「snowy day's tragedy」 ID:0z.JuoDO氏

「……ん……」

時計を見ると朝の6時。なんでこんな早い時間に目が覚めたんだろうと疑問に思いつつもベッドから起き上がる。
息を吐くと、白い煙となって虚空へと消え行く。寒いから、こんなに早く起きたのかな。
……ううん、多分それだけじゃない。頭の奥がズキズキしてる。また、あの夢を見てたんだ……

「おお、雪が……」

カーテンの隙間から外を覗くと、辺り一面雪景色。道理で寒いわけだ。

……雪?

なんだろう、また頭が痛みだした……

「……ッ……!?」

今まで体感したことのないほどの激痛に耐えながら、階段を降りて台所に立つ。
そうこうしてるうちに頭痛は収まった。とりあえず料理中に頭痛が再発しないことを祈りながら、ジャガイモの皮をむいた。
今日は月曜日。また新たな一週間が始まる。







――え、チョココロネはどこから食べるか? う~ん……頭じゃないかな――







その後は頭痛も起きず、しっかりと朝ごはん、私とゆーちゃんのお弁当を作れた。

「おーっす! お昼食べましょー」

そして学校。今は昼食の時間、隣のクラスのかがみがお弁当箱を持ってやってきた。
みゆきさんと一緒に隣の人の机を借りてくっつける。
この三人で昼食を食べるのが日常なのだ。


「……あんた、何やってんの?」
「え?」

かがみに言われるまで、自分が何をしているか気付かなかった。
既に3つ机が並んでいるのに、私はもう一つつけようとしていたのだ。

「ごめん、つい」
「そそっかしいですね、泉さんは」
「しっかりしなさいよね」

いろいろ言われながらも、お弁当の包みを開いて食べ始める。
……あれ……? 何か、今のスタイルに違和感を感じる……

「ねえ。もう一人、いなかったっけ? いつも、四人で食べてたような……」

その瞬間、二人の顔が驚いたような顔で黙り込んでしまった。
そして同じような内容のことを言ってきた。

「……私達は、ずっと三人でしたよ」
「そうよ。夢でも見てたんじゃない?」
「そう……かな」

とりあえず、みんなが言うんだから本当だろうけど。
絶対に、何かあるはずなんだ。私が思い出せてない、何かが……


納得はできてないけど、とりあえずお弁当箱の卵焼きを口元へと運んだ。







――ブルーハワイの名前の由来は、同名のカクテルから来てるんだって――







『よっと!』
『こなた、初めてにしては上手じゃない』
『へっへー、やっぱり格闘技とか習ってたからかな』
『……あら? 何か音がしませんか?』
『ん……確かに、地響きみたいな……』
『み、みんな! 上を!』
『え!? な、雪崩!?』
『やばい! 早く逃げな……』



「うわああああああああ!!」

私は叫びながら上半身を起こした。見渡すと、窓、机、壁に貼られたポスター。いつもの、私の部屋から見る光景だった。やはり頭の奥がズキズキする。

「はあ……はあ……」

汗まみれの額を手のひらで拭い、ベッドに仰向けに寝て天井を仰いだ。

今までその夢は、断片的にしか見ることはなかったけど、今日は違う。
全部……見た。しかも、はっきりと覚えてる。夢の内容を。
そして、私の中のにある疑問が確信へと変わった。

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

ドアをノックせずに、ゆーちゃんが部屋に飛び込んできた。
今まで目が覚めることはあっても、叫びながら起き上がるということは全くなかった。
だから、突然の叫びを聞いて驚いたんだと思う。

「ゆーちゃん……」
「お姉ちゃん、凄い汗……お風呂に入らないと、風邪ひいちゃうよ」
「う……ん……シャワー、浴びてくるね……」

ベッドから立ち上がろうとすると突然、視界が真っ白になって、立っていることが出来なくなった。
めまい、もしくは立ちくらみを起こしたのだろう。気が付いたら私の身体はゆーちゃんの腕の中にいた。

「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん……大丈夫だよ……いつもと立場が逆だね……」

ゆーちゃんに支えられながらお風呂場に行き、汗でビショビショのパジャマを洗濯機に放り込んだ。



そして数分後、身体と髪を十分に洗った私はお風呂場を出た。
ゆーちゃんが持ってきてくれたであろうパジャマに着替え、ドライヤーで髪を乾かして自室へ向かう。

「あ、お姉ちゃん」

部屋にはなぜかゆーちゃんがいた。
よく見てみると、汗まみれとなったベッドのシーツを取り替えてくれていた。
そこまでしなくてもいいのに、と思いつつも、ゆーちゃんの行動には感謝。

