ID:xEE8KXOa0=ID:pwfhcR0F0氏:みwikiの消失

はて? さっき思い浮かんだ疑問はなんだったんだろうか?
ふとした瞬間に浮かんだ疑問――よくあるようで、でもやっぱりそうでもないようなこの刹那。
彼女こと高良みゆきは、幾分の動揺と期待がごっちゃになった、それはそれは複雑な心境のなかにいた。

こなた「――・・・んんんっ? なんだっけ?」

彼女の視線の先には友人である泉こなた。目の前には、雑然とした机の上に置かれたプリント。学校の宿題のようだ。
見てみるとほとんど回答は埋まっていない。いかにも泉さんらしい、と彼女は思ったという。
取りあえず、そんな状況を前に、泉さんこと、こなたは思考に耽っていた。
何か・・・、何かが引っかかる、と。

みゆき(――お願い!今度こそ・・・)

思わず手を組んだ。これで通算5度目のチャンス。
これを外せば今日も諦めざるを得ない。
そんな、真摯に祈る彼女はなかなか様になっていた。
時代と場所が違えば、名物シスターとして名をはせたかもしれない。そんな風に私は思った。

こなた「ま、いっか・・・どうせたいしたことじゃないだろうし・・・」

だが、彼女の期待とは裏腹に、疑問は空中分解してしまったようだった。
残念! みゆきのチャレンジは終ってしまった!!

みゆき(・・・ハァ、また、明日になるんでしょうか)

肩を落とし、その場を後にする。彼女の頭の中には柊家。
夜も随分更けてきたが、チャンスはあるかもしれない。そう考える彼女だった。

――追伸。

申し遅れました。私は神。名前はまだない。
有り余るようで人並みな知識、人間界のユーラシア大陸の極東の島国の、さらにさらに一部に限り、
現象に影響を与えることができる力とか、活字にすれば、なかなかイカしたパワーを持っている。年齢不詳。
なぜ生まれたのか? それだけは鮮明に心の中に残っている次第。

(神様、どうか我々を――)

所謂、守り神的な存在を期待されてというか、土着的な日本人のゆる~い信仰が長い時間、真摯不真面目含めて集まり、
結果、一個の意識の集合体として私が生まれた・・・ようだ。おかげで物理的な制約にも縛られてはいない。
この通り無色透明、浮遊自在。現象行使もお手のもの。
ただし、与えられる影響は単純。意識の集合体ゆえに、潜在、表面に関わらず『意識』そのもの影響を
もたらす事はできるけど、神様っぽい、創造破壊などの行為は一切出来ない。ご期待に沿えず、申し訳ない。

覚えてる限りで『何のために私はいるんだろう』そう考えるようになったのが、人間時間で言うつい2日前。
人間の集合意識である私には勿論感情がある。何をすればいいのか。なぜ私はここにいるのか。
人間を見守るだけの退屈な作業は私の思考をよく停止させた。何せ、日がな一日『見る』だけである。退屈この上ない。


――・・・で、あんまりに退屈なので、遊んでみることにしたのである。



人選に特に意味は無かった。たまたま歯科クリニックの前でうろうろしている挙動不審な女性が目に留まっただけだ。
単純なスイッチ操作のごとく、素早く意識を接続(ON)。介入。本来は合うこともない彼女の意識の『チャンネル』の一部を
私と同じ波数に合わせる。こういう時だけは神様っぽく、一秒も掛からない。

「パンパカパーン! 突然ですが、あなた幸運にも今回『神様の栄誉ある実験体』へと選ばれました!
おめでとうございます!!ご感想は?ご感想は?」

勿論、私の声は音としては現れない。直接彼女の頭の中に「言葉」と「理解」を送っているのだ。
彼女からすれば「頭の中に声がする」が表現的に一番近いだろう。

みゆき「・・・?」

キョロキョロ辺りを見渡す彼女。しかし、当然ながら声を掛けている人物などいない。・・・正確には見えない。
私は彼女の言語処理能力には介入したが、視覚認知能力には介入してないからだ。もっとも視覚認知に介入したとしても
私の姿はもともと存在していないので見えないのだが・・・。

辺りをキョロキョロと不思議そうに見渡す彼女。
しばらく誰が自分に声を掛けたのかを探ろうとしていたが、やがて、勘違いだと思ったのか、再び視線を歯科クリニックに戻した。
どうやら入るか、入らないか迷っているようだ。そして、意を決し、入るのを決したよう様子。
その姿はさながら、まるで娘さんをお嫁さんにください、とこれから懇願にいくリーマン男性(27歳)のようだった。

