「入レ替ワリ」 ID:u2ryiMA0氏


「あんるぇー?」
 物語の初めから、こんな素っ頓狂な声を上げるのは、今回この物語の主人公である、女子高生『泉こなた』の物だ。どうして彼女がこんな声を出しているのかと言うと……、話しは一週間前に遡る。



 時は江戸……っていうのは冗談で、今は長い梅雨が明け、太陽が某配管工のおじさんが大好きなキノコでも食べたかのように大きくなる夏である。
 照り付ける太陽、じりじりとうるさい蝉の鳴き声、アスファルトによる地熱……想像するだけでも暑い季節だ。
 この凄まじき暑さの中でも学校に通い、大嫌いな勉強をしなければならないこの理不尽さは何とかならないものなのか? 等と考えるのも今日で終だ。何故なら明日からは皆さんもご存知、夏休みだからだ。

「とゆーわけで、明日から夏休みや。休みやからって遊んでばっかはダメやからな」
 担任の黒井ななこによる一学期最後のホームルームが終わり、今は放課後。さっきまでだらけていた生徒たちが水を得た魚の如く、急に賑やかになる。そしてその中には泉こなたの姿もある。
「やったー! 明日からなっつやっすみー♪」
「子供かお前は」
「ふーん、かがみだって子供じゃないの? それとも、もうおばさんなのかな?」
「なんだとこの野郎」
 放課後になり、こなたの元へやってきた柊かがみ。こなたとのこのやり取りは日常茶飯事であり、仲が良い証拠でもある。
「うにょ~ん、高校最後の夏休みだし皆でどっか行きたいね」
「そうですね、高校生最後夏休みというのは良い思い出を作る調度良い機会ですものね」
 この二人は上からつかさとみゆき。二人もこなたの友達である。この四人はいつも一緒の仲良しグループだ。
「ふふふー、もちろんその辺に抜かりはないよ~」
 こなたがその言葉を待ってましたと言わんばかりに、ニヤニヤと鞄を漁る。
「なによ、アンタ何か用意してるの?」
「これを見よ!!」
 ジャーン、という効果音が相応しいくらいに、自慢げに何かの紙切れを見せびらかすこなた。
「何それ? おいしいの?」
「つかさ、それ本気で言ってるの?」
「なんだぁ、やっさいもっさいか」
「話し進めて良い……?」
 すっかり勢いを無くしてしまったが、コホンと咳ばらいをして話を進める。
「この前、買い物言ったときに福引でさ~、当てちゃったんだよ☆」
「で? それは何のチケットな訳?」
「なんと、四人一組! ハクタイ旅館ご招待チケットだー!」
 手を万歳して大袈裟に振る舞うその姿は、かがみの言う通り子供の様に見えた。
「へぇー、凄いじゃない。アンタもたまには良いことするじゃない?」
「“たまには”は余計だよ」
「旅館ってどんな所だろ~?」
「旅館とは、宿泊料を受けて人を宿泊させるための、和式の構造及び設備を主とする宿泊施設のこと言います。営業については旅館業法に規定されているんですよ。旅館の種類には、」
「ゆきちゃん……誰もそんなこと聞いてないよ……」
「そうですか? おかしいですね……」
 旅行に行けるということから、それぞれのテンションが上がる。これもこなたのお陰である。
「それで、いつ行くの?」
「一週間後にしようよ、それまでは準備期間ってことで」
「準備も良いけど宿題もね」
「うっ……分かってるよ」
「でも楽しみ~♪ こなちゃんありがとー」
「えぇ、ホントに。泉さんには頭が上がりません」
「いやいや大袈裟だってみゆきさん」
 こうして、夏休みの予定の一つを立てた四人は、一週間後の旅行を楽しみにするのであった。

