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「暑い……あ~づ~い~……!!」

そう言いながら、フードを被ったこなたがぼやく。エメラルドグリーンの綺麗な瞳は疲労により台無しになっていた
周囲は、見渡す限りの砂漠である。汗が噴き出す傍から蒸発するほど、気温は高い

オーフェンを出てから、既に十日は経っている。街道を四日間かけて南に下り、砂漠を見つけ、『あと少し』と意気込んだまではよかたが……

三人は、完全に迷子になった

砂漠の町〈パフライン〉は大きなオアシスに作られた町で、砂漠に入ってから二日ほどで着く距離にある
それは『直線距離で』の話だが

「仕方……ないでしょ……? サーバは……ヴァルカンの影響を……直に受けてるんだから……」
「それは……わかってるけど……」

かがみが言う通り、サーバ地方にはヴァルカン――火を司る神がいる神殿があると言われている
その力が強すぎるためにサーバ地方は灼熱の大地になってしまったのだ

「暑い……熱い暑いあつい熱い暑いあつい暑いあつい厚い~~~~!!!!」

そうごねたのはこなたでもかがみでもなく……普段は温和なつかさだった
もともと体力があまりないつかさだ。熱に当てられて理性という名のリミッターが外れたのだろう

「つ、つかさ!?」
「落ち着いて、つかさ!! 騒いだら余計に体力が……」
「暑い………あ……つ……」

全てを言い切ることなく、彼女は倒れ……そうになるところをかがみが受けとめた

「うっわ!! 凄い熱!!」
「ヤバい! 早くパフラインを探さなきゃ!!」





それから数時間後に、三人はパフラインを見つけた
広大な砂漠をあてもなく歩き回ったというのに……見つかったのは奇跡に近いだろう

「熱射病ですね。後少し遅かったら命に関わってました」
「良かった……」

「ありがとうございます、先生」
「いえ、それが私の仕事ですから。それよりも……」

ふゆきは、先ほど担ぎ込まれてきた少女がいる隣のベッドを見た
少女は町を出た際に魔物にやられたらしく、その傷は現在の医術ではどうすることもできないほどひどかった
しかし今、こなたが治癒術をかけてくれている
傷口はみるみるうちにふさがっていく。完治するまで、そう時間はかからないだろう

「あの子、三賢者の一人なんですよね? 治癒術でこの子を治せなかったんですか?」
「それは……治癒術が効かないからだと、こなたは言っていました」
「効かない……?」

その言葉をうまく理解できなかったようで、ふゆきは首を傾げた

「治癒術は人体の代謝を高める魔術なんです。だからケガをしてもすぐに治りますし、病気も治ります」
「……なるほど……」

ふゆきはしきりに頷き、納得する

「原因が身体そのものにある熱射病は、回復対象に入らないんですね?」
「おそらく……」
「ふい~……ちかれた~……」

こなたが奇妙な溜め息をついてこちらに歩いてきた
少女は気を失っているためにベッドに横たわったまま。だがその傷口は、さっきまで大量出血していたとは思えないほど綺麗に塞がっていた

「魔力を半分くらい使っちゃったよ……」
「貴女がいなくちゃ、あの子は助けられませんでした。ありがとう」

頬を少し紅く染めるこなたを見て、かがみは『やっぱり照れ屋なのね』と思っていた

「ところで、なんでここには大人の男性がいないの?」
「そうよね。私も疑問だったわ」

村に着いた時、出迎えたのは30代ほどの女性。ここまで案内してくれたのは少年。そして病院の先生までも女性だった
尋ねるとふゆきは視線を下げ、ボソッと呟いた

「……南の砦に、連れていかれたんです……」
「「え……?」」
「一ヶ月くらい前、ラミア軍の人間が無理矢理連れていったのよ。砦の更に南にある〈炎の神殿〉への橋を造るためだとか」

町民が働かされているのは、オーフェンだけではなかったのだ
その事実を知ったかがみは拳を握りしめ、身体を怒りで震わせた

「許せない……ラミア軍め……!!」
「つかさが起きたら、すぐにでも砦に向かおう!」
「ち、ちょっと待って? 砦に行って、何をする気ですか?」

そこで二人は、事の経緯を全て話した
オーフェンが軍に滅ぼされたこと、村人が砦・城で働かされていること、彼らを助けるために旅をしていたということ、そして――らき☆すたーのことも

