ID:4upHljw0氏:コナタ・イズミの日記

・他ゲームとのクロスオーバー
・グロ有り
・キャラ死に注意

7月28日
みんなとプールに行った。

この季節なのにやけにすいていたおかげで心地良かったよ。
ココ最近、新種のインフルエンザが流行ってるって聞いたけどそれかな?

かがみん、頑張ってダイエットしているみたいだけど、
正直あの体を見るとその必要は無いだろ~ね~ww
偉い人は言いました、お腹に肉が多少余るのがマニアックで良いと。
それを言ったら勿論ぶたれたけどねww

いやかがみんをからかうのは、三度の飯より生きてるって実感が沸くったらないね~
つかさもつかさで可愛い水着だったし、みゆきさんは言うに及ばず……。
ホント適わないよねえ……。
貧乳はステータスなんて言っても、これにはちょっと自身無くすよ。

まぁそれを言ったら、かがみには『あんたも女らしい所あるのね』って笑われた。
かがみんの癖に~。

7月29日
今日はかがみと二人だけでアキバを遊んで回った。
どうもつかさは具合が悪いみたい。
二人っきりで遊ぶ……もしかしてコレってフラグ立った!?

うはwwwwwwwwwwwwww

7月30日
みゆきさんと一緒につかさのお見舞いに行った。
どうもつかさは顔色は悪かったけど、
食欲はあるみたいで持ってきたお見舞いを一人ですぐに食べちゃってた。
つかさ、病み上がりでお腹減ってたのかな……、
みゆきさんは、病気の最中に食欲があるのはいい事だって言ってたけど。

まぁすぐにむせて、かがみに呆れられてたけどね。

8月1日
今日はちょっとお父さんが具合悪いみたいだ。
何かやけに吐き気と全身に痒みがあるらしい。
ゆーちゃんもちょっと体が悪いみたいで家に居る。
まぁこっちはただの風邪みたいだけどね。
せっかくかがみ達と遊ぼうと思ったのに……、積みゲーでも片付けるかな。
ゆーちゃんの看病も忙しいしね。
お父さんの看病もついでにやってあげるとしよう。

8月2日

 

 

 

 

8月3日
昨日の夜……ゆーちゃんの悲鳴が聞こえて、下におりたらお父さんがゆーちゃんを組み敷いていた……。
思わず突き飛ばしたら、今度は私に噛み付こうとしてきた……。

分からない、お父さんは白目を向いてて、顔が青かった……。
お父さんを思わず灰皿で何度も殴ったら……動かなくなった……。
救急車を呼ぼうとしたけど、全く通じない……。

警察への電話も、かがみ達へも……パソコンでさえ通じない。

外に出ようと思ったら、外にも……お父さんと同じような青い顔した人たちがたくさん居て……窓からも出られない。
なんなの?
ニュースでも何を言ってるのか分からない。
何が起こってるの?

8月4日
昨日のお父さんは毛布で来るんで、お父さんの部屋に置いといた。
ゴメンねお父さん……今はこんな事しかできないよ。
ゴメンなさい……。

ゆーちゃんは自分の部屋でずっと泣いている。
お父さんの職業柄、冷蔵庫に食材は沢山あるし、防災のための非常食も多すぎと思うくらいにある。
この子だけは、絶対に守らないと!

8月7日
家の前に益々アイツ等が集まってきている……。
お父さんと全く同じヤツラ……。
何が起こってるの?

玄関の前には、戸棚だとかを置いただけの粗末なバリケート……。
窓の外では鳥がこっちを睨んでいる。

昨日までやってたテレビは何もついてない。
最後にテレビでやってたのは……、いや、思い出すのは止めよう。
どうせアニメなんてこんな状況ではやらないんだろうな。

ゆーちゃんがずっと明るく振舞っているのが辛い……みなみちゃん達の事も心配だろうに。
かがみ、つかさ、みゆきさん、ゆい姉さん、黒井先生……みんな……。

8月9日
正直この日記を書いてる今も震えがとまらない。
今日の夕方、ゆーちゃんと二人で料理をしていた。
冷凍食品を切ったり、フライパンに乗せて火をかけるだけの簡単な物だけど、
一緒に何かが出来る人が居ると言う事で私も安心しきっていた。
それが間違いだった。

突然、換気扇からカギ爪を持った、まるで節足動物のような手が現れたかと思うと、
それが私の顔目掛けて飛んできた。
もしゆーちゃんが咄嗟に私を突き飛ばしていなかったら、
きっと私の顔に穴が開くか、首が飛んでいただろう……。
庇うっように私に覆いかぶさるゆーちゃんと、尻餅をつく私が見た物…………、
きっとアレは一生忘れられない。
体格こそ人間だが、勿論違う。外にうろついているアイツ等とも……!
蜘蛛のような顔付き、硬そうな剛毛に包まれた体、そして私を襲ったカギ爪からは新しい血がポタリと垂れている。

換気扇から上半身だけを除かせたソイツは、左手だけを私達に伸ばし、右手は体を引っこ抜こうと壁をつかんでいた。
その時、私は持っていた包丁でソイツの腕を切りつけた……だが信じられない事に、
効かないどころか包丁の方が刃こぼれをしてしまった!
一瞬だが、アイツの体に幾つか穴が開いているのが見えたのだ……。
今思えば、あれは銃創だったのだろう。アイツの体は銃弾をも物ともしなかったのだ……。

この時のゆーちゃんはきっと誰よりも強かったしカッコ良かった。
私をすばやく押しのけたかと思うと、サラダ油をアイツの体に撒き散らす。
勿論油に引火し、ヤツは火達磨。ようやく動かなくなった所で消火器を巻く。
この一連の作業をゆーちゃんがたったの一人で……お姉ちゃん失格だよね。

ようやく火が止まって、アイツの匂いが台所に充満した時……ゆーちゃんは跪いて震えていた。
私はゆーちゃんを抱きしめた。私は泣いた。
ゆーちゃんもようやく糸が切れたらしく、私の胸にうずくまって大声で泣いた。
本当……私はお姉ちゃんとしてどこまでもダメだ……。

ゆーちゃんの肩には切り傷があった。
ゆーちゃんをあの化け物に傷つけさせてしまったのだから。

8月10日
突然、バリケートを張り直してたゆーちゃんが倒れてしまった。
顔は青いのに、体温が凄く高い……!
私は本物のバカだ! 元気に振舞っていてもゆーちゃんは体が弱いんだ!
それなのにこんな重労働させてしまって…………、ごめんねゆーちゃん……。

8月12日
今日も何も無い……。
ただゆーちゃんの氷を取り替えて、効くかも分からないバファ○ンや風邪薬を飲ますだけ……。

こんなにちっちゃい体なのに、彼女は懸命に戦っている。
夜は寝ているのに苦痛にうなされ、起きている昼も辛いだろうに私の手を握って『私は大丈夫だから、お姉ちゃんも休んで』と言ってくれた。
神様……、私の大事なフィギアもゲームも全部あげる、私の命だっていい!
ゆーちゃんを助けてくれたら何だってするから……お願い助けて!

