いつから

人間は、動物と比べると、かなり鈍感なんだと思う。
まあそれは、動物は常に危険と隣り合わせに生きているからだろうけど、それでも、人間は本当に鈍感だ。
例えば地震が起きる直前。鳥達はみんな一斉に飛び立つらしいし、犬や猫などの動物も落ち着きがなくなるらしい。

じゃあ、人間はどうなの?

直前まで、気が付かないのがほとんどだと思う。揺れ始めてから、やっと『地震が起きた』と気付くくらい。
地震観測機なるものも開発されてるけど、機械に頼ってるようでは『人は敏感になった』とは言えない。
鈍感なのは、なにも災害だけじゃない。日々の変化にも鈍感だと思う。
特に、人の気持ちに対しては鈍感じゃないかな。人それぞれなんだろうけど。

じゃあ、私はどうだろう?

私は人の気持ちに対して敏感なのか、鈍感なのか……
そう問われたら、今この場で断言できる。私は、間違いなく鈍感だろう。
だって……

「……私は……かがみが好きなの……」

こいつの心の変化に、まったく気が付かなかったんだから――



いつから



「かがみ『が』作ったお弁当、今日『も』質素だねぇ」
「こなちゃん、それ、私が作ったんだよ」
「ナンデスト!?」
「昨日はまつり姉さんが買い物をするはずだったんだけどね? すっかり忘れてたらしくて、冷蔵庫は空っぽよ」
「ふむふむ……今日の当番がつかさだったからこそ、そんな状態でもお弁当が作れたのか……」
「ちょっと待て、こなた。それはつまり、『私が当番だったら弁当にすらなってなかった』ってことか?」
「わーん、かがみ怖いー」

いつの間にか、こなたが元に戻ってた。
まだよそよそしいところはあるけれど、少し前に比べたらだいぶ良くなったみたい。
『自分で解決しなくちゃいけない悩み』っての、解決したのかしら。

「ねぇ、かがみ……」
「何よ?」

ただ、二人になった時だけは急に口数が減る。しかも、顔がちょっとだけ赤いし。
……私ってそんなに暑苦しかったっけ……

「あ、あのさ……ほ、ほ……」
「ほ?」
「ほ……北海道で人気の動物園ってなんて言ったっけ?」
「旭山動物園」
「あ、あ! そうだった。ありがとう、かがみ。……ハァ」

こんな調子が、何日も続いてる。私にいろいろと尋ねてきて、答えると最後に溜め息……
何かしら? おもしろい答えでも求めてるっての?

「私、ちょっとトイレに行ってくるね」
「オッケー」

席を立ったと思ったら、そそくさと出ていってしまった。
私……やっぱりこなたに嫌われるようなことしたのかしら……



それから十分経っても、こなたは帰ってこなかった。

「もう、早くしないとお昼休み終わっちゃうじゃない」

お腹でも壊してるのかしら?
しょうがないわね……ちょっと見に行くか。

トイレに着くと、こなたは洗面台に手をついて、鏡に向かって小さく溜め息を吐いていた。
なんだかボソボソ呟いてるみたいだけど……

「こなた、どうしたのよ?」
「やっぱり、今日中には……ってうわぁ!? か、かがみ!?」

私の存在に気付いたこなたは数メートルほど後退りして後ろの壁に激突した。
そんなアニメみたいなことをリアルでやってくれるとは、さすがこなた。
……って、今気にするべきことはこれじゃない。

「どうしたのよ、こなた。もう十分くらい経ってるわよ?」
「う、うん……」

背中を擦りながら、こなたが小さく返事をしてきた。
間違いない、こいつ……

「まだ、悩みは解決してないのね?」
「!」

身体をビクッと震わせた後、顔を下げて固まってしまった。
私はこなたに近づいて、肩に手をポンと置いた。

「どんな悩みなのよ? 私に教えなさいよ。誰かに話したら、案外楽になるものよ?」

迷っているのか、こなたは視線を泳がせている。
そして小さく頷いたかと思うと顔をあげ、今度は私の目を見つめてきた。

「かがみ」
「なに?」
「ほ……本当はシシャモはキャペリンって名前の魚だって知ってた?」
「ええ、みゆきに前聞いたことがあるわ」

……えっと……また、こういう展開なの……?
こなたは私の手を離れて、壁に手をついて……頭を何度もぶつけ……

「違う!! そうじゃなくてそうじゃなくてそうじゃなくて~~~~!!!」
「ちょ、こなた!?」

な、なにやってんのよあいつ!?
私は急いで駆け寄ってこなたの身体を羽交い締めにした。

「こなた、落ち着けってば!」
「かがみ!」
「はいぃ!?」

ちょ、いきなり振り向かれると驚くじゃない!!
って……うっわ……こなたの額、真っ赤……!!