「お姉ちゃん、またあの夢を見たの?」
「うん……しかもすっごくリアルに……」

ベッドに入ってから、ゆーちゃんが私に問い掛けてきた。
『あの夢』――私が記憶を失う原因になった、事故のこと。
私が記憶を失ってから、毎晩のように見る、あの悪夢のこと……

「そっか……まだ、トラウマになってるんだ……」
「うん……」

会話しながらも、まぶたが重くなってきた。もうすぐ寝そう。
でも、まだ寝るわけにはいかない。あのことを、聞かなくちゃ……

「ねえ……ゆー、ちゃん……」
「なあに?」

あの事故に巻き込まれたのは『三人』で、全員が助かったと聞いていた。
だけど、私が夢で見たのは『四人』だった。
顔も名前もわからないけど、確かにいたんだ。私とみゆきさんとかがみと、そしてもう一人が……

「あの事故はさ……本当に、全員……助かったの……?」
「!」

ゆーちゃんが驚愕した様子で私を見つめた。
その次は困惑。どうすればいいのかわからないといった様子で私を見つめていた。

「……やっぱり……助からなかった、人……いたんだ、ね……」

意識が遠くなるその瞬間、ゆーちゃんの『ごめんね』という声が、聞こえた気がした。







――助けてくれてありがとう! でもあの外人さん、道を尋ねてきただけかも――







「もう一人?」

翌日、学校に着いてすぐにみゆきさんとかがみに尋ねた。
私の記憶から消えた、もう一人の友人について。

「何度も言ってるでしょ。私達はずっと……」
「嘘。夢で、毎晩のようにあの雪崩の瞬間を見るって話したけど、絶対にもう一人いたよ。そしてあの雪崩で、命を落とした。違う?」

そう言ったら、二人は黙り込んでしまった。それを気にせず、私はそのまま続ける。

「私、逃げたくない。全部を知りたいんだ。だから……」
「ごめん、こなた」

かがみの言葉で、私の言葉は遮られた。

「あんたがあの子について知りたいのはよくわかった。だけど、教えてあげることはできないわ」
「え……?」

その言葉は、私にとって衝撃の一言だった。
そして次の瞬間には、怒りにも悲哀にも似た感情が現れた。

「なん……で?」
「こなたがあの子のことを思い出したとしたら、下手すればあんた、自殺までしちゃうかもしれなくて……」
「そう思った私達は、泉さんの前で、彼女の話はよそうと決心したんです。泉さんのお父さん、そして小早川さんとも相談して」
「そう……だったんだ……」

本当は納得なんか出来ない。出来るわけがない。
だけど、私の願いは、断られた。この二人はもう教えてくれないだろうと、諦め掛けた瞬間――

「自分ら、いい加減気付けぇや」
「く、黒井先生……?」

振り返るとそこには、担任の黒井先生の姿が。
何か哀れむような瞳で、かがみとみゆきさんを見つめていた。

「どういう、意味ですか?」
「自分ら泉に、あいつのこと、伝えてへんのやろ?」
「は、はい。泉さんのためを思って……」
「『それが本当に泉のためになるか』、自分らわかってんのか?」
『え?』

言っている意味が理解できないのだろう、二人は首を傾げて黒井先生を見上げた。
私はというと、目の前の状況を理解するのに精一杯だった。

「今のままで――泉の気持ちを無視したままで、それが『泉のため』って言えるんか? 自分らがやってんのは、ただの侮辱と違うんか」
「侮辱……?」
「せやろ? 自分らは泉の中からあいつの記憶を意図的に消し去ってるも同然や。それは泉に、あいつに対しての侮辱にしかならへん」