8月15日
ゆーちゃんの熱が下がらない……。
殆ど水しか飲めないのに吐いてばっかりだ。

誰か、助けて。

8月17日
ようやくかがみ達と連絡がとれた!
つかさとは代わってくれなかったけど向こうはみんな無事みたい、良かった!
すぐにこっちに来てくれるって言ってたけど待ちきれない。
ゆーちゃんにもかがみが来てくれる事を伝えたけど、一昨日からずっと寝てるままで何にも言ってくれない。

玄関ではたくさんのアイツらがドアを外から叩いている。
窓の外にもカラス以外にも沢山の鳥が居て、時々ガラスに体当たりをしてくる。
きっと、少しでもあけたらすぐになだれ込んでくる!
怖い。
早く来てかがみ!

8月18日
外で声が聞こえた……
叫び声、私の名前、悲鳴。

外を見るとアイツ等が何かに群がっている……、私は怖くて一歩も動けない。
目を逸らす事も……、早く来てかがみ! かがみ!

8月19日
ゆーちゃん大好きだよ

8月20日
ゆーちゃんも同じようになってた
今は押し入れに閉じ込めてるけどきっと戻らない
何で神様って意地悪ばっかするのかな
高校に入って、ようやく人生が楽しくなったのに
かがみも来ない

もういいや

さよなら

▼EXIT

「…………ひでぇもんだな、こりゃ」

アニメのポスターや色とりどりのフィギアが飾られた部屋の中で、一人の男が呟く。
タンクトップから飛び出す筋肉に彩られた右腕には、その風貌にはそぐわない『MOTHER LOVE』のタトゥー、
そして『あの時』から伸ばし続けたために、今や背中にまで達する長髪……。
かつては海兵隊に所属していたものの、無実の罪を着せられ今は故郷を捨てた、ビリー・コーエンだった。

ビリーは手に持っていた日記帳を閉じる。
日本語は未だに流暢には話せないが、それでも数年で読み書きはできるようになっていた。

昔から、あの事件でも、そして今も嗅ぎ慣れてしまった死臭、血の匂い……。
それは目の前に居る、青い髪の少女から発せられるものだ。
カッターナイフで首を切り裂いている……死後二日ほどだろうか?
血液は天井まで届き、可愛らしい絵が描かれたポスターをドス黒く染めている。

(日本アニメも、これじゃ終わりかもしれねえな)

何故か、入隊する時に別れた恋人の事が頭を過ぎった。
アイツは日本アニメが好きだったな……と。

「クソッ!」

毒づきながら、彼は踵を返して部屋を出る。
途中の廊下で転がっているのは、おそらく先ほどの日記に書かれていた『ユタカ』と言う少女。
彼女はビリーが泉家に侵入した時、それほどこなたに会いたかったのだろうか?
その剥がれていた爪を何度も何度も彼女の部屋の扉に擦り付けていた……。

やがて自分の匂いに気付いたのだろう。
両手を掲げこちらに向かってきた。
ビリーは脇に抱えていた気を失っている『彼女』を降ろす。
そして右手の恋人……、大口径のブローニングの銃口を幼い少女の額に向け────
引き金をひく瞬間に過ぎった記憶、それは────

「救出対象の一人は自殺、一人は射殺しました……か。軍隊に居た頃なら大目玉だろうな……」
こんな事、下で待っている彼女にどう伝えるか…………。

そこまで考えてビリーは思い直す。
どうしたもこうしたも無い、ありのままを伝えるだけだ。
何だってんだ、俺らしくも無い……、と考えるビリーは気づかない。
その感情は、できるなら下で待つ『アイツ』を傷つけたく無いという思いである事には。

(考えてみりゃ似てるんだよなアイツは。誰かさんに……)

拳銃を手に持ち直しながら、ビリーは微笑した。

「目を覚ましていたのか」

階段を下りた所に、彼女…………高良みゆきは蹲りながら震えていた。

☆   ☆   ☆

ビリー・コーエン。
彼はあの忌まわしい洋館事件の後、国無き民として生きる事を決めた。
偽情報に踊らされた鬱憤晴らしのために何十人もの原住民を殺した上官、
自身の私服を肥やす事で頭が一杯の大企業……。
何故そんな物のために戦わねばならぬのか、ビリーにはかつては誇りに思っていた事が今や汚らわしくて仕方が無かったのだ。

お尋ね者の自分が国を出る事は決して簡単では無いが、方法を知っていれば難しくも無い。
船の船長に銀行強盗で稼いだ現ナマを積む、それだけで済む。
無論リスクもあるが、こっそり乗るよりはずっと成功率が高い。

彼は、アフリカかカンボジアのような発展途上国にでも行って、一生を終えようと考えていた。
どんな国でもあの腐ったブタが仕切る国よりはマシだろう……、その思いを抱いて。
だがどういう因果か、運命の皮肉か、彼がたどり着いた国は欲望が蔓延る先進国日本だったわけだが……。

今更贅沢は言えないだろうと、ビリーは流れに流れた。
北へ南へ、西へ東へ。
金は適当なチンピラから巻き上げて、寝る時は公園のトイレで。
そうやって、終わらない休暇を彼はこの国で過ごそうと決めていた……。

だがある日、次は東京に向かってみようと何の気無しに思った。
自分は軍隊挙がりだ、日本語も分かってきた今なら……この国のマフィアにでも雇ってもらおうか、そんな程度の理由だ。
そして半月前、その通過点であるはずの埼玉…………、そこで彼は宿を取った。
目覚めたら、振り切ったはずの地獄が、彼に追い付いていた。

そして、時間は現在の二日前……つまり泉こなたが自ら命を絶ったのと前後する時系列へと進む。
ビリーとみゆきが出会った頃の話へと……。

☆   ☆   ☆

「畜生!!」

これを言ったのは今日何回目であろうか?
通りを塞ぐ何十……、いや何百と言う死者達の群れ。
それに向けて弾丸を数発放つ。

先頭に立つ、オーバーオールで頭髪の無い肥満男が怯んだがそれも一瞬。
すぐに体勢を立て直しこちらへと向かってきた。
残弾は……数えたって仕方がない。数えたくも無い!
どの道突破口を開くのは不可能だ……。
国を出る時には、こっちのような悪夢は無いだろうと思っていたらコレだ。
見つかるのを覚悟でマシンガンでも持ち込むべきだった……っ!