 そして一週間後。話しは冒頭に戻る……。以上であらすじ終了、ここからは主人公こなたの視線でお送りさせて頂く。



「あんるぇー?」
 私達はハクタイ旅館に向かっている途中なんだけど、旅館は森の中にあるらしくさっきから地図を広げて何度も見て何度も同じ道を歩いてるわけで……。
「ちょっと、まさか迷ったなんて言うんじゃないでしょうね?」
「あ、いや、ちょっと待ってて!」
 まずい、かがみがイライラしている。私だって混乱してるんだよー! 大体なんでこんなに迷うところにあるんだよ……!
「もう暗くなって来たよぅ」
「そうですね、早く宿を見つけないと……」
 うぅ、二人の言葉にどこか刺があるような……。まずい、このままだと私の信用がた落ちじゃん。
 そうじゃなくても、高校生最後の夏休み旅行なのに……最悪だ私。
「ちゃんと調べてきたの? ホントにこの森の中にあるんでしょうね?」
「そ、それが……ネットには載ってなくて……」
「どんだけ古いんだその旅館」
「あはは……」
 もう笑ってごまかすしかなかった。ダメだ、この空気はダメだ! しっかりしろ私! 提案者の私が暗くなってどうする!? 少しでも明るくして場を盛り上げないと、旅行に来た意味がないよ。

 と、そんな事を考えているときだった。前方に僅かな明かりが見えたのだ。
「あ……」
「あ! あそこに明かりがあるよ!」
 つかさもそれに気付いたのか、真っ先に口に出す。私が言おうとしたのに……。
「お、ホントだ。早く行ってみましょう」
 かがみが駆け出し、皆もそれに着いていく。ちょっ……私を置いていかないでよ!!
 私も慌てて駆け出す。
「おわっ!?」
 何かに引っ掛かり、視界が180度回転する。
「いたた……!?」
 その時、一瞬だけど心臓を掴まれる様な感じたこともない感覚を感じた。
「な、何……?」
 辺りをキョロキョロと見渡すが、何もない。というか暗くて何も見えない。
 気味が悪くなり早くこの場を立ち去ろうと、身体をお越すため手を付くと……ゴトッ、っと何かが手に触れた。
「!!」
 それは初め、ただの丸い岩に見えた。だけど段々と目が暗闇にも慣れて来て見えてきたのは……。
「め、目玉!?」
 反射的に跳び上がる。目玉といっても岩で出来た目玉だけど、あまりにリアルに作られていて不気味だった。
 何でこんな所にこんな物が……?
「あ、早くかがみ達の所へ行かなきゃ!」
 すっかり忘れていた友人達の事を思いだし、急いでこの場を離れた。
 後ろで何か視線を感じたけど、怖かったので振り返らなかった。気のせいだよ気のせい。

 

「あれ?」
 おかしいな、さっき明かりが見えたところに着いたと思ったんだけど……明かりがない。
「あれ……?」
 そして、もっとおかしな事は……。
「かがみ?」
 もっとおかしな事は……先に着いている筈のかがみ達が居ないことだ。
「おーい、かがみぃー! つかさぁー! みゆきさぁーん!」
 返事はない。何度も何度も呼んでも、大きな声で呼んでも返事は無かった。
「嘘でしょ……? 冗談はやめてよ……」
 日が沈みかけた暗い森の中、そこに私一人だけ。携帯電話を取り出すが、当たり前の如く圏外。虫の鳴き声も聞こえてこない無音状態が暫く続いた。
「き、きっと道を間違えたんだよ! ちょっと戻ってみよう」
 と、自分で自分を納得させ、再び歩きだすと……それは聞こえた。

「クスッ」

 私の真後ろで、誰かの笑い声……。
「え?」
 咄嗟に後ろを振り向くが、そこには誰も居なかった。
「空……耳?」
「違うよ」
「!?」
 今度ははっきり聞こえた! 私の真後ろに何か居る!?
「誰っ!?」
 私は再び振り向く、しかしそこにはやはり誰も居なかった……。
「う、うわあぁぁぁぁっ!!」
 私は怖くなり闇雲に走った。
 確かに、確かに聞こえたのに! 何で誰も居ないんだよ!! かがみ、つかさ……みゆきさん! どこにいるの!?

