「らき☆すた ~十物語~」ID:S4C66wDO

やたらと蒸し暑い夜のことである。
ある家の薄暗い一室、部屋の中心にある机の上で、十本のロウソクの火が揺れていた。
オレンジ色の弱々しい光が、不気味にうごめく黒い影を部屋の壁に投げ掛ける。
机を囲んで座るのは、五人の少女だった。

「じゃ、アタシからだな……」

日下部みさおが陰気に言った。
今、ここ柊つかさの部屋で、十物語が行われようとしていた。

十物語――

部屋の灯りを全て消し、中心に十本のロウソクを置き火をつける。
参加者は一話、怪談話をかたり、かたり終えたらロウソクの一本の火を吹き消すのだ。
それを続け、十話を語り終え、ロウソクの火を吹き消して真の闇が訪れた時――なんらかの、本物の怪が訪れると言われている。

「若い男女のカップルが、真夜中にドライブデートをしていたんだ。なぜ真夜中かというと、要するに怖いもの見たさだな。
 『女の霊が出る』って言われている滝を目指して真っ暗な森の中、車を走らせてたんだ」

彼女の顔に、ロウソクの灯りが不気味な陰影を刻んでいた。
机を囲む一人――泉こなたがゴクリと喉を鳴らした。

「でだ。目的の滝まであと一歩ってところで、急に車が動かなくなったんだ」

恐怖から、その泉こなたに抱きつく一人――柊つかさが身体を震わせる。

「仕方ないっていうことで、男が車をそこに置いて様子を見に行ったんだ。女は念のために車に残った」

淡々と怪談を語るみさおの正面に座る一人――峰岸あやのの額から、玉のような汗が流れる。

「それからしばらくして、男が慌てて車に戻ってきたんだ。運転席に乗り込む男に、女が話を聞こうとしても、男はただ『早く帰ろう』と焦るばかりだった」

そんなみさおをただ黙って見つめる一人――高良みゆきのメガネが、ロウソクの灯りで不気味に煌めいた。

「不思議なことに、車はすんなりと動いた。車の方向をもと来た道に向けて、アクセルを踏み込もうとした瞬間――声がしたんだ」

みさおは充分にもったいつけてから、口を開いた。

「『……二度と来るな……』って」
「ひっ!!」

つかさは小さく悲鳴をあげ、こなたを抱き締める力がより一層強くなる。
みさおはロウソクの火を一つ吹き消し、いつもの笑顔になってみんなに問い掛けた。

「どうだ? この話。結構怖くね?」
「う、うん……すっごく……」
「いや、つかさ……さっきから痛いんだけど……」

怖いのはわかるし、抱きついてくるのもわかるのだが、あまり痛いのは勘弁だ。
こなたが指摘してすぐ、つかさはこなたから離れた。

「なかなかの怪談だったわね」
「そうですね。迫力もすごくありましたし」

あやのの評価に、みゆきがのる。その顔はとても楽しそうであった。
まあ実際、怪談を聞いて楽しんだりするための今回の集まりなのだが。

「せめてお姉ちゃんがいてくれればなぁ……」

彼女にとって頼れる存在の姉――柊かがみは、現在は隣の部屋で夏休みの宿題を片付けているはず。
彼女も『加わらないか』と誘ったのだが、彼女はそういう怪奇現象やお化けの類をまったく信じない。
『馬鹿馬鹿しい』の一言で一蹴、自分の部屋に閉じこもってしまったのだ。

「じゃ、次はつかさね」
「ええええぇぇぇ!? わ、私!?」

突然の指名、つかさは大声を出して、あわてて口を閉じた。
声でロウソクの火が消える可能性もあるし、隣ではかがみが勉強をしてるはずなのだ。あまり騒いでは勉強の邪魔になる。