彼はUターン、来た道を戻るがそこにもヤツ等が数を揃えて迫って来る……。

挟まれたっ……!

「日本じゃアメリカ人は無条件にモテるって聞いたが……その通りだなクソッ」

オラウータンみたいな顔をしたかつての同僚に吐き捨てるが、ここに聞く者は誰もいない。
再び踵を返し、今度は裏路地へ入る。
もはや神がいるならよほどビリーが嫌いなのだろう。
目の前にあるのは彼の身長の倍はあるコンクリートの壁だった。

「二度とイエス・キリストには祈らねえ……!」

新鮮な肉を求める、欲望の声がすぐ後ろにまで迫っている。
それもビリーの耳元まで……。

「フン……」

自身を捕らえようとするゾンビの手を掴み────。

「らァ!!」

そのまま背負い投げの要領で壁へ向かって放り投げた。
ゾンビもさすがに脊髄をうてば痙攣はするのだろう。
だが案の定すぐに起き上がり、こちらを睨む。

────だが、

ビリーはゾンビに向かってまっすぐ駆ける。

────彼はすでに、

ヤツはさっきのハゲデブだ、どうりで重かったわけだ。

────行動を

彼はそのままデブゾンビの肩を踏んで

────開始していた。

壁に向けて思い切り飛び上がった。

……掴んだ! 彼の8本の指はしっかりとコンクリートの淵を掴んでいる……。
くどいようだが、軍人あがりの彼ならばここから這い上がるのにそう力はいらない。
しかし……、

「ぐぅう!」

群がってくる死霊の一匹が、彼の足を掴み思い切り引っ張る。

「またテメエか……」

撃たれて投げられた事を余程根に持っているのか、それともやはり食い意地が張っているのか……。
そんなに引っ張るのならば放してやる……だが、

「コイツでも食ってろ」

手を放し、デブに両足を着地させると同時。
思いっきり蹴り放つ。
今度は先ほどより高く跳躍できた。
頭蓋骨が綺麗につぶれる音が足から響くがそんな事はどうでもいい。

ともあれ、今度こそビリーは神様のクソッたれ試練を乗り越えてコンクリートへと飛び立った。


淵に存在しているガードレールを乗り越えると、すばやくブローニングを構え周りを見渡す。
そこは駐車場……煙を上げた車が何台も止まっている。
少し離れた所には、ドライブスルーだろう。ファーストフード店があった。
かつてクソ溜りですごした経験が役に立っているのは本人にとっては何とも皮肉だが、付近にゾンビが一匹もいないのは間違い無い。
もし居たのなら今頃『モテモテ外人のおいしいお肉』があるのだからしゃしゃり出て来るだろう。

「無茶するぜ……」

もしかしたら使える車があるかもしれない。
そう思って数歩進んだその時、車の影から何か黒い物が飛び出し────

グサリ
とした鈍い痛みが腹を焼き付ける。

「な……」

バカな、あの死体共がいない事は気配でも分かった……ならば、こいつは!
いや、刃物を使ってる時点で分かる。
俺と同じ生存者……人間だ!
ぶつかってきた勢いのまま、ビリーは先ほど上ってきたガードレールへと背中を叩きつけられる。
このまま突き落とす気だろうか……?

「××××××!!」

日本語が聞き取れないが、目の前の男が何を目的としているかは分かった。
ヤツの手はビリーの持つ拳銃へと伸びている……。

「グぇっ────」
男がドブガエルのような潰れた悲鳴を上げる。
ビリーの丸太のように太い足が、男の股間を捕らえたからだ。
力が抜けた隙に、ヤツの肩を掴んで、裏路地へと引っ張る。

男は飢えに支配された怪物どもに満たされた裏路地へと落ちていく。
ビリーは振り向きもしなかった。
男の悲鳴に何か、まるでゴムを毟り取るような音がテイストされる。
ビリーは耳を傾けたりはしなかった。

先ほどと同じように、あても無く進んでいるが自分の腹部からは並々と血が溢れていく。
何故だろう?
自分はクソッたれ神様がつくった試練は文字通り足蹴にしてやった。
それにゾンビ達も乗り越えてやった。

────気がついたら、ビリーは灼熱のコンクリートの上で仰向けに倒れていた。

熱を帯びたコンクリートが全身を焦がすが、もはや動く気力もおきない。
そこまで来て、ようやく結論が出る。

(ああそうだな……、忘れていた)

なんでこんな事を覚えていなかったのだ。
簡単な事だ。
あの時すでに分かっていた事じゃないか。
ビリーは薄れ行く意識の中で思う。

(本当にクソったれなのは……神様でも、ゾンビでもねえ)

傑作だ、本当に笑える話だ。

(人……げ……)
「────キャッ!」

こんな状況には、合いすぎるが相応しくないノンキな悲鳴。
それと同時に自分の瞼を絶えず焼いていた太陽の光が、突如遮られる。
わずかに開いた目に、誰かがそばに立っている事が分かる。

「────い丈夫ですか! しっ……りしてください!」

女だ……。
ビリーの居た国では珍しい、パーマのかかったピンク色の髪をしている。
そしてその女は、多分自分の倍近い体重があるビリーを一生懸命運ぼうとしている。
何を言っているのか聞き取れないが、自分の傷を一生懸命抑えている……こんな事をするハイエナはいないだろう。
こんな状況で、ゾンビやさっきみたいなのがうろついている状況で……、とんだお人好しである。
バカとしか言いようが無い、とビリーは思った。

(さっき言った事は訂正だ)

彼は日本に来て、初めて心から笑いたくなった。

(明日生き延びたら祈ってやるよ、キリスト)

☆  ☆  ☆

体が熱い……熱いッ……!
焼けそうだ……。

「み…、み……ず……」

漆黒の空間を、ビリーは漂う。

そこに地面は無い。
重力も無い。
ただ周りの全てが自分を焼き尽くすために存在している、それだけが分かった。

息をするたびに入る空気は喉を……。
もがくたびに触れる風は皮膚を……。
目に映る闇は目蓋と瞳を……。

骨も魂も焦されて行く。

ここで何時間過ごした事だろか?
もうビリーはもがくはおろか、呼吸も目を開ける事も止めていた。
そうすればもう苦痛は感じない。

なぜ自分はこんな所にいるのか、自分はどうやってココに来ていたのか。
もう彼にとってはどうでも良くなりはじめていたのだが……。

「水……」

最後にそれだけを呟いた。

水が欲しい……ここに1滴の水でもあれば……、どう使うだろう?
いまや体で水分を欲していない箇所は存在しない。
もう何もいらない……、水を……水を────

「───────ッ!」

彼の望みが通じたのだろうか?

