「ぬいぐるみ」ID:hzXtM4E0氏

ー最初のぬいぐるみー
 ゆいとゆたかは、久方ぶりに二人きりで遊びに出ていた。
とあるゲームセンター。
ゆたかは物欲しそうに、UFOキャッチャーに並ぶ、ぬいぐるみ達を見ている。
「ん~?ちょっと待っててね~。こう見えても、こういうの、得意なんだから~」
と、ゆいは投入口に100円玉を投入すると、絶妙な手捌きでアームを操作し、
ゆたかの期待の目に答えるべく、熊のぬいぐるみの上でそれを停止させた。
降下ボタンを合図に、下へ下へとアームが伸び、そして2つの爪は、
確かにぬいぐるみを捕えた。朧気な軌道で元あった位置へと上昇し、カチッとそこに
固定される。ぐらつきながらも、それでもアームはぬいぐるみを掴み込んでいた。
「うわぁ!やったね!お姉ちゃん!」
はしゃぐゆたかを愛しく思い、えっへん!とゆいはVサインを送る。
が、その直後、ゆたかは悲鳴にも似た声を漏らした。
ぬいぐるみは落下口に落ちる事なく、直前で落ちてしまったのだ。
「たは~、…しょうがない…再チャレンジだ!」
配置的に1度じゃ無理と判断し、ゆいは1回分お得な500円玉を投入する。
「大丈夫かな…」
数度辺りのぬいぐるみをどかし、4度目でようやく因縁の的を掴むと、
今度は途中で落とすことなく、足許の取りだし口へとぬいぐるみはやってきた。
「へっへ~♪いっちょあっがり~♪…あと2回か…
 あ、ゆたか、今度はゆたかやってみなよ。案外取れちゃったりして」
「私?う~ん…難しそうだけど、…それじゃぁやってみる!」
残り分はゆたかに委ねられたが、結局ゆたかは取れずに終わってしまった。
「こりゃぁ動かしてもらわないと難しいかもね…じゃ、はい。ゆたか、700円ね」
「え…あ…うん。ちょっと待ってね…えと、あ、細かいのないや。じゃ、1000円で」
「もぉ、嘘だって。ゆたかからお金取るわけないじゃん。
 はい、ゆたかにプレゼントだよ」
「お姉ちゃん…ありがとう♪」
ゆたかはぬいぐるみをむぎゅ~っと抱き締めると、もぉ、っと、
ゆいはそんな妹の頭を撫でてやるのだった。

 帰って早々、ゆたかは早速ベッドにぬいぐるみを飾ってみた。
「可愛い♪えへへへ~」
それから数時間後、ゆたかは数多のぬいぐるみ達に見守られて、
静かに眠りにつくのだった。
 真夜中、ゆたかは妙な気配に目を覚ました。耳元で何か聞こえる。
それは人の息の様で、まるですぐ近くに誰かがいる様な、そんな異様な雰囲気に
ゆたかは身を蹲らせた。
(…誰か…いるの?)
低い男の様な息遣い、そうゆたかは感じた。
(…おじ…さん?)
ゆたかは薄目を開けて、辺りを伺ってみる事にした。 
恐る恐る目を開くと、広がる闇に、ぼやけた光が見えてくる。
それはオレンジ色の小さな電球と、奥に佇む天井だった。
 途端、それらを遮る様に、血走った2つの目と、卑しく吊り上がった唇が
飛込んできた。異物は闇の中、じっとゆたかを見つめていた。
「いやぁぁぁーーー!!」
ゆたかの悲鳴を聞いて、数秒の後、そうじろうが部屋にやって来た。
「どうした!?ゆーちゃん。」
「どったの?ゆーちゃん…」
どてらを着たこなたもやって来た。そうじろうが灯りを付けると
ゆたかは、布団に潜り込んで脅えていた。
「顔が!顔が!」
「顔?」
その姿を見て、そうじろうはははぁん、と、合点した。
「ゆーちゃん、恐い夢でも見たんだろ?」
「顔って、窓に顔が見えたとか?どっかの恐い話みたいに?」
閉じられたカーテンを見て、こなたは言う。
人事だと笑い話の様に茶化す2人に、ゆたかは、
「違うもん!」
と、布団の中で抗議した。
「ゆーちゃん、何でもないから、ほら、顔出して、ね?」
「あぁ、恐い物、夢ってのは心理的なもんに、影響されるからな。
 何もないと知れば、何て事はない」
「でもぉ…」
ゆたかはべそをかいて、応じようとしない。
「ほぉら!」
と、こなたはゆたかの布団をひっぺがした。
「ゆーちゃ…うわぁぁぁ!!??」
こなたとそうじろうは同時に悲鳴を上げた。
ゆたかの目と口は、真っ赤に染まっていたのだ。
2つの眼窩に眼球はなく、唇もえぐり取られたかの様に、
顔から消えていた。
「ひっく…か、顔が…う、浮かんでたの…恐いよぉ…
 ほらぁ!まだ浮かんでるよぉ!」
真っ赤な歯茎を剥き出して、ゆたかは悲鳴を上げていた。血が布団を染めていく。

