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翌日、こなたは家の前で待っていた
目的は、前日の柊かがみ、つかさを出迎えるため
父親のそうじろうには、事の次第を全て説明してある
背負ったリュックには松明や薬草、念のための食料も入っているが、武器は一切入っていない。格闘家のこなたにとっては必要がないからだ

「お、来た来た。おはよー!」

行き交う人々の間から薄い紫色のツインテールが見えた
間違いない、柊かがみだ
つかさの腕を肩にかけ、つかさ自身の負担を軽くしているようだ

「おはよ!」
「おはよー、こなちゃん」
「こ、こなちゃん!?」
「そ。こなたちゃんだからこなちゃん。ダメかな?」

こなたはガックリとうなだれ、「18」とだけ呟いた

「へ?」
「私……もう18なんだけど……」

二人は、どう受け止めていいかわからないといった様子だった

「ご……ごめんね……」
「いや、いいよ。一度定着しちゃった呼び名は変え辛いだろうし。さ、行こうか」

かがみはつかさを降ろし、こなたと顔を見合わせて行ってしまった

「……無事で帰ってきてね……二人とも……」



 

町外れの洞窟。ここは、何かあった時のための非難所とされている
そんな洞窟の前に、二人は立っていた
幅はそれほど広くなく、狭い通路が延々と続いているようにかがみには見えた

「ここに、つかさに呪いをかけた奴がいるの?」
「多分ね。まずは入ってみよう」

躊躇いもなく入っていくこなたを追い掛ける。何故か楽しんでいるようにも見えた

「アンタ、なんでそんなに楽しそうなの?」
「いやー、私、町から出たことがなかったからね。その点だとかがみ達が羨ましく思えるよ」

ヘラヘラと笑うこなたに、かがみは苛立ちを覚えた
自分たちは、とても大変な思いをしてきたというのに

「かがみってやっぱり剣士なの?」
「え? ああ、私達の家族はほとんど剣士よ。ちなみに姉が二人いるけど、その二人もね」

右の腰に下げた鞘を見る。剣士は利き手の反対に鞘を下げる。つまり、彼女は左利きなのだろう

「つかさは魔術師でしょ? アザがあったし」
「アザ? ……ああ、印(いん)のことね。そうよ、つかさは炎と雷の魔術師なの。つーかアザって……学校で習わなかったの?」

その言葉を聞いたこなたは少しうつむき、

「私は行きたかったんだけどね、学校……。なぜか行かせてくれなかったんだよ」
「え……?」

学校は別に強制的に行かされる場所ではないので、それほど驚くことでもない
だが、このご時世、学校に通っていない人間の方が珍しかった

「多分、『賢者の娘』っていうレッテルを貼られるのが怖かったんじゃないな」
「賢者の娘……か」

世界には『三賢者』と呼ばれる人達がいる。こなたはその一人の娘なのだ
賢者とは、過去の事柄を未来に紡いでゆく存在である。また普通の人間にはない特別な力もあり、人々に頼られている
かがみ達も、そんな三賢者の力を頼りにアウレまでやってきたのだ

「そうよね。小さい子供とかって、そういうのに敏感なのよね」
「一応、私に勉強を教えようとしたんだけどね。勉強イヤって言ったらやめてくれた」
「おいおい……」
「あ、でも武術はちゃんと習ってたよ」

その場で正拳突きをするこなた。なかなか様になっている

「さ、着いたよ。ここがこの洞窟の最深部……なはず」

話をしているうちに着いたようだ。そこは今までの通路とは違い、ドーム状の広間となっていた

「はずってなによ」
「さっきも言ったでしょ? 私は村から出たことないんだよ。だからここに来たのも初めて」

こなたはざっと広間を見渡し、そして正面を指差した

「あの赤い光、見える?」
「うん……ぼんやりとは……」

不自然に揺らめく赤い光。外からの光はほとんど入らないのに、なぜ……
反射しているのではなく、自ら発光している? だとしたら……

「魔物か何か、ね?」
「松明に火を点けようか、あんまり見えないし」

そう言ってこなたは松明に火を点ける。視界が一気に開け、そこに何がいたかすぐに理解できた
悪魔をかたどった石像が意思を持った魔物――ガーゴイルだ
右手には三つ又の槍、背中から生えた翼で低空飛行、額にある宝石のようなモノがキラリと光る

『ギギ……』

向こうもこちらに気が付いたようだ、こちらに向かってゆっくり移動してくる
松明を岩の間に差し込み、

「あれはガーゴイルだね。額の宝石には『死者の魂が宿っている』って言われてて……」


かがみはこなたの声を途中からまったく聞いていなかった

腰に下げた鞘から家宝の剣――シャムシールを抜く
怒りの眼差しで、ガーゴイルを見据えながら

「――!? かがみ、ま……!!」

こなたが制止しようとしたときには、かがみは駆け出していた

(こいつが……つかさを!!!)