「────!」

喉から水が溢れ出て、久しぶりに窒息と言う感覚が蘇る。
おかしな話だ、先ほどまで息なんて止めていたはずなのに……。

「────! ────!!」

一瞬、水なんて望まなかった方がマシなのではと思った。
水分が喉から沸いてくると同時に、全ての感覚……主に苦痛、が蘇ってくる。
だがその瞬間が過ぎれば、後に沸いてくるのは歓喜だった。

苦痛を感じていると言う喜び……、勿論ビリーがマゾと言うわけでは無い。
彼はようやく気づいたのだ。
さっきまで自分は落ちていたと言う事を……そして────
今彼は物凄い速度で浮かんでいるのだと!

☆   ☆   ☆

「ゴボッ!」
「きゃあ!?」

目の前に、居た少女が悲鳴を上げる。
最後に記憶に残っている、あのピンク髪の少女だ。
ひどく驚いたらしい彼女は、そのまま持っているコップを落としてしまった。
当然だろう、ただでさえ目の前で男に咽られれば悲鳴くらいは上げる。
ましてや咽ているのは、丸一日以上意識が戻らなかった人間ともなればなおさら。
少女の持っている水が入ったコップが床に落ち、そのまま破片を撒き散らした。

「ご、ごめんなさ……痛いっ!」

少女は落ちた破片を拾おうとして、指を切ってしまう。

(ハン……。おっちょこちょいな救世主もいたもんだ)

☆   ☆   ☆

周りを見渡すと、どうやらここは倉庫のようだ。
この少女が自分を遠くまで運べるとも思えない、あのドライブスルーのものだろう。
辺りにはサンドイッチの入ったケースが積まれ、ビリーの横たわっているのもダンボールを重ねてつくった簡易ベッドだ。

「あの、その……本当にごめんなさい…………。水を欲されていたみたいなので持ってきたんですが……」
「別にいいさ。それよりお嬢さんの怪我をどうにかした方がいいぜ」
「え、いえ。かすり傷ですから。具合はどうです? 気分は悪くありませんか」
「ゾンビになっちまったかもな。一度死んできたんでね」

自分の言った事を冗談とでも思ったのだろう。
クスクスと笑い声を漏らすその仕草、そしてその流暢な英語にビリーはどこか育ちのいい令嬢なのだろうかと勘ぐった。
なるほど、道理で拳銃を持った男を連れ込んだりしたワケだ。

「ちょっといいかなお嬢さん」
「はい?」
「俺の『荷物』は今どこかな」
「にもつ……あ、それでしたらすぐそこに置いてありますよ。お返ししますね」
「…………」

助けてもらって何だが、この女は神聖のバカか?
それとも疑うと言う事を知らないのだろうか。
そんな失礼な事が危うく口から出そうになるのをビリーは堪える。

「お前……、俺が危ねえ人間だとは考えなかったのか?」
「え? …………とっ」
「俺があんたをこのまま撃ち殺す可能性は考えなかったのか、って聞いてるんだぜ」
「あ、ああそんな事でしたか」

ようやく自分の言う事を理解してくれたようだ。
だがビリーは次の言葉に、絶句する事となった。

────あなた、悪い人には見えませんでしたから

「………………」
「ちょっと我慢してくださいね。包帯を変えますから」

言われなくても動く事ができない。
そういえば今、自分は上半身裸だったんだなと、まるで脳内ではタンポポが浮いている幻覚に囚われていた。

「あ、そういえばお腹すいてますよね。ちょっと待っててください、何か食べられる物を持ってきますから」

みゆきの背中を見送りながら、

「………………チッ」

ビリーは思わず舌打ちをしてしまった。

☆   ☆   ☆

絶望しか無い
私達は生きているから

☆   ☆   ☆

「…………ふぅ」

今日一日の疲れを表す溜め息を肺から漏らしながら、みゆきは鉄板の上にポークパティを数枚置く。
スイッチを押せば上下から肉を焼いてくれるタイプのオートグリルマシンなので、すぐに焼き上がりを知らせてくれるだろう。
パティの焼きあがる時間に会わせながらトースターにセサミバンズを二つ入れた。
きっかり15秒後にソレが出てきたら、後はソースやレタスにチーズを乗せてパティの焼き上がりを待つだけだ。

本来なら彼女が数十分かけて作るような料理がここでは二分もかからない……、
そして常温放置しても数週間は腐らない食品が保存されている。
ここはそんな施設なのだ。

「こういった物を他人に食べさせると言うのは…………、正直気が退けますね……」
「何故?」
「─────ッ!!」

思わず焼きあがったパティを床に落としそうになった。
振り返ると、先ほど倉庫に休ませておいたはずの男が紙コップを口に付けながら立っていたのだ。

「少なくとも人間の肉よりはマシだろうと思うけどな。…………あんたのかい?」
何時の間にか入れてきたのか、コーラが入っている紙コップを差し出しながら問いかけられる。
「いえ、それより具合は──」
「あれだけ大寝坊したんだ。どうって事は無い」
「あんなに血を流してたのに……」

人並み以上に医学の知識はあっても、こんな所では消毒して包帯を巻く程度しかできなかったのだ。
目の前の男性の強さには驚かされる。

「あんたのおかげ……かな」
「でももう少し休んでた方が……。丸一日、意識が戻らなかったんですから」
「どうりで腹が減るわけだ」
「あ、少し待っててくださいね。もうすぐですから」

こちらの警告は一切聞き流すつもりらしく、男は持ってきた椅子に腰をどっかりと落とす。
先ほどまで虫の息だったのがウソのように思えた。

☆   ☆   ☆

食事をしながら、二人は自己紹介を終えた。
勿論ビリーは名前の事以外は話さなかったが。
そして今、ビリーは指についたソースを舐めながら問いかける。

「テレビは無いのか? ラジオでもいい」
「え……?」
「この状況について、何かの説明はされていなかったか?」
「いえ、生憎と何も……。テレビもここ数日見ていなかったものでして……すいません」

