ奥まで来たっぽいよねぇ」
みなみ「はい……道、間違えたんでしょうか……」
こなた「まぁ結構適当だったし。最終的には全部探索し尽くす勢いで――」

 言いかけた時、地響きが起こった。

???「きゃああああああ!!」

 立っていられない程の揺れの中、奥から悲鳴が聞こえてくる!

みなみ「この声……!」
こなた「ゆーちゃんだ!」

 揺れが収まるのを待って、私たちはすぐに駆け出した。

 その先は広大な大空洞だった。
 なんかボスっぽい敵が出てきそうだなぁ……なんて考えながらゆーちゃんを探す。

こなた「ゆーちゃん! どこ!?」
みなみ「ゆたか! ゆたかっ!」
ゆたか「来ちゃダメぇ!!」
こなた「へ? なんで――」

 悲鳴って「助けて」のサインじゃないの?
 そんな疑問を抱いた瞬間、再び地面が揺れる……!

こなた「み……みなみちゃん! 左に避けて!」

 こっちに転がってきた「何か」を間一髪で避ける!
 それは壁で跳ね返り、また前方に戻っていく……。

こなた「大丈夫!?」
みなみ「は、はい……!」

 みなみちゃんもなんとか避けたようで安心したのもつかの間、大空洞の奥から大きな足
音が聞こえてくる。
 暗がりから現れたのは――

こなた「……まじですか」

 紫の体毛に覆われた巨大な体躯。その右手には何かの動物の頭蓋骨で出来たハンマーの
ようなものの柄が握られている。
 多分、さっき飛んできたのはアレなんだろうなぁ。
 で。その巨大ゴリラ? は私たちに対して思いっきり敵意むき出しみたいで……。
 雄叫びを上げてこっちに突進してくる!

こなた「来るよ、みなみちゃん!」

 バッt……いやハンマーを大きく振りかぶるのを見て、私たちはバラバラの方向に走る!
 うん、動きが割とトロいから冗談考える余裕もそれなりにあったりして。
 背後で地面にぐしゃりと穴が開く。
 デカい、強い、遅い! 序盤のボスの王道だねまったく!
 そのまま私はソイツの足元まで走り、跳ぶ! ご都合主義なのか何なのか知らないけど
現実よりも運動能力はアップしてるっぽい!

こなた「とおっ!」

 その勢いで槍の穂をヤツの太ももに突き立てた瞬間、叫び声が轟いた!
 よしよし、それなりにダメージは通るっぽいね。まあ巨大って言ってもせいぜい私たち
の身長の4倍くらいだしね。
 ヤツの体を踏み台にジャンプし、槍を引き抜きつつ着地。おぉー、私超かっこいいかも!
 血が出てないけどこれは小さい子にも配慮した結果だねきっと。CEROのA指定ってやつ!

 みなみちゃんを見ると今まさに剣を抜いて構えたところだった。
 ……生き物を傷つけることに抵抗持ってそうだけど大丈夫なのかな、なんて心配も杞憂
に終わるらしい。
 素早く近付き、もう片方の足を斬りつける!
 ゆーちゃんに危害を加えるやつは許しません的な感じなんだろうか?

 ともかく、両足を攻撃されて巨大ゴリラが今度こそ怒り狂う。
 渾身の力を込めてハンマーを放り投げた……放り投げた?

 疑問の答えはすぐに出た。
 ドゴォンという豪快な音と共に洞窟が揺れ、天井から――

こなた「うぇ……うっそおおおお!?」

 つららのような尖った岩が大量に落ちてくる!
 右、前、後ろ――あぶなっ、真上!?
 咄嗟に岩陰に隠れ、収まるのを待つ。2人とも無事でいて!

 やがて落石が鎮まる。
 岩陰を出て最初に目に入ったのは、自らも今のでボロボロになった巨大ゴリラの姿。
 こっちを見てる……こっちみんな!
 っていつの間にか手元に戻ってきてたハンマーをゆっくりと横に振りかぶる……やばい、
逃げ場なし!?
 私めがけて勢いよくそれを振り下ろす、うわやばいやばいやばいってええええ!

 目をぐっと閉じて体をちぢこませ衝撃に備える――

 ……あれ?
 何も、起きない。
 恐る恐る目を開けてみれば……ハンマーが私に当たる直前で手が止まっていた。

みなみ「逃げてください!」

 どこからか聞こえた声に従い、地面に刺さった岩を避けながら距離を取る。
 ややあって、ヤツがゆっくりと前のめりに……私がさっきまで立っていた場所を巻き込
んで倒れ伏した。
 肩で息をしながら、みなみちゃんがヤツの首に剣を突き立てていた。

みなみ「はあっ……はあっ……先輩、大丈夫ですか……」
こなた「なんとか……みなみちゃんは?」
みなみ「私も……なんとか」

 剣を引き抜き、地面に降りてこっちへ歩いてくる。その顔は蒼白だった。

こなた「ちょっ、ホントに大丈夫?」
みなみ「……生き物を、殺すのが……精神的に……」

 ……やっぱり吹っ切れたわけじゃなかったんだ。
 でも――

こなた「でもみなみちゃんのお陰で助かったよ。あのままだったら今頃……」

 あの後を想像すると背筋が薄ら寒くなる。

こなた「ありがと、みなみちゃん」

 みなみちゃんはふっと微笑み、頷いてくれた。
 うん、正真正銘命の恩人ってヤツだよ。

こなた「そうだ、ゆーちゃんは?」
みなみ「……ゆたか! もう安全だから――」

 出てきて、とか言いかけたんだと思う。
 だけどその言葉は胸の石の光で遮られた。
 青い宝石が青い光を放って……少し離れた物陰で共鳴するように白い光が放たれる。

ゆたか「……みなみちゃん?」

 そこから出てきたのは紛れもない、私の従妹!
 見た感じ怪我をしてるわけでもない。良かった……。

みなみ「良かった、無事で……」
ゆたか「みなみちゃん……お姉ちゃん!」

 石につまづきそうになりながらも駆け寄り、みなみちゃんの胸に飛び込む。

ゆたか「怖かったよ……」

 みなみちゃんが言ってた通り、ゆーちゃんは白いドレス……というかローブ姿だった。
 そして何より目立つのが胸に飾られた丸い石。さながら大きな真珠だ。

こなた「2人とも、その石は?」

 呼びかけたら石が光って居場所を知らせるなんて、まるで探知機だ。

ゆたか「わからない……体に半分埋め込まれてるみたいなの」
みなみ「私も……」
こなた「そう……なんだ」

 つまり、体の一部?
 私はそんな石があるわけでもないフツーの人間っぽいんだけどなぁ。

こなた「とにかく、ここ出て街に戻ろうよ」

 ちょっとヤバかったけど、とりあえず一件落着。
 私たちは3人並んで歩き出す。

 ……さっきみたいな死闘は今後二度としたくないな、とか思いつつ。


   - まいごのプリンセス - おわり

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