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「えっ!?」
「そ、そんな……!?」

みさおの指差した人物を見て、二人は驚いた

「……!!」
「ちびっこを、あやのを殺した犯人はアンタだ! 柊つかさ!!」

差された本人、柊つかさは数瞬、硬直し、

「じょ、冗談はやめてよ! 日下部さん!」
「冗談なんかじゃない。私はいたって真剣だ」

つかさのこめかみがピクリと動く

「で、でも、日下部さん自分で言ってたじゃない! 私は犯人じゃないって!」
「そうよ!」

つかさの言葉に反応し、かがみもみさおに反論する

「私だって聞いたわ! こなたが殺されたのは、つかさがお風呂に入ってる時だって、アンタ言ってたじゃない!」
「わ、私も確かに聞きました!!」

みゆきも加わり、みさおは完全に孤立してしまった
しかし、その瞳は死んではいなかった

「……妙な話だな。その話をしてた時、つかさはその場にいなかったはずだぜ?」
「!!」
「その時は確か、つかさは部屋で眠ってたはずだよな。なんでその話を知ってるんだ? 気絶したふりをして、私達の話を二階からこっそり聞いてたんだろ?」

その言葉に、つかさは何も言い返さなかった。何も言い返さず、ただ立ち尽くしていた

「で、でも、つかさには、峰岸を殺す理由がないじゃない!!」

かがみの言う通り、ほんの数日前まで、あやのとつかさは会ったことすらなかった
昨日今日で恨みを持つようなハプニングなど、起きるはずがない

「これは私の推測だけど、あの時本当は、私が殺されるはずだったんだと思う」
「日下部が……?」
「ああ。二階でこっそり私達の話を聞いていたアンタは、私がちびっこの部屋を調べると言った時に相当焦ったはずだ。
だからアンタは、部屋の前で待機していたんだ。私が部屋から出てきた瞬間に殺せるよう、ボーガンを持って」
「……」

つかさはなおも、その場に立ち尽くしている。加えて、目の焦点が定まっていない。明らかに動揺している

「だが、そこであやのが出てきたんだ。多分、トイレに行くためにな。顔を見られたと思ったアンタは、トイレから出てきたあやのに向けて……」
「……で、でもまだ、私が、犯人だって、いう証拠が、ないよ? 全部、日下部さんの、推測だよ……」

恐怖か焦りか不安か、呂律が回らないようだ。言葉が途切れ途切れになる
だがみさおは、追撃の手を休めなかった

「証拠ならあるぜ」
「!!」
「とりあえずみんな、つかさの部屋に移動してくれ」

三人に背を向け、階段を上っていく
その後を追うように、かがみが、みゆきが、そしてつかさが階段を上る

「まず、密室殺人のトリックから説明しようか」

つかさの部屋の前で三人に振り返り、ドアノブに手を掛け、開く

「殺すのは、簡単だろう。二人は親友だったからな、油断しきったちびっこの首元めがけ、隠し持っていたナイフを刺した」
「う……」

こなたの変わり果てた姿を思い出したのか、かがみは反射的に口元を覆った

「そしてつかさ、アンタは頑丈な紐のようなものをちびっこの部屋の鍵に引っ掛けて、この穴からこっちの部屋に通した」
「穴……って?」
「そっち側の部屋にはないかもな。こっち側はそれぞれの部屋を隔ててる壁全部に穴があるんだ」

みさおは一つの穴を指差し、かがみにそれを見るよう促した
恐る恐る見てみると、飛び散った血液に残る線のような跡を見つけた

「その跡が、このトリックを使った証拠だ。自分の部屋に戻ったあと、この紐を引いて鍵を掛け、そして切った。残った紐は、私達がちびっこの死体を見て慌ててるうちに回収したんだろう」
「で、でも!! そんなテグスを使ったトリック、私がお風呂に入ってる間なら、だれでも出来たよ!?」
「いつお風呂からあがるかわからないのに、そんな危険を冒してまでつかさを犯人に仕立てあげる必要あるか?」
「でも!」
「……あら? ちょっと待ってください」