ビリーの問いかけに対し、少女──確か名前は高良みゆきだったか──は心底申し訳無さそうに顔を伏せてしまう。
何を謝る必要があると言うのか、そこは理解できなかったが。

「確か最後に見た時……、『地獄が溢れて、死者がこの世に蘇った』としか……」
「………………」
「ご、ごめんなさい! そうですよね、そんなバカな事なんて……」
「────その通りだったらいいのにな」

心底そう思う。
自分だって二回死んだ身だ。
そんな事だってありうるかもしれない。
それに、実を言うと彼もまたみゆきと同じ放送を見たのだ。
おそらく日本には似つかわしく無い、くだらない宗教番組……。
だがそこで、その説を唱えた司教の経歴がまた面白い。
元SWAT隊員……、現在はヒンドゥー教の教祖、おまけに黒人ときている。
自分の境遇もあったのだろう。
彼は何となくその司教に親しみを感じていた。

「あの……ビリーさん、ですよね。もしかしてあなたは何か───」

ビリーは思う。
もし本当にコレが、人の悪意など入り込む余地の無い出来事だったなら……、神様とやらのお裁きならば────。
だが彼は知っているのだ。
この事態を引き起こしているのはれっきとした悪意、それも人の命を商品としているクソッたれ企業の……!

「ご期待の添えなくて悪いがお嬢さん。俺も何にも分からねえな……」
「そうです…よね……」
「なぁ、お前知り合いは───」

何か話題を変えようとした瞬間──

「でも実際、この状況は天罰かもしれません」
「何だって?」

──みゆきの眼鏡が蛍光灯の光を反射させ、彼女の瞳を見えなくした。

「我々人類は調子の乗りすぎました。森林伐採、化学汚染、生命の乱獲……、数え上げればキリがありません」
「………………」
「地球を一つの生命だと例えるなら私達はさながらウイルス……、いや、それすら劣る寄生虫でしょうね」
「…………ハ、それで地球が怒って俺らを滅ぼそうと?」
「そうです!」

断言するみゆき。

「自然環境を大事にしないから人類は……」

彼女の、まともとは思えない演説は続く。
ビリーは先ほどの慈愛に溢れていた彼女とは違う何かを、存在しなかった何かを確かに感じ取った。


「だから、私達もむやみに抵抗したりせず、殺されるべきなのかもしれませんね……クスクス」

我慢できなくなったのか、静かに笑いを漏らす。
それは先ほどの物腰落ち着いた仕草などでは無い。
ビリーが最も嫌うタイプの笑い方だ。

「フフ、クスクスクス……、いえ。きっと食べられた人は神様に見捨てられたから。
でも私達は生きている、これは私達が選ばれたからですよ。あなたも良い人そうですからね?
神様に選ばれたんですよきっと。ええそうです、死んだ人は愚か者だったから、愚物だったから……」
「少し休んでおけ」
「きっと外で歩いている方々は神様のしもべなんですよ……、きっとああやって」
「休んでおけ、みゆき」

相変わらず狂気染みた笑いをあげるみゆきに、ビリーは一言だけ強く言った。
口元は変わらぬまま、ビリーが居た倉庫へと去ってゆくみゆき。
だがその瞳は…………笑ってなどいない。
『ある感情』が彼女を支配している。

「ビリーさん……私はあなたを良い人だと思っているんですよ。人類の中でも生き残るべきだとね……、
それなのに私の言う事は…………何で聞いてくれないんですかっ!!」

叫びながらサンドイッチの入ったケースを、足で思い切り蹴っ飛ばす。
食べ物を粗末に……、こんな事は普段の彼女なら絶対にありえない事だ。

「そこら辺にしておけ。お前の事も分かった」
「ホントですか?」
「ああ……」
「クスクスクス」

再びみゆきの背中を見送りながら。

「イカれてるぜ……」

彼女に聞こえないようにそっと呟いた。


扉の向こうで───

「ビリーさん……、どこまでもどこまでも、思ってた通り、以上に……本当に良い人ですね……ウフフ」

みゆきが笑みを浮かべていた事をビリーが知るよしは無い。

☆   ☆   ☆

何か楽しい夢を見ていた気がする。
だが現実に戻るとそんな物はすぐに忘れてしまった。

あれからどれくらい立ったのだろうか?
暗い倉庫で、みゆきがノソリと体を起こすと──

チチチ……
「きゃ……!」

多分みゆきが生きているとは思わなかったのだろう。
近くに居たネズミが驚いて部屋の隅へと駆けて行った。
眼鏡をかける。

(………………………)

だが彼女は立ち上がろうとはせずに、その場に蹲ってしまった。
何も言わず、ただ床の一点を見つめる。
その瞳は、先ほどの物とは違う、ましてや普段のみゆきを知る者なら別人と疑うのでは無いか……、
こなた辺りだったら某もっこすのフィギアを彷彿させたかもしれない。
それだけ今の彼女はマネキンのように、無機質だったのだ。

「ヤバいぜ、準備しな!」

倉庫の扉が開きビリーが入ってくるまで、彼女はその体勢のままだった。

☆   ☆   ☆

外はすでに日が落ちているようだ。
この時間に睡眠をとる事は本来良くないのだが、今はそれどころでは無い。

「ああっ……」
「シィ!」

ビリーと一緒に入り口を見たみゆきは口を手で押さえながら唖然とする。
目の前の光景には、もう一度意識が夢の中へ飛びそうになった。
最も、現状はすでに悪夢そのものなのだが……。

「さっきまでは三匹だったんだけどな……」

そこには電源の切れた自動ドアのガラスに、20体近いゾンビが隙間無く群がっていたのだ。
窓にも死者が張り付いてこちらに食いつかんとしている。

「な、何でこんなに……」
「俺たちの匂いを嗅ぎ付けたんだろうな。ヤツラは鼻が利くらしい」

どっちにしろ突破は無理だな……、としきりにガラスを叩く連中を見ながらビリーは検討をつける。
こんな所のガラスでは、あと数分程度で破られるだろう。

「こちらへ!!」

何を焦ったのだろう。
振り返るとみゆきが先ほどの倉庫へと走っている。

(まさか……、あのお嬢!)

