ある時は大手正統派企業の拡大戦略として。
あるいは詐欺達がカモを呼び寄せる手段として。
シロからクロまで、様々な理由で作られる。
────それがポップアップ広告と言うものだ
そこには人間の欲望、あるいは悪意が入り混じっている。
だが、その中に絶対消してはならないポップアップ広告もある。
そのポップアップを消した者は……
◆
深夜二時、泉家。
草木も眠る時刻なのだが、この家で寝ているのは小早川ゆたかだけである。
そうじろうは原稿が煮詰まっているのか居間に閉じこもっている。
後でお茶でも持って行ってあげるべきだろうか?
────カチッ カチッ
いや、今はそれ所では無い。
父親が大事な仕事をしているように、自分もまたなさねばならぬ使命があるのだ。
時計の音とマウスの音。
それ以外の音は一切……
『うるさいわね……だって好きなんだから仕方無いじゃない!』
「ふっふっふ、素直になりましたな」
鳴り響きまくるこなたの部屋なのだった。
パソコンのスピーカーからはヒロインの心情を表すような優しい音色、そして大物声優の迫真の演技が絶えず流れている。
イヤーホンもせずに。
過去にそれで一度、ゆたかに教育上よろしく無い物を見せてしまったのだが、全然反省していないのがこなたの、こなたたる所以だ。
『あなたが好きなの……だから、だから、ずっと一緒に……』
「さーてCG回収と行きますか」
口元はニヘニヘとした笑みを浮かべ、再びクリックを行った瞬間。
『あんたはどうなのよ……────アナタハ、スキデスカ』
「はい?」
ヒロインの声が、突如チープな機会音声へと代わった。
と思うと、画面の中央に妙なポップアップが現れる。
赤い背景に、『あなたは、好きですか?』とだけ書かれ、何処にもリンクはされていない。
「あーもういい所なのにな」
知らない所でスパイウェアに入り込まれたのだろうか?
こなたは頬を膨らませながら×にカーソルを合わせ、クリックを行う。
だがそれは再び現れた。
『アナタハ、スキデスカ』
溜め息をつく。
どうやら消しても再び現れるようだ。
せっかくヒロインを落とせたと言うのに……、興ざめもいい所だ。
「しつこいなー」
カチッ カチッ と複数クリックしたが結果は同じ。
いい加減イヤになって放置しようと思った所────
『アナタハ赤イ部屋ガ好キデスカ?』
ポップアップに隠れていた文字が現れたのだ。
「あれ……?」
いきなり画面が真っ赤に染まり、黒い文字が次々とスクロールされて行く……。
どれもコレも見たこと無い名前ばかりだが、それでも彼女を戦慄させるのには十分。
「何コレ……ヤバイ? いや、絶対ヤバイって!」
赤は危険信号……! 殆ど本能に近いもので、こなたはブラクラだとか業者の宣伝だとか、それ以外の恐怖を全身で感じた。
できるだけ画面を見ないように、パソコンの本体の電源を強く押す。
だが数秒近く待ってもディスプレイから漏れる光は一向に収まらない。
ならばとコンセントを引っこ抜く。
下手をすれば徹夜の努力がパーだが、もはや背に腹は変えられない。
「なんで……なんで……?」
電力がどこからも供給されないパソコン。
それが目の前で起動し、なおもスクロールを続けている。
そして、スクロールが終わった画面に、ある一文が追加された。
────そんな事しても手遅れですよ
ア ナ タ ハ 赤 イ 部 屋 ガ 好 キ デ ス カ ?
突如後ろに気配を感じた。
近づいてくる。
逃げられない。
身体が動かない。
(助けて……助け────)
こなたの意識が途切れた。
◆
「ほ~、それでお父さんと朝まで一緒に居たいから遅刻したと? 遅刻の理由にしては面白いなー泉ィ#」
「で、でもホントなんです先生! 私のパソコンがのろわれて! 変なのが出てきて」
「変なのが湧いとる場所なら、ウチも心当たりあるなぁー」
「……え?」
「お前のココじゃあ!」
ゴチンッ
◆
アニメのポスターやフィギアが彩りに飾られているこなたの部屋。
彼女のデスクの上にその存在感を表しているデスクトップ型のパソコン。
誰もいない部屋で、パソコンの電源が起動した。
画面にはこう記されていた。
────ウイルス警告
────ユーザー名konakonaのPC内に、悪意あるプログラムを発見しました
────このプログラムは自動的に処分されます
────この悪意あるプログラムのデータは××××プログラム本社へ転送されウイルス定義の更新に…
最終更新:2008年03月18日 08:19