ID:OJbb3joGO氏:約束のペンダント

 『父親を早くに亡くした』彼女は、母親に学校での出来事を話していた。

「でね、かがみがさぁ……」
「ウフフ、素直じゃないのね……」

 彼女の名前は泉こなた。母親は、泉かなた
 では、『この光景を見ている人物は誰なのだろう?』


 その人もまた、泉こなただった。しかし、こちらは『母親を早くに亡くした方の』こなただった
 この世界とは違う、別の世界――いわゆる平行世界にやってきてしまったのだ

「ぐすっ……ぇぐ……っ……」

 その光景を見ていた泉こなたは、泣いていた。この世界のこなたが、限りなく羨ましかったから
 父親がいないことを、この世界のこなたは寂しく思っていることは間違いない
 しかし、母親がいない、別の世界に住み暮らす自分の方が、何倍も辛い思いをしてきたのだ
 自分が夢見た世界を、『もう一人の自分』が生活している。それが羨ましくて、憎らしくて、涙が溢れる

「こなたお姉ちゃん、お風呂沸いたよー」

 啜り泣く彼女の目の前を、この世界の小早川ゆたかが通り過ぎる
 この世界の人間には、彼女の姿は見えないらしい。それが彼女にとっては嬉しくもあった。
 啜り泣く自分の姿を、誰にも見られることはないのだから

「じゃあ、ゆーちゃん。一緒に入ろうか」
「うん!」
「じゃあ、私も一緒に入ろうかな。準備するから、先に行っててね」
「「はーい!」」

 二人は声をそろえ、部屋を出ていく
 自分ももう、ここにいる意味はない。そう考え、その場を立ち去ろうとした時――

「こなた、いるんでしょ? でてきていいわよ」

 びっくりした。自分の姿は、誰も見ることができないって思っていたから。実際に、そうだったのだから

「みんなには聞こえなかったみたいだけど、私にははっきり聞こえてたわよ? こなたの啜り泣く声」
「……」
「あらあら、目が真っ赤よ?」

 無言のまま、かなたの前に出ていく。確かにかなたには、彼女の姿が見えるようだった

「お母……さん……」
「ふふ……いいわ、来なさい」
「うう……お母さん……お母さん……!」

 彼女はかなたに歩み寄ると、胸の中に顔をうずめて泣きじゃくった
 初めて感じる、母親のぬくもり。あたたかくて、優しくて……

「あなたは、私がいない世界のこなたなのよね。そう君は元気にしてる? 喧嘩してない?」
「う、うん……だ、大丈、夫……私達は、元気にし、てるよぉ……」

 涙声ではあったが、かなたはその声を確実に聞き取った

「私がいなくて、寂しい思いをしてきたんでしょう? ……今しか出来ないから、私をたっぷり感じなさい」
「うん……うん……!!」

 こなたは、かなたを強く抱き締めた。このぬくもりを、一生忘れないように……




「スー……スー……」
「ふふっ、泣き疲れて眠っちゃったか」

 腕のなかで眠るこなたの頭を、優しく撫でた

「おかぁ……さん……行かない、でぇ……」
「大丈夫よ。私達の中にそう君がいるように、あなた達の中にも、私がいる。そのことを、忘れないで。……そうだわ」

 こなたを置いて立ち上がると、一人残して部屋を後にした
 数分後、戻ってきたかなたの手には、エメラルドを使ったペンダントが握られていた

「さよなら、こなた。そっちでも、頑張ってね……」

 そのペンダントをこなたの手に握らせ、かなたは天使のように微笑んだ




「……んん……」

 気が付くと、こなたは自分のベッドの中にいた
 あれは、夢だったのだろうか
 母親への思いが見せた幻影だったのだろうか

「……あれ……」

 右手で何かを握っているのに気付いた。開けてみると……

「これは……」

 間違いない、あの時もらったペンダントだ
 5月の誕生石、エメラルド。石言葉は“幸運・新たな始まり”
 こなたはそれを握りしめ、小さく呟いた

「お母さん……私、頑張るよ……」



 不意に、ドアをノックする音が聞こえた

「お姉ちゃん、朝ごはんできたよ」
「うん、わかった」

 ドアを開けて現れたのは、この世界の小早川ゆたかだった
 こなたはすでにペンダントを机の上に置き、着替えを始めている

「わぁ、綺麗……」

 そのペンダントに気付いたゆたかはしげしげと眺め、そしてこなたを見る

「これ、なぁに?」
「ん? そだね……」

 制服に着替えおわったこなたは笑顔で振り返り、

「このペンダントはね、私とお母さんの――」



Fin
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