何かに気付いたのか、みゆきが突然、手を挙げた

「日下部さん、今までの推理でテグスなんて言葉、使いましたか?」
「いや? 覚えが無いけど?」
「!!」

つかさは拳を握りしめ、唇を噛み、ただ地面を見つめていた

「自爆、だな。誰がテグスを使ったトリックなんて言った?」
「……そ……それは……そ、そこの工具箱に、テグスが入ってたから、それを使ったのかな、って……」

つかさの言葉を無視するかのように、みさおは窓に向かって歩いていく

「そして、この窓の下に証拠がある。それが、アンタの一番の失敗だ」

窓を開け放ち、持っていた懐中電灯で地面を照らす

「雪……?」
「ああ、私もさっき気付いたよ。そしてアレを見てくれ」

みさおは地面に落ちていた、あのボーガンに懐中電灯を向ける

「あれは……ボーガン、ですか?」
「そうだ。護身用なのかは知らないけど、全部屋のベッドの下にあったよ」
「!!」

かがみは急いで部屋のベッドの下を覗き込む
が、そこには何も存在していなかった

「そう、そこには何もない。あやのを殺した後、外にぶん投げたんだ。全部の部屋にボーガンがあることも、もうこっち側の部屋には私とつかさしか残っていないことも知らず」

つかさは手で自分の胸を差し、言い返す

「だからって、私が捨てた証拠にはならないよ!」
「そうよ! 私達が来る前から落ちてたかもしれないじゃない?」
「残念だけど、それはないと思うぜ?」

今度は懐中電灯を林に向け、みゆきに尋ねた

「高良、こういった片方に雪がべっとり付いた木から天候とかわかるか?」
「あ、はい。おそらく、吹雪いていたと思います。風も強かったのでしょう。雪が強い風に乗って吹くため、片方に雪が集中したのでしょう」
「吹雪、ね。じゃあ、これを見て何か感じないか?」

再び懐中電灯を雪の上のボーガンに向けた
それを見て少し考え、そしてつぶやいた

「……かがみさんの意見は、通用しませんね。はじめから落ちていたなら、普通ボーガンは雪の下に埋まるはずです」
「あ!」
「……」
「そういうことだ」

みゆきまでも、疑いの眼差しでつかさを見始めた

「あやのの部屋からつかさの部屋の方に投げたってことも考えたけど、私はちびっこの部屋にいたんだ。私がそれを見る可能性を考えると、危険すぎる」
「で、でも! やっぱりつかさには無理よ!」
「……ところで柊、なんでさっきからつかさをかばってるんだ? 言っとくけど、『妹だから』なんて理由なら私は認めない。柊はただ、つかさが犯人だと認めたくないだけだろ!?」
「!!?」

ものすごい形相でかがみをにらみつける
同情だけで妹をかばうかがみに、相当の怒りを感じていた

「ち、違うわ! だってアンタ、言ってたじゃない! 『つかさがお風呂に入る前に、こなたと話してた』って!」
「そ、そうだよ」

横を見たかがみの背筋に悪寒が走った
つかさが、笑っている。ただその顔は、普段からは想像もできないほどドス黒いものだったのだ
そのつかさを、みさおはポケットに手を突っ込んだ状態でじっと見つめていた

「私は確かに、二階でみんなの話を聞いてたよ。それは認める。ただ私が行ったら、みんなが心配するだろうから降りなかっただけ
その時、日下部さんは確かにこう言ったんだよ? 『お風呂に入る前、私はこなちゃんと話していた』って」

みさおはポケットに手を突っ込んだまま目を閉じ、一言

「ああ、確かに言ったよ」
「でしょう!? その日下部さん自身の言葉が、私が犯人じゃない証拠じゃ……!」
「私はちびっこの声を聞いた憶えはないけどな!!」
「!!」

目を見開き、つかさをにらみつける
怯んだのか、つかさは身体を震わすも、まったく動くことができなかった

「どういうこと!?」
「人間の記憶っていうのは曖昧なんだよ、柊」

みさおは顔だけをこなたの部屋に向け、

「つかさがドアをノックした時、本当はちびっこの声は一切しなかったんだ。つまり、この時にちびっこが生きていたと言い切ることはできない。これでつかさのアリバイは崩れた」
「でも、日下部に聞こえなかっただけで、つかさには聞こえ……」
「もういいよ、お姉ちゃん」

声がした方向を見ると、つかさが地面に座り込んで、深いため息をついていた
そしてその行為は、その発言は、自分が犯人ですと言っているようなものだった

「日下部さんの推理は、全部当たってるよ。峰岸さんを殺した理由も」
「いいのか? まだ柊がしたような言い逃れは出来たぜ?」
「ううん、いいの。お姉ちゃんの必死な顔、見たくないもん。それに、あの距離で日下部さんだけが聞こえてないっていうのはおかしいし」


つかさのその言葉にかがみは絶望的な気分になった
信じていたのに。つかさは犯人じゃないと、信じていたのに!

