ID:3QPJgvNF0:永遠のエキストラ

~東都大付属病院~

「高良先生、午前中の診察はこれで終わりですが・・・・」
「わかりました、では食事にでも・・・・きゃあっ!!」

突然ぶつかってきたのは幼稚園児くらいの男の子を連れた女性、歳は30代くらいだろうか?随分と幼く見えるが・・

「あ、せ、先生!!すみません!!子供が急に熱を出したものですから・・・」
「ま、まぁ、落ち着いて!!早速診察の準備をしますから!」

診察の結果どうやらただの風邪のようだ、もちろん大したことはない

「いやぁ、先生!本当にありがとうございます、急だったもので・・」
「いえいえ、榎本さんこそ、子供が病気というので慌てるという気持ちはわかりますよ、でも病院に来る途中で事故に遭われては元も子もありませんから」
「ええ、気をつけます、あれ?」
「どうかされたんですか?榎本さん?」

高良の胸に付けられている名札に思わず目を奪われる若妻、そこには東都大付属病院第一内科 准教授 高良みゆき・・・

「ゆ、ゆきちゃん?」

高校を卒業してもう20年、みゆきは今年で37歳になる、どうりで歳をとるわけだ、
そのせいか顔に出来たしわを気にしながら紅茶を口に運ぶ・・

「へえ、つかささんは、3人の子持ちなんですか?随分と頑張りましたねぇ♪」
「そ、そんなことないよ、ゆきちゃん・・・」

聞けば柊家では上の2人の姉は東京に行ってしまったために、かがみが婿養子をとって神社を守っているそうだ。
しかもその相手は白石みのる、弁護士試験に落ち、途方にくれていた時に再会し、付き合い始めた・・・
彼らは両親と子供に囲まれ幸せに暮らしているらしい・・・

「皆さん、幸せそうでなによりです」
「そ、そんなことないよ、ゆきちゃんがこんなに偉いお医者さんになってるなんて、凄いよホント!!」
「ありがとうございます、つかささん、ところで、泉さんは?」

もう一人、そう、いつもマニアックな話ばかりしてみんなを困惑させていた背の小さなロングヘアの少女
話にはついていけなかったが、彼女は4人の中でも一番明るく面白い少女だった、それをみゆきが気にならないはずがない
だが・・・

「こなちゃん?」

一瞬つかさの顔が曇る、一体どうしたというのか?姉や白石のことを語るときはあんなに楽しそうだったのに・・
そしてつかさは息を吸うとぼそりと呟いた、みゆきにとって聞きたくない一言を・・・

「こなちゃんは・・・死んだよ・・・」

「ゆきちゃん、知らなかったんだね?」
「えぇ、声優になるための専門学校に入学して・・・平野綾っていいましたっけ?あの人みたいになりたいって言っていたのに・・」

こなたは当時憧れていた平野綾のような声優になるために、受かっていた短大を蹴って専門学校に入学した、そこまでは覚えている
だが、その後は医師免許を取るのに忙しく、大学院にまで進み、同窓会に参加する余裕も無く・・・
息抜きに見ていた深夜アニメ、こなたの名前を探すのに苦労した日々、しかし探せど探せどこなたの名前はクレジットには無い
てっきり芸名で活躍してると思ったのだが・・

「私・・・知りませんでしたよ、お恥ずかしながら・・・」
「もう10年にもなるよ、あれだけやっと主役をもらえたって喜んでいたのに・・・」
「電車に轢かれちゃうなんて、風に飛ばされた台本を拾おうとしてホームから落ちちゃうなんて、バカだよ!こなちゃん!!」

バカバカとこなたを罵るつかさ、
だがその目には大量の涙を浮かべ膝の上で握り締められた拳にピトンピトンと落ちる雫からつかさの気持ちは痛いほどわかる

「つかささん・・・・・」
「そりゃね、通行人とか通りすがりの女子高生とかそんな役からいきなり主役だから、こなちゃんはどんなに嬉しかったと思うよ、だから徹夜で台本を読んでたんだね」
「泉さん、頑張ってたんですね、自分が心から情熱を注げる物、それがアニメ・・・私たちがオタク向けと言って相手にしなかったものでも泉さんにとっては宝物」

なぜか寂しかった、こなたが死んだからではない、なぜか自分は涙が出ないのだ、かつての親友が死んだのに・・・
なぜ自分は悲しくないのだろうか?どれだけ立派な言葉を並べても涙が出ない、つかさはあふれるほどの涙をおしぼりで拭いているというのに

「こなちゃん、栗山智佳っていう芸名を使ってたんだ・・そう、ゆきちゃんのフルネーム高良みゆきをアルファべットに直して並び替えたんだよ」
「わ、私の名前を・・・」

ピルルピルル♪

「ごめんなさい、あら?宮河さん?ええ、あ、論文?すみません、すぐに仕上げますから、明日までに、はい!」
「ゆきちゃん?仕事?」
「ええ、すみませんが今日はここまで・・・」

そしてみゆきはコートを大急ぎで引っ掛けると伝票を手にすると大急ぎで支払いを済ませた・・・

「じゃあね、ゆきちゃん・・・」
「あ、そうだ・・・最後に聞きたいことがあるんですが・・・」




「これですね、泉さんの最期の出演作品・・・・」

みゆきが手にしていたのはパッケージに大きく勇者とヒロインが描かれているDVD、
そのキャストには平野綾、杉田智和、白石稔と今ではベテランとなった当時の人気若手声優が名を連ねていた
だが今のみゆきにとってはどうでもいいこと・・

「さて、どこに出ているか・・・」

注意深く見てないと過ぎ去ってしまう、それほどこなたの役は小さいのだ、何しろパッケージにも書かれていない端役

『姫を放せ!!さもなくば殺す!!』
『いいだろう!!かかって来い!この腐れ外道が!!」

「まだですか・・・・」

相変わらず続く戦闘シーン、しかしみゆきにとってどうでもいいシーンのせいか随分と眠たくなる・・・と、そこへ

『お帰りなさいませぇ♪ご主人様(=ω=、)』

「い、泉さん!!」

それは一瞬だった、主人公達が事件の解決後によったメイド喫茶での一言、そのメイドはまさに20年前のこなたにそっくりなのだ
昔こなたのバイト先にコスプレ喫茶に行った時に聞いた台詞そのもの・・・
そしてエンディングが始まり、出演者の名前が一通り流れたその時!!

「栗山・・・智佳・・・泉さんの芸名・・・」

それも一瞬で消え、すぐにスタッフの名前に切り替わる・・・

「も、もう一度・・・」

『お帰りなさいませぇ♪ご主人様(=ω=、)』
『お帰りなさいませぇ♪ご主人様(=ω=、)』
『お帰りなさいませぇ♪ご主人様(=ω=、)』
『お帰りなさいませぇ♪ご主人様(=ω=、)』

何度巻き戻しただろう、もう午前0時を回っている、それなのにみゆきは巻き戻しを止めようとしない
まるでこなたが生き返ったみたいだから、少しでも長くこなたの思い出に触れていたい、そして芸名に自分の名をアレンジしたこなたの気持ちを知りたい
だが非情にもこなたの思い出に浸っている時間は無い、明日はみゆきの論文の締め切り、もうそろそろ現実に戻らねば
20年前は親友として過ごした泉こなた、だが結局彼女はみゆきの人生にとってはエキストラに過ぎなかったのだ、このアニメのように・・・
そう感じたことが一番寂しかった・・・・・


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