口許を赤くして、何かを咀嚼しているぬいぐるみの存在を、2人はまだ知らない。
人間じみた目をぎらつかせ、そいつは生暖かい舌で、口許の血を舐め拭った。
そいつ等は、次なる獲物を見据えるのだった。
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ー次のぬいぐるみー
かがみとつかさは勉強がてら、つかさの部屋で談笑していた。
「あれ?つかさ、あれ、また買ったの?」
かがみはつかさのベッドに視線を移す。
「どれ?」
よっと、かがみは見慣れぬ熊のぬいぐるみを手に取った。
「こら、このぬいぐるみよ。昨日見た時にはなかったわよね?」
えへへ、と、つかさは頬を掻いた。
「うん。忘れ物取り行ったついでに、ゲームセンターで取ってきたの。
 すっごく可愛いじゃない?」
宿題忘れちゃった!と、学校戻ったと思ったらコレか…
家に帰るの、随分遅かったと思ったら、コレか、とかがみは思いつつ
「ふぅん」
特にそういった物に興味がないわけではないわけで、かがみは
適当な生返事をつかさに返してやった。

「1000円はさすがに使いすぎたかも。…でも」
可愛いからいっか、と、ぬいぐるみを枕元に置いて、つかさは床に着く。 
PM9:00、良い子過ぎる就寝時間だった。
奇妙な感触につかさは意識を覚まさせた。
それと同時に、0:00の知らせが1階から響いてくる。
真夜中に響くこの音が、つかさは大の苦手だった。多感なつかさにとって
その音は、恐怖心を刺激する以外の、何物でもなかったのである。
ボ~ン…ボ~ン…
音に合わせるかの様に、耳に生暖かい、吹き付けられる様な感触が伝わってきた。
感触に合わせて聞こえるのは、獣が涎を垂らしながら漏らす息、
それに似た不快な音。
(何コレ!?)
息が耳に当てられている!?そしてこの時、つかさは実感した。
(金縛り!?)
目は開けられないし、身体も動かせない。でも感触だけは確かにある。
荒々しい息遣いで、つかさの耳に息が吐き散らかされている。
『…つかさちゃん…可愛い…ハァハァ…ハァ…ハァ…』
若いのか若くないのかわからない、気色の悪い男の声、
口も開かないから悲鳴も上げられない。何もできない。
ただ、その男の声は延々と、
『…つかさちゃん萌え~…つかさたんハァハァ…』
等と耳元で囁き続けている。
『…つかさちゃん…耳、舐めるよ?良いよね?』
返事などできる筈もなく、つかさの身は男に委ねられてしまった。
(ひぃぃぃぃ!気持ち悪い!気持ち悪いよぉー!)
つかさの耳に、生暖かくねばついた感触と、ぴちゃぴちゃという
水音が聞こえてきた。
耳の裏、中、耳たぶ、耳という耳全てに、その感触が纏わりついてくる。
(やだやだ!止めてよぉー!)
数秒、数分、数時間、時間など解らない。どれ程忌まわしい舐りに堪えたのか
男の舌が突然離れると、
『…御馳走様、つかさちゃん♪』
それだけ聞こえ、悲鳴と共につかさはようやく目を開くことができた。

外からは鳥の声が聞こえる。
時計はAM6:30を差していた。
「夢?…何だったんだろ…気持ち悪…ひぃ!?」
何気なしに耳に触れてみると、そこはしっとりと濡れていた。
「な、何で!?何で!?」

『…おはよう…つかさちゃん…』

どこからか声が聞こえてきた。粘り気のある不愉快な声、
それは、夢で聞いた例の声に、違いなかった。
「やぁぁぁ!!」
つかさは布団に潜り込む、するともう1つ、同じく布団に潜り込むモノがあった。
それが次第につかさの眼前に姿を現す。
『…ばぁ♪』
白くて可愛い、昨日つかさが取ってきた、ぬいぐるみだった。
『…昨日の続き…しよ?』
ぬいぐるみは痙攣するかね様に身体をびくんびくんとびくつかせる。
つかさはベッドから転がり落ちて、尻で壁まで移動すると、
恐怖にすくんでこれ以上動けず、腕で顔を覆ってしまった。
「ひぃぃぃぃ!!!」
つかさの尻元に黄色い染みが広がっていく。
『…つかさちゃん…くんくん…臭うよ?…くんくん…くんくん…』
掛け布団にくるまれ、そいつも転がり落ちてきた。ずるずると這うようにして
布団からそいつの手が現れる。が、そこにあったのは、ファーのついた可愛い
ぬいぐるみの手ではなかった。
もぞもぞ蠢きながらソレが立ち上がる。ぬいぐるみの破片、ファーや綿屑、
布の切端、ボタン、それ等を身体中に纏ってつかさの前に現れ出たのは、
ぬいぐるみに在らざるモノ、かつてぬいぐるみだったモノ、ぬいぐるみの中の人。
そう、紛れもない、俺だったのである。
つかさちゃんは俺を見て脅え、更に涙も流している。
身長30cmもなかったぬいぐるみが、今や160cmまでに巨大化、今の俺は、
既に熊なんかじゃない。小太りで油ぎっしゅな、ただただ肥えるだけの、肉の塊。
俺はつかさちゃんににじり寄る。ぼたぼたと脂汗を滴らせながら、荒く臭い息を
吐き散らしながら。俺の、俺の望む永遠を求めて…。
『…つかさちゃん♪…はちはにぃ~♪』
俺の舌が、ぴっとりとつかさちゃんの頬に貼り付いた。

つかさちゃんの悲鳴が目覚ましと共に朝の鷹宮に響き渡る。良い朝だ。
「…嫌な夢…見た…」
俺の名はナイトメアベアー(あくむ→あくむぁ→あ、くま)。
白い身体に宿すは、陰鬱極まりない、黒い闇。
つかさちゃんを愛して止まない、闇の使者。
今日も素敵な悪夢を見せる為、俺はこの位置で夜を待つ。
おはよう、俺だけのAngel、俺だけのつかさちゃん。
つかさちゃん、俺の事じっと見つめて…
「…このぬいぐるみのせいだ…お祓いしなくちゃ!」
え…
今日が俺の命日になる事を、俺はまだ、知らない…
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ー最後のぬいぐるみー
「うち、こんなんも持ってたんやね…」
部屋を掃除する最中、ななこは段ボールに入れられた、それを見付けた。
押し入れにひっそり仕舞われたそれは、ななこがこの街に来てから、
1度も見る事のなかった、思い出の品だった。
ななこは薄汚れたくまのぬいぐるみを手にとり、見つめる。
あの頃、今の教え子達と同様、青春を謳歌していた頃の、淡い思い出。
「あいつら、今、何やっとるんやろ…そいや結婚したヤツもおったな…」
制服に身を包んでいた少女時代、共に過ごした友達、うちもあいつらと
変わらんやん、と、ななこは今とのギャップに含み笑いを漏らすのだった。

 掃除を終え、折角やし、と、ななこはそのぬいぐるみを飾ってみる事にした。
「そいや、これ、どしたんやっけ?買った記憶はないし…」
あの頃の記憶を掘り返してみると、ななこはデパートのゲームコーナーにいた。
友達数人と、帰宅がてら遊びに寄っていた様だった。
「あーそやそや、あそこでうち、取ろうとおもて」
何度挑戦するも、結果は惨敗。その姿をみるや、友人一同笑いあかすのだった。
「あれ?…取ったのうちやなかったん?」
そこからの記憶がすっかり消えていた。
「ん~?あそこやなかったんかな…」
他に思い出そうとしても、他にコレを見た記憶そのものがなくなっていた。

 酒を飲みつつ明日の準備に勤むななこは、妙な違和感を感じていた。
『黒井ちゃん、これ』
『黒井ちゃん、欲しいって言ってたよね。だから、これ』
『そ、その、黒井ちゃんの為に、頑張って…取ったの…』
頭の中に懐かしい声が響いてくる。
答案用紙に付けた赤い丸に、ななこは吐気をもよおした。
「…そや…そやった、うちのこと好いていてくれた子にもろたんやった…」
その状況がまじまじと浮かんでくる。
 放課後の教室、何気なしに受け取った綺麗に包装されたぬいぐるみ。
その時ななこは、それがどういう意味なのか、気付いていなかった。親友からの
プレゼント、それだけにしか思えず、ななこは、喜々とそれを受け取ったのだった。
本当の意味を知ったのは、それから暫く経っての事だった。
放課後、突然の告白、親友との一線を越えたい、親友からの切な願いを、
ななこは受け入れることができなかった。ななこの親友だったその娘は、その日の、
帰宅際、ななこの目の前で、飛込み自殺を図ったのだった。
 洗面場に駆け込むや、ななこは胃の中の物を吐き出した。
今にも泣きそうなその娘の顔、飛び散る血肉、赤々とした光景、
封印していた物が、箍が外れたように溢れ出てきた。
「…あの娘…」
『私の想いを込めたの…』
白いぬいぐるみは、腹の辺りだけ虫にやられたように、
点々と茶色い染みをつけていた。
『私の想いを込めたの…』
どくどくと胸が高鳴り、部屋に戻ったななこは、再び洗面台に突っ伏した。

「…なんやねん…なんやねん…これ…」
これ以上ぬいぐるみを置く事は、ななこにははできなかった。冷汗を垂らしながら
ななこはぬいぐるみに触れると、それは僅かな湿りをおびていた。
触れた途端、小さな染みがぬいぐるみ全体に広がっていく。茶色ではなく、それは
真っ赤な染みだった。血の様な赤が、じわじわとファーを染め上げていく。
「うわぁー!?」
ななこはそれを放り投げた。床に叩き付けられ、ぬいぐるみは悲鳴を上げた。
ななこを一途に想っていた、少女の声色で。
床に落とされた衝撃で、ぬいぐるみの腹が破裂した。弾けた腹から飛び出したのは、
あるべき筈の綿ではなかった。人や動物と何ら変わらない、ぬらぬらと醜く照る
臓物だったのである。
轢死した犬猫よろしく、ぬいぐるみは腹の物をぶちまけて転がっていた。
ななこは悲鳴を上げた。
『黒井ちゃん…大好き…』
ぬいぐるみはゆったり起き上がると、止め処なく溢れる血と、
脈打つはらわたを引き摺って、ななこに歩み寄って行く。
『黒井ちゃん…大好き…』
「いやぁぁぁー!!!」
ななこは人前に出られる姿でない事などすっかり忘れて、外へ飛び出した。

『…会いたかったわ、黒井ちゃん』
顔の潰れた少女が、肉の塊でしかないその顔をもごもごと蠢めかして、
ななこの部屋の前に立っていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
けたたましい悲鳴が、夜の街にこだまする。

息を荒げてななこは目を覚ました。
「なんちゅー夢や…」
おぞましい夢、有り得ない世界、疲れてるんやろか…そう思ってベッドから
半身を起こした途端、ななこは血の引くのを感じた。
自分の横に、自分とは別の何かがあった。
恐る恐る視線を向けると、それは、肉や臓物を剥き出し、骨すらも露出して蹲る
件の少女だったのである。
少女はななこの視線を感じ、飛び出した目玉を向けて、口かどうかもわからない
崩れた肉を蠢めかし
『黒井ちゃん、おはよ』
にっこり微笑んだ。
朝日を浴びて、床で転がるぬいぐるみの臓物が、艶めかしく照り輝いていた。
「なんでやねーーーーーーーん!!!」
ななこの元気な悲鳴がこだまがする。
今日も平和な1日が始まろうとしていた。

『ぬいぐるみ遊び、楽しいね』
ぼろきれの様な少女は、息も絶え絶えのななこを弄ぶ。
鋏で切り裂いた腹に教科書を詰め込んだり、余ったビールを流し込んだり
小さな子供の様に無邪気にななこを弄ぶ。
『私だけのぬいぐるみ♪』
血みどろのベッドの上でななこは、人から少女だけの、ぬいぐるみに変じていた。
『私が黒井ちゃんに入ったら、黒井ちゃんは着ぐるみだね♪』
恐らくてへっと笑った少女は、ななこの腹に頭を突っ込んだ。
脈打つはらわたの感触に、少女は恍惚の笑みを浮かべる。
ななこは朦朧とする意思の中、ぽつりと呟いた。
「ええ加減にせぇ…まえだ…」 
『…誰それ?』

 少女は遊びに飽きると、乱雑に切られたななこの腹を、切ったとき同様
乱雑に縫いあわせていく。様々な物を詰め込まれ
ななこはもう、悲鳴を上げる事はなった。
『ばいばい…えと、誰だっけ?』
陰惨な顔から元の可愛いらしい顔に戻し、少女?は、
熊のぬいぐるみを胸に抱いて、部屋を後にする。
髪の青い、小柄な少女?は、次の獲物を求め、街をさ迷う。
もし少女?にかどわかされたら、試しにこう言ってみよう。
「オタキアゲ」
きっと効果があるはずだ!
ーーーーーーーーーーーー (ぬいぐるみ~完。オタキアゲマジカンベン)
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