「……あんまり、怖いのじゃないよ?」

さっきとはうってかわって小さい声で呟く。
四人は口々に『いいよ』と言い、観念したつかさは語り始めた。

「私がいた小学校の七不思議の一つで、実際に男子の友達が体験した話。
 理科室の掃除登板だった友達と他の男子五人は、掃除がおわり駆けた頃、教室の隅に置いてあるガイコツの模型を中央まで引っ張り出したの。
 このガイコツは、『夜になると廊下を歩く』とか『プールで足を洗う』っていう噂があって、その話で盛り上がってたんだ。
 盛り上がってる途中で、一人が『みんなでドッジボールをやる』っていう約束を思い出した。それで六人は、ガイコツをそのままにして教室を出たの。
 日も暮れたころ、ボールを片付けて友達がやっとガイコツを片付けてないことに気付いて、二、三人で理科室に戻ったの。
 だけどガイコツの模型は、ちゃんと元の位置に戻っていた。『他の人が片付けた』と思って教室を出ようとしたら……」

つかさはちょっとだけもったいづけて、そして口を開けた。

「『お前達、おれを片付けるのをわすれただろう』って、ガイコツが話し掛けてきたんだって」

言い終わってしばらくしてから、つかさはロウソクの火を吹き消した。
消したのは二本、残りは八本。

「どう? あんまり怖くなかったでしょ」
「まあ、そうだな」
「でも、あんまり怖いのが続くのも心臓に悪いわよ。こういうソフトなのも必要ね」

あやのの言葉につかさが激しくうなずいて同意。
その光景を見て、他の三人は小さく笑った。

「じゃあ、次は私が話すわね」

ゆっくりした口調で、あやのが言った。
雰囲気が先ほどとはまったく違う。恐怖で喉が渇き、つかさは唾を呑み込んだ。

「これは有名な登山家が、実際に体験した話なんだけど……」

ロウソクが不気味に揺れ、あやのの影がゆらりと動いた。

「その登山家は、友人と二人で雪山に登ったの。朝は晴れてたんだけど……夜になったとたん、凄まじい吹雪に見舞われたの。
 これ以上進むのは危険だと判断し、二人は引き返すことにした。でも……」

しばらくの沈黙が部屋を包み込む。
風の音も何も聞こえない、気味が悪いほどに静かだ。

「吹雪で視界が閉ざされ、途中から道に迷ってしまったの。遭難を覚悟して立ち止まった二人は、思わず、夢ではないかと我が目を疑った。なぜならすぐ目の前に、山小屋があったから。
 二人はさっそく山小屋に転がりこみ、火を起こして食事を取った。一息ついて身体から温まってくると、自分達がどこにいるのか知ろうと、窓の外を覗きこんだの。
 その時、吹雪の中を歩いていく三人の男を見つけた。遭難者ではないかと思った二人は、ありったけの声を出して呼び掛けたの。
 声が届いたみたいで、先頭の男が小屋の方に振り向いて、笑って手を振って歩いていった。
 二人は唖然としていたけれど、近くに人里があるのだろうと思った二人は、安心して眠りについた。
 そして、翌朝は快晴だった。二人は起きてすぐに窓の外を見て、叫んだっきり、棒立ちになった。なんでだと思う?」

あやのの腹黒い笑みに、その場にいた誰もが恐怖を感じた。

「窓の外には……何もなかったの」
「え? それって……」
「そう、窓の外は断崖絶壁。じゃあ二人が見た三人の男達は……なんだったのかしらね……?」

あやのを除いた全員が竦み上がった。
怖い話に、というよりも、あやのの話し方が上手すぎたために。
あやのはいつもの笑顔に戻り、ロウソクの火を吹き消した。これで残りは七本。

「あ、あやのぉ……う、上手すぎるじゃんかぁ……」

半分涙目になって、みさおはあやのを見た。身体はガタガタと震えている。

「あら、そんなに怖かったかしら?」
「み、峰岸さんに怖い話をさせたら、右に出る者はいないネ……」

平静を装ってはいるものの、こなたも鳥肌が立つほどに恐怖を感じていた。
隣でつかさはすすり泣きを始め、みゆきは小さく『怖くありません……怖くなんかありません……!』と呟いている。

「……さ、さて! 次は私が話すね。少し軽めのもので行くよ」

自らを鼓舞するかのように、こなたが大きな声で言い放った。
そのおかげか、周りも少し落ち着いてきた。
つかさのすすり泣く声が聞こえなくなったところで、こなたが語り始めた。