「かがみ。放課後、屋上に来て。全部話すからさ」

それだけ言うと、こなたはさっさとトイレから出ていった。
私はそれを見送った後、いろいろなショックで腰を抜かし、地面に崩れ落ちた。

「な、なんなのよ、一体……?」

しばらく惚(ほう)けていた後、こなたが額をぶつけてた壁に何気なく目をやった。
……!? 陥没してる!? どんな石頭だよ、こなた!






「……中学の頃から、屋上は好きなんだ。一人でのんびりできるし、こういう景色だって見えるし」

屋上のフェンスに寄りかかり、沈みかけている夕日を見ながらこなたが呟いてきた。
その横顔は、夕日に照らされてるせいか『大人の女性』っぽいオーラを醸し出しているように見える。
体型は……そのままだけど。

「今日はいろいろな意味で、忘れられない日になりそうだよ。かがみ」

振り返り、フェンスに腰掛けるその顔は、愁いを含んでいるような、そんな感じがした。
いつものこなたからは想像も出来ないようなこなたが……今、目の前にいる。

「……わざわざこんなところに呼び出した理由を聞かせてほしいわね」

本当は、大方理解していた。今ここには、私とこなたの二人きり。
誰にも聞かれたくない、重大な悩みなんだろうと。

「あれ? まだわからないんだ。かがみって意外とギャルゲ主人公の属性あるよ」

だけどこなたは、いつものようにおちゃらけていた。
いつもなら罵声を浴びせるところだが、敢えて反論しなかった。その言葉にも、なんらかの意図があるように思えたから。

「ま、いいや。ここに呼んだ理由だけど……」

こなたはフェンスから離れて私の方にまで歩いてくる。
そしてその距離が1mほどになった時、こなたはポケットから小さな箱を取出し、私に向かって出してきた。

「かがみ、受け取って。そして、中を見て……」

なんだかよくわからないけれど、これが何か関係していることは確か。
受け取った私は、何か爆弾でも扱うかのように慎重に箱を開いた。

そこにあったのは、一つの指輪だった。どうみても、安物に見えない宝石を付けたそれを持ち上げて眺める。

「それね、15万したんだ。お小遣いが全部なくなっちゃったよ」
「じゅ……!?」

15万……!? こなた、なんてモン買って……
って驚愕してると、こなたがまた小さく溜め息をついた。

「やっぱりここまで来ても気が付かないんだねぇ、かがみは。もうちょっとよく見てよ」

その言い方がカチンときたけど、今の私に反論する権利はない。言われた通りに指輪を穴が空くほど見つめた。

「……ん……?」

側面をよく見てみると、なにか文字のようなものが刻まれているのが見えた。

「えと……KONATA&KAGA……」

そこまで呟いて、私はある一つの仮説に辿り着いた。否、辿り着いてしまった。
前にこなたが言っていた、ある言葉だけが、頭の中をぐるぐる回っている。


――ギャルゲの主人公ってさ、愛に対しては鈍感なんだよね――


「かがみ」

その呼び掛けに我に帰り、はっとしてこなたを見る。
そして、気が付いた。こなたの指にも、同じ指輪がはめられていることに。しかも……左手の薬指に。

「やっと気が付いたみたいだね。鈍感さん」
「こ……こなた……じ、冗談、よね……?」
「冗談なんかじゃ、こんなこと言わないよ」

引きつっているであろう笑顔をこなたに向けるも、その顔に、冗談の類は一切見られなかった。
こなたはゆっくりと歩きだし、私との距離を詰める。
そして、こなたは私の背中に手を回して優しく、そして力強く抱き締めてきた。

「……私は……かがみが好きなの……」
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。