自分も倉庫へ入ると案の定、彼女は運入口の鍵を開けようとしていた。
「待てみゆ────」
止めようとしたがもう遅い。
「キャアアアアアアアアッ!!」
鍵が外される音、そして隙間から伸びてくる無数の手……。

すんでの所でビリーがみゆきを引っ張り出さなければ良くて八つ裂き、悪ければ動く死体の仲間入りを果たしていただろう。
だがそれも時間の問題かもしれない……。
完全に開かれた扉の向こうにも、やはりヤツラが敷き詰められていた。

「ヒ……来ないでください、来ないで、来ないで!!」
「神様の使いに失礼じゃあないのか」

自分で招き入れたんだろうが、とまでは突っ込まない。
それだけ言ってビリーはみゆきを倉庫の隅へと押しやる。
唖然と自分を見上げるみゆきの目の前で……

「絶対に動くなよ」

備え付けられていたカッターを使い、自分の手首を切った。

☆   ☆   ☆

「思った通り……、だな」

プレップスペースに戻りながら、一応死霊達の動きに注意していたが……
どうにか全員自分の所に引き付けられてくれたようだ。

ゾンビ達の思考回路が、いたって単純である事を見越しての賭け。
それに勝ったのだ。
みゆきをヤツラの視界の外へ追いやり、そして自分は血の匂いを最大限に振りまく……、
つまり自身を囮にしてみゆきを助けた形になる……。

「俺もヤキがまわったかな……」

そう愚痴りながら、目の前の連中に銃口を向けた。

二発、三発、四発と銃声が響く。
そのたびゾンビ達の眉間や鼻先に穴が開き後ろに弾けた。
七発、八発、九発……。
危うく掴みかかられそうになったので、後ろに下がって距離をとった。
十一発、十二発、十三発……。
カウンターまで追い詰められた。
十七、十八……。

ガラスの割れた音が背後から響いた。
一瞬だけ目を向けると、あれから更に数を増やしたらしい。
50近いゾンビが店内へなだれ込んで来ていた。

飛び出した銃身が、弾切れを知らせる。
そして前後から迫ってくる死霊の群れ。
彼はブローニングのマガジンを取り替える。
正真正銘、最後のマガジンを……。

済まし顔で、彼はカウンターに供えておいたプロパンガスボンベ……それに狙いを定め、そして────

 

轟音。


☆   ☆   ☆


倒れながらも、脇に掴みかかろうとするゾンビの鼻っ柱をへし折る。
だが表情は呆れ以外の何物も浮かばない。

「……お次はなんだぁ?」

悪名高い日本のスーサイドアタックを食らわしてやろうと思った矢先……。
自分に群がるゾンビを蹴散らしてくれたのは、壁を破って現れた軽トラックだった。
こんなアホ臭い状況、アメリカのコメディでも存在しない。
そしてその運転手は……。

「乗ってください! 急いで!!」

この状況を作り出してくれた、素晴らしくお上品な令嬢だった。

「言われなくても」

ビリーはすぐに転がる死体を踏みつけ駆け寄った。
横目に映るのは、衝撃で歪んだボンベ。
耳にはそこからガスが漏れる音が……。

「俺に代われ!」

すばやくトラックを後退させ、その場を後にする。
ドライブスルーからある程度放れた時……。

目に映る閃光、そして先のとは比べ物にならない大音響……、トラックを揺るがす振動。

普段だったら、ハンドルから手を放して奇声の一つでも上げていただろう。
振り返ると数十秒前は自分達が避難していた施設が、巨大な合同棺桶となっていたのだから……。
闇に染まった空を、更に黒く彩る黒煙が遠くになって行くのを見ながら、

「日本じゃあ────」爆弾テロってのはどの位食らうんだい?

そんな軽口を押しとどめた。

みゆきは泣いていた。

声を出さずに、グズりながら。

つい数時間前のように。

『この状況は天罰かもしれません』
『きっと食べられた人は神様に見捨てられたから』

そんな狂言的な事を永遠と語り続けていた時と同じように。

その言葉の意味する所は最初から分かっていたが、彼はそれでも『ああ、やはりな……』と感じてしまった。

 

軽トラックは、家族を失った少女を助手席に、更に速度を上げた。
まるで逃れようの無い何かから必死に抵抗するかのように……。

☆   ☆   ☆

かつては人で賑わった商店街……。
だが今や屍が所々で徘徊するのみ、乗り捨てられた乗用車や路上に討ち捨てられたゴミの数々が街の惨状を語っていた。
だが黒煙を上げる車が多い中、奇跡と言って良いほど無傷なパトカーが一台ある。

その脇をみゆき達が乗る軽トラックが通り抜けた瞬間。

────パトランプが灯った。

「こ、んな…時、にも……。挑戦されるなんて、お姉さんビックリだあアハハ……!」

そしてエンジン音が響いた。

☆   ☆   ☆

「本当に何処も怪我していないんだな?」
「はい、間違いなく」

三度目の質問に、同じ答えを返す。
そしてそれは真実。
みゆきはあの襲撃でも運良く、噛み付かれる事はおろか引っ掻かれもしなかった。
つまり、それによる感染は防げたと言う事になる。


夜とは、こんなにも暗いものだっただろうか?
殆どの人間が死に絶えた今、商店や民家の窓から光が漏れる事も無い。
街灯や車のヘッドライトの光が、これほどまでに頼り強く感じたのは生まれて初めての事だった。

だが外の不気味さより、みゆきは迷っている事があった。
そう、先ほど彼に対してとってしまった態度……。
それについていま謝るべきか否か……、ハンドルを握るビリーの顔をチラチラと窺いながら考える。

少し迷ったが、やはりできるだけ早めに謝ろうとして──

「ビリーさん、先ほどは……」
「もういい」

言葉を途中で遮られた。
他人の失敗を後々まで引っ張らない、望ましい考えである。
ただビリーは謝罪の矛先を、微妙に勘違いしているらしく……。

「結果として、俺はあんたに助けられたんだ。遅かれ早かれヤツラは進入してきただろうしな……」
「はい、でももう一つ謝りたい事が…………」

運入口を開けて危機を拡大した事、それに関しても勿論謝るつもりだった。
しかし今、それ以上に彼女の心を締め付けているのは……。

「私、その、どうかして……、ビリーさんにも…酷い事……」

そこまで言った所で、ビリーの口元に笑みが浮かぶ。
まるで、『ああホント、世間知らずなお嬢様だ』とでも言いたげな……。

「謝る事ですらねえな」
「え……?」
「『近い人間が死ぬ経験』ってのは俺にもあるんでね。慰めにはならんだろうが、お前の気持ちは理解できる」

────ああ、やっぱりビリーさん、最初から分かっていたんですね

高良ゆかり。
みゆきの母親である彼女は、死者達の群れから逃げ遅れたみゆきを逃がそうと、ヤツラに立ち向かった。
その結果、すんでの所でみゆきは逃れたものの、ゆかり自身はゾンビ達に掴みかかられ、


生きたまま貪られたのだ。


みゆきは、強い人間では無い。
引き裂かれた服の間から、肉を少しずつ少しずつ引きちぎられ、まるでスプーンでプリンをすくうかのごとく内臓をほじくられる母親……、
それを目の当たりにした結果、『これは人類への天罰なんだ』、『母親の死は理不尽などでは無く仕方の無い事』
と思い込もうとしたみゆきを、果たして誰が責められるだろうか?