・・・どれ・・・、いっちょ、やってみるか。

初めての悪戯に、私は新鮮さと興奮を覚えつつ、再び彼女と、そして人々の意識に介入を始めた。


こなた「ん~~~~~~~・・・・?????」

お昼。私は昨晩に引き続き、強い違和感に襲われていた。なんだっけ?この何かを
思い出しそうで、思い出せないこの感覚。例えるなら都道府県の名前当てクイズで
見たことある形の県が出題されて、名前も知ってるはずなんだけど、結局でない。そんな近視感。

かがみ「どうしたの?こなた。変な顔して」

いつの間にか側にはかがみ。

こなた「いやぁ・・・、な~んか忘れてるような気がするんだけど・・・
それが何なのか思い出せないんだよねぇ・・・・」

正直気持ち悪いの一言。小骨が喉につっかえたというか、なんというか・・・。
堪りかねたので机にだらーっと、うつ伏せてみる。

つかさ「あるよね~そういうことって。
私クイズ番組でいっつもそればっかりだよ!」

かがみ「あんたの場合、ま~たゲームの発売日がどうとかじゃないの?」

こなた「・・・違うと思うんだけど・・・」

首を少し起こし、窓の外を眺めてみる。白い雲に、青い空。疎らに広がる建造物。人影。
よく晴れた心地の良い天気。どこにも変化はない。・・・だったけども、私の心はあの空のように
澄み渡るわけもなく愚鈍なまま。なんなんだかねぇ・・・。

やがて、つかさの一言から始まったいつもの雑談で、どうでもいいような、でも大切なような、
そんな私の疑問は再び宙へと解けた。


――時は同じく、教室。
その様子を真剣に見守る女性がここに一人いた。彼女こと高良みゆきである。
生徒達、そして彼女の友人達である泉こなた、柊かがみ、つかさ、いずれも彼女の存在に気付くことなく、
延々と出口の無い雑談を楽しんでいた。彼女が数メートルという距離にいるにも関わらず。
彼女を見ると、少し寂しそうな表情。無理も無い。

私が彼女と、人々の意識に介入してちょうど一週間。ずっとこんな調子が続いている。
私が彼女と人々の意識に介入して何をしたのか? 答えは単純である。

①彼女こと高良みゆきに関する、あらゆる要素に対する認知、記憶への接続を不完全ながら、人々の意識から切り離した。
つまり、彼女は実際には『いる』が、認知されないがゆえ『いない』こととなる。

②言語能力、感覚能力も同様である。彼女の言葉は音となって発生はするが、
認知が起こらないため、聞こえていないのと同様に扱われる。また触る、叩くなどの行為も
物質的な影響は起こせるが、基本的には同様である。

解除方法は単純である。


「彼女の『存在意義』が強く意識されること」


以上。ただし、これは独自性だけに頼るものとする。
簡単に言えば、彼女でしか持ち得ないアイデンティティが意識された時のみである。

・・・これは、私としては割りとやさしい難易度を設置したつもりだった。そして彼女にこの状況を
ファミコン時代のボスキャラのように、姿は見えど、声はする、で説明したのがちょうど6日前。
当初こそ、持ち前の天然さという名のボケっぷりで、単なる幻聴と、楽観的(?)に捕らえていたようであったが、、
母親にも友人にも教師にも――さらには動物でさえも、認知されないと確認すると、元々聡明なのもあったのだろう、
すぐに自分の状況を理解した。・・・が、彼女は今だ解決の糸口を掴んでいないようだった。

再び彼女の顔を覗く。このまま一生気付いてもらえないのかもしれない、と見るからに不安が表情に滲み出ている。
だが、焦る気持ちとは裏腹に手段らしき手段はない。声も、接触も、書いた文字でさえ認知されないので、当たり前だ。
思い出してもらえるのを待つだけの受動的な存在。

みゆき「あの~、すいません~!!」

何十回目になるだろうか。恐らく彼女にしては珍しい大声。
だが、そばにいる誰も気付いた様子はない。あるものは机に伏せ、あるものは話に没頭し、またあるものは持ち込んだ漫画を読んでいた。

・・・そんな彼女を見て私は楽しんでいるか?と質問をされると、案外そうでもない。
正直、私もいい加減、飽きてきた。というのが本音である。彼女の友人、泉こなたが何度か彼女の
『存在意義』を強く意識しそうになったのは中々面白かったが、盤面は相変わらず変わりない。
なんという退屈さ。いや、設定したのは私なので、単純に私のミスなのだが・・・。


あまりにもつまらなくなってきたので、ここで私は、自分から盤面を動かす駒を作り出した。
柊つかさの意識に接続。介入。私の言葉をそのままダイレクトに意識へと刷り込む。疑問の内容はこうだ。