「教えてくれ、つかさ。この事件は、前から計画してたのか?」
「ううん。この屋敷に着いたのは、まったくの偶然。最初はこの田舎の空気に癒してもらおうと思ってたんだけど……穴とか、テグスとか見た時に、全部思いついたの」
「……じゃあ、もう一つ。つかさは気絶したふりをして、二階からこっそり話を聞いてたと思ったけど、なんで一回戻ってきたんだ?」
「さっきの言葉とだいたい同じ。お姉ちゃんの辛い顔、見たくなかったから」

絶望にうちひしがれるかがみの横で、みゆきは悲しそうな視線でつかさを見つめた

「つかささん……なぜ泉さんを……? お二人は……親友ではなかったんですか?」
「親友だったよ。親友だったからこそ、憎かった。ゆきちゃんも、お姉ちゃんも」

つかさは立ち上がり、ベッドに腰掛けた

「こなちゃんは足が早いし、お姉ちゃんは勉強ができるし、ゆきちゃんはそれに加えてスタイルがいいよね。
でも、私にはなんの特技もない。みんなに迷惑をかけてばかり……。みんなが羨ましくて、そして、憎かった」
「だから……殺したのか?」

みさおが上からつかさを見下ろす。先ほどつかさに向けたものとは違う、憐れみの眼差しで

「ううん、違うの。死ぬのは、私だけで充分だった」

つかさはゆっくりと、右腕の袖を捲り上げる

「!!」
「う、嘘……!」

その手首には、何かで切ったような、生々しい傷跡が残っていた

「つかささん、まさか!?」
「そう、リストカット。他にもいろいろやろうとしたよ。校舎の屋上から飛び降りようとしたり、自分の首に包丁を突き立てようとしたり。生きていくのが、辛かったから。……でも、出来なかった。死ぬのが、怖かった」


……なぜ?

なぜ自分は、こんなにも辛い思いをしている妹を、わかってあげられなかったのか?

かがみはただひたすら、自分を責め続けていた


つかさは袖を下ろし、今度は左手を胸に当てる

「それで、思ったんだ。みんなが向こうで待っててくれたら、すんなり死ねるんじゃないかって。ゆきちゃんとお姉ちゃんを殺したら、私もすぐに死ぬつもりだった」

今度は立ち上がり、窓辺へと歩きだす

「でも、私バカだね。人を殺した私は、天国へ……こなちゃんと同じところへは逝けないのに……なんてことをしちゃったんだろ……」
「つかさ……」

それから少しして、つかさの啜り泣く声が聞こえてきた
自分がしでかしたことに、深く後悔しているのだろう。それで二人が戻ってこないことは、充分理解しているのに、涙が止まらなかった

「みんな……ちょっと、部屋から出てくれないかな……?」
「……わかったわ。みんなで広間にいるから、落ち着いたら来なさいね……」

そして三人は、ゆっくりと、つかさの部屋を後にした

「……なあ、なんか変じゃね?」

部屋から出てすぐ、みさおがそんなことを言ってきた

「何がよ?」
「いや、まだ夜中だけど、だいぶ明るいんじゃねえかって思ってさ」
「そういえばそうですね。それに、少し暑いような……」

加えて、メラメラという音も、微かに聞こえてくる

「――まさか!!」

かがみは走り、階段の上に出た

「うわっ!?」
「やっぱり……!」

あちこちから火の手があがっている。――火事だ!
かがみは元来た道を引き返し、つかさの部屋のドアノブを回す
が、なぜか開かない。中から鍵がかかっている!

「つかさ! 火事よ! 早く逃げないと! ……つかさ!?」

 

――ゆきちゃんとお姉ちゃんを殺したら、私もすぐに死ぬつもりだった――

 

「――! つ、つかさ! あんたまさか!?」
「言ったはずだよね。私は死にたかったって」

そのつかさの声は、震えていた
死ぬのが怖かったと、さっきつかさは言っていた。だとすると、今もつかさは恐怖を感じているに違いなかった

「時限式の発火装置を作っておいたんだ。逃げられないなら、確実に死ねるでしょ?」
「バカ! いいからドアを開けなさい!」
「そうです! 今ならまだ間に合います!」

かがみとみゆきが必死に説得を続けるも、つかさはまったく出てこようとはしなかった

「私は、みんなに迷惑を掛けたりしたくないの! それくらいだったら、死んだ方がマシだよ!」
「迷惑なんかじゃない! 私達にはつかさが必要なのよ!」
「私達は、親友ではなかったんですか!?」
「……二人なんかに、私の気持ちはわからないよ!」
「なんですって……」

言い掛けて、みさおの手がかがみの肩に伸びた

「柊、高良! これ以上は無理だ! このままだとみんな死んじまう!」
「!」
「私はつかさとちびっこをよく知らない! だから、二人には生きてもらわなくちゃいけないんだ! ちびっこ……いや、こなたとつかさが生きた軌跡を、失わないためにも!」