だが心のどこかでは、狂うまいとする何かがみゆきの崩壊を防いでいた。
だから、せめて友達を助けようと着の身着のままで外へ飛び出した。
その事も……

────全て読まれていた。
そう思った途端、みゆきの体からは自然に力が抜けてしまう。

「神様ってのは基本的クソったれだ。讃えさせるだけ讃えさせて、イザって時には見捨てやがる」

みゆきの顔を決して見ようとはせずに、ビリーは続ける。

「だから今回も神の仕業なんかじゃねえ。神様以上の『バカ野郎』が引き起こした事だ。
……だから、アンタの友達にも死んでいい人間なんて誰一人いねえよ」

まるで繋がりの無い陳腐な言葉。
だがそこには何か強い物が確かに感じ取れる、少なくとも今のみゆきにはそうだ……。
決して聖職者ぶった人間が語る、ツギハギだらけの悟りでは無い。
何故だか、自然とまた瞳から雫が溢れて足元へと落ちる……。

「だからだ、……みゆき」

名前すらも数時間前知ったような自分にここまで尽くしてくれる。
自分にとって都合の良い現実に縋り付こうとしてくれた自分を引き戻してくれたビリー。
彼に対してとても暖かい物を感じる。
『恋愛感情』だの、それとはほど遠い、そんな言葉で言い表しては勿体無い気持ちを……。

「とりあえず『イズミコナタさん』とやらの家の場所、それを教えてくれ」

実は今まで適当に走っていたビリーなのであった。
笑う所では無い……でも……。

今だったら、笑っても母親は許してくれるだろう。

そう思った。

☆   ☆   ☆

「ん?」

バックミラーを見て、思わずビリーは声を漏らす。

「どうかしまし……あ」

振り向くと、一台のパトカーが猛スピードでこちらに付いて来ている。
パトランプは灯っているものの、何故か警報は鳴らしていない。
だからミラーに映るまで気付かなかったのだ。

救援だろうか……、と淡い期待を抱く間も無く、軽トラックと隣接してしまった。
見てみると乗っているのは一人、眼鏡をかけた婦警だ。

「成美さん……」
「知り合いなのか?」

返事を聞く暇は無かった。
ビリーはギョッと目を見開く。
市民を守るはずの婦警、それも知り合いのはず。それが……

────自分達に銃口を向けている

「伏せろおおおお────!!」

みゆきの頭を抑え、一気にアクセルを踏み抜く。
それと同時に銃弾がサイドガラスを割り、ビリーの頬を掠めた。

(大した腕前だクソッ!)

ビリーもハンドルを放し、お返しとばかりにブローニングの弾を数発撃ち込んだ。

「待って!」

後ろに下がっていくパトカーに、更にぶち込もうとするのを止められた。

「はなせ! この状況が分かってねえのか!?」
「お願い! あの人ただハンドルを握ると性格が変わるだけで──」
「じゃあお前の知り合いはハンドルを握ると『つい』併走車に拳銃ぶっぱなすポリ公だってのか!?」
「違う……、きっと、何か訳が……」
「追い付いてきやがった……、おい、舌を噛むなよ!」

再びアクセルを全力でかけるが、軽トラックとパトカー……。
チキンレースの結果など考えるまでも無い。
パトカーは途中で昼寝などはしないだろう、それは良く分かっている。

(…………ましてや、あの婦警の目は──)

みゆきの時とは違い、『狂おうとしている』目では無かったのだから。

☆   ☆   ☆

運転席に座った成美ゆいはリボルバーに弾を込めなおす。
その目は充血しきっており、息は荒い……。
その様は、まるで獲物を見つけて興奮するヒョウを彷彿させる事だろう。

「ゼィ……ゼイ……ヒヒ、私に、挑戦をふっかけた…だけじゃなくて……」

歯をむき出しにして、涎を垂らしながら笑うその姿。
かつての明朗闊達な彼女は見る影も無い。

「右側通行、銃刀法違反と発砲……ヒヒ、スピード違反……
イヒヒ、ひひ…い、
良い度胸だねえ、あは、びっくりだよー、そんな事をする子は────死刑だよ!」

☆   ☆   ☆

「ビリーさん……」
「そのままでいろ、顔は挙げるなよ!」

言い終えた途端に────

「うおおッ!?」

────背後から突き上げる形で、パトカーがぶつかって来た。
一瞬、後輪がバンパーにぶつかりイヤな音を立てる。
このままパンクさせるつもりだ……!

(────させるかっ!)

すばやくハンドルを右に切り速度を落とすと、再びクレイジーパトカーと並んだ。
ドンパチがお好みかと再びブローニングを構えるが…………、婦警の狙いは違ったようだ。

────そのままパトカーごと、側面から体当たりをされた。

ガードレールに押し付けられ火花を上げる軽トラックの前に、電柱が迫ってきた。
慌ててブレーキ、ハンドルを回して回避行動をとる……間に合わない!
次の瞬間にはサイドミラーを電柱に持っていかれてしまった。
あと一歩回避遅ければ今頃は……。

危機はギリギリで脱したが、未だにパトカーは左にピッタリと張り付いている。
ビリーが運転席……、つまり向かって右に座っている事を考えての事だろう。
この至近距離で、運転席に座ったままパトカーを撃っても当たるのはせいぜいパトランプ。
かと言って助手席から身を乗り出して、運転をおろそかにしたら目も当てられない結果になるのは間違い無い。
つまりこっちからは反撃手段は、相手と同じく体当たりしか無いのだが……。

「マズい……」

目の前にはデパートを突き当たりとしたT字路。
このスピードでは曲がりきれない。
かと行ってスピードを落とす訳にもいかない。
おそらく横の婦警はその時を待っているのだから。
そのままビリーはアクセルペダルを踏みしめ、デパートの入り口へ向け加速した。