「……そうだったんですか」
「だから私達は、行かなきゃならないんです」
「村の人達を助けるために、らき☆すたーを手に入れて、かがみの姉さんを生き返らせるために」

ふゆきは引き止めるつもりだったが、その二人の瞳を見て、引き止めるのは不可能だと判断した

「でも、アナタたち三人だけだと少し心細いですね。でしたら……」

その時、町の東側から悲鳴が聞こえてきた。三人は一斉に立ち上がり、病院を出て東を見る
出入口から遥か先、巨大な芋虫のような魔物が砂の中から顔(頭部?)を出していた
先端は口が大半を占めており、牙が無数に蠢いている

「あれは世界最大の昆虫……サンドワーム!?」
「町に男性が少ない理由は、サンドワームにもあるんです。作物を荒らすので退治しに行くんですが、帰ってきたものはだれも……」

視線をさげたふゆきを見て、二人は決意した

「こなた!」
「うん! 行こう!」

二人は走りだし、サンドワームのもとへと向かった!





「……なんなのよ、このサイズは!? 昆虫ってレベルじゃないわよ!!」

砂から頭部のみを出したサンドワームの直径は、3mは軽く越えている。それと比例するとしたら、体長はとてつもなく長い!!

「とりあえず……やるしかないよ!!」
「わかってる!」

かがみは剣を鞘から抜き、サンドワームの真上に飛び上がった

「――空翔斬!」

そこからサンドワームに向けて一気に振り下ろす!

しかし、前述した通り、サンドワームの直径は3mは越えている。口の直径も2mは越えているだろう
対して、かがみの身長は約1、6m。すなわち、彼女の身体はサンドワームの口に『すっぽりと収まってしまう』のである

「あ」

かがみの身体は、奈落(サンドワームの口)へと落ちていった

「……は……!?」







「くっそ……やばいわね……」

ここはサンドワームの中。ただ飲み込まれただけなので無傷、しかも腸内が柔らかかったために落下の衝撃もほとんどない
だが、このままいると消化液によって溶かされてしまうだろう。早く脱出しなくては

「……ん? 騒がしいわ……ね……?」

その光景を見て、かがみは唖然とした

「レフト、あがったぞ!」
「任せた! ……よし、キャッチ!!」
「ファーストに戻れー!!」

かがみの目の前では、サンドワームに飲み込まれたであろう人間達が楽しそうに『野球』をしていた

「やあ。はじめまして。貴方もサンドワームに飲み込まれたのですか?」

不意に、一人の中年男性がかがみに近づいてきた

「あの……何やってるんですか?」
「何って、野球だよ。見てわからんかね?」
「いや、そうじゃなくて……」

当り前のように言うオッサンを見て、さっきまでサンドワーム退治に燃えていたかがみは少し恥ずかしくなった

「なんでこんなところで野球やってるんですか?」
「いやー、出るに出られないし、どうせ消化されちゃうなら最期くらい楽しい思い出を、ってね。結構、食べ物も入ってくるし」

隣にあるサイドワインダー(ヘビの魔物)の皮を指さしてオッサンは言った
辺りを見回すと、確かに広いスペース。しかも何故かグローブやら野球ボールやらが多数転がっている

「……と、とにかく! ここから出る方法を探さなくちゃ!」
「そうは言ってもね、今までここから出た人間なんて」
「危ない!」

オッサンが言い切る前にそんな声が響いた
打者が打ったボールがかがみに向かって一直線に飛んできたのだ!

「おじさん、ちょっとどいて!」
「おわ!」

かがみはオッサンを押し退け剣を抜き、飛んできたボールに向けて一閃!
ボールは真っ二つに割れ、かがみの両サイドを飛んでいった

『おお~~~~!』

その妙技に、一部始終を見ていた人達は歓声をあげる

「……待てよ?」







「か、かがみが……食べられ、ちゃった……」

こなたはサンドワームを見上げ呆然としていた

(い、いや……落ち着け、落ち着けよシロ……じゃなくてこなた……かがみは丸呑みされただけで……って)

地響きが起きたと思った時、前方からサンドワームが突進してきた!

