ID:dNbzPvFZ0:10年前のクリスマス

おかしい。

柊かがみが最初にそう感じたのは、先ほどまで一緒に居たはずのつかさが傍に居ないことだ。
近くの建物に入ったから、などの単純な理由ではない。
気が付いたら、消えていたのだ。

そして次に、周囲の人間や建物が違和感を感じる前と変化していることに気づいた。
背筋が冷えていくのが分かる。
辺りの人たちが一人も、携帯電話を所持していないことがそれを加速させた。
急いでバッグの中から、自分の携帯電話を取り出す。

12/24 16:34

日時は普通だったが、自分の持つ携帯電話にも妙な箇所がある所に気づく。
左上に圏外と表示されていたのだ。先ほどまでは問題無く使えていたはずなのに。

眩暈が、襲い掛かる。
周囲の目線が気になるが、仕方が無い。
かがみの中に、恐ろしい仮説が生まれていた。

さらに振り返ると、バイトしていたはずのメイド喫茶は無く、電気屋が君臨している。
中には今は販売していないような古い機種の、電化製品が。

その電化製品に貼られていた貼り紙によって、自分の仮説が正解だったことが証明された。

1997年 年末セール。

かがみは、過去に飛ばされてしまったのだ。


今日は忙しいからバイトを手伝ってくれと、こなたに頭を下げられた。
背後には、つかさとみゆきの姿。
悲しいことに予定も無く、流れに押されて承諾してしまった。

その後何だかんだで、かがみとつかさの二人で客寄せをやることが決定して、衣装を渡される。
広げると、普段のメイド服では無く、真っ赤なサンタクロースの衣装だった。

防寒仕様になっているようだが、それでも真冬の外は寒い。
手を擦り合わせながら、仕事に勤しむかがみ。
そこまでは、普通の光景だったのだ。

突然、過去に飛ばされる。
意味不明の展開だ。普段読むSF小説とかでも、もう少し順序と言うものがある。
だが、いまかがみに訪れている展開にはそれが無い。
あまりに重過ぎる事態に、座り込もうとした時、小さな影が寄って来る。

「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
どこか聞き覚えのある、声。
顔を上げると、青く長い髪に、ピョンと跳ねた一本の毛。
どう見ても、10年前の泉こなただった。

「こ、こなたぁ!?」
反射的に叫んでしまう。知り合いに会えたのが嬉しかった。

「なんで私の名前知ってるの、お姉ちゃん?」
自分が痛恨のミスを犯した事に気づくかがみ。
目の前に居るこなたが、かがみのことを知ってるはずが無いのだ。
「何か訳ありみたいだし、特別に聞かないでおいてあげるよ」
何か言葉を出す前に、バサっと切られる。
普段だったら怒鳴り声を上げたが、今は感謝の気持ちが浮かび上がった。

「で、あんたみたいな子供が、何でこんなところに居るのよ?」
「お父さんといっしょに来てたんだけど、まいごになっちゃったんだよね」
「あんたのお父さんは、こんな頃から秋葉に子供を連れて来てるのか……」
「もうかれこれ二年前からは来てるね~」
その後も、いつも通りのやり取りが続く。
10年前のこなたなのに、全く同じようなやり取りだった。

「全くしょうがないなぁ……お姉ちゃんが一緒にお父さんを探してあげるよ」
色々と話してるうちに、こういうことになった。
本来なら、元の時間に帰る方法を探すのが先だが
親友が困っているなら、放って置くわけにはいかない。
帰る方法を探すのは、それからでもいい。

「いや~これが噂のツンデレってやつですか」
「だ、誰がツンデレよ! 大体―――」
かがみが言葉を発し終える前に、こなたは先へ進んでしまう。
肩を落としながら、自分もそれに続いた。

大体―――この時代にツンデレなんて言葉あるのか

一歩一歩、周囲を確認しながら探す。
かがみは当然こなたの父親を探すためだが、こなたは違う。
ゲーム機等の店頭販売されているものを、キョロキョロと見回していた。
「あんたねぇ……なに探してるのよ?」
「新作のゲーム、ついでにお父さん」
ハッキリとそう答えられ、落胆する。

