ID:e7T70lY0氏:ここにあるこなた

ーここにあるこなたー
今日も小さなこの椅子で、こなたは微笑みかけている。
私達に、子供は授からなかった。
原因は私にあった。
医師に不妊症と告げられた時、私は全てに絶望し、
胸裂ける痛み中、大粒の涙を流して震えていた。
女として失格の私に、それでも彼、そうくんは優しかった。
彼の言葉の一言一言が私を励まし、希望を教えてくれた。
彼に支えられ、私は藁をもすがる思いで治療を続けたけれど
結果は実らずじまい。
気が付いたら、私の身の負担ばかりが重なって、遂には体を壊してしまった。
諦めが必要だった。
想像しえた顛末でも、悲しみが軟らぐ事はなかった。
悲観に暮れる私に、彼は1つの提案を持ちかけてきた。
「この娘を俺達の娘として迎えたらどうだろう」
彼が示したのは、1冊のカタログだった。
カタログには様々な子供達がいて、無垢な笑顔でこちらを見つめていた。
命を持たない偽りの子供達、確率との決別に、私の心は揺れた。
「お前まで失ったらさ…俺…生きていけないよ…絶対」
私を心から愛してくれる彼の目は、痛々しいまでに赤く、潤いに満ちていた。
彼の為にも、決断は必要だった。
数週間後、私達は儚い望みを捨て、新しい道を歩んでいた。
彼の希望は、私の生き写しだった。
彼が選び抜いた、蒼く長い髪が、その全てを物語っていた。
私達の娘、普通とは違う、端から見れば「異様」、
周りからは訝し気な視線に合わせて、後ろ指を指されるのかも知れない。
そう不安めいた私に
「言いたい奴には言わせておけばいい。俺達は終生この娘を慈しむ。
 それで充分じゃないか。この娘と暮らせる事が、何よりの幸せ。だろ?」
彼の言葉は、相変わらず私の迷い払い除けてくれる。
愛しい娘を見つめ、私は頷いた。
いつまでも2人の許にいてほしいという願いを込めて
私達はこの娘に、こなたと名を贈った。
こなたは自分では動いてくれない。
いつも椅子に腰をかけ、私達に微笑んでくれているだけ。
こなたにはこなたの世界があって、そこで楽しく過ごしているのだと思う。
素敵な友達達に囲まれて、その子達と穏やかな日々を送っている。
それは私達の知らない、夢幻、こなただけのたおやかな時間。
私はエメラルドの瞳に語りかける。
「こなた、昨日は誰と遊んでいたの?もうすぐ朝食よ?」
小さく結ばれた唇の奥から
「うん!お母さん!」
と、元気な声が聞こえた気がした。
ー終わりー   
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