「忘れてる何かについて」


―――――


はははっ、それはないよ~っ。――・・・あれっ?、そういえばさ・・・え~と」

手羽先の肉をどこまで食べるか、という至極どうでもいい話の内容が、
ちょうどかがみの「全部食うでしょ」という意見にて終着しそうな雰囲気を見せる頃、
ふとつかさが、何か思い出したように切り出した。

つかさ「え~~っと・・・。え~と・・・」

指を唇の下にあて上向きに何か考えるつかさ。自分から切り出したのは良かったけど、
どうやら何を言いたかったのか失念している様子。

つかさ「なんだっけ・・・? こなちゃんじゃないけど、忘れちゃった・・・」

かがみ「どうしたの? こなたもあんたも? なんか忘れてることでもあるの?」

首を傾げるかがみ。

「ない、と思うんだけどねぇ~。何か、何かあるんだろうけどねぇ・・・きっと。
例えば5限の宿題忘れてかがみの写そう、とかなんとか」

かがみ「・・・あんたねぇ・・・」

呆れた様子のかがみ。いやぁ、忘れてないけどね、一応。
でも、この付きまとうような違和感はホント、なんなんだろう?
つかさにつられ、少し物思いに更けていると、再びつかさが話を切り出してきた。

つかさ「でもさぁ、どうして人って、言おうとしたこと、忘れるんだろうねぇ?
でもその割には、大切なこととか、ふとしたときに思い出したりするよね?」

かがみ「そう言われてみればそうね。なんでなんだろ・・・」

「確かに言われてみると不思議だよね~。なんでなんだろうねぇ?」

まぁ、分かったってどうしようもないんだけどさ。

「ねぇ『   』さんは知って―――――あ」

―――うん、思い出した、か。
つまりはこれが彼女の――アイデンティティ、・・・ということらしい。
なんとまぁ・・・コメントに困るが、まぁいいか。おめでとう!高良みゆき君!

敢えて声を彼女に投げかけないように留意し、
彼女と、そして人々の意識のズレを修正した。
相変わらず時間は掛からない。膨大な処理はほぼ一瞬にして終った。
こういうところだけ神らしいのはしょうもないが・・・。まぁ、良いだろう。
いい加減罪悪感の様なものも感じてきたし、適当なところで手を打って置くのが賢明だ。

こなた(あ、そうそう、そうだよ!!思い出した!!)

こなた「あのね――

振り返る。いなかったはずの人。いないと思ってた人。
両者で、認知が、繋がった。


みゆき「―――はい! それはですね・・・!」


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・

・・・




いつもの場所。いつものところ。定位置。
人々が忙しなく交差するちょうどここで、私はぼーっと人々を眺めていた。
人々は何かに追われているかのように忙しなく歩く。また、私の日常がここではじまり、ここで終るのだ。
―――結局、彼女とその友人、親族には悪いことをしたなぁ、と私は思った。
アイデンティティ・・・。なんのために彼女にそんなことを求めたのか、結局のところ自分でもよく分からなかった。
だが、思うに、私自身、何か理由が欲しかったのかも知れない。他者から見て、自己が自己であることを到らしめる理由。
彼女を通じて、それを誰もが持っていることを確認して、安心したかったのかもしれない。そう考えることも出来た。
結局のところ、よく分からないというのが結論だけど。


夕暮れも間近な時間。彼女を再び見かけた。

「やぁ、元気かい」

なんとなく声を掛けてみる。勿論聞こえるはずはない。彼女と私の『チャンネル』は異なっているのだから。
だが

みゆき「はい、私は元気ですよ」

・・・――思わぬ誤算。

そうだった。大本の『チャンネル』は異なるが、彼女と私の波長は部分的に合ったままだった。
関係者の認知を修正するだけで、すっかり忘れていた。いやはや・・・、神様らしくない失態である。
彼女は立ち止まると、こちらから少しずれたところを見て微笑んでいた。
通行人が何事かとチラチラ見ている。だが、彼女は気丈だ。
そのちょっと滑稽な姿に、つられるように、私は初めて笑った。


少し・・・、無い胸がスッとするような気がした。
彼女は立ち止まって次に声が掛かるのを待っていたようだが、
しばらくすると、これ以上何もないと悟ったのか、一言呟くと、ゆっくりと立ち去って行ってしまった。
私の意識に、再び雑多が広がる。


・・・・・・さて、ここに問題が残った。この『チャンネル』の差異を元に戻すべきか。


あれこれ考えてみたが、私は結局そのままにしておくことにした。
何故かは分からない。そう思ったからだ。
そうとしか、言いようがなかった。


―――またここで。


季節は、もうすぐ秋。
夕暮れに吹く涼しげな風はそんな当たり前の様な所感を、私に抱かせたのだった。



―――了
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