「これは私の実体験らしいんだ。その時はまだ、小さかったから覚えてなかったんだけど……」

そう前置きをして、コホンと小さく咳払いをした。

「私ね、小さい頃は身体が弱かったんだ。毎週一回は風邪をひいてたんだって」
「週一って……どんだけ身体弱いんだよ……」

途中でみさおが話に入ってきたが、こなたは気にせずに話を続ける。

「これは私が二歳の頃――お母さんが死んじゃって、一年くらいがたった時の話。
 その日も私は熱を出して、ベッドに横になってたんだ。お父さんが替えの氷枕を持ってきた時、それは起こった。
 部屋に入ったお父さんが見たものは、ベッドに横たわる私とその身体から抜け出た半透明の、魂だけの私。そして、死んだはずのお母さんが私の上に手をかざしている姿だった。
 私の魂は、お母さんの方に浮き上がってた。連れていかれる、そう直感したお父さんは、お母さんに向かって大声で怒鳴った。『こなたをどうするつもりだ』って。
 するとお母さんが悲しそうな顔でお父さんを見てこう言った。『一人じゃ淋しすぎるの』って」

こなたの声のトーンが落ちているのに、四人は気が付いた。その理由はわからないが――
四人は何も言わず、ただ黙ってこなたの話に耳を傾けていた。

「お父さんはしばらく黙って、そして言った。『淋しいのはお前も俺も、こなたも同じなんだ。それに、こいつが大きくなる姿を見られなくなってもいいのか』って。
 そしたら私の魂が身体に戻っていった。お母さんは『ごめんなさい……』って小さく呟いて、すうっと消えていった」

しばらく感慨に耽ったあと、こなたはロウソクの火を吹き消した。
ここまで語った怪談は四つ、あと六本だ。

「……なんか……怪談って感じしないね……」
「いや、怖い話としてはいいんじゃねぇの? 死者に連れてかれるっての」
「それがお母さんだったから……感動的な話になったんだね」

こなたが落ち込んでるような感じがして、みさおとつかさは励ましの意味を込めてそう言った。

「最初に聞いた時は信じたくなかったな。お母さんが私を連れていこうなんて……
 でもね、『淋しいのは、お母さんも一緒なんだ』って思うと、頑張らなくちゃいけないなって思ったよ。あの出来事がなかったら、今の私はいなかったろうね」

ふーっと深く息を吐いて、遠くを見つめるような目で天井を見上げた。

「……ごめんね、しんみりさせちゃって。気を取り直して、続きいこっ」
「では、次は私ですね」

それからみゆき、こなた、みさお、あやのと怪談が続いた。
残るロウソクはあと二本。だが、途中でみゆきがトイレに行くと席を立ったために現在は休憩中。

「峰岸さん、話し方が上手すぎるよ~……」
「うふふ、雰囲気を出すためにいろいろと頑張ってみたの」
「『のっぺらぼうと口裂け女のディープキス』か。……待てよ? それって物理的に不可能じゃね?」
「まあまあ、細かい話は気にしない気にしない」

あやのの怪談話に花が咲く中、不意に扉が開いた。
入ってきたのはみゆきと、隣で勉強してたはずのかがみだった。

「あれ、お姉ちゃん?」
「私も……入っていいかしら……?」

呟くようなその声に、四人は身を震わせた。

「か、かがみ……雰囲気出してるね~……」
「じゃあ……話すわね……」

空いていた場所に座り、かがみは語り始める。

「この話は……今……私達がやってる十物語の話……。十物語を終えた人たちどうなるか……しってる?」
「えと……最後のロウソクの火を消して真の闇が訪れたら、本物の怪が訪れるっていうやつ?」

こなたが少しおどおどしながら答えた。

「それだけじゃないわ……『最後の話をした人間に災いが降り掛かる』とも言われてるわ……そして……」

不気味に笑うその表情は、あやののそれを遥かに凌駕していた。

「ある日、男達が十物語をやろうと……十人の友達を集めて、暗い部屋でロウソクを付けながら……一人ずつ話をした……
 それから時間が経っても……その男達は出てこなかったの……。心配した家族の人たちがドアを開けると……
 そこには……十人分のミイラ化した遺体が……」
「お、おい、柊! く、空気読めよ!!」
「そ、そうだよ! 今私達がやってることやめさせる気!?」