「こんな状況で落ち着けるわけないじゃんかぁ~!!」

全速力で走るが、到底逃げ切れそうもない。彼女とサンドワームの距離は縮まっていくばかりだ

「ダメだ……潰される!」

こなたが諦めかけた瞬間、地響きが止み、悲鳴にも似た音に思わず耳を塞いだ
後ろを向くと、頭(?)を天に向け吠えているサンドワームの姿があった
その腹部はいつのまにか縦に裂けていて、中から大勢の人間が溢れて出てきた

「な、なに……? あ、かがみ!!」

その人達の雪崩が止み、全員が出てきたと思った時、かがみが飛び出してきた
次の瞬間、サンドワームは地面に潜り込んだ。出てくる気配は見られない

「かがみ! 良かった、ちゃんと出てこれたんだ!」
「まあね、サンドワームの中が柔らかくて助かったわ。さ、戻りましょ」
「うん!」





「……まさか中で生きていたとは、驚きです」

ふゆきは窓の外を見ながら呟いた
妻と対面し喜ぶ者や食べ物を貪る者……反応は皆それぞれだ

「にしても、お腹を切り裂いて出てくるとはエグイねぇ。サンドワームに同情するよ」
「仕方ないでしょ!? そうでもしなきゃ助からなかったんだから!!」

さっきまで死ぬかもしれない状況にいたとはまったく思えない二人のやり取り
それを見ていたふゆきは小さく笑った

「そうだ。アナタたち、この子が起きたら南の砦に向かうんですよね。でしたら……」

椅子から立ち上がり、自分の机に歩きだす
引き出しを開け、取り出したのは方位磁石だった

「これを持っていってください。砂漠は広いから、迷ったら大変ですから」
「あ、ありがとうございます!!」

かがみは方位磁石を受け取った
方位磁石は、一個人が持つには高価すぎる代物で、かがみは学校でしか使ったことがなかった
使い方を思い出すかのように方角を確かめた。指針を北に合わせて、現在向いている方向は南南西であることを確認。しっかりと覚えていたようだ
ただ、隣から覗き込んでいたこなたにはちんぷんかんぷんだった

「それから……いくら賢者がいるとはいえ三人だけだとちょっと不安ですから」

そう言うと、ふゆきは窓の向こうを見る

「西の方角に、もう一つオアシスがあります。そこに住んでる『高良』という人物を訪ねるといいですよ」
「高良!?」

その人物の名を聞いたこなたは、目の色を変えた

「知ってるの? こなた」
「知ってるも何も、高良家は――」

 






“契約者、高良みゆきよ。我に何を望む?”

デ・ザート砂漠のとある地点で、その『者』は尋ねた。灼熱の巨人と呼ぶにふさわしい、炎の精霊イフリート

「召喚という力を試してみたかったというのが本音ですね。私が召喚師としての力を受け継いだのはつい最近のことでしたから」

その問に、隣にいた高良みゆきが答えた。イフリートの契約者であり、『現』三賢者の一人である
手には、かつて戦女神が使用していた伝説の剣――光剣ワルキューレ。そして彼女の視線の先にいるのは、こなた達が退治したものよりも一回りは大きいサンドワーム

「小さい頃から貴方たちと遊んだりはしましたが、使役するとなると話は別ですからね。実際に召喚できるか、試してみたかったんです」
“確かにな。だが、力を試すためだけに我を召喚したのではなかろう?”
「もちろんです。あの実験を今日、行います」

みゆきは持っていた光剣ワルキューレを、サンドワームに向けた

「契約者『高良みゆき』の名において、炎の精霊イフリートに命じます。私に御身の、炎のご加護を」
“承知した”

イフリートの身体から赤い光が出現、みゆきの身体の中へと入って行く

「……『精霊の魔力をもらうことで、印を持たない人間が魔術を行使できるようになる』という、私の仮説は正しかったようですね。私の中に、イフリートの魔力を感じます」

小さく呟いたみゆきのすぐそばにまでサンドワームが来ていた
しかしその事態に慌てず、みゆきは魔術の詠唱を開始する

「――フレイムランス」

呟いた瞬間、天空から炎で出来た槍が飛来!
それがサンドワームの身体をやすやすと貫き、身体中が炎に包まれた!!

「ご苦労様です、イフリート。もう戻ってくださって結構ですよ」
“承知した”

サンドワームが燃え尽き、炭と化す姿を見届けてから、イフリートは陽炎のように消えていった

「……この……力さえあれば……」

砂へと還るサンドワームを見ながら、不適な笑みを浮かべるその姿を目撃した者は誰もいなかった

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