みさおはかがみの目を見たまま、動かない。決断を迫っているのだ
かがみは拳をにぎり、唇を噛みしめ、

「……つかさ、ごめん! あんたのこと、一生忘れないから!!」

それだけ言うと、かがみは大粒の涙を流しながら燃え盛る屋敷を駆けていく
振り返らない。振り返ると、別れが一層辛くなる。かがみはただ、前を見て走る


「ハア……ハア……つかさぁ……」

屋敷から出て、入り口手前の草むらで自らの膝に手を置き、体重を預ける
あふれ出る涙を拭おうともせず、ただただ妹の名前を呟いていた

「ハア……ハア……ん?」

その後を追ってきたみさおがあたりをキョロキョロと見回した

「お、おい! 高良がいねぇぞ!?」
「……え……!?」


・・・


「……こな……ちゃん……」

フラフラになりながらも、つかさはこなたの部屋に歩いてきた。流れた涙がベッドに落ちてシミをつくる
そしてつかさは、もう動かないこなたの身体を抱き上げた

「ごめんね……こなちゃん……! うう……!」

深い後悔の念を抱きながら、こなたの身体を強く抱き締めた
その時――

「つかささん!」
「ふぇ!?」

よく聞きなれた声が、つかさの耳に届いた
ドアをぶち破って入ってきたその人は、高良みゆきだった

「ゆきちゃん! なんで戻ってきたの!? ここにいるとゆきちゃんまで……」
「つかささんを一人にするなんて、私にはできませんから」

みゆきはつかさに向かって、ゆっくり歩きだす

「でも、私は二人を殺したんだよ!? 一緒に焼け死んだって、同じところに逝けないよ!」
「でしたら……」
「……え!?」

みゆきの左手に視線を落とすと、そこには銀色に光るモノが……


「私が今ここでつかささんを殺せば、私も地獄に行くことになります。それなら……私達は一緒ですよね?」

微笑みながら、つかさの隣に座る

「……いい、の……?」
「はい。親友の――つかささんのためなら、この身体を血に汚しても構いません。……いいですか?」

つかさは、自らのためにここまでしてくれる親友に涙しながら、ゆっくりと頷いた
そして、深く息を吸い込むと、みゆきは左手に持つソレを――ナイフを、つかさの腹部に突き刺した

「かは……!」

血にまみれたナイフを抜いた時、つかさの血が、みゆきの身体をも赤く染め上げる
バランスを崩したつかさの身体は、みゆきの腕によって抱き抱えられた

「ご、ごめん、ね……ゆき、ちゃん……。最後まで……頼って、ばかり、で……」
「いいえ。私だって、つかささんに何度も助けられてきましたから」
「あり、がと……ゆき、ちゃん……。向こうに……行って、も……親友で……いよ……う……ね……」

つかさはフーっと長い息を吐き、今までで最高の笑顔を親友に向けると、それきり動かなくなった

「……もし生きているのが私ではなく、泉さんだったとても……私と同じ選択をしたでしょうね……」

みゆきは動かない二人の顔を撫で、そしてつかさを殺めたナイフを自分の首元に向ける

「私のやっていることは……間違っているのでしょう……。それでも、私は……」

目をつぶり、深く深呼吸をして、手の中のナイフを、思い切り振りかぶった

 

――さよならです、かがみさん、日下部さん。どうかお二人は、途中で道を踏み外さないでくださいね――

 


・・・


「日下部! 離してよ!」
「離さねぇ! 絶対に行かせるもんか!!」

燃える屋敷に走ろうとするかがみの身体をみさおが羽交い締めにしていた

「離して! みゆきが死ぬんなら、私も死ぬ!」
「ヴァカっ!! 高良がなんで残ったのか、わからねぇのか!?」
「!!」

必死に抵抗していたかがみの動きが止まる

「あいつはつかさを一人にさせないために……私がさっき言ったこと全部を柊に任せて、つかさと一緒に死ぬことを選んだんだ!」
「……そんなの……みゆきの勝手よ! なにがなんでも、私はあそこに行く!」
「ぐあ!!」

みさおの身体を押し退け、かがみは屋敷に走りだそうとしたその時、

「おい、ひいら……!!」
「!!」

 

屋敷が


音を立て


二人の目の前で


崩れ落ちていった

 

「いや……いやーーーーーーーーーーーー!!」

 

地面に座り込み、頭を抱えて泣き叫ぶかがみの顔を、みさおは黙って見つめていた

その瞳を、わずかに潤ませながら――

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