「はぁっ……はぁっ……」
 どうやら追っては来ないみたい。良かった……。
「ここは?」
 目の前には大きな旅館。そして看板にはハクタイの文字が!!
「や、やっと着いた……」
「遅い!!」
「わ、居たの!?」
「居たの? じゃないわよ! まったく、どこほっつき歩いてたんだか……」
「心配したんだよ、こなちゃん」
「でも、無事でなによりです」
「ごめんごめん」
 なんか久しぶりに会った気がするよ……。やっと再会したかがみ達を見て安心して笑みが零れる。
「なにニヤついてんのよ」
「ん~、別に~。さ、早く入ろー」



「はぁ~、苦労して辿り着いた旅館は格別だなぁ~」
「あんたが迷わなければそんな苦労もしなかったんだけどね」
「いやぁ、照れるゼ」
「褒めてねぇよ!」
 私達は今、旅館の部屋にいる。結構広くて四人で調度いいくらいだった。
「あ、テレビあるじゃん」
 この地域ではどんな番組がやってるのかな? 興味を持った私は一人テレビに近づくが……。
「せっかくの旅行にテレビなんて見るんじゃないわよ」
 かがみが私の前に立ち塞がった。
「ちょっとぐらい良い――」
「ダメよ」
 な……、そんな必死に否定しなくても良いじゃん。
「ねぇねぇ、そんなことよりお風呂行こうよ☆」
「良いですね、私楽しみにしてたんですよ」
 二人は早速、お風呂に行く支度をしていた。
 ま、いっか。かがみもこの旅行の事を考えて言ってくれたんだよね。空気を悪くしてごめんね、と心の中で謝っておく。
「ほら、こなた行くわよ」
「ほーい」
 既に部屋の入口にいるつかさとみゆきさんの後を追う。



「へぇー、結構広いわね」
「それに、私達しかいないよ☆」
「やふー、貸し切り状態じゃん」
「一番風呂ですね」

 さっと身体を洗い湯舟に浸かる。はぁー、極楽だね。疲れが一気に吹き飛ぶよ。
「なぁにオッサンみたいなこと言ってんのよ」
「オッサン? ならばこうだぁ!」
「な、どこ触ってんのよ!」
「こなちゃんはいつもお姉ちゃんにべったりだね」
「ほぅ、つかさもやってほしいみたいじゃん?」
「やめんか!」
 って、みゆきさんまで警戒しちゃて……。襲わないから大丈夫だよー。
 あぁ、四人でこうしてるのは楽しい……来て良かったなぁと、つくづく思うね。

「ねぇ、露天風呂に行こうよ」
 私は何気なく皆を誘い、返事も待たずに一人行く。だって返事なんて聞く必要ないもんね。
「待ちなさいよ、こなた」
 ほらね、返事を待つ必要ないでしょ? かがみったら慌ててお風呂から上がっちゃって……露天風呂、一番乗りでもしたいのかな?
「よーし、競争だよかがみ!」
 競争と言っても、既に私の前には露天風呂の入口のドアがあるんだけどね♪ 一番乗りは貰ったよ!
 私はドアノブに手を掛ける。
「待ちなさいって言ってるでしょ?」
「え……?」
 急にかがみの声色が変わって、思わず振り返る。
「かがみ……?」
「……その、露天風呂は今日使えないんだって、さっき旅館の人に聞いたから」
「そ、そうなの? でもドアには何も書いてな――」
「いいから」
 かがみは私の腕を掴み、その場から引き離そうとする。その力は尋常じゃない。
 まただ、さっきのテレビといい、この露天風呂といい……かがみは一体どうしたのかな?
「痛いって! かがみ、さっきから変だよ!」
 かがみから手を振りほどく。掴まれたところを見ると跡が残っていた。
「別に変じゃないわよ」
「だって――」
 いつものかがみならこんな横暴な事はしない! さっきまで普通だったのに……、どうして!?
「露天風呂に何があるのさ!? 何か私に隠してるでしょ!!」
「そろそろ上がりましょ、のぼせちゃうわ」
「そうですね」
「かがみ!!」
 立ち去るかがみの背中に向かって叫ぶ。いいよ、無視するなら自分で確かめるから。
 私が露天風呂に再び行こうと向きを変えると、目の前にはつかさが立っていた。
「こなちゃん」
 つかさは俯いていて表情が解らなかったが、声は妙に落ち着いていた。
「なに?」
「お姉ちゃんの言う通りにしなよ」
「!!」
 つかさは顔を上げ、私が見たこともない凄い形相で私を睨んでいた。
 な、なんだよその顔……。目の前にいるのはホントにつかさ……?
「…………」
 友の突然の変化に恐怖し、暫く声が出せなかった。そしてその沈黙を破ったのは笑顔に戻ったつかさだった。
「さ、行こ? お姉ちゃん達行っちゃったよ」
「う、うん……」
 逆らうことなど、出来なかった。もしここで従わなかったら何をされるか解らない……。
「!!」
 何をされるかって何だよ!? 何でそんなこと思っちゃうんだよ……、さっきまで楽しかったのに……何で……。

