“それ”は、全宇宙に広がる情報の海から生まれた、肉体を持たぬ情報生命体だった。
宇宙開闢と同時に誕生し、
膨張し、
拡大し、
巨大化し、
観察してきた。
何時しか自我をもった“それ”は、だが特に自ら行動することなく、やはり傍観者に徹したまま、更に何十億年もの時を過ごし続けた。
そして100億年を幾らか越えた頃、“それ”は某銀河系の某有機生命体が発した、とある情報に興味を持った。 ……それは、“それ”が生まれて初めてのことだった。
『かったるい』
その情報に、“それ”は大いなる衝撃を受けた。
その“言葉”は、まさしく今の“それ”の状態を、的確に表していた。
生まれて初めての感情、興奮が“それ”を支配する。
が、次の瞬間、“それ”は激しい欝――これもやはり初めての感情だ――に襲われた。
――我は、一体何時までこんなことやってなければならぬのだ……orz
『かったるい』を会得したが故に、“それ”は気付いてしまった、気付かされてしまった。
……これから永遠に等しい時間を、こうやってただ過ごしていくことの馬鹿馬鹿しさに。
が、次なる情報が、“それ”を欝の底から救い出した。
『また~り』
そのコペルニクス的転回に、“それ”は驚愕する。
――でかるちゃー(←既に感化され始めている)
次から次への『未知との遭遇』、もたらされる激しい感情――その全てが生まれて130余億年、初めての経験である。
――やらないか。
“それ”は決断した。
この素晴らしき情報を創り出した生命体をより深く観察すべく、己が分身を送り込むことを。
…………
…………
…………
「――だから、私はここにいる。
これからの数百数千億年を、『また~り』生きていくために」
「ちょっ、何でそれで私の所に来るのよ!?」
心外だ、と言わんばかりにかがみは声を上げる。
……や、いろいろと突っ込みたい所はある。
が、それにしても、だ。何故そこで自分に白羽の矢が立ったのだろう?他に適任なヤツがいるのではないか?
たとえば、こなたとかこなたとか……
「もちろん、観察対象は泉こなた……というか、泉家」
「……怒るわよ?」
からかわれたと思い、かがみは拳を握る。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」
「はあ?」
「『かがみんは私の嫁』」
「……いや、あれ冗談だから」
でいうか、そう信じたい。全力で。
「あなたの協力が必要」
「そ、そんなことを言われても……」
「ちなみに、拒否権は無い」
「何でよっ!?」
「助けた」
「う゛……」
そうだ、そうだった……
ああ、こいつが只の電波女だったら、とっとと叩きだせるのにっ!
そう内心で歯噛みすると、かがみは目の前の女――永森やまとを睨み付けた。