そこまで言って黒井先生は、黙って二人を見つめる。
二人の返答を待っているのだろうその瞳は、いつもの黒井先生からは想像もできないほど真剣だった。

「……そう、よね……なんで、気付かなかったんだろ……」
「私達がやっていたことは……ただの自己満足に過ぎなかったんですね……」

二人は小さく息を吐いた。そして「今まで私達がやってきたことって、なんだったんだろう」と、かがみは震える声で呟いた。

「いつか気付くやろ思とったけど、泉に詰め寄られても気付かへんなんてな。ほら、まだやることあるやろ」

黒井先生は二人の背中を『バン』と叩き、教室を出ていった。
そして二人はお互いに見つめあい、小さく頷いた。

「こなた、現実がどんなに残酷だろうと、絶対に逃げちゃダメよ」
「私達には、泉さんが必要なんですから」
「……うん」

他の生徒もいたのだが、その人達の会話は耳に入らなかった。静寂が辺りを包み込む。
私の生唾を飲み込む音が、多分、私の中だけに響いた。

「柊、つかさ」
「え……?」

突然のセリフ。その名前を聞いた瞬間、心臓の鼓動が激しくなる。

「柊つかさ。私の双子の妹で、あんたによく懐いてた子よ」

柊……つかさ? し、知らな……
い、いや、知ってる……彼女は……つかさ、は……

「あ……うわああああああ!!!」
「こなた!?」
「泉さん!?」

な、何これ……!? 胸が苦しい……頭、が……!!
「く……うあああ……!!」

痛い……ダメ……耐えきれ……な……

「みゆき! 早く保健室に!」
「は、はい!」







――泉こなたちゃんって言うんだ。良い名前だね――







『みんなでスキーに行こうよ!』

きっかけは、私のその一言だった。
アニメだったかマンガだったかは忘れたけど、それを見て、私もやってみたいって思ったんだ。
そして、みゆきさんの叔父がいる北海道に行って、早速スキーをしたんだ。みゆきさんの叔父から教えてもらった、誰もいない穴場中の穴場で。

そして――あの雪崩が起きた。

『ぶはっ!! はぁ……はぁ……助かった……。……そうだ! つかさ! かがみ! みゆきさん!』

雪の中からいち早く抜け出した私は辺りの雪をかき分けて三人を探した。
そしてかがみとみゆきさんはすぐに元気な状態で見つかった。

『二人とも、動ける?』
『え、ええ……』
『はい……なんとか……』
『まだつかさが見つかってないんだ。手分けして捜そう!』

しかし、つかさが見つかったのはそれから数分経った後だった……

『つかさ! しっかり!』
『こ……こなちゃん……』

雪の中から助けだしたつかさの身体はひどく冷えていて危険な状態だった。

『……こなちゃん……寒い……』
『待ってて! すぐに病院に連れてくから……』

そこまで言った時、つかさが私の手を弱々しく握った。

『つかさ……?』
『こなちゃんの……手……あった……か……』
『――!!』

そして、つかさの瞳から……光が消えた。

『私の……せいだ……』

流した涙が、つかさの頬に落ちる。それでも、つかさは何も反応しなかった。

『私が……スキーに行こうって言わなければ……つかさは……!! うわあああああああ!!』







――こなたちゃんだから、こなちゃんでいいよね。私の名前は柊つかさ! よろしくね、こなちゃん!――







「ここに、つかさがいるんだね」
「うん。こっちよ」

翌日の早朝、私達はつかさが眠る墓地へと足を運んだ。
周りをキョロキョロと見回しながら、かがみの後ろを歩いていく。少し後ろにみゆきさんもいる。

「ここよ」

かがみの指差したそこには、「柊家之墓」と刻まれた墓石があった。

「……久しぶり、つかさ」

その呼び掛けに返事はなかったが、それでも私はよかった。
墓石の前にしゃがみこみ、手を合わせる。

「ごめんね、今まで来れなくて。かがみとみゆきさんがさ……」
「あんたが記憶喪失にならなきゃ、こんなことにならなかったんだけどね」
「うう……反論できない……」

私達のやり取りを見て、横でみゆきさんが笑っていた。
つかさも向こうで、笑ってくれてるのかな?



その後、私達はたくさんの話をした。
つかさとの思い出や、つかさが死んじゃってからのこと……他にもたくさん。

「……もう、時間ね」

かがみが時計を見て呟く。
今日は平日だから、これから学校に行かなくちゃならない。

「泉さん、そろそろ……」
「うん」

私は立ち上がり、最後に一言、

「つかさ、もう時間だから行かなくちゃ。またね」

そう言って、先を歩いていく二人の後に続く。



――また、遊びに来てね――



「え……」

そんな声が聞こえた気がして、私は振り返って墓石を見る。
そこには誰もいなかったし、人影すら見えなかった。
だけど。

「こなたー、早くー!」

私は墓石に向かって微笑みながら小さく手を振って、走りだした。
永遠に続く、『四人』の友情を胸に抱きながら。







――今までありがとう、みんな。私の分まで、素敵な夢を見てね――







Fin
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