こんなことで、本当に父親は見つかるのだろうか。
どこまでもマイペースなこなたに、抗議の言葉をかけようとした時、
こなたの足が、ある店で止まっているのが分かる。
視線の先を見ると、そこには家庭用ゲーム機の姿があった。
自分から見ればもう使われていないゲーム機だが、この時代では最新型なのだろう。
「それ、欲しいの?」
「うん、今日サンタさんが持ってきてくれるんだよ」

こなたの言葉に、思わず笑みが零れる。
サンタクロースに待ち焦がれるなど、自分にとってはもう縁の無い事。
昔はクリスマスイブになると、次の日が待ち遠しくて
サンタクロースがプレゼントを運んできてくれるのを、目を擦りながら待ちわびた物。
しかし今はサンタクロースの正体も知ってしまい、プレゼントも無くなる。
一緒に過ごす異性も存在しなく、自虐的に笑う寂しい日となってしまった。
先ほどの笑みも、そんな意味が込められていたのだろう。
だが純粋にこなたの姿を見て、懐かしんでる所もあった。

そのまま数分経過しても、こなたは地蔵のようにゲーム機を見続け
流石に痺れを切らしたかがみは、こなたに離れるように囁いた。
すると名残惜しそうに、こなたはガラスケースから手を離す。
悲しげな表情に胸が痛んだが、次の瞬間こなたの表情は不適な笑みに変化していた。

「のどかわいたから、ジュース買って」
不適な笑みの原因はそれか、とかがみは心の中で呟く。
財布の中身が軽かったが、ジュース程度なら問題ない。
「いいよ、何が欲しい?」
「とりあえず、そこのコンビニ行こうよ」
こなたが指差す先には、明るい光の漏れるコンビニ。
なぜわざわざコンビニで買うのか。
それを尋ねようとした時には、既にこなたの姿は無かった。

「…………」
コンビニでジュースの購入を願った理由は、オマケのフィギュアにあった。
こなたはそれを収集していたらしく、嬉しそうな表情でパッケージを開けていく。
こんな頃からオタクをやっていたのか、と溜め息を吐きつつ
かがみは購入したジュースのボトルを開けた。

「それちょうだい」
唐突に、思った言葉を口にするこなた。
それと言うのは、自分がポケットに仕舞おうとしたオマケのことだろう。
こなたの表情を伺うと、どうやらお目当ての品は出なかった様である。
どうせ必要の無い物だと、ポケットからおまけを差し出すかがみ。
それを素早く受け取ったこなたは、脇目も振らずパッケージを開けだした。

「あッ!!!!!」

大声を上げたこなたに驚き、思わずジュースを噴出すかがみ。
何事かと思い、こなたに視線を移すと、これ以上に無いと言うほどの歓喜の表情を浮かべていた。

「やったよ、お姉ちゃん! 欲しかったシークレットフィギュアが出たよ!
 ありがとう、本当にありがとう!!」

緑色の瞳を宝石のように輝かせ、迫ってくるこなた。
手には、サンタクロースのコスプレをした美少女フィギュアがある。

抱きついてくるこなたを振り払おうとすると、向こうから男の情けない声が響く。
今度は何かと呆れ気味に振り向くと、こなたの父親であるそうじろうが手を振りながら走ってきた。
肩で息をしながらも、こなたを見つめ微笑むそうじろう。
その顔には、涙の通った後があった、
「もう……お父さんおそいよ」
どこまでもマイペースさを崩さないこなた。
そうじろうは、自分の娘の無事な姿を見て安心したように立ち上がった。
そして、かがみに頭を下げる。

「娘をありがとうございました、こんな所で迷子になって……」
そうじろうの瞳が、再び潤う。
「い、いえ……別に……」
何と返答したらいいか分からず、顔を赤くして俯くかがみ。
そんなかがみを尻目に、こなたは入手したシークレットフィギュアを父親に自慢していた。

「…………」
「おー、凄いぞ、こなた~。きっとサンタさんからのプレゼントだ」
「サンタさんは明日来てくれるんだよ、おとうさん」
「お父さんも楽しみだな~サンタさん」
どこまでもマイペースな家族だ、と呆けるかがみ。
「それじゃあ私は、これで失礼させてもらいます」
髪をかきあげ、かがみは身を反転させる。
そうじろうは、再び深く頭を下げ「ありがとうございました」と口にした。