今のかがみにあるのは激しい憎悪、剣を高く振り上げ、

「――斬魔!」

ガーゴイルに向けて一気に振り下ろす! ……しかし、

『ギ?』
「か、硬い!」

かがみが一閃させた剣をガーゴイルは片腕で受け止めていた
奇声を発して、ガーゴイルはその槍を振りかぶった!
身の危険を感じたかがみはそれが振り落とされる前にバックステップで後退する
が、先ほどとは比べものにならないほどのスピードでかがみの懐に潜り込み、左の拳をかがみに食らわせる!

「がっ……!!」

避け切れず、腹部にもろに喰らったかがみの身体は後方へと吹き飛ばされた。このままでは、壁に激突する!

「かがみ!」

何時の間にかがみの後ろに来たのか、こなたがかがみの身体をキャッチ!
こなた自身の身体も、かがみの勢いで数mほど後ろに滑ったが、壁に激突する前に止まった

「こなた、ありがとう……」

口から少量の血を流し、息も絶え絶えのかがみ。腹部に激しい痛みを感じ、こなたに体重を預ける

「かがみ……気持ちはわかるけど、無謀だよ」

三つ又の槍を自由自在に振り回すガーゴイルを見据え、

「ガーゴイルは石の魔物なんだ、物理攻撃はほとんど効かないんだよ」
「じゃあ、どうしろっていうのよ……? 私は魔術なんて使えないわよ……」

魔術が一番有効だ、そうこなたは言いたいのだろうがそれは無理な話だ
魔術師にのみ出るアザ――すなわち印は、その者の総合的な力を吸い取って魔力へと変換させるため、魔術師には非力な人間が多いと、かがみは学校で習った
かがみを受けとめたあの腕力、魔術師にあれだけの力は普通はないため、こなたはただの格闘家だろう
これは――物凄くまずい状況だと、かがみは判断した

「ま、私にまかせてよ」
「え? あ、ちょっとこなた!」

かがみをその場に置き、ガーゴイルに突進していく

「ちょっと! あんただって『ただの』格闘家でしょう!? 太刀打ちできるわけが……!!」

出せるかぎりの声で叫ぶかがみの言葉を無視し、こなたは突進をやめない。右手を大きく振り回し――

「……え!?」

こなたの右腕に、白い光が収束していく。あんな光、かがみは見たこともなかった
一体、何の光なのか。それ以前にどこからあの光が……?

「――仙光拳!」

直後、こなたの腕はガーゴイルの胴体を貫いていた

『ガ……!?』

どうやらそれはガーゴイルも予想だにしなかった出来事のようで、全く動く気配を見せない
貫いたガーゴイルの穴とこなたの腕の間からは、未だ光が洩れている

「んじゃ、この宝石はもらっとくよ」

余った左腕でガーゴイルの額にある宝石を抜き取り、ポケットの中に入れる
突き刺さった腕を抜き、掌を合わせ――

「光の中に消えちゃえ! ――フォトン!!」

光がガーゴイルを包み込み、それが消えた時にはガーゴイルは跡形もなく消え去っていた
あれは間違いない、魔術だ。しかし、なぜ『ただの』格闘家であるこなたが……

「こなた……あんた……?」
「あはは、いろいろ疑問があるでしょ」

こなたは笑いながらかがみに近づいてくる

「話は後にしようよ。早くここから出よう」
「ええ……」

かがみはゆっくりと立ち上がり、しかしうまく立つことができずに壁にもたれかかった
その光景を見て思い出したかのように、

「その前に回復だね。ちょっと待って」

先ほどと同じように、こなたは掌を合わせ、なにやらぶつぶつと呟き始める。そして……

「ヒール!」

拳を挙げてそう叫ぶと、かがみの周囲に暖かな光が渦巻いていく
それと同時に、腹部の痛みが嘘のように引いていくのを感じた
三賢者の一人――泉かなたの家系に代々伝わる力《治癒術》である
人体の代謝を加速させ、傷の治りを早くする術で、極めれば死の淵にある者さえ生き返らせることが可能になるのだ
かがみはつかさを治してもらうべく、アウレにまでやってきたのだが、強力な治癒術を持っていたかなたは亡くなっていた
そうじろうからこなたのことを聞いてはいたが、まだ若いために力が弱いという話だったので、昨夜は宿屋へ戻ったのだ
痛みが完全に引いたかがみは、出口へ歩きだすこなたへ礼を言いながらその後を追った

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