 

 脱衣所で着替えながら私は考える。何かがおかしい……。テレビを見せない、露天風呂を隠す、普通ならそんな事しない……する必要がない。そして、つかさの豹変とも言えるあの態度……あんな態度までとって隠す事?
「…………」
 もしかしてドッキリ? いや違うね、ドッキリだったらもうとっくに終わっていい頃だし、言っちゃ悪いけどつかさがあんな演技できるとは思わない。
「あ……」
 おかしくなったのはテレビからじゃない、旅館に着く前にあったじゃないか!
 あの気配だけで見えないな――。
「こなちゃん? 顔色悪いよ、大丈夫?」
「!! つかさ……だ、大丈夫だよ」
「まだ髪が湿ってるよ? ドライヤーの所行こ☆」
 そう言って、つかさはドライヤーがある所へ向かって行った。
 考えるのは後にしよう、皆といるときはもう変な空気を作りたくない。
 そう思った私はつかさの後を追い、ドライヤーがある所へ向かう。

「それが臭くってさぁ~」
「そうなんですか?」
「そうだよ~」
 三人の話しが弾んでるのが分かる。この雰囲気なら中に入れそうだ……って何を怯えてるんだ私は! とにかく、このおかしな事の原因が解るまではいつも通りに接しよう。

 だけど、それはもう無理だ。あれを見てしまったから……。
「ぁ……」
 脱衣所のドライヤーがある所では普通鏡がある。かがみ達はその鏡の前に座ってドライヤーを使っているんだけど……。
「…………」
 居ない。いや、かがみ達は確かに居る。じゃあ何が居ないかって? 正確には居ないんじゃない、鏡に……かがみ達の姿が……


 映 っ て な い !


 背筋が凍り付く。何故? 私は映ってるのに! あれは何なの? 得体の知れない恐怖に、私は後ずさる……が。
「うぁっ」
 何かを踏ん付けてその場に尻餅をついてしまった。そしてその音に気付き、かがみ達が一斉にこちらを振り向く。
「ひ……」
 小さく悲鳴を上げるが、慌てて口を抑える。
 もし怖がってる理由を知られたら……ホントに何をされるか解らない。かがみは……あいつらは誰? 鏡に映らないなんて、普通の人間じゃないよ!!
「何してんのよ、あんた……」
「こなちゃん大丈夫?」
「お怪我はありませんか?」
 なんで皆そんな無表情なのさ……。
「あはは、大丈夫だよ……」
 脱衣所から出よう……今ここにいるのは危険な気がする。
「先に部屋戻ってるね」
「髪乾かさないの?」
「わ、私は自然乾燥なんだよ」
「ふーん、そうだっけ?」
「そうだよ。じゃあ戻ってるから……」
 なるべく怪しまれないよう、その場から逃げた。そして廊下に出ると、全速力で部屋に向かった。
 確かめたいことがある!



 部屋に着くと誰も居ないことを確認して、テレビの前に行く。
 何を隠してたんだろう……、恐る恐るテレビのスイッチを入れる。
 しかし、映ってきたのは砂嵐だった。
「……?」
 思っていたのと違う、もっと凄いものでも出てくると思ったのに。他のチャンネルはどうなんだろ?
 リモコンを手に取り、1chから順番にチャンネルを廻していく。そして、あるチャンネルで手が止まる。

「ヤフー、また私の勝ちだねぃ」
「あそこであれを出していれば……」
「えぇー、また私の負けかよー」
「まだゲームは終わっていませんよ☆」

 ……………………は?