とくに目的地も無く、フラフラと秋葉原を彷徨うかがみ。
気が付いたら、元居た場所の近くまで戻ってきていた。

「さて、これからどうしようか……」
かがみは誰に話しかける訳でも無く、呟く。
これから元の時代に戻る方法を探す、などというアテも無い作業を行わなければならない
そう考えると、肩の重荷が外れなかった。

ついに、元の電気屋の前に戻る。
今から何をしようか、と考えた瞬間。
不意にかがみを眩暈が襲った。


「大丈夫、お姉ちゃん?」
目の前の景色が、再び変化する。
眼前には、心配そうな表情で自分の顔を覗き込むつかさ。
背後に振り返ると、こなたがバイトしているメイド喫茶。

元の時代に、戻ってきた。
何となく達成感に包まれる。
わけも分からない時間旅行だったが、とにかく戻ってこれた。

「大丈夫よ、つかさ」
つかさの不安を取り除けるように、精一杯微笑みながら、その言葉を放った。

「いや~……やっぱり、あの日を思い出しますな~」
「あの日って何よ?」
こなたが感慨深そうに話しかけ、かがみがそれに乗っかる。
バイトを終わらせた私たちは、四人で電車に乗車している。
これから、こなたの家でクリスマスパーティを行うのだ。
どうやら泉家で秘密裏に企画されていたようである。

「ちょうど10年前のクリスマスにお父さんと一緒に秋葉に来てたんだけど、その時迷子になったんだよね
 で、その時に高校生くらいだった女の人が助けてくれたんだよ、世の中まだまだ捨てたものじゃないね~」
思わず、反応してしまうかがみ。
間違いなく、自分のことだ。
「後で聞いたんだけど、その時に秋葉で誘拐事件あったんだよね。私がその女の人に会った場所の近くで
 いや~あの時あの人に会わなかったら、大変なことになってたかもしれないよ~」
こなたが自嘲気味に口端を吊り上げる。
もしかしたら、こなたを危険な目に晒さないために自分は過去に移動したのかもしれない。
そう思ったかがみは、クスッと微笑んだ。


―――こなたの家。

「もう皆来てるよ、お姉ちゃん~」
小早川ゆたかが、玄関まで四人を出迎える。
玄関には既に四足の靴が並べられていた。
かがみ達四人は、靴を脱ぎ、こなたの部屋へと向かった。

「エターナルフォースブリザードネ!!」「速攻魔法発動、狂戦士の魂ッス!!」

部屋の温度が、暖房を効かせていないのに暖かい。
やはり大人数で、盛り上がってるからだろう。
今、田村ひよりとパトリシア=マーティンがやってるのはトーナメント制の格闘ゲーム。
10年前に、こなたが欲しがっていたハードである。
わざわざ、こなたが押入れの奥から引っ張り出したのだ。

かがみは、盛り上がってる他の人たちを尻目にその場に座り込んでいる。
一回戦でこなたと当たってしまい、あえなく撃沈してしまったのだ。
「いやいや~かがみも運が無いね~」
「うるさいわね……」
不適な笑みを浮かべるこなたに対し、かがみは不機嫌そうに答える。
顔を逸らし、ふとこなたの机を目にすると、かがみの目が見開く。

「あ……」

机の上に、見覚えのあるフィギュアがあったのだ。
僅かに塗装が禿げた、サンタクロースのコスプレをした美少女フィギュアが。
「あ~これね、さっき言った女の人が私にくれたんだよ
 せっかく貰ったんだし、大切にしておこうと思ってね」
立ち上がったこなたが、フィギュアを手に取り大事そうに撫でる。

自分のあげた物を十年経っても、大切に飾っておいてくれたのか。
何となくそれが嬉しくなったかがみは、薄らと微笑んだ。
自虐的に笑うだけとなる日になると思っていたが
今年のクリスマスは、一生忘れない思い出となるだろう。

かがみはゆっくりと立ち上がり、前でゲームを行ってる二人に声援を送った。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。