「みゆき」
「なんでしょ─」
「舌、噛むなよ!」
「え まさか、ウソ」

絶叫。
そのまま入り口の果実置き場に突っ込み、パックに包まれたイチゴやらりんごが綺麗に宙を舞う。
それらが全て地面に落ちるまでの光景がスローに映った。
シートベルトが肩に食い込んで咳き込みたくなったが、今はそれどころでは無い。
むしろ骨にヒビが入らなかったのを感謝すべきだろう。

「急げ!」

背後から続けざまに聞こえてくる銃声。
さすがのみゆきもすぐに我に返ったようだ。
すでにベルトは外してある。
ビリーはみゆきの手を取り、停止したエスカレーターをか駆け上がるが……。

「ウっ」
「ビリーさん!」

みゆきの手を握る方とは反対の、右手に被弾した。
持っていたブローニングがエスカレーターから転がり落ちて行った。

「構うな、上れ!」
「でも……」
「いいから走るんだ!!」

状況は……最悪を更新中のようだ。

☆   ☆   ☆

「いやー、少しでも減速したら正面から狙い撃ちしようと思ってたんだけどねー」

銃口をデパートへと向けたまま、ゆいは何度もニューナンブの引き金を引き続ける。
そのたびカチリカチリと言う音がするのを、弾切れだと気づくのにしばらくかかった。

「まさか、そのまま突っ込むなんて……、お姉さんびっくりだー、アハハハハ」

パトカーを降り、地に立つ成美ゆいだが……、その姿は遠目からではゾンビと見分けがつかないだろう。
眼鏡はヒビ割れており、制服の所々は血で染められ……、骨折した足首からは骨が突き出ている。
そして割れた額から流れていた血液は、すでに乾いて顔にこびり付いていた。
ゆいがゾンビとハッキリ違う点と言えば、ブーメラン型に吊りあがって笑みを浮かべるその瞳だけだろう。

「アハ……アハハ、そういえば、さっきアレにみゆきちゃんも乗ってたよね……」

笑いながら、フラフラとよろめきながら、ゆいはデパートへ向かう。
その途中で蠢くゾンビに対し、銃口を向ける。

「つまり、無免許運転、だよね? あんな良い子がそんな事するなんて……」

引き金を引いた。

「殺さなきゃダメだよね、うん。ああもう、殺さなきゃいけないのが、多すぎるよー大忙し」

アハハアハハと言う高笑い、そして銃声が辺りに木霊し続けた。

見ると、デパート入口にもゾンビがたむろしている。
こっちに気づいているのかいないのか……、どっちにしろ彼女にとってはただの的でしか無い。

「ああもう、じゃまだヨォー」

パン……、パン……と言った乾いた破裂音が響くのと同時。
一体は糸の切れたマリオネットのようにあっけなく、
もう一体はまるでブレイクダンスでも踊るかのように回転しながらその場に崩れ落ちた。

「キャハ♪ ゆいさんすごーい!」

ガンシューティングゲームは、こなたに退けを取らない腕前になるほどやり込んで来た。
しかしこれほどまでに爽快感を感じたのは初めてだ。
リアルな反動だけで無く、硝煙の匂い、リロードの重み……全てが彼女を高揚させている。
人を撃つのがコレほど楽しいとは思わなかった。

(こなたと会ったら、今度は負けないぞ~。鬼ごっこダ!)

ゆいが勇んでデパート内へ足を踏み入れると、軽トラが衝突した箇所以外にも随分荒らされているのが分かる。
電気は灯っていないので良く分からないが、奥の精肉コーナーでは人影が群がっているのも見えた。
おそらく、『ヤツラ』は肉ならば何でもいいんだろう。

「み~ゆきちゃ~ん……、外人のおにいさ~~~~ん、どーこーだー」

同じようにエスカレーターをのぼっていく。
途中まで続いていた血痕が、突然消えているのは相手が追われるのを懸念してだろう。
一段上がるたびに足から滴る血が新しい血路を作り出すが、当然痛みなど無い。
その事については、今の自分は無敵だからだ! と当の本人はそんな解釈をしているのだが。

「二人ともさっきはお姉さんが悪かったよー、仲直りしよーよー、一緒にゲームやろうよー。楽しい楽しい鬼ゴッコだヨー!
かくれんぼかなー?」

目の前に広がるのは、どうやらコンピューターソフトフロアのようだ。
隠れる場所ならいくつもある。
しかし……、ゆいはすぐに反転するとそのまま三階へと向かう。

「アハハ! ホラ出ておいでってばあ!! もれなくゆい姉さんが撃ち殺してあげるからさあ!!」

やがて三階までたどり着いたゆいは辺りを見渡す。
二人の姿は何処にも無い。
しかし……、彼女の顔に浮かぶのは狂気の笑み。
ニマー、と言う効果音が聞こえてきそうなほどの……。

「ど~こかな? ど~こかな? 鬼さんはど~こかな? こ~こかな~?」

エスカレーターから三階、降り立った婦人服売り場から紳士服フロアへと向かう……。
それは、本能での察知か。
それとも警察官としての感が冴えたのだろうか?

タッタッタと、足音が近づいてくる。
ゾンビならば走ったりしないし、何より音に特有の湿り気が無い。
そして先ほどの大男のものにしてはやけに音が軽い。
つまり……。

「成実さん!!」
「アハ、みゆきちゃん見ぃ~っけ」

振り向くと息を切らせた獲物が一人……。
高良みゆきがそこに立っていた。

☆   ☆   ☆

「アハ、アハハハハハー」
「成実……さん……?」

みゆきは見てしまった……。
割れてしまった眼鏡の奥に光る、ゆいのその瞳を……、その狂気に蝕まれた充血した眼を!
先ほどまで一緒に居たビリーの言葉────

『みゆき、アイツはもう狂っている』
『逃げろ』
『始末は俺がつける』

それが一瞬真実なのでは無いか?
ゆいはもう手の施しようが無いのでは?
そんな考えが頭を過ぎる。
しかしそれに対しての自分の言葉────

『いくらなんでも殺すなんてダメです!』
『成実さんは……成実さんはきっと分かってくれます!』

そう言い放ち、ビリーの静止を振り切ってここまで駆けつけたのだ。
震える足に力を入れて、何とか意識が遠くなりそうなのを堪えた。

(大丈夫……、成実さんは、きっとちょっと動揺してるだけ……)

「待ってください成実さん! 話を聞いて!!」
「アハハ、みゆきちゃんだ~」
「ダメです、それ降ろして! あ」

ゆいの手に持つものから閃光が放たれたと思ったら……。
コメカミに衝撃。
唖然としていると、フレームを失った眼鏡が床に落ちた。

ツールボックス

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