みさおとこなたが声を荒げた。そのためかロウソクの火が消え、ついに灯りは一つのみとなった。
最後のロウソクを見つめたまま、四人は黙り込んでしまった。

「ねぇ……やめようよ……!」

目に涙を溜めたつかさが声をあげた。

「だって、最後までやったら私達もミイラになっちゃうかもしれないんだよ!?」
「……上等じゃねぇか……」

みさおが拳を握り、言った。

「せっかくここまで来たんだ。最後までやったろうじゃねぇか!」
「そうね。それで死んじゃったら、その時はその時よ!!」
「やろう! 最後まで!」
「ちょ、みんな本気なの!?」

やる気を露にした三人を見て、すっかり怯えているつかさは必死に抵抗しようとするが……

「……では……最後は私が、取って置きの話をしましょうか……」
「ゆ、ゆきちゃんまで!?」

それまで黙って座っていたみゆきもやる側に加わってしまった。
つかさは観念したらしく、嗚咽を洩らすだけで何も言わなくなった。

「皆さんは……『死ぬ時の感覚』がどんなものか……知っていますか……?」

みゆきの眼鏡がギラリと光る。
その向こう側の目が光の反射のせいでまったく見えないため、余計に恐怖を与える。

「そうですね……例えば……『包丁が胸に突き刺さる時』としましょうか……
 身体の中に……硬くて、冷たい異物が、するりと入ってくる……するとすぐに、生暖かい血がドクドクと流れてくる……
 痛みも何も感じないまま……真っ暗闇の世界に放り出されて……」

みゆきが不敵な笑みを浮かべた瞬間、ロウソクの火がいきなり消えてしまった!

「ひゃああ!! もうやだぁああぁああああ!!」
「な、なんでロウソクが消えちゃったのさ!!」
「わからない……けど、早く灯りをつけなくちゃ!」
「くそ! なんも見えねぇ!!」

皆それぞれに騒ぎ立てた後、みさおがなんとか電灯のスイッチに行き着いた。
スイッチを押すとすぐに蛍光灯の灯りがついて、四人はホッと一息ついた。

「……あれ?」

そう、『四人』は。
その場にいたはずのかがみ、そしてみゆきの姿がなく、いつの間にか消え失せてしまっていたのだ。

「柊……?」
「みゆきさん……?」

立ち上がって辺りを見回すものの、やはり現在は四人の姿しかない。
ドアを開ける音は聞こえなかった。とすると……?

「すみません。遅れてしまいました……って、あら? 皆さん、十物語はやめたんですか?」

不意にドアが開いたと思ったら、みゆきが不思議そうな顔をして入ってきた。
四人はみゆきを見たまま硬直、それからしばらくして、やっとつかさが声帯を震わせた。

「ゆ、ゆきちゃん……さ、さっきまで、ここにいなかった……?」
「いいえ? トイレから出てつかささんのお母様と出会って、先ほどまでずっと話を……って、皆さん!?」

みゆきの話を最後まで聞く前に、こなたとつかさは泡を吹きながら倒れ、あやのとみさおは腰を抜かして座り込んでしまった。
みゆきはというと、わけもわからずにただオロオロしていた。



後にかがみに聞いたところ、彼女は部屋から一歩も出ていなかったという。
では、最後の二つの怪談をしたものは、一体なんだったのだろうか。
話を聞いたみゆきはあれを『自分たちの守護霊ではないか』と推論した。
十物語を最後までやって、自分たちに災いが降り掛かるのを防いでくれたのではないか、と。
だが、これはただの推論に過ぎないのだ。
本当のことは……誰にもわからない……





余談だが、この話から数週間後、みゆきは『歯が四本同時に虫歯になる』という災難に見舞われるのだが……それが十物語と関係あるのか、定かではない。

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