「つかさには悪いけど、私もこれで上がりよ」
「すみません私も」
「うわーん! やっぱり私がビリだー><」

 何……これ……? 何でテレビに……私達が?
「ん?」
「!!」
 テレビの中の私と目が合った。そしてテレビの中の私はニヤリと私を見て笑う。そして言った。
「あーあ、気付いたの? 可哀相に」
「え?」
 気付いた? どういう事? 可哀相って?
「知らなければ楽に死ねたのにね」
「こなた? テレビに向かって何してるの?」
「独り言ー、さ、続き続き☆」
 死ねたのにって……!?
「どういう――!?」
 ブツン、と音を出し、突然テレビが消えた。故障!? こんな時に――
「テレビは楽しかった?」
「!!」
 私の横に、テレビのコンセントを手に持ったかがみが居た。
 い、いつの間に!!
「随分と集中してたみたいだけど、何を見てたの?」
 その時、私の脳裏に先程の言葉が蘇る。
 ――知らなければ楽に死ねたのにね――
「……!」
 ヤバイ……これは、逃げないと…………

   殺される!

「うわぁぁぁ! ……が!」
 叫んだ刹那、かがみに首を掴まれ、そのまま押し倒され首を絞められてしまう。
「あ……ぐぁ……!」
 やっぱりこいつはかがみじゃない……。なんて力だ。息が出来ない……、死んじゃう……!
「私達とこのまま永遠にここで過ごすというのなら、助けてあげても良いけど……どうする?」
「……!」
 その言葉で直感した。ここは別の世界であると! なら答えは決まってる……。
 私は僅かに首を横に振り、嫌だと意思表示をする。
「そう……、もっとじわじわと恐怖を与えてから殺すつもりだったけど……仕方ないわね!」
 かがみの力が、より一層強くなる。
 こいつ、最初から助ける気なんてないじゃんか!! 何か……武器になるような物は!? このままじゃ死んじゃう!!
 必死で手探りをしていると、何か硬いものに触れた。これだ! と思った私は、それを掴み、思い切り偽かがみの顔にぶつける。
「むぁっ!?」
 体制を崩したその隙に、偽かがみを身体から払いのけ、距離を取る。
 私がぶつけた硬い物は、旅館によくある木で出来たティッシュの箱だった。
「はぁ、はぁ……」
「痛い……痛いぃ……」
 箱は目に当たったらしく、偽かがみは目を抑えて苦しんでいた。
 休んでいる暇はない、このチャンスを活かすんだ!
「このガキ……ぶっ殺して――」
 台詞が言い終わる前に、テレビの近くにあった非常用の懐中電灯を持って、私は部屋を飛び出していた。



 私は廊下をひたすら走る。旅館の外を目差して……。
 思えば全てがおかしくなったのはあの時、謎の気配が現れる前にあったじゃないか!
「あの目玉の岩……!」
 そうだよ、あの時の変な感覚!
 私のゲームやアニメの経験からして、きっとあの岩は何かを封印した特別な岩で、ちゃんと決められた場所に置いてあったんだ。それを私が足を引っ掛けて転んだときに定位置からずれ、そして何らかの悪霊が出て来て以下省略!
 とにかく、私が元の世界……さっきテレビで見た世界に戻るには、あの岩が関係しているに違いないんだ!!
「あそこに居て良いのは私なんだ! 勝手に人の場所を取るな!」
 旅館の玄関が見えてきた。このまま一気に――!
「何処へ行くのかな?」
「外はもう暗いですよ?」
 つかさにみゆきさん……やっぱり、簡単には行かせてくれないよね。でもここで止まったら、後ろのかがみと挟み打ちになっちゃう! ならば……。
「今二人に構ってる暇はないよ! どけえぇぇぇっ!!」
 私は走るスピードを上げ、そのまま二人に突っ込む。
 二対一、私の小さい体では勝てないかも知れないけど、今はこれしか思い付かないんだ!
「え……?」
 二人は左右に別れ、道を空けてくれた。
 あれ? てっきり止められると思ったのに……。まぁ、いいや。先を急ごう!

「こなちゃーん! 頑張ってねー! あっははははははは!」
「つさかさん、笑いすぎです。うふふ……、ははははははは!」
 なに? 何がおかしいの? くそっ……。
 不気味に笑う二人を後に、私は旅館を出る。



「な、なんだこれ……」
 旅館の外は夜で真っ暗闇だと思っていたのに……外は明るかった。そして空は血の様に真っ赤で、とてもこの世とは思えない程、薄気味悪かった。
 露天風呂に行かせなかったのはこの事を隠すためだったのか……。
「って、そんなこと今はどーでもいい!」
 早くあの岩の所に行かないと!
 必要なくなった懐中電灯を片手に、私は再び走り出す。どこにあるか解らないけど、道なりに進めばあるはずだよ!


「無駄な事はやめなよ」
「――っ!?」
 突如、背後から聞いたことのある声が聞こえた。この声は……あの時の!!
「無駄じゃないよ……、私の世界に帰るだけっ」
 走りながら喋るのはきついな……。
「へぇ……、もう驚かないんだ?」
 正直怖いよ、こんな得体の知れない奴と会話してるなんて。でも弱音を吐くもんか!
「……あんた、テレビの中に居た……私でしょ!?」
 姿こそ見えないが雰囲気で解る。そしてこいつが、私をこの世界に追いやった黒幕だ!
「そうだよ、だから何?」
「何でこんな事……するんだよっ」
「楽しいから」
「ふざけるなっ! そんな勝手な都合で、私が居た世界を……友を取られてたまるか!!」
 絶対に帰るんだ! 帰ってかがみ達と旅行を楽しむんだ! 夏休みだってまだ終わりじゃない! こんな訳の解らない世界で……死んでたまるか!!

 大きな木を横切った先に、小さな祠の様な物が見えてきた。そして近くには、あの目玉岩も……!
「あ、あった!」
 きっと、あの祠の台座に乗っければOKな筈。というか……こんな歩道に置いとかないでよね……。
「選ばせてあげる」
「へ?」

「今ここで殺されるのと、絶望してから殺されるの……ドッチガイイ?」

 な、なんなの……? さっきまでとは雰囲気がまるで別人の様だ……。
 だけど怖じけず私は答える。
「どっちも嫌だね、私は生きるんだ」
「ソウカイ……クスクスクス……」
 岩を台座に嵌め込むと、またあの感覚に陥った。これで帰れるんだ……なんだか安心したら眠く…………。



「……な…た」
「…………」
 暫く聞いていなかった懐かしい声が聞こえる……。
「こなた! しっかりしてよ、こなた!」
「……ん、かがみ?」
「良かった……無事みたい――」
「かがみぃー!!」
 私はかがみに思い切り抱き着く。戻ってきた、戻ってきたんだ!
「わ、ちょ……どうしたのよ?」
「かがみ……かがみぃ……!」
 恥じらいも忘れて、かがみの胸の中で泣いてしまう。
「よしよし……何があったか知らないけど、もう大丈夫だから」
「うん、うん……!」
「急に消えちゃったからビックリしたわよ。何があったの?」
 急に消えたか……、私が帰って来たからここにいた偽者が消えたってことだよね。説明して信じてくれるかな?
「話せば長くな――」
「ん? どうしたのよ?」


 そんな……、まさか……ありえない……!

「ぁ……」
「こなた? どうしたの」
「か……かがみ、その目……は……?」

「……あぁ、これ?」

 上を見上げると、星空の代わりに真っ赤な空が見えた。


「オ 前 ニ 付 ケ ラ レ タ 傷 ダ ヨ」


 私が最後に見たのは、砕けたあの岩だった。

 

「だから無駄だって言ったのに……クスクスクス」


―――――


「結構楽しかったわね」
「そうだね~、綺麗な旅館だったし☆」
「泉さんにはもっと感謝しないといけませんね」
「さぁ、私を讃えよ!」
「調子に乗るな。ま、この件は宿題を見せるって事でチャラね」
「えぇー、いつもタダで見せてくれるのにー!」
「お、お姉ちゃん! 私は?」
「あんたは自分で頑張りなさい」
「そんなぁー……」
「うふふ」


 いつものメンバーでいつも通りのじゃれ合い、だが彼女達は知らない。一人の少女の魂が……入レ替ワッテイル事ヲ